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未来少年2nd  作者: 織間リオ
第六章【勝利と敗北】
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34、求めていた代償

 冷雅を下の階へと呼び出したのは、虹七色のメンバーであり、カスタマーのトップ3とも言われているうちの一人、王金羅神であった。傍らには、彼と同じくトップ3といわれている銀城龍我王と、銅石剛柔がいた。剛柔は、髪はツンツンで、銅色にその髪を輝かせている。龍我王もまた、その髪を銀色に輝かせている。後ろ髪は襟ほどまであり、耳にも少しばかりかかっている。前髪の方は、眉毛にかからぬぎりぎりのところである。羅神は、髪は短く、坊主よりも多少長い程度である。

「来たか・・・・・・」

通信を送ってから一分の時を置かぬうちに、冷雅は黒い三彗星と共に現れた。背後にはまだあの六人の姿はない。

「何の用ですか?」

冷雅は、羅神に向かって問いただす。なるほど、呼び出したのはこのためだけではないと分かっているようだ。

「エスパーの反乱兵と正規軍がそれぞれ来た」

「・・・・・・? どういうことですか?」

聞き返す冷雅に対し、今度は龍我王が応答する。

「反乱兵がこちらに加勢し、正規軍が敵対し、こちらに向かっているらしい」

「エスパーが・・・・・・」

 冷雅の表情に一瞬の翳りが見えたが、羅神達はそれを気にすることはなかった。その後、あの六人が地下八階へと降りてくる。闘也はソウルガンの銃口をこちらに向けている。同様に傍らにいる的射も狙撃銃をこちらに向けている。的射の隣には、由利が杖を構え、闘也の隣には元虹七色の乱州が拳をこちらに向け、いつでも腕を伸ばせるようにしている。

「この戦いは、カスタムとピュアだけのものではない。それだけは、言っておこう」

「!・・・・・・まさかエスパーが――」

「その通りだっ!!!!!」

龍我王が、闘也の返答に対し、叫びながらも指で銃の形を作り、その指先より粒子状のビームを発射する。六人はそれぞれ別方向に拡散し、それぞれが攻撃を開始してくる。それに対し、七人はそれぞれが拡散しながら回避に成功する。紅蓮が、両爪を宙に展開し、サイコ・クロウを飛ばしてくる。だが、その技術は、何も向こうだけのものではない。

「行け! サイコ・ヘア!!」

ツンツン髪の剛柔は、そのツンツンを切離して宙に展開させる。そして、ツンツンの髪はそれぞれがクラッカーのような形となっており、それぞれの先からビームを発射する。紅蓮のサイコ・クロウが接近型ならば、こちらは射撃がメインの遠距離型と言ったところである。

「何――ぐはぁっ!!」

紅蓮に、一つの影が飛び掛る。冷雅かと予測したが、それは違った。闇亜の側近の、ユロである。振り返ると、ユラとユルもいた。

「「闇亜様の仰せのままに・・・・・・」」

二人は、全く同じ言葉を呟く。それが、二人の戦闘開始の宣言であることは、すでに羅神は知っていた。


 飛び掛ってきた青年の一人を、紅蓮は邪険に振り解き、右手の爪を振り回す。だが、それを後方へのバックステップにより回避する。乱州は、その隙を見つけ、その青年に腕を伸ばし、その拳を叩きつける。

 それに気づいた残り二人の青年も、こちらに接近し、攻撃を開始してくる。そのうちの一人を、横から割って入った秋人が蹴りつける。乱州は、もう一人の攻撃をかわし、左手の拳で殴りつけた。

「ユラ! くそっ・・・・・・!」

乱州に吹き飛ばされたユラと呼ばれた青年は、その声に振り返ることなく、再び乱州へと突進する。乱州は、腕を剣に変形させてその突進をいなす。紅蓮に飛び掛っていた青年を左肩から右のわき腹までかすれるように切りつける。

「ユロ・・・・・・このぉっ!!」

ユロを斬られたことにより、怒りを沸騰させたユラが、全身に鋭い針を身にまとって突進してくる。

ニードルか! この野郎っ!!」

乱州は、接近してきたユラを、剣で受け止める。乱州がそちらに気を取られている間に、ユロが背後から剣を突進させてきた。乱州は、全身の神経を研ぎ澄ませ、ムゲンを発動させる。

