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未来少年2nd  作者: 織間リオ
第六章【勝利と敗北】
33/49

32、違う正義

 幾つもの影。それが本物か偽者か、見当がつくものではない。反応はできている。回避も危うくかわしているといったことはない。しかし、紅蓮は翻弄されていた。全方位からの攻撃は隙がなく、動きを読むのに、かなり気力、体力共に大きく消費する。かといって、気を緩めれば、その時点で切り刻まれ、戦闘は愚か、動くことすらできなくなるかもしれない。紅蓮は、回避しながらも、襲い掛かる影のいくつかをすれ違いざまに腰の辺りを両断する。が、襲い掛かるのは全て偽者で、いくら斬っても、相手の数が減少する様子は一向に見られなかった。

「くっ・・・・・・」

襲い掛かるうちの一人が、紅蓮のわき腹を、剣をかすめて通りすがった。紅蓮は、どうにかその攻撃網を逃れ、コピリスにパワーストーンを二つ同時にはめ込む。

『パワーストーン――クロウ・コピー』

機械音声が響き渡り、紅蓮は自分を追ってくる幾つもの影を睨みつけた。紅蓮は、両手に装着した金属製の爪を一瞬ではあるものの見据えると、その爪を五本ずつ、計十本を切離し、宙に展開させた。

「これが両爪の真の能力・・・・・・」

紅蓮は、その爪を追ってくる――おそらくは偽者の――陽花へと放った。

「自立機動型両爪――サイコ・クロウ!!!」

直後、その爪は襲い掛かる陽花の心臓を次々に貫き、破壊した。爪が突貫したうち、全てが偽者であったが、突貫する爪を唯一かわした一つの影を紅蓮は見逃さなかった。

「そこっ!」

紅蓮は、サイコ・クロウを本来の場所へと呼び戻す。爪はそれぞれが所定の位置へと戻り、紅蓮はそれを確認するまでもなく、一気に陽花へと突進していった。

「まだだっ!!」

紅蓮が両爪を突きたて、陽花の心臓を貫いたころには、陽花はすでに分身を創り出し、そちらへと移動していた。紅蓮は、後方に陽花の気配を察した。案の定、陽花は分身を作りながら後退していく。紅蓮は、それを逃がそうとはしなかった。

「逃がすかっ!!」

紅蓮は、一度は閉まっていた爪のうち、両親指、両小指の部分に当たる計四本のサイコ・クロウを宙に展開させる。紅蓮と互角かそれ以上の速さで飛び回る爪は、休む間もなく次々に分身を破壊していった。紅蓮は、真正面に突進する。サイコ・クロウは、紅蓮の横、または斜め前方で、次々に分身を破壊し、ついには陽花本体一人となった。紅蓮は分身を出そうと身構えていた陽花に、左手の三本の爪を突き出し、腹部を一直線に貫いた。紅蓮の左手の中で、陽花の能力である分身マイセルフのパワーストーンが生まれた。紅蓮は、その後右手の爪も突き出し、その後すぐに抜き取り、ゆっくりと落ちていく陽花の姿を見ていた。


 陽花が目を覚ました時、目の前には、自分の上司とも言える銀城龍我王が立っていた。陽花はその姿を確認すると、すぐさま体を起こし、龍我王の前に跪いた。龍我王が何かを喋ろうと口を開いていたが、その口より言葉が発せられるよりも先に陽花の口は動き、言葉を発していた。

「申し訳ありません、龍我王様! 次こそは必ず・・・・・・!」

腹部から血を大量に流しながらも陽花は龍我王へと謝罪の言葉を述べる。しかし、龍我王より返ってきた言葉は、彼女の予想を覆す言葉であった。

「消えろ」

陽花は驚愕していた。まさか、自分がこのような言葉をかけられるとは思ってはいなかったからである。まだ、自分は復讐を果たしていない。こんなところで、無様に、しかも、上司に殺されるのか、私は・・・・・・!

 だが、それでもいいと、陽花は思った。

 これで、彼の元へと逝ける。好きだった彼の元へ。

 今は亡き、青水河川の元へ――。


 龍我王は、驚愕する陽花の顔に気をとられぬことなく、短く言葉をつないだ。

「――役立たず」

その一言と共に、龍我王の右掌から一本の粒子の線があふれ出した。その線は真っ直ぐに陽花の額を貫通し、やがて消えた。

「貴様は、俺達の戦いに不要だ」

 龍我王が陽花に向かって呟いた最後の言葉は、彼女に届くことはなかった。

 龍我王は、自らの手によって葬られた陽花を背に、ゆっくりと歩き出した。振り返ることは、一度としてなかった。龍我王は、遠くで起こっている戦闘に目を向けた。無論、彼に介入の意思はなかった。先ほど、陽花を葬ったのも、上からの命令ではなく、龍我王の独断であった。例え上からの叱責を受けようとも、例え虹七色から外されようとも、そんなことは、たいしたことではない。生きられさえすれば、自分は再び戦場に赴き、戦うことができる。そして、もし死ぬならば、上の命令による『処刑』ではなく、戦場で相手の攻撃を受けて『戦死』する道を選ぶつもりでいた。

