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未来少年2nd  作者: 織間リオ
第一章【反乱兵鎮圧部隊】
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3、償うか、対立か

 紅蓮は、闘也達を見る。乱州はもとより、闘也も驚いている。それもそうだ。自分は、小学校のころは、能力という能力がなかった。サイコストでありながら、まだその複製の能力を全くと言っていいほど使いこなせてはいなかった。

「戦闘を開始する」

闘也に向かって、紅蓮は告げる。戦闘となると、紅蓮は闘也にさえ敬語を使うことが激減する。一応、「闘也さん」と、さん付けはするのだが。

 紅蓮は、コピフからパワーストーンを抜き取る。そして、腕にはめられたコピリスに、パワーストーンをはめ込み、勢いよくふたを閉める。

『パワーストーン――コピー』

コピリスに内蔵されている音声が、はめ込まれたパワーストーンの能力名を言い放つ。彼の拳に力が宿る。全てを手に入れる力。誰にも負けることはない、森羅万象を掴み取るための力。


「それは・・・・・・まさか」

闘也は、信じられぬような顔で、コピリスを見つめていた。エスパー以外が、あの島に入ることはできない。食料の調達等で来た者も、海域に入るだけで厳重な審査が行われる。

 闘也は、エスパーに、エスパー島からの離島は許していない。再び、超能力戦争が起こるのを防ぐためだ。だが、それと同時に、サイコストはおろか、一般人すら、エスパー島への立ち入りは禁じていた。唯一、エスパー以外で入れるならば、それは、自分をはじめ、乱州なども入隊している「反乱兵鎮圧部隊」のみ。

 そして、闘也は確信した。あれは、中級エスパーの住むMエスパー島で開発された、自分エスパー達を守るための力、コピーングリスバンだと。

 しかし、今はそんなことよりも、目の前の反乱エスパーを抑えることが先であることを、闘也は十分に承知していた。闘也は、すぐに乱州と共に走り出し、両手には小型の剣が各一本ずつ握られていた。

「ツインソード」

闘也の能力である武器ウエポンより生み出される、二本の剣。しかし、あの風情を、『殺さずに』倒すためには、やはり数が必要だ。

「ソウルッ!」

闘也は、自らの傍らに、自らの分身を生み出す。少し白くなっている闘也の分身、それは、闘也の能力から生み出されている魂。もちろん、その数は一つではない。

 半数の魂は近接武器を手に持ち、エスパーへと走る。もう半数は、遠距離武器である銃を装備している。近接武器には、棍、ハンマーといった風情だ。

「おとなしく降伏しろ! 島へ戻れ!」

軽く無謀な説得をした後、闘也は一人のエスパーの足を斬る。斬られた痕から、血がにじむように出てくる。闘也は敵陣のど真ん中で、剣を一気に巨大化させ、周囲をなぎ払うように切り裂いた。

「ビッグソード」

両手持ちの巨大な剣は、たった一振りで、周囲のエスパーたちを次々と戦闘不能の状態にしていく。

「スティック」

闘也は棒を作り出す。そして、それを振り回し、周りのエスパーたちに向かっていった。


 紅蓮はエスパーたちの攻撃をかわしながら、チャンスをうかがう。一人のエスパーが不覚にも紅蓮の回避終了に合わせて、リロード(銃に弾を詰める作業)を開始した。このときこそ、紅蓮が優勢となる第一段階だ。

 紅蓮は、リロードしているエスパーの腹部を殴りつけ、そのまますれ違う。そして、一気にエスパーたちから離れると、握られた拳の中に、パワーストーンが作られるのを感じた。紅蓮は、それをコピリスにはめ込み、ふたを閉じる。

『パワーストーン――サブマシンガン』

短機関銃――サブマシンガンを紅蓮の前に実体化させる。紅蓮は、得物を持ち、距離のあったエスパー達へと近づいていく。そして、引き金を引き、鉛の弾丸を撃ち出した。

 弾に当たったエスパー達が、まるでドミノを連想させるように、鮮やかに倒れていく。紅蓮は、頭や心臓は狙わず、足を狙い続けた。だが、足しか狙わないことに気づいたのか、数人のエスパー達が軽やかにステップを踏むようにして、紅蓮との距離を詰めてきた。紅蓮は、発砲をやめ、コピフからパワーストーンを取り出すと、コピーのストーンを抜き取り、かわりにそのパワーストーンを入れ、ふたを閉じた。

『パワーストーン――ソード』

コピリスに内蔵されている音声が紅蓮の鼓膜を刺激する。紅蓮は向かい来るエスパーたちとすれ違いざまに剣を脚部にめり込ませる。攻撃を受けたエスパーが次々と体を崩れさせる。足を攻撃されては、移動なんてそうそうできるものではない。

 その光景を目の前で見せられたためか、エスパーの一部が、紅蓮に向かってその銃を撃ち込む。紅蓮は、その弾幕を左に避ける。すぐに体勢を立て直し、コピリスに短機関銃のパワーストーンを滑り込ませるようにはめ込む。

『パワーストーン――サブマシンガン』

紅蓮の左手から握っていた剣が消え、代わりに銃がその手に乗る。紅蓮はすぐに銃を撃ち始めたが、そこにはすでにエスパーの姿はなかった。戦闘不能となっているエスパーたちの中で、ただ二人、砂煙の中にその姿を捉えた。

