プロローグ
「は〜……今日もしんどかったぁ、ガキんちょの元気なこと。お母さん達も、あたし達のそれ以上に大変なんだろうなー」
「そうですよねー? 子供って、ワガママは言うし、急に泣き出すわで大変ですけど、そう考えるとお母さんって、パワーがあるって言うか、スゴイですよねぇ」
夕暮れの河川敷沿いの道を行く、女二人組。
見かけ、仕事上の先輩と後輩と言った感じである。
歩いていく二人の影が、不格好な案山子のように、地面に伸びあがっている。
「あ‐―‐‐、やっと明日休みだぁ」
先輩の方が、ひどく情けない声で呟いた。
「明日って、確か……となり街の公園まで遠足でしたよね? いいなー、先輩」
「あはは、頑張れー……まだ若いんだし」
「先輩だって、若いじゃないですかぁ〜」
にこにこと笑う先輩を、後輩が膨れ面でどつきに掛かる。
「じゃ、ここらでね? お疲れさまぁ」
後ろ向きのまま手を振って、後輩とY字路で分かれる。
「お疲れさまでしたー」
遠くに後輩の声を聞きながら、彼女はほぅと溜息をついた。
Y字路で別れた二人。それは、あたかもこれからの二人の行く道を、示しているかのようだった。
彼女は、後輩と別れると、バスを終点で下車し、閑静な田舎道を歩いていった。
私、高島さくら、23才。(いや、年は余計だったか)市内にある、幼稚園の保母をしています。
ちなみに、居間は実習生を育成中。これがまた、ダメっ子で……。
とりあえず、毎日が大変で、めまぐるしくて……だけど、どこかで退屈してる。
『なんか、普通でないことが起こればいいなー』
なんて、軽々しく考えたのがいけなかったのかも知れない。
その後に起こることが、私の人生を大きく左右することになるなんて、私は夢にも思っていなかった。