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未来少年2nd  作者: 織間リオ
第六章【勝利と敗北】
34/49

33、戦いの海へ

 砦での戦闘を制した六人は、ついにカスタマー本部へと進み始めた。海中に敵の気配はなかった。あたり一面が、青い海である。しかし、その青は深度を増していくごとに、青緑に変わり、やがてにごった黒系の青へと変色していった。実際は、上空より照らす太陽の光が弱まったためにこうなっているのであるが、そんなことを気にしている暇など、紅蓮達に与えられなかった。

『闘也様、一斉掃射を開始します』

「頼む」

通信機のモニターより映し出された指揮官らしき人物に、闘也は依頼するように返答した。その短い通信が切れた数秒後、僅かな揺れが感じられた。それと同時に、暗闇になりかけていた海がまばゆい光に照らし出された。潜水艦のミサイルや魚雷が、カスタマーの本部に命中したのである。紅蓮を含む六人は、戦闘の準備を早々に済ませていたため、いつでも戦闘の開始は可能であった。水中戦闘用の専用酸素ボンベを背負い、六人の瞳はそれぞれが険しい顔をして、その光の先を見つめた。

『闘也様、進入ルート確保しました。ビーム砲の発射後、出撃をお願いします』

「了解」

先ほど同様、短い会話が二人の間で交わされる。その後、今までない大きな振動が紅蓮達を襲った。前方では、こちらの放った巨大なビーム砲が見えた。そのビーム砲が光を失ったのと同時に、六人は内部への侵入のため、戦闘の開始を宣言した。

「白鐘由利、戦闘を開始します」

「風見秋人、目標に突撃する」

「遠藤的射、目標を狙い撃ちにします」

「波気乱州、目標を叩き潰す!」

「魂波闘也、目標を討つ!!」

五人の宣言の後、決意を確かめていた紅蓮は、ゆっくりと目を開け、通信機に向かって宣言した。

「赤火紅蓮、戦闘を開始する!!」

その紅蓮の宣言を合図に、彼らのいた場所は一瞬にして水中に変化した。ボンベは正常に働いており、戦闘、移動に支障はない。六人は、すでにそれぞれがムゲンを引き起こしていた。闘也の黄、乱州の銀、秋人の薄緑、的射の薄桃、由利の白。紅蓮は、その名どおりの、赤を身に纏っていた。六人は、最終決戦の場へと、突き進んで行った。途中に三十人ほどの防衛部隊がいた。水中戦慣れしているのであろうが、数でも能力でも、こちらのほうに分があった。

「はぁぁっ!!」

闘也はソウルソードですれ違いざまに四人ほどを切り落として通りすがった。的射は後方よりスナイパーライフルを連射しながら接近し、その連射によって八人ほどを戦闘不能にした。秋人は、やはり高速の能力で余裕があるらしく、少し遊びながらも十人ほど葬ったが、闘也の「秋人、目的が違う!!」と罵声を浴びせられ、軽く舌打ちをしたものの、闘也に従い、先へと進んだ。

 由利は風と水の能力を使い、三人ほどのエスパーを殲滅した。乱州はその後、四人ほどのカスタムを殴り飛ばし、先へと進んだ。乱州が紅蓮へと通信を送る。

『赤火! とどめはよろしく』

少々明快な声が通信機ごしに聞こえてくる。紅蓮は、「了解」と小さく返すと、両爪を展開する。左手の爪を目の前のカスタムの心臓へと突き出す。

「てぇやぁぁっ!!!」

紅蓮の爪は見事カスタムの爪に深く突き刺さり、そのまますれ違うように引き裂いた。紅蓮はそのまま、前の五人に続いて高速の能力で近づいていった。


 一方、外部からの攻撃により、混乱を招いていたカスタマー本部では、黒田闇亜が、デスクを叩いて苛立ちを隠しきれずにいた。

 闇亜は本部では最深部の階にいる。つまり、一番相手からは遠いため、さしずめ最終防衛ラインもその上でどうにかなるわけである。

 現在、このカスタマー本部には、千ほどのカスタムがいる。また、それ以外にも、雇われたノーマルの兵士もいる。虹七色も、まだ数人残っているし、黒い三彗星も、手元にある。戦力的には、ピュアに十分対抗できる。ましてや、相手はたったの六人。そう、六人で千を超える軍勢に勝負を挑んでくるのである。