 魂波闘也。波気乱州。前大戦時の英雄の二人だけが、そこにいた。

 紅蓮は、コピリスからパワーストーンを抜き取り、コピフに一つずつゆっくりとしまう。紅蓮は、ゆっくりと闘也へと近づく。今、紅蓮は完全非武装だ。コピリスをはめてはいるが。

「闘也さん・・・・・・」

紅蓮は闘也達との距離を縮めていく。五メートルの距離もなかった。紅蓮が、もう数歩で闘也とほとんど距離のないところまで近づいたとき、紅蓮の動きはぴたりと止まった。意図的に止まったのではない。反射的に止まったのだ。

 刹那、闘也は瞬間的に接近し、紅蓮の首元に剣先を向けていた。紅蓮は、首元に剣先が触れていることに気がつくのに数瞬の時間を有した。

「な・・・・・・何を・・・・・・」

無論、紅蓮は自分が剣先を向けられる意図が分からない。むしろ、手をさしのべられるはずだ。何せ、自分は協力したのだ。例え、それが他国の者という認識であれ、反乱兵の鎮圧部隊だとかでなかれ。

「紅蓮。お前を、窃盗及び施設襲撃の罪で逮捕する」

紅蓮は完全に身動きが取れなくなっていた。少しでも怪しい動きをとれば、殺さなくとも、戦闘不能状態までは追い込むのは容易いはずだ。背後で倒れているのエスパー達みたいに。

「コピーングリスバンは、エスパー達に、守るための力として開発させた物だ。お前にあげるために作らせたのではない」

闘也の声は、小学校の時は無論、数時間前にあったときの口調とはまるで違った。そこには、友好的に、かつての旧友との仲を懐かしむ姿はどこにもなかった。そこにあったのは、守るべき物のために戦っているという目とそれに恥じぬ立ち振る舞い。僅かな隙も見せない。気を張っていて、緩む様子が全くない。一体いつまでそうしていられるのか、紅蓮は気になった。だが、彼はそんなことを口に出す気はない。言う必要などないから。言ったところで、状況が変わるはずはないから。

「別に、サイコストだの日本だのと戦争をする気は毛頭ない。また、あんなことになるのはごめんだからな」

あんなこと――超能力戦争のことであろう。超能力戦争と呼ばれた戦いは、五ヶ月ほどでその戦いの幕を閉じた。結果は、サイコストの圧倒的勝利。そして、その中心となって戦っていたのが、闘也を中心とする五人の少年少女達だった。紅蓮は、前大戦時、彼らの名を頭に刻み込んだ。

 全てを司る力を持ち、相手に対して弱点を全く見せなかったといわれる、白鐘由利。

 疾風の如き速さと天使を連想させる翼を持っていた、風見秋人。

 どんな遠距離であろうと、その射撃を外すことはなかったといわれる、遠藤的射。

 体を自在に変化させ、仲間との連携を確かなものにした、波気乱州。

 そして、己の魂と共に、数多の武具を使いこなした英雄、魂波闘也。

 彼らの前に、エスパーは無力であったと言われている。紅蓮は、彼らの戦いを見ていたわけではないので、本当にそうなのかは分からない。だが、彼らの活躍によって、戦争が、サイコストの勝利で終わったのは間違いない。だが、それだけではない。この戦争によって判明したのは。

 闘也は、本当はエスパーであった。だが、闘也自身にその自覚はなく、自分がサイコストなのだと信じ続けて戦い続けた。戦いの中で、闘也は母を殺され、父を殺したということもあった。

 闘也は、仲間に包まれながらも、どこかで孤独のまま戦い続けた。戦争の先の答えも分からぬまま、ただ闇雲に戦い続け、その戦いの中から何かを学びとった。だが・・・・・・。

 俺には、その何かは分からない。

「だが、二つほど選択肢を与える」

闘也は口を開く。紅蓮は、食い入るようにその言葉に耳を傾けた。

「このまま逃げて対立するか、俺たちと一緒に反乱兵鎮圧部隊として戦うか」

闘也は、それから少し間をおく。沈黙が張り詰めている緊張の糸を更に引き伸ばす。

「だが・・・・・・」

闘也の口調が暗くなり、声の高さが、一瞬にして低くなった。

「対立して、長い間生きられるとは思うなよ」

対立したら、その先に待っているのは死か。だが、紅蓮はまだ夢をかなえてはいない。彼の、今まででたった一つだけ、望み続けた願いがある。

 紅蓮は、こんなことで、夢を失うわけにはいかない。その強い意志だけは、決して揺らぐことはない。彼自身、そう自分で確信していた。そして、その望みを叶えるためには、今自分が手にしているこれしかない。

「コピリスを使えるのなら、反乱兵鎮圧部隊として行動します」

紅蓮の意志は固い。闘也も、それを分かっているはずだと、紅蓮は感じていた。何せ闘也は、小学校時代、自分が唯一友達だと認めた者だから。闘也も、紅蓮だけが、唯一の友達と認めてくれた者だから。

 かつての友と、唯一の友と、剣を交え、拳をぶつけ合う気はない。無論、殺しあうなんてもっての他だ。共闘しか、今の彼に道はない。

「分かった。お前を信じよう」

闘也の声が、重傷者だらけのグラウンドの中にかすかに響いた。


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