36、敗北を超えて
初めてだろうか? それとも、記憶にないだけだろうか?まさか、こんなことが起こるとは、思ってもいなかった。今頃、どうなっているのだろうか、自分達みたいに、記憶の整理を行われているのだろうか。今まで心の中にあった確信が、ここに来て揺らぐ。
「赤火紅蓮、戦闘を開始する」
少年の横で、紅蓮はエスパーの潜水艦より本部へと向かっていく。少年は、深呼吸を一つした後、紅蓮のまねをするように通信機に告げた。思考の中では、一人の少年の姿が映る。
「波気乱州、目標を叩き潰す」
彼が、叩き潰す目標でないことを祈って。
冷雅を含めた六人は、再び本部へと乗り込んだ。冷雅が敵とし、戦うのは、数あるカスタムの中のほんの一部。虹七色トップ3と言われている、あの三人のみ。
やがて、昨日戦闘を行った地下七階へと降り立つ。冷雅の目は、討つべき敵を探していた。敵の姿はない。六人は、それを確認すると、下の階へと足を運ぶ。地下八階。遂に冷雅は、敵を見つけた。
「そこかぁっ!! 裏切り者ぉぉっ!!」
冷雅は、雄叫びとともに剛柔へと突進する。剛柔が復活させたサイコ・ヘアでこちらにビームを飛ばしてくるが、そのビームは、冷雅をかすめることも許されなかった。紅蓮のサイコ・クロウで、すでにこの手の攻撃には、慣れきっている。いまさらかわせぬ冷雅ではなかった。
「裏切り者は、貴様だろうにっ!!」
剛柔は、人差し指と中指で銃の形を作り、その二本の指先からビームを発射する。直線的な攻撃を、冷雅は苦もなくかわし、右手に握った太刀を右下の方向より切り上げる。剛柔はその攻撃を後方に回避し、今度は、ビームソードを創り出す。冷雅は、真上より振り下ろされたビームソードを太刀の刀身で受け止める。光剣と太刀の間で、激しいスパークが起こる。冷雅はそのビームソードを弾き返すと、太刀で右側より薙ぎ払う。剛柔はそれをしゃがんで回避し、足元をすくうようにビームソードを薙ぐ。冷雅はムゲンの覚醒を引き起こし、そのビームソードを上空へのジャンプで回避する。剛柔もムゲンを引き起こし、こちらに一瞬にして追いついてくる。冷雅は、こちらに真正面から接近する剛柔の攻撃を、真正面から挑む。またも二つの剣の間でスパークが生じる。冷雅は、その攻撃をいなし、剛柔の顔面に蹴りを入れる。
「飛んでけっ・・・・・・クロウ!!」
すぐに冷雅は、サイコ・クロウを飛ばす。しかし、サイコ・クロウは、剛柔に届く前に、サイコ・ヘアとビームソードによってその役目を終えた。冷雅は、剛柔とのつばぜり合いに持ち込む。じりじりと剛柔のビームソードを押しやりながら、冷雅は言い放つ。
「下等なエスパーと、同じような事をして!!」
「貴様はそのエスパーと共に戦っている!!」
そうだ。奴らは裏切り者だ。エスパーは祖国を裏切り、反乱を起こし、人を危険に晒す。こいつは、こいつらは、それと同じだ。仕えるべき主を裏切り、自分達と敵対しようとしている。だが、向こうとて、その反乱兵のエスパーと共に戦っている。そうだ。矛盾しているのだ。この世界の、何もかもが。
「それは、貴様もだっ!!!」
冷雅の怒号と共に、剣を押し弾き、がら空きになった剛柔の体を切り裂く。剛柔も、やはりトップ3と言われるだけのことはある。どうにか体勢を立て直そうとし、こちらの攻撃の被害を、左足を失うだけにとどめたのである。
「裏切った貴様が――」
剛柔は、ビームソードを、頭上から振り下ろす。
