31、戦士達の拳
紅蓮達が、砦の前方にて死闘を繰り広げた翌日、新たに乱州を加えた六人は、カスタマーの最終防衛ラインであろう砦の陥落作戦の作戦会議を行っていた。巨大な構造物なだけに、並大抵の攻撃では崩れない。また、真正面から破壊しようとも、カスタム達の攻撃が行われることは必然的であり、無謀であった。砦は、この地点からでさえ、その巨大さが見て取れた。
「どうする? 地面に穴でも掘るか?」
秋人の提案は、意味が不明であった。誰も、その意見に賛成の意を表す者はおらず、乱州に駄目押しをされる結果となった。
「掘ってどうすんだよ」
「うぐぐ・・・・・・」
その言葉に押された秋人は、それ以上しゃべることをやめた。かわりに、由利が口を開く。
「ねぇ、闘也と乱州は、融合はできないの?」
紅蓮は、その言葉を理解しかねた。闘也と乱州の友好度は、はたから見ていてもすさまじいものでもある。しかし、融合などということもできるのかと、彼は驚愕していた。
「無理と断言はできないが・・・・・・」
闘也の言動より、できない確率の方が高いということが証明された。おそらく、ムゲン同様、その融合とやらも、第一次超能力戦争を最後に行われていないのだろうと、紅蓮は予測した。言動からしても、おそらくそれは事実であろう。
「できないことはないだろ」
今度は、乱州が言い出した。融合ができるかどうかの質問に否定的な闘也に対し、乱州は肯定的な意見を突き出したのである。紅蓮は、表情には出さぬものの、どこかで憤怒を覚えた。果たして、それでいいのだろうか。他の意見を押し切ってまで、自分の意見を貫き通す。戦場でも、そのような性格や、生き方、戦い方がときに勝利につながることもあるかもしれない。だが、そのたった一人の身勝手な意見により、その戦士全ての命が天に召されることだってあるのだ。そう、それはエゴだ。それでは、何も守れるはずがない。紅蓮がその一言を言おうと口を開いた瞬間、周囲は彼の予測と思考を裏切る反応を見せた。
「乱州がそう言ってるなら、大丈夫ね」
的射は、その顔に僅かな笑みを見せながら周りに賛成意見を求める。周囲は、それに抗ったり、何か言いたそうな表情を見せず、頷いていた。全員が、乱州一人の意見に賛同したのである。由利は、それに安心したように、自分の作戦案を話し始めた。
「闘也と乱州で、背後に回りこんで、融合を利用して砦を陥落させる。秋人は、正面から攻撃して、陽動。私達は、正面の敵部隊を相手する。どう?」
一見、簡単そうな作戦ではあるが、実際そうでもない。陽動のための秋人がヘマをすれば、命を落とす上に、いざと言う時、紅蓮達の援護に回ることもできない。この六人の主力である闘也と乱州二人が抜けることによって、戦力の損失は著しいものである。ましてや、このときに虹七色が来れば、状況はさらに悪化する。それを踏まえて尚、この作戦を実行しようと言うのだろうか。
「秋人の陽動さえ上手くいけば、作戦の成功率は上がる。秋人、お前の動きが、全員のためになる。分かっているな」
闘也は、秋人に返答を求めた。闘也の言葉には、反論のしようがなかった。
その翌日、傷も各々が癒えて来た日であった。六人は、それぞれの役割を確認した後、早朝、作戦を開始した。
紅蓮は地上でのカスタムとの戦闘である。紅蓮は、的射、由利と共に戦場へと低空飛行しながら向かっていった。右腕にはコピリスがしっかりとはまっていた。利き手である左手には、長さとしては、腕ほどの剣である。紅蓮は、目の前に現れた人影を見やった。肩よりは長くないものの、短いとは言い切れぬ髪、比較的大きく見開かれた目。女性である。紅蓮は、一瞬その事を不審に思ったが、その女性が自分に向かって剣を滑らせてきたことを境に、敵と認識した。
紅蓮は、滑り込んできた剣を腹部の手前で自らの剣によって受け止める。そのまま、相手の剣が押しやらぬうちに数歩後退し、敵の姿を見やった。敵は、後方に自らの分身をいくらか創り出すと、こちらに叫びながら接近してきた。紅蓮もそれに呼応するように、叫びながらも突進する。