「何っ!!」

乱州がムゲンを発動させたと、剣を突き出したユロは驚愕し、その場で硬直する。乱州は、自らの体を量子化し、敵の攻撃を回避したのである。勢いあまったユラの体が前のめりになり、剣が腹部に突き刺さる。ユロは咄嗟に剣を抜き取る。深く突き刺さる前に我に返り、抜き取ったのは、不幸中の幸いであった。

「俺は、ここだぁぁぁっ!!!」

乱州は、剣を抜き取ったばかりのユロの背後に出現すると、その頭部を腕を巨大化させて殴りつける。無論ユロは吹き飛ばされ、咄嗟に針を消したユラと諸にぶつかる。

「頼む、ユル!!」

秋人と戦闘していたユルと呼ばれた青年が、一瞬にして乱州の眼前に現れ、特殊な波動を全身から噴き出す。その波動をまともに食らった乱州は、自分の体の異変に気づく。体が痺れ、動かないのである。そこに、ユルの拳が顔面に叩きつけられ、続いて腹部に拳をめり込まされ、先ほど顔面を殴っていた右手を腹部へと叩きつける。そして、乱州の頭部をがっちりと両手で押さえると、自らの頭をぶつけてくる。乱州の思考が一瞬揺らぐ。その一瞬のうちに、ユルの蹴りが腹部へと直撃する。乱州は、その体勢のまま、床に叩きつけられる。ユルは乱州の上空で拳を振り上げる。しかし、その拳は乱州に当たることはなく、背後に回りこんだ秋人が、腹部に蹴りを入れて不発に終わる。乱州は、僅かに麻痺毒の抜けてきた体を起こす。先ほど吹き飛ばされたユラが、こちらに向かって針を投げつけてくる。乱州は、それを左右に回避するが、やはりまだ麻痺毒が残っているために、右肩に二つの針を食らう。

「く・・・・・・こんなっ!!」

乱州は、右肩の針を強引に抜き取る。ちらと目をやった先では、エスパー対エスパーの攻防が繰り広げられていた。


 本部へと攻め込んできたエスパー正規軍と共に、反乱兵の相手をしていたのは、的射と由利であった。正規軍の中には、特殊任務専門部隊、『雷雲』の姿もある。対する反乱兵は、第一次超能力戦争を生き抜いた精鋭達に加え、見知った顔もあった。的射の脳裏には、正規軍であった二人の男の姿を捉える。

 以前、闘也が指揮する正規軍の中にいたエルガ・ハットも、そのうちの一人であった。傍らには、こちらも以前闘也より聞いていた、サム・スピナーの姿もある。

「エルガ・ハット、目標を歪ませる」

「サム・スピナー、目標を狂わせる」

的射と由利に向かって、二人が接近してくる。的射と由利は、二人共遠距離が主体の攻撃である。そのため、接近戦では、相手に後れを取ることは、否定できない。一瞬にして距離を詰めたサムが、的射へと拳を突き出す。的射は反射的にスナイパーライフルの銃口より高水圧を噴出させ、サムへとその水剣を薙いだ。薙いだ水剣は、サムの右足を奪った。それにより、バランスを崩したサムは、そのまま地面に激突する。的射は、ハンドガンを、サムの頭部へと向ける。的射は、トリガーを引く寸前に、サムへと謝罪していた。

「ごめんなさい・・・・・・あなた達と道は違うの・・・・・・」

 例え最終地点が同じだったとしても。

 彼ら――反乱兵やカスタマー達と、道が交わることはない。

 こっちがどんなに道を合わせようとしても。

 向こうはそれを拒み、少しずつ離れていく。

 近づくこちらと、離れる向こうによって、平行線ができてしまっていた。

 しかし、そう考えている間に、彼の命は天に召されたのであった。

 それと同時に、このカスタマー本部へと乗り込んだ者達は衝撃を受けた。

 要とも言える、魂波闘也が、カスタマーに敗北したのである。


 紅蓮が、その状況を確認したのは、冷雅との戦闘中、一つの戦闘が終わったのを察知したためであったからだ。

「闘也さん!!!」

しかし、呼んだ相手からの返答はない。紅蓮の意識は再び目の前の敵に捕らわれる。紅蓮へと太刀を振るう冷雅の攻撃を回避する。紅蓮は、冷雅の太刀を両爪で受け止める。冷雅は、その背後より、紅蓮から奪ったサイコ・クロウを突進させた。紅蓮は、そのことに間一髪で気づき、サイコ・クロウによる防御網を作り、その爪を弾き返した。冷雅の顔に焦りが見える。紅蓮は、その瞬間を見逃すことはなかった。すぐに冷雅の太刀を押しやると、サイコ・クロウを展開させる。