「六人とは、無謀な」

闇亜も無論、戦闘はできる。少なくとも、虹七色のトップ3と言われる王金羅神、銀城龍我王、銅石剛柔と、同等かそれ以上はある。側近として、ユル達も戦闘に加勢する。少なくとも、自分は戦闘では後れを取ることはない。

「ユラ、こちらの兵総数は?」

闇亜は、三人いる側近の一人に問いかけた。ユラと呼ばれた側近は、惑うことなく、現状を知らせた。

「正規軍は千二十九。傭兵及びそれに準ずるものを合わせて千五百七十二です」

「ユロ、外部装甲の損傷率は?」

今度は、ユロという側近に向かって聞く。ユロもまた、戸惑うことなく、すぐさま答えを返してきた。

「六十二パーセントです。安全武装領域、八十パーセントまでの修復に一時間かかります」

「修復の必要はない。するなら・・・・・・」

そこで闇亜は一旦そこで言葉を区切る。ユルに指で命じ、通信装置を持ってこさせる。

「やつらを撃退してからだ」

「了解」

ユロがその一言を呟くように返答するのを確認した後、闇亜は、その通信機の設定を開始する。キーボードの上で、闇亜の指がタップダンスを踊り一瞬にして、設定完了のモニターが表示される。

「全カスタムに通告する!」

闇亜は、目の前にあるマイクに向かって怒声を浴びせるように言った。

「ここは、なんとしても守らねばならない! 我々が世界を導くためにも、ここを死守するのだ!!!!!」

闇亜は、その一言を、カスタム達に伝え終わると、誰の返答も待たずに通信を切断した。闇亜は、目の前の側近三人に命じる。

「挨拶がわりだ。全員行け」

「しかし、闇亜様は・・・・・・」

「構わん。やつらは損傷箇所から言って地下六階より侵入してくる。七階で、ノーマルの傭兵達と共に戦闘するのだ」

「了解・・・・・・」

三人は、全く同じ返答を闇亜に返すと、闇亜の前から姿を消した。闇亜は、その後、誰を見ることもなく、呟きながらもとあるシステムの立ち上げを開始していた。

「日本も、世界も、我々が導き、我々が動かす。これは、そのための力となるはずだ・・・・・・」

闇亜が立ち上げようとしていたのは――彼にとっては――世界を導くために必要なものであり、また危険なシステムでもあった。


 紅蓮達は、見事カスタマー本部への侵入を成功させた。紅蓮の端末の計算によれば、ここは、カスタマー本部の地下六階で、最深部は十一階であった。紅蓮は、その十一階という歯切れの悪さに苛立ちを覚えたものの、すぐにその感情をかき消し、前方の敵機に意識を集中させた。

 侵入は果たしたとはいえ、先ほどの攻撃で損傷した箇所より侵入したため、内部は未だに水中であった。もしかしたら、地下の方に水が流れているかもしれない。そうなれば好都合ではあるが、もし、閉鎖などをしていれば、どの道水中での戦闘となる。もし、このままで地上戦闘となるなら、押し寄せてくる水を押し出すだけの推力が必要となってくる。それすらもなければ、後は外部装甲を補修、閉鎖し、水を上階に送るしか方法はないだろう。

『紅蓮、下に向かうぞ』

通信機ごしに、前方で端末を計算し、現在状況を確認した闘也の声が響く。

「闘也さん」

『どうした?』

「戦争が終わったら、闘也さんはどうするんですか?」

紅蓮は、自分の質問の後に闘也が黙り込んだことに、一瞬の焦りを覚えたものの、その焦りを感じた直後に返ってきた答えにより、その焦りは吹き飛んだ。

『わからない』

「え・・・・・・?」

返ってきた答えの意味が分からず、紅蓮は聞き返した。闘也は、その自分の返答を掘り下げて言い直す。

『戦争が終わって、自分が何をするのか、それは、終わらないと分からない。ましてや、俺が生きているかも、分からない』

『闘也』

傍らで二人の通信を聞いていた乱州が、その通信に介入してきた。その口調はいつもながらの口ぶりであったが、紅蓮の表情、及び感情が揺れ動くことはなかった。

『全員、死ぬ覚悟で来てんだ。冷たいこと言うなよ』

『俺はこの水の方が冷たいと思うがな』

『そうかい』

そこで会話は途切れた。闘也に続き、紅蓮は下の階へと移動しはじめた。

 上階より降りてきた六つの人影を確認した冷雅は、黒い三彗星と共に戦闘を開始することとを、カスタマー最高司令官、黒田闇亜に伝える。闇亜は、それに対し、しばらく戦闘を待つように命じられた。六人が入ってきたと同時に、闇亜が冷雅達の眼前に出現する。いや、これは実際の姿ではない。これは立体映像である。ここで挨拶でもする気なのだろうか? しかし、冷雅には、闇亜がただ挨拶のためだけにここに来たとは考えにくかった。