 ふと、その遠くの戦闘区域で戦っている青水冷雅のことを思い出す。やつも、いずれ消えねばならない。世界は、黒田闇亜が操るでもない。導くでもない。自分、そして、銅石、王金が、愚かなサイコスト、エスパー、ノーマルを平和の下に置く。

 そう。世界を導き、平和の下に置き、世界の変革を促すのは、俺達だ――!


 戦闘の中、一人静かにムゲンを引き起こした由利は、的射の精密な射撃に、感嘆の意を表していた。

 的射の放った三発は、暗志の右足、信自の右腕、殺闇のわき腹を正確に撃ちぬいたのである。的射の射撃能力の腕は、第一次超能力戦争時より、すでに心得ている。時間のおかげでもあるのか、彼女の射撃能力センスは格段に上昇していたのである。彼女は、小さく息をつく。そして、思考の中で、一つの答えを導き出した。

(これが、ヒトなのね・・・・・・)


 互角の戦いを、冷雅と秋人は繰り広げていた。冷雅は超高速で接近してくる敵に翻弄され、攻撃を絶え間なく当てられた。だが、何度も同じ攻撃に当たるわけにはいかない。冷雅は真後ろから接近してきた秋人に向かって剣を薙ぐ。秋人は、接近しながらもその刃をかわし、冷雅の後方に回り、拳を突き立てる。冷雅は再び剣を向けようと尽力したが、遅かった。鈍い拳の痛みが、頬を伝い、全身に痛みを覚えさせる。

「くそっ・・・・・・!!」

 冷雅の中で、全神経が研ぎ澄まされる。視界はまるで雲ひとつない空のように、開放感に満たされる。冷雅は、左前方より接近してくる秋人の気配を感じ取ると、その方向に向かって愛用している太刀を薙ぐ。しかし、斬撃はことごとくかわされ、対角上にかわされる。この後の行動はすでに予測済みである。冷雅はすぐさま後ろを振り向き、秋人へと剣を薙ぐ。しかし、やはりその斬撃はかわされる。今度は、冷雅の右手方向に回避し、こちらに接近してくる。どうやら、当たるまでこれを繰り返すつもりらしい。

「ちょこまかとぉっ!!」

冷雅は太刀を振るい、向かい来る秋人に斬撃を浴びせる。しかし、その斬撃は一つとして秋人に当たることなく、宙を切り裂くだけであった。

「憎しみで戦って、何が変わる!? 何を得る!」

秋人は、回避を行いながら冷雅に向かって呼びかける。冷雅はそのことに気を取られずに、攻撃を続ける。秋人は、自らの発した言葉を言い終えて三階ほど斬撃をかわした後、再び冷雅に向かって呼びかける。

「得るのは、それによって殺された人の――」

「憎しみってか!!」

冷雅は最後の一言を言おうとした秋人の言葉を自ら口にした。冷雅は、半ば困ったような表情を見せ、斬撃をかわしながらも言い放つ。

「分かっているなら、何故――」

「俺はなァ――」

冷雅は、秋人の言葉をまたもさえぎり、今度は自らの意見を、秋人に向かって言い放つ。この程度の言葉に、惑わされる自分ではない。戦いの中で、迷いが生じ、迷いを引きずったまま戦えば、満足した結果を得ることはできない。だからこそ、冷雅は自らの意見を口にし、相手に伝えることによって、自らの思いをより強固なものにしたのである。

「それでも構わねぇんだよぉぉっっ!!!」

冷雅の怒りと決意の言葉は、秋人の動きを一瞬鈍らせる。ここは戦場だ。そして、今まさに戦闘をしている。敵に隙を見せれば――

 殺られるだけだ。

「俺は、それでも――」

亡き両親の姿が浮かぶ。

「『俺達』のために――」

つい先日、自分を残して死んでしまった河川の姿が映る。何にだろうか。笑っている。

「復讐を果たす!!!!!」

 冷雅は怒声と共に太刀を振り下ろす。攻撃の手ごたえを、冷雅は感じた。しかし、秋人の姿はなかった。剣が両断したのは、幻影ではあるのではあろうが、河川であった。冷雅は、驚愕しながら今は亡き弟の姿を見た。周りに敵はいなかった。いや、敵どころか、自分と河川以外には、生物は何一ついないような感じさえした。幻影の世界の中で、河川は冷雅に、まるで誰かの伝言を伝えるためだけのように言った。

