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未来少年2nd  作者: 織間リオ
最終章【森羅万象の超能力者】
46/49

45、自らを断ち切り、全てを破壊する

 チャージを続ける電磁の中で、紅蓮は集中していた。

 自分は間違ってはいない。戦いを憎んでいるわけでも、家族を殺された憎しみがあるわけでもなかった。それでも、戦い続けた。いくらダメージを受けても戦い続けた。たった一つの目標のために。それはすでに叶った。だが、そのパワーストーンをつけた瞬間、体がついていかなかった。恐ろしいほどのエネルギーは、紅蓮の筋肉系の神経を侵し、半分のっとった状態であった。それゆえ、制御が利かない。そんな中でも、紅蓮は集中していた。筋肉的にはのっとられ、すでに意識も朦朧としはじめていた。それでも集中していたのは、能力に完全に飲み込まれないためだ。サイコストが、能力を飲み込むのではなく、逆に飲み込まれたら、それは人として処罰される。それだけは避けるためだ。

「チャージ終了。予測爆破範囲、半径二十二キロ以内」

二十二キロの中に、闘也達がいないことを、紅蓮は切に願った。脳内から、能力からか自分からか、声が聞こえた気がした。

 ――自らを断ち切り、全てを破壊する。これで。

「爆破」

その一言と共に、紅蓮の周囲を覆っていた電磁が一瞬縮小し、その後一気に膨張する。建物が次々と崩れ、水が流れ込んでくる。しかし、その水も、爆発の熱に促されて水蒸気爆発を起こし、紅蓮には届かなかった。


 冷雅を含めた六人の眼下で、巨大な水柱が上がる。だが、それより先に、電磁球が、膨張してこちらに接近してくるのが映った。闘也達は、それに気づくと、一気に撤退を開始する。電磁球は尚も膨張し、迫ってくる。秋人が的射や由利を押しながら、全速力で飛び、闘也や乱州もまた、冷雅を引きながら逃げていた。冷雅も、それなりのスピードを保持し、完全に後れているわけではなかったが、ただ飛んでるだけでは、逃げ切る可能性も下がっていた、と闘也は後々感じていた。

 どのくらい飛んだだろうか。電磁の爆発は収まり、辺りの草原は見るも無残な姿となっていた。

「すさまじいな。初めてなのに、ここまでとは」

闘也は感嘆の声を漏らした。


 冷雅は、砦のあった場所へと戻った。その中に、二つの人影があった。その距離では冷雅は分からなかったが、弟の河川は、ある程度予測できていたらしい。

(兄さん、あれ、光輝さんと大地さんじゃ・・・・・・)

そして、その予測は的を射ていた。かなり負傷してはいたが、それでも、二人とも生きていた。

「冷雅!? しぶとく生きてたのか!?」

「しぶとくは余計だ。そっちこそ無事か?」

「あれを食らって無事なわけがないだろう」

大地がこんな状態でありながら冷静に言う。口調とは裏腹に、怪我はひどかった。戦闘での負傷もあるだろうが、それでも傷は多すぎた。

「治療するぞ」

「応急処置より、本格的な治療の方がいいんだがな」

その光輝の言葉に、皮肉が込められていたことに冷雅は気づいた。脳内の河川の助力もあって、回復の能力を発動させる。その能力を見た二人は驚愕に顔を歪ませていたが、事情を説明すると、すぐに顔を緩めた。


 闘也は、今日何度目かの深呼吸をした。大きく息を吸い、吐き出す。遥遠くに、一人の少年の姿が見える。少年は迷うことなくサイコ・クロウを展開し、その爪先から粒子ビームを撃ちはなってくる。闘也に向けられたその粒子を、軽々と回避すると、闘也はソウルソードを作り出し、向かい来る少年へと真正面から突っ込んだ。


 牽制と奇襲を併用して放ったサイコ・クロウは、予想通りあっさりとかわされたが、それでも構わなかった。紅蓮は、ゆっくりと、いつも言ってきていた言葉を放った。

「赤火紅蓮、戦闘を開始する」

五人の英雄が、それぞれの持ち場をわきまえながらも、こちらに攻撃をしかけてくる。今思えば、紅蓮はこの五人を同時に相手するのは初めてであった、でも、なぜか、後れを取る気はしなかった。根拠はない。でも、そんな気がした。

 秋人が先頭に突っ込み、背後から的射と由利が遠距離攻撃を放ってくる。紅蓮は後退しながらその攻撃をかわす。その間にも秋人は接近し、殴りかかってくる。紅蓮は爪を振り回して接近を拒んだが、軽くかわされ、その拳をぶつけられる。すでに背後には乱州が回りこんでいた。伸ばした腕の先の拳が諸に当たる。

「こんな・・・・・・」

 五人。たった五人であの戦争を終結に導いたと言われている。大半の者は信じられないだろうし、紅蓮ですら、(闘也以外は)半信半疑であった。だが、五人同時に相手をした途端、その半信半疑は、どこかに消え去り、あれは事実だったのだと認めざるを得ない。

 頭上から闘也がソウルソードを構えて躍り出る。紅蓮は爪でその剣を受け止め、はね返す。しかし、相手を吹っ飛ばした直後に、秋人が蹴りを入れてくる。紅蓮は体勢を立て直し、サイコ・クロウを展開する。十の爪はそれぞれ展開し、迫り来る乱州と秋人を牽制する。紅蓮は、粒子の能力でさらに二人を追い込む。今度は下方から襲い掛かってきた闘也が、ショルダータックルをぶつけてくる。いきなりの突進に虚を突かれた紅蓮は回避できぬまま、体勢を崩す。