「赤火紅蓮――」
「紫葉陽花――」
「戦闘を――」
「目標を――」
「開始する!!」
「挟み撃ちにする!!」
数的では圧倒的に不利なこの勝負で、いかにして相手の数を振り切り、本体への攻撃を行うかが、この戦闘では重要になってくる。しかし、厄介なことに、敵は全く同じ分身を作り、こちらに攻撃を仕掛けてくる。闘也の魂の能力は、分身が僅かに白みがかっているのに比べれば、本物を見分けるのでさえ、神経を使うこととなる。紅蓮は、右手に銃、左手に剣を握り、向かってきた四つの敵に向かって銃を乱射する。しかし、撃ちだされた銃のうちほとんどは敵をすり抜けるように回避され、残りは当たったものの、完璧に偽者であった。計三人の陽花が、紅蓮に向かって切りかかる。紅蓮は、最初の二人の斬撃を剣で受け止め、側面より躍り出てきた一人を蹴り飛ばし、自分を押さえつけていた二人の剣を押し返し、跳ね除けた。バランスを崩した正面の二人に流れるような動きで腹部に剣を滑らせる。どちらも綺麗に両断したものの、偽者であることは明確であった。先ほど側面より襲い掛かってきた一人が本物である。おそらく、他の分身がいれば、そちらに乗り移ることが可能なのであろう。ここも、闘也の魂の能力に比べて、厄介な部分である。
「河川を殺した・・・・・・あなたを殺す!」
「貴様も憎しみで戦っているのか!?」
「そうさせたのはあなただ!」
敵が切りかかってきたのを見えた紅蓮は、素早い動きで真横に滑るように避けた。周囲を陽花とその分身に囲まれる。紅蓮は、それぞれ一斉に切りかかってきたのをムゲンを発動させることで感じ取った。
紅蓮は、無意識のうちに体を動かしていた。
紅蓮が戦闘を開始したころ、闘也と乱州は、それぞれがムゲンを引き起こした状態で、砦の後方へと進んでいた。秋人の陽動が成功したのであろう。敵の姿はなく、ここまではスムーズにことが運んでいた。
後方に達した時に、闘也は、乱州との呼吸を合わせる。そして、融合を開始する。融合は、二つ以上の肉体と神経を融合させることにより、肉体や神経の共有が可能となる。能力も使用可能となるため、闘也達にとっては、切り札となるものである。しかし、融合する瞬間、融合中、融合解除の瞬間は膨大な気力を消費する。一日に四、五回も融合すれば、勝利することは愚か、戦闘続行すら、厳しい状況に陥ることとなる。
闘也は、自らの肉体を前面に押し出す。融合中は、融合したもの同士で、誰の肉体を前面に出すかを決めることがえきる。当然、前面に出た方の能力は強力になるし、使いこなしも利く。しかし、融合の肉体変換で、肉体を前面に出していない者は、肉体を前面に出している者に比べ、体力は温存できるが、気力が持たない。バランスが重要な融合は、今になっても、使用できる者は少ない。
「乱州、準備はいいか?」
(あぁ。いつでもいける)
闘也は、巨大な剣を作り出す。その剣は、徐々に巨大さを増していきついには、砦の高さほどの大きさまでなった。
闘也は、その剣を一人で持つことなど不可能であった。そのため、乱州の能力、身体により、筋力を上げ、剣を楽に振るえるようになったのである。闘也は、その巨大な剣を、高周波振動させる。小刻みに震える剣は、この砦の陥落作戦に非常に有効なものである。最も、闘也の気力的問題で、この状態を保つ時間は極端に短い。だからこそ、闘也はすぐさま行動に移った。
砦の側面より、剣を滑り込ませ、一気に斬り進んでいく。止まることのない剣を、闘也と、精神のみの乱州は見つめ続けていた。しかし、やはりこの一撃で決めたい。その思いを胸に、闘也は叫んだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
砦の中心部を滑っていた剣は、闘也の意思のままに、いつまでも、