4、疾風の英雄と彗星たち
炎天南高校。炎天中央高校よりも学力が低く、有名でもなければ、特別なにかすごいところがあるわけでもない。
だが、そんな南高校が、唯一誇れることが、この春にできた。それは、今年入学したある一人の少年がきっかけだ。彼は、前大戦、超能力戦争にて活躍した英雄の一人だった。
「四十八点かよ・・・・・・」
入学早々に実施されたテストの答案を見て、少年は少し顔をゆがませる。彼は、闘也のように頭はよくない。でも、闘也以上の速さを持っている。
「また悪かったのか? 秋人」
周囲から、励ましているようで、バカにしているような声が聞こえる。
その少年は、風見秋人。超能力戦争にて活躍した英雄の一人である。彼の入学により、南高校は、いい宣伝になると思っていたが、彼のあまりの知能の低さに、絶句し、肩を落とす職員が南高校にわんさかいた。
しかし、そんな知能の低さを補うかのように、彼には常人以上の戦闘能力があった。
校内に警報が鳴り響く。秋人はすぐに授業を抜け出す。秋人にしてみれば、エスパーの襲撃が授業を抜け出すいい時間稼ぎとなっていた。勉強なんてする気はない。だが、それでも戦うことで守ることは、大いに気があった。
秋人は、校門まで押し寄せてきているエスパーを見据える。口元を笑わせると、向かい来るエスパー達へと猛ダッシュする。彼は、戦闘となれば、止まることはない。彼は、高速の能力を持っていた。
「遅いっ!!」
秋人は一瞬にして、通り抜けた直線状のエスパーをなぎ払う。エスパー達が持っていた銃で秋人を撃ってきた。連携が取れているせいか、秋人の側面も弾幕に包まれる。横に逃げられないなら――。
「縦に避けるっ!」
秋人は白い翼を展開させて空中に飛び上がる。上空へと飛び上がった秋人は、尚もはなたれる弾丸を弄びながら避けている。秋人にしてみれば、鉛の弾丸など、赤ん坊のハイハイくらいにしか感じられない。秋人は、弾丸を、巨大な翼で受け止める。めり込む弾丸の黒に、だんだんと翼が包まれる。負けを思わせる状況だが、これも作戦の一つだった。
「反射翼撃!!」
秋人は受け止めた弾丸を一気に撥ね返す。それぞれの弾丸が、今度はエスパー達に降り注ぐ。遠距離攻撃のできない秋人は、この方法で上空からの攻撃をする。
「黒流星【鉄槌】!」
三つの黒い影が秋人に手を貸す形でエスパー達に攻撃を行う。エスパー達は、そのうちの一人が起こした衝撃波によって吹き飛ばされる。たった今現れた彼らは、黒い三彗星と呼ばれる、不良集団だ。集団といっても、三人しかいないのだが。
黒い三彗星は、全員がブラックホールの力を利用した能力を持っている。リーダーの黒田はブラックホールの力によって移動する黒動、肉体派の黒岸がブラックホールを逆流させることでの攻撃をする黒撃、頭脳派の黒谷がブラックホールの力をそのまま使った黒吸を使うことができる。
そして、彼らは秋人達とは違うタイプだ。彼らは、人工的にその能力を手に入れた、改造超能力者――カスタムサイコストと呼ばれる者達だ。カスタムは、前大戦時終盤に、サイコスト側が作り上げたものだ。一般住民の中で優れた運動能力を持つ者達だけに許可が下りた。
「逃げるなよっ!!」
黒谷が黒吸の力でエスパー達を吸い込む。そして、そのブラックホールを黒岸へと投げ渡す。
「さぁ、ねんねの時間だぁぁぁっ!!」
黒岸が、秋人目掛けてエスパーを次々と撃ち出す。秋人は一人ずつ飛んでくるエスパー達の腹部に、拳をめり込ませ、足を突っ込む。秋人の攻撃により、エスパー達はまるで雨のように地面へと落下していく。秋人は、それに見向きもせず、ただ飛んでくるエスパーを叩き続けた。
「これで終わりか」
秋人は、地面にゆっくりと降り立つと、広げていた白い翼をかき消す。そして、ポケットから黒い携帯電話を取り出すと、電話帳から一つの名前を選び、その番号にかけた。
「あ、もしもし? 由利ちゃん?」
『ちゃん付けはいいかげんやめたら? 子供よ』
電話の向こうにいるのは、前大戦の英雄、白鐘由利。秋人がサイコストとなったきっかけともいえる存在だ。秋人は、基本的に女子自体とはあまり話すことはない。だが、共に戦争をくぐりぬけてきた仲間の女子には親しく話しかけ、ちゃん付けして読んでいる。最も、向こうがそれを受け入れているとはいえないが。
「こっちのエスパーの処理、頼むよ」
『自分でやってよ。こっちだって今日反乱兵が来たんだから』
「えー。めんどいなぁ」
『じゃ、そっちはよろしく』
「え、ちょ、おま――」
そこで電話が切れる。電話の向こうではもう由利の声は聞こえない。全く、こっちから頼んだのに用件を聞き入れないなんて。
秋人は携帯電話をポケットに戻し、ポケットに手を突っ込んだまま学校へと戻っていった。処理なんてする気はない。でも、勉強も秋人にとっては面倒な物だ。どちらをとろうか迷っている間に、中にいた教師に襟を掴まれ、学校へと引きづられていった。
ま、これで処理はしなくてもいいから、よしとするか。
秋人は、それでも学校での勉強が嫌だったので、重い足取りで学校へと戻っていった。