「よくぞ来てくれた、汚らわしいピュア達よ」

ここ、地下七階は、周囲からの水を押し返す特殊な空間の中にある。これは、カスタマーの技術力の結晶と言っても過言ではない。

「お前達を倒さなければ、我々は新たな道を進むことができない」

「道など、一つしかない」

闘也が、闇亜の言葉に反論する。冷雅の意志は、そのときはそこではなく、すでに憎しみの対象の紅蓮へと向いていた。

「冷雅、後は任せる」

「・・・・・・了解」

闇亜の言葉は、冷雅には、最後の一言しか届かなかったが、それでも、返答を返すためには十分な言葉であった。闇亜の映像がその光を失い、消滅する。冷雅は、後方で待機していたンノーマル兵士達を、自らの前方に移動させた後、六人に向かって、一斉掃射を始めさせた。

「逃げたところで・・・・・・」

数多のマズルフラッシュと共に、銃弾が隙間なく撃ちだされる。しかし、その一発たりとも、その六人に当たることはなかった。それから一秒とも経たぬうちに、前方のノーマル兵士の半分が悲鳴を上げながら倒れる。六人それぞれが、自らの特性で攻撃を行ったのである。

「ちっ」

小さく舌打ちした冷雅は、紅蓮へと突撃する。紅蓮は、両手に金属製の爪を装備している。右腕には、一度は奪ったコピリスがはめられている。冷雅は、使い古している太刀を振りかざし、紅蓮へと斬りかかる。しかし、その攻撃はいとも簡単にかわされ、蹴りを入れられる。

「貴様、まだ憎しみで!」

「感情をなくして、人は生きられぬ!!」

紅蓮の目が、ムゲン覚醒を起こした瞳にその姿を変える。冷がもまた、ムゲンを引き起こし、爪を振りたててきた紅蓮の爪を受け止める。

「そんなこと!!」

「お前に何が言える!」

紅蓮が言いかけた言葉をさえぎり、冷雅は反論する。そして、爪を押し弾き、剣を紅蓮に向かって薙ぐ。しかし、剣は宙を切った。冷雅が紅蓮に目を移したとき、紅蓮は両爪を宙に浮かせ、それを冷雅へ向かって突撃させてきた。いままで、このような武器を戦闘中にしようされたこともないうえに、冷雅にとってこの攻撃の免疫は低かった。

「こいつら・・・・・・!」

冷雅は、その飛び回る爪の突貫攻撃を、ムゲンの補助のおかげでどうにか回避していたが、これを押し切って紅蓮に近づくことは、困難であった。紅蓮の爪は、冷雅に向かって絶え間なく突貫してくる。冷雅は、回避しながらも、その爪のうちの一つを捉えた。

「奪取!!」

 冷雅は、飛び回っていた爪w奪取の能力により、自らの物へと暗示をかける。その暗示に従ったのは、冷雅の掴んだ一つだけであったが、それでも十分な戦力にはなる。

「サイコ・クロウが!」

「行け! クロウ!!」

冷雅の叫びと共に、たった一つではあるものの、爪が紅蓮に向かって飛翔していく。冷雅は、自分の中に電気が走る感覚を覚えた。サイコ・クロウは、基本的には脳波の干渉により、その所有者の意志に従って動く。中には、自律神経を持って飛翔するものもあるが、それでは所有者の立てた戦術がうまく働かない可能性もあるのだ。

『青水冷雅』

通信機ごしに声が聞こえる。冷雅は、紅蓮に突っ込みながら通信機にぶっきらぼうに返す。

「何ですか!」

『一つ降りろ。一気に攻撃する』

「くそ・・・・・・了解!」

おそらく、最初の苛立ちの呟きも聞こえているのだろうが、冷雅にそれを気にするほど心の余裕はなかった。冷雅は、一度は近づいていたものの、少しずつ距離を取っていき、さらに下の階へと、黒い三彗星と共に降りていった。


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