 しかし、その爪を冷雅に当てることはなかった。

 彼がサイコ・クロウと共に冷雅に接近した時、冷雅の周囲に、銅色のクラッカー型の飛翔物が取り囲んだ。それは、銅石剛柔のサイコ・ヘアである。冷雅は、そのことに半ば驚愕していた。が、押し返された直後、身動きはできなかった紅蓮は、咄嗟に行動を起こした。冷雅を蹴り飛ばし、その包囲網より脱出させる。各サイコ・ヘアの先端が光を蓄え、それが臨界に達し、光を放とうとしていたところに、紅蓮のサイコ・クロウが飛び込む。サイコ・ヘアは、紅蓮の爪により、全機打ち落されたのであった。


 冷雅は、今起こった様々なことに対して理解しかねていた。混乱により、体が動かない。動こうという意識があったかもしれないが、彼の肉体は、それを拒んだ。

 銅石剛柔。虹七色のメンバーである。銅色の髪の毛より展開するサイコ・ヘアは、こちらにとって大きな戦力となる。しかし、そのサイコ・ヘアは、敵であるはずのピュアではなく、自分に向けられた。何故自分に向けられたのか。誤射にしては、なぜああまで取り囲んだのかという疑問が残る。

 裏切り――一つの単語が、彼の中を過ぎる。

 まさか、彼らは裏切ったというのか。カスタマーを、仲間を、俺を。

 しかし、その可能性を考えた直後に、彼の疑問は、もう一つの方へと向けられる。何故、紅蓮は自分を助けたのか。理由の見当がつかない。あいつが自分を助けることによる利益などないし、無論こちらも助けてもらおうとは思っていない。事実、助けられはしたのだが。

 まさか、情けをかけられたというのか。俺が、あいつに・・・・・・。

「・・・・・・河川・・・・・・」

弟の名を呟く。こんな時、彼ならどうするだろうか。「裏切るのか」と剛柔を罵るのか。「助けろと頼んでいない」と紅蓮を軽蔑するのか。

 俺が求めていたのは、こんな裏切りなのか。

「・・・・・・違う」

冷雅は、自らの答えを否定する。サイコ・ヘアを失い、僅かに驚愕に歪んだ剛柔の姿を、怒りの鋭い目で睨む。

「・・・・・・違う」

そうだ。この感情は、間違いようのないものだ。

「絶対に違う!!」

そうだ。感情を抑えて戦うなど、青水冷雅ではない。ただの一兵士だ。俺は、虹七色の誇りを持ち、戦い、弟を殺された代償を求めていたのだ。

「俺は、こんなものを、望んではいないっ!!!」

彼の体は、無意識のうちに動き出し、懐に隠し持っていた小型投擲用ナイフを、剛柔へと投げつける。剛柔は、そのナイフを回避し、指で銃の形を作り、ビームを発射してきた。

「裏切るのか?」

剛柔は、冷雅を皮肉るように笑みを作る。

「それはこっちのセリフだ!!」

(兄さん。兄さんは間違っていない)

「河川・・・・・・?」

脳内で、弟の声が響く。やはり、間違っているのはやつららしい。冷雅は、再び攻撃をするため、放たれたビームを身を翻して回避し、地を蹴って近づこうとした。しかし、それは掴まれた右腕によって歯止めをかけられる。

「なっ、てめぇっ!!」

「そうやって闇雲に戦うから、勝てない。代償が手に入らない」

「・・・・・・っ!!」

冷雅の無言の質問は、即答された。紅蓮の瞳は真っ直ぐで、冷静に状況を見極め、そして判断し、冷雅の戦闘にノーをつきつけたのである。

「現在の戦況は、不利だ。勝ち目はない」

紅蓮は、それだけいうと、すでに撤退を開始した他のやつらに続いて撤退していった。冷雅は、一瞬戸惑い、呆然としていたが、その後自分に襲ってきた絶え間ないビームの雨を確認すると、すぐに紅蓮達と共に撤退した。


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