8、サイコスト狩り
紅蓮は、闘也の治療を進めながらも、闘也の感覚を頼りに、闘也と共に戦ってきた英雄達の所在を探していた。なんでも、闘也は彼らの反応は通常よりもずっと強く感じられるからだそうだ。
紅蓮は、ふと足を止めた。人、いや、これはサイコストの気配だ。闘也も気づいているようで、周りを見回した。反乱兵はエスパーだ。サイコストではない。でも、わざわざ自分達のところに、仲間に入れてくれと頼むようなことをするだろうか?英雄を助けるという目的を持って、加勢しようとするのか。いや、そもそも英雄を助けるなんてことは、自分と闘也、そして奈美しか知らない。
「獲物発見。サイコスト狩りを始める」
二十代後半の男の声がする。やがて、その姿が見える。後ろにも、数人のサイコストがいる。彼らと紅蓮達の違いは一つ。
彼らは改造超能力者――カスタムサイコスト。
ちなみに、そうでないサイコストを、世間では純粋超能力者――ピュアサイコストと呼ばれている。無論、紅蓮や闘也はピュアだ。
「サイコスト・・・・・・狩り!?」
闘也は驚きの表情をその英雄らしい顔に僅かに見せる。一方の紅蓮は、全く表情を変えることはない。
「ソード!!」
カスタムの男達は剣を実体化させ、こちらへとまっすぐに向かってくる。紅蓮と闘也はそれぞれ別方向に避ける。紅蓮は、コピフからパワーストーンを取り出す。白く輝くその石を、コピリスへとはめ込む。そして、そのふたを閉じる。コピリスから内蔵音声が流れ出す。
『パワーストーン――ソード』
紅蓮の前に、剣が出現する。左利きの紅蓮は、その剣を払うかのように左手で握る。
「新しい力、見せてやる」
闘也は、そう呟くと、短い鎖につながれた二つの棒を取り出し、まるで威嚇するように振り回した。
「ヌンチャク!」
闘也が習得した新しい武器、そのうちの一つがヌンチャクだ。ランスに続く新たな力。
「敵確認。カスタムが五。赤火紅蓮、戦闘を開始する」
紅蓮は誰にともなく言い放つと、左手に握り締められた剣を振り回し、カスタム達に斬りかかった。カスタムはそれをいとも簡単にかわし、背後から剣を振り下ろす。紅蓮はすぐに向き直り、剣で受け止める。カスタムが徐々に紅蓮を押していく。紅蓮は、コピフからパワーストーンを取り出し、ソードの石がはめられている反対側の部分にそれをはめ込んだ。
『タイプツール――ウォーター』
その音声が入ると同時に、紅蓮の剣が水剣へと変貌する。超高速でふきだす水は、どんなものも切り裂く。人は愚か、鉄を代表とする金属などもだ。その水がカスタムの剣を刃の根元から斬りおとす。紅蓮は、その水剣でカスタムの足を斬りおとした。
闘也は、ヌンチャクを振り回しながらカスタムへと接近する。相手が振り下ろしてきた剣を鎖の部分で受け止める。そして、その鎖で剣を押し返し、間髪入れずにヌンチャクを叩き込む。
「サイコスト狩り・・・・・・お前達もサイコストだろう!?」
「今の俺たちの任務は超能力戦争の英雄であるピュアの捕獲。最悪の場合、殺害」
カスタムのリーダーであろう男が剣を構えなおす。闘也はヌンチャクを変形させる。鎖につながれたヌンチャクは、一瞬のうちにハンマーへとその姿を変える。
「ハンマー」
持ち手の部分以外は巨大な金属の塊だ。銀色に輝くそのハンマーを、闘也は軽々と両手で振り回す。カスタムは必死の抵抗を見せつけ、そのハンマーの打撃を避ける。そこで闘也は、振り下ろすと見せかけて地面すれすれで止める。そして、カスタムが着地したところで、カスタムではなく、地面に向かってハンマーを振り下ろす。大地が揺れ、カスタムが体勢を崩す。闘也はその隙を見逃さず、足をハンマーで潰す。
「ぐっ・・・・・・」
カスタムは小さくうめき声を上げる。闘也は殺気に満ちた声でカスタムに問うた。
「炎天中央高校を襲ったのも、カスタムか」
その質問に、カスタムは息を荒げながらも答える。