「言うセリフかぁっ!!!!」
しかし、その攻撃は見事に外れる。冷雅は、剛柔の一瞬の隙を突き、背後に回りこんでいたのである。冷雅は、その剣をバツ印に振り回す。
「俺は――」
その後、背中の傷を気にしている剛柔の隙をまたも突き、前方に回りこむと、その剣を斜めに切り下ろす。
「憎しみの化身だぁぁぁっ!!!!!」
その冷雅の攻撃は見事に命中した。左半身を、肩口から大仰に持っていく。剣は、そこでとまることをやめず、さらに剣を沈ませていく。剣は、剛柔の左脇の部分に突き刺さる。しかし、突き刺さった深度は浅く、刺さっている時間も、短いものであった。
その攻撃から一秒と置かずに、冷雅の中にあった覇気も消え失せ、力なく落ちていった。
冷雅と剛柔の激戦が行われていた頃、紅蓮は強化型カスタムを相手に奮闘していた。
「数が多い・・・・・・」
ぼやきながらも剣を振り回し、カスタム達を薙ぎ払っていく。後方から飛び掛ってきた三人のカスタムを、紅蓮はハンドガンで撃ち落とす。紅蓮は、剣をカスタムの集団へと投げ飛ばす。その攻撃に気づいた最前列のカスタム達は回避したが、その後方で、そんなこととは知らず突撃しているカスタム達は、見事に殺られた。
「赤火、後ろ!」
乱州の声が鼓膜を刺激する。後ろに敵がいることなど、言われる前からすでに承知済みである。紅蓮は、前方にジャンプし、そのまま半回転する。銃口の先に、カスタムの姿を捉える。紅蓮は、躊躇いもなくトリガーを引き絞る。鉛の弾丸は、一つして外れることなく、カスタムに命中する。次々とカスタムは倒れていく。いままで、こんな光景を幾度となく見てきた。戦争が始まる前の、サイコスト狩りの頃も、戦争が始まってからも。両親が死んだときも。
『パワーストーン――クロウ』
「サイコ・クロウ!」
紅蓮は、両手に爪を装着し、その金属製の爪を宙に展開させる。合計十の爪はそれぞれが意思を持って動き回り、カスタムを次々と屠っていく。紅蓮は、コピリスに二つ目のパワーストーンを差し込む。
『パワーストーン――ボディ』
乱州の能力である身体の能力を、紅蓮はその身に纏う。後方から迫るカスタム二人を、腕を伸ばして鎮圧する。引き続いて、左右から剣を持って襲い掛かるカスタムを、腕をクロスさせてそれぞれ撃破する。
爪が全てのカスタムを倒した時、紅蓮の目に次の階へと続くレバーを発見する。紅蓮はそのレバーを下ろし、階段の先に銃口を向ける。地下八階に続く階段を、ゆっくりと下りていく。身を乗り出して、紅蓮は銃口を向けた。部屋には、一人しかいなかった。紅蓮には、それが誰なのか分かっていた。
「闘也さん・・・・・・」
「闘也!!」
紅蓮に続いて、乱州もその少年の名を呼ぶ。目の前の少年は、ゆっくりと頭を上げた。紅蓮は、その少年の顔を睨みつける。向こうの少年が、敵であることは十分に承知していた。
「さぁ・・・・・・俺と殺しあおう」
「俺が、闘也さん・・・・・・あなたを止める」
紅蓮は、闘也から視線を離さない。その目は鋭くなっている。紅蓮は、パワーストーンを二つ、コピリスに差し込む。
『パワーストーン――コピー、クロウ』
コピリスの機械音声を聞き終えた紅蓮は、両手に金属製の爪を装備する。紅蓮は、後方の四人に、目の前の闘也に、この世界に向けて、言い放った。
「・・・・・・赤火紅蓮、戦闘を開始する」
紅蓮は、サイコ・クロウを、最大の旧友である闘也に向けて飛ばした。