「僕は、憎しみで戦って欲しくない」

「な・・・・・・お前は殺されたんだ――」

「殺されたから殺して、僕は戻ってこない!!」

「――!!」

冷雅は、そこで河川の言葉に半ば呆然とする。なら、このまま戦うなというのか。お前を殺したやつを倒して、それでこそ、お前が報われるのではないのか。確かに、殺したから殺す。殺すから殺される。そんな憎しみの連鎖の果てが、やがて自分の破滅だということも分かっている。だが、それでも、この思いだけは、晴らさないといけない。例え、河川が死んだのが、河川の覚悟の上であっても。

「僕は死んでいない」

「何をっ・・・・・・」

言いかけた冷雅の言葉は、河川によってあまりに簡単さえぎられた。

「僕は、兄さんの中で、生き続けている」

冷雅は、その時になって、「僕は死んでいない」という言葉の意味を理解しはじめた。

「だから、今こうして会っている」

「・・・・・・」

冷雅は黙り込んだ。ここで何か言わなければならないのではないかと焦りの気持ちが生まれる。しかし、それは不要といってもおかしくはなかった。俺達は兄弟である。たった一人、肉親として戦ってきた。俺達は、二人で一つだ。何故それを忘れていた。自分はいつだって、河川に支えられて生きてきた。ここで自分が折れては、河川の気持ちは報われないのである。冷雅は、一度ゆっくりと目を閉じ、そして開く。目の前には、幻影の河川の姿がある。

「悪かった・・・・・・」

冷雅は、その幻影の世界の中で、最初で最後かもしれない涙を流した。河川は、その涙をふき取るでもなく、冷雅を慰めるわけでもなかった。

「俺はまだ、死んでいない・・・・・・」

「兄さん・・・・・・」

河川は、笑っていた。その笑顔につられるよう、冷雅もその顔に笑みを作る。

「だから、お前も生きている!」

「うん!」

その瞬間、冷雅はその幻影の世界より引き戻された。

 冷雅は、その瞬間悟った。

 今、自分は勝てない、と。

「青水冷雅、撤退する」

冷雅は、通信機に向かって呟くように伝えると、その場を飛び去っていった。


 結果、闘也達による砦の陥落作戦は、「成功」の二文字で飾ることとなった。砦は、融合した闘也と乱州により、見るも無残に両断され、その進入経路をあらわにしていた。陥落作戦が終了して間もなく、待機していたエスパー海軍の強力を得て、ついにカスタマーの本部に乗り込むことが可能となったのである。エスパーの用意した戦闘装備搭載型潜水艦は、その巨大さに圧巻するものも多かった。エスパーの所有する軍隊は、数でこそカスタマーに劣るものの、兵器や、移動用、戦闘用の戦艦などは、軍隊らしいものであった。

 この潜水艦には、偵察用小型魚雷、戦闘用大型魚雷、機関砲、対空ミサイル、水中専用耐水装甲ミサイルランチャー、近接戦闘用高周波ブレードランチャーが搭載されている。この戦艦並の武装を積んだ潜水艦で、まずカスタマー本部を攻撃し、陥落作戦を試みるつもりらしい。

 ちなみに、この潜水艦は、エスパー独自の核研究により開発されたコアエネルギーシステムと呼ばれるものを搭載している。このシステムにより、この潜水艦は、高機動性を実現したのである。最高速度は時速百キロを超える。敵の攻撃をかわすことは容易いものである。また、それにより、最後の切り札として、そのエネルギーを一点に集中させることにより、高エネルギービーム砲の発射も可能となっている。これは、もし戦争になってしまった時のために、闘也がぽつりと呟いたことであったが、それをエスパー達は真に受け、ここまで作り上げたのであった。

 闘也も、まさかここまでするとは思っていなかったので、表情に翳りを見せたものの、仕方なく乗り込むことに決めた。

「気を引き締めろよ。戦闘の可能性は大いにあるんだからな」

闘也は、誰を見ずとも、そう警告した。その警告に、一番最初に答えたのは、紅蓮であった。

「覚悟はできています」

紅蓮のその一言は、闘也が問いかけた五人全員の答えであった。

 そうだ。全員の覚悟はできている。自分も、そのつもりである。六人全員が、人殺しを楽しんだことは、一度としてない。だが、自らが殺めたものを見て、恐怖し、戦意喪失するような肝の据わっていない者もいなかった。本当は、自分の覚悟を確信したいから、こんなことを聞いたのかもしれない。気を引き締める。それは、今までだってずっとそうしてきたことなのだ。今さらそれを確かめることもないのである。

「早く終わらせよう・・・・・・」

そこで闘也は、初めて後ろを振り返った。

「戦争を・・・・・・!」

五人は、それぞれの返答を闘也に返した。


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