「カスタムと連立しているノーマルだ。エスパーでもない」
どうりで、あのときはサイコスト反応がしなかったわけだ。
敵はカスタムだけではない。エスパーだけでもない。いや、エスパーはむしろ味方につけたい。だが、下手をすれば、サイコストの反乱兵として自分が襲われる可能性も否定はできない。
「カスタムは、全て関与しているのか? このサイコスト狩りに」
「対象は全てのカスタムサイコスト。お前の知り合いにカスタムがいれば、そいつらも皆、俺たちと手を組んでいる」
闘也の知る限り、知り合いでは黒い三彗星が思い当たる。あの性格だ。裏切ったとしても、おかしくはない。
現在、世界中にサイコストはいる。ピュアもカスタムも。現在のサイコストは、世界で約一億人である。そして、そのうちの三分の二、六千万人以上がカスタムサイコストだ。その中の日本では、サイコストは約三百万人、その中でカスタムは二百万人ほどいる。そのカスタムが、その圧倒的物量で攻め入り、ピュアサイコストを捕獲し、時に殺す。
そんなことは、許されぬ行為だ。例えその能力のつき方が違っても、最初からなっている者、改造されてなった者でも、超能力者――同胞であることに変わりはない。
「なら宣言しよう」
闘也は小さく呟く。だが、その声は紅蓮にも届いていた。
「エスパー反乱兵鎮圧部隊は、これより、カスタム反乱兵鎮圧部隊も兼ねて始動する」
闘也の宣言に、紅蓮は、どことなくほっとしていた。
もう、同胞だからと迷う必要はない。自分には、サイコストという同胞しかいない。闘也の、二つの同胞を持つということは、理解できない。だが、彼は今日までで、超能力戦争でエスパーという同胞を殺し、今また、サイコストという同胞と戦っている。戦闘技術からして、殺すことは、まずないだろう。でも、野放しにするとは思えない。
「サイコスト狩りを今すぐやめろ」
闘也は強く言い張った。仲間が今まで捕まり続けている。何人も。それは、闘也の知っているところでも、知らないところでも。
紅蓮はゆっくりと剣を構えなおす。戦闘の続行が可能な人数は三。闘也がハンマーで倒した一人と、紅蓮が水剣で倒した一人が抜けている。
「赤火紅蓮。残存戦力を撃破する」
紅蓮はコピリスのボタンを押す。それに反応してコピリスの音声が鳴り響く。
『フィニッシュアタック――ウォーターソード』
紅蓮は協力噴射している水を真上に構える。姿勢をかがめる。だが、その剣先は空へと向いている。闘也が自分の後ろに回ったのを確認すると、紅蓮はその剣を素早く振りぬき、カスタム達の足を完璧に切断した。
「終わったな・・・・・・」
闘也が、半ば空しさ混じりの声を吐き出す。紅蓮も、コピリスからパワーストーンを抜き取ると、コピフへとしまいこんだ。
サイコスト狩り。首謀者は前大戦末期、サイコスト側が戦線投入した、一般人を人工的にサイコストへと変えた改造超能力者――カスタムサイコスト。実行しているのは、カスタム、及びノーマルと言われる者達。ノーマルは、エスパーでもサイコストでもない、一般人のことだ。目標は、命を授かったそのときからサイコストである、純粋超能力者――ピュアサイコスト。その内容は、ピュアの捕獲、最悪の場合は殺害。重要な目的は想像がつく。これは、紅蓮が勝手に想像しているに過ぎないが。おそらくは。
「ピュアの完全抹消・・・・・・」
闘也は、紅蓮が呟いた言葉を聞いて唖然とした。ピュアの完全抹消・・・・・・。聞いているだけでその行く末が見えるようで恐ろしい。
「それがお前の予測している目的か。サイコスト狩りの」
数瞬の間をおき、紅蓮が返答する。
「はい」
紅蓮の考えていることは分かる。なら、なぜ殺害をしない?一思いに殺さない?抹消が目的ならば、捕獲などなんの意味も成さない。
だが、その疑問は目の前に現れた少年によって解決された。
「殺す」
その少年は、超能力戦争の英雄、風見秋人であった。