 再び闘也が正面から斬りかかってくる。紅蓮は、それを作り出した剣で受け止めると、はね返そうと力をこめる。だが、今度はそう簡単には離れなかった。こちらがいなそうかと動きを見せた直後、闘也は上空に逃げた。その時であった。闘也の飛び去った後から現れたのは、的射と由利の遠距離攻撃であったのだ。紅蓮が咄嗟に使った防御の能力がなければ、今頃は蜂の巣であっただろう。

 五人での流れるような連携。下手をすれば、味方を殺しかねないというのに、彼らは絶妙なタイミングで、自らの体を傷つけず、また確実に、紅蓮を追い込んでいった。

「速い!」

すでに紅蓮の眼前に、秋人が迫っている。人一人分もない隙間で一気に加速し、拳をぶつけてくる。紅蓮はたまらず吹っ飛ばされる。乱州が接近しながら腕を伸ばして追撃してくる。闘也もだめ押しとばかりにソウルブーメランを投げつけてくる。

「この程度で・・・・・・」

 ――負けてたまるか。

 紅蓮は体勢を立て直し、ソウルブーメランを弾き飛ばすと、乱州の腕を掴む。右手にきらめく刃を、紅蓮は躊躇なくその腕に振り下ろす。しかし、乱州の腕は、切れる前に消散し、紅蓮の腕から消えた。

 龍我王との戦闘で見せた、量子化の現象。

 身体の能力だからこそできる技。

 勝つためでも殺すためでもなく、生きるために、死なぬために習得し、発動させた技。

これが、あの波気乱州の戦い。

「はぁぁぁっ!!」

背後より出現した乱州が、腕を巨大化させ、こちらに突き出す。堅い拳がしたたかに紅蓮の体を殴り、そのまま急降下していく。

 体勢を立て直そうとしていた紅蓮に、空中にとどまる五人の姿が映った。

 追撃をすることもなく、ただじっと、こちらを見据えている。もうこれないと判断したのか、それとも。

(俺に、情けをかけるつもりか!!)

敵に情けをかけられることが、どれだけの屈辱であるかを、紅蓮は理解していた。いや、しているつもりであった。

 しかし、このときばかりは、情けをかけられたことによる苛立ちや怒りが、全身を包み込んだ。そう、彼らにとって自分は敵なのだ。敵ならば、速急にころした方が、向こうにはいいし、やられるこちら側も、逆にすがすがしい。だが、こうまで何もしてこないと、さすがに抑えきれない。

 感情の抑制。それにより紅蓮の戦闘能力は引き出され、戦場でも迷いを作ることなく勝ち抜いてこれた。怒りも、同情も、迷いも、敵に対する哀れみも、感情を抑制することで、全て脳で感情として処理される前にかき消してきた。

 しかし、ことここに至って、遂にその感情抑制のリミッターは外された。

 紅蓮は、体勢を立て直すと、サイコ・クロウを展開し、遠方に見える五人へと粒子を発射させながら接近させる。

「こいつら・・・・・・」

自分に情けをかけたやつに、もはや手加減する必要はない。対する五人は気づいていないかもしれないが、紅蓮はまだ、実力の半分程度しか出していない。ゴウランも発動させていない状態なのだ。向こうは、おそらく自分達の連携力でその手加減に気づいていないのだ。思い込みをしている。

 こちらの連携力が、相手を翻弄している、と。

 その油断が、命取りであることを教えてやる。

「まずは貴様からだ・・・・・・!!」

紅蓮が目をつけたのは、秋人であった。

 秋人は、その恐るべき反応力とそれに対応するスピードによる回避力と、一撃離脱による、敵撃破を主流としている。自らが武器を持たない分、もう一つの能力、飛躍により出現する翼を武器代わりにしている。秋人を囮や、体勢や陣形を崩すために先行してきたら、こちらが大きく不利となる。そう考えての判断であった。

 紅蓮は素早く相手に向けて粒子を発射する。秋人はいとも容易く回避し、逆に攻撃に転じてくる。しかし、紅蓮は、長年の共闘により、すでに相手の弱点にも気づいていた。

 秋人は、頭が悪い。面と向かって言ったことはないが、確証はある。そして、その馬鹿さ故に、攻撃が単調であるのだ。大抵は真正面から突っ込んでくる。よほどの自信を兼ね備えているのだろうが、自信だけなら、誰だって持つことができる。

「隙だらけだ!!」

 紅蓮は、粒子を撃ちこみ、秋人の右翼、左足を貫く。秋人雅バランスを崩し、紅蓮との距離を取る。だが、その行動さえ、紅蓮の計算内であり、作戦通りであった。

 紅蓮は続けざまに粒子を撃ちこむ。急激に失速した秋人に当てることは容易であった。どうにか翼を盾にして防ごうとしたが、ビームはそのまま左翼を貫通し、右肩に吸い込まれるように近づき、貫いた。完璧に失速した秋人は飛行機が墜落するかのように、回転しながら落ちていった。

「秋人!!」

闘也が、友の名を呼ぶ声が聞こえる。だが、紅蓮はその声に構っている暇はなかった。すぐに次なるターゲット――由利に向かって、粒子を撃ち込んだ。


 


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