Prologue:創世神話
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それでは、剣と魔法の世界へ……。
悠久の時を超えた遥か昔、世界の中心には大いなる原初の神が鎮座していた。かの玉座は金銀白金、果てはオリハルコンやミスリルなど、今となってはそうそう見ることの出来ないような金属で形成され、その威光を象徴するような多くの宝石で装飾がなされていたのだった。
彼は自然界の頂点に君臨し、全ての善悪の基準は彼に依存していた。その姿こそ全知全能。自然の全てが崇め奉り、足元にひれ伏すことを喜びとするほどに彼の存在は大きく、そして畏敬されるべきものであった。
巨大な力を具現化したような彼の存在こそまさしく正義であり、真理であったのだ。彼が剣を振るえば世界が裂けて命が生まれ、足を踏み鳴らせばその命はことごとく絶命する。彼と言う説明原理を疑うものが誰一人として居なかったことなど言うまでもない。
だがしかし、彼の生み出した命の中に、たった一つだけこの世界にそぐわぬ者が現れた。神を疑いし者、人間の誕生である。この出来事が世界の均衡を大きく乱した。絶対と思われてきた神の力に唯一抗いうる「自由意志」という術を持って生まれた彼らが、自然界に神の存在意義を問うたのだ。
かつてより疑うことを知らなかった自然は、これに酷く動揺し、人間と言う非説明原理を追放しようとした。もちろん神はこの行為を高く評価し、自然による人間への制裁を助長した。
しかし、神の足踏みによっても滅ぶことの無かった彼らの命が、単なる自然の制裁ごときに滅ぶことがあろうか。見え透いた答えは遂に神をも絶望させ、その大いなる力を持て余すことになった彼を、さらに憤懣たる思いの内に沈める結果となったのだった。
ある日、人間たちは一つの強大な武器を手に入れた。その「科学」という邪法は、神の創造りし自然の摂理を凌駕するほどに強大で、神さえも打ち滅ぼさんとするものであった。
そしてこれは現実となった。人間は科学を持って神の玉座を打ち砕き、彼の身体を散々なまでに切り裂く。自然は叫び、その身を以って人間を止めようとしたが、むしろその行為こそ彼らの原動力である疑問をさらに強く燃え上がらせることとなった。しかし人間は、世界が絶対の神を失うことによって非常に不安定になることを知る由も無い。
神がその身を四つに切り裂かれたその時、とうとう世界はねじれを起し、神の姿に倣ってか、自身の身を四つに分解し始めた。かねてより調和しなかった「原子」「魔素」「魂粒」「真核」の四原則をそれぞれその四つの世界に分割した。自然や人間、世界に存在していた全ての生き物はというと、その身を四原則に分解され、存在そのものは魂として四つの世界に分配されたのだった。
神のいなくなった虚空間に存在するものは、分割された四つの世界のみとなった……。
全ての世界にとってその存在意義を問う、幻生世界として存在する「幽界」は、魂粒によって構成され、最も魂の姿に近い生物が支配する世界。広大な大地には一つとして鮮やかな色を持つものが無く、ただ一面に白灰色の空間が広がっているのみである。死者の世界と言うのが正しいほどに淡白で、幽界に生きるものは黙って死を待つより他はない。
全ての世界にとっての存在意義を確かめる、理論世界として存在する「現界」は、原子によって構成され、最も元々の世界での姿に近い生物が支配する世界。人間が他の生物を科学で圧倒し、世界の覇権を握っている。これほどまでに理論の例外の無い世界は他にない。
全ての世界にとってその存在意義を立証する、魔法世界として存在する「魔界」は、魔素によって構成され、最も理想の姿に近い生物が支配する世界。人間と自然が調和し、人間が自然の力を借りる形で存在している。魔素の供給を受けることによって、人間を含むあらゆる生物が魔法を扱うことが出来る。
全ての世界にとってその存在意義を脅かす、完全世界として存在する「統界」は、真核によって構成され、何一つ魂を持つものが存在しない世界。他の三つの世界を統括し、虚空間の中において世界の均衡を保っている。真核の作用によってただ存在しているだけの、単なる真理に過ぎない。
四つの世界は互いに干渉しあうことなく、虚空間の中で一つの集合体を作り出した。幽界でその命が尽きたものは魂のみが虚空間を通って、現界で再び生を受け、現界で命が尽きたものは魔界で生を受ける。そして魔界で命が尽きたものが幽界で生を受けることによって、この三つの世界は魂の量的均衡を保っているのだ。
互いにその世界に住まうものには見えぬ他の世界は、確かに存在し、魂という情報媒介を介して繋がっているのである。
原初の神もまたこの世界の説明原理として、四元世界に鎮座し続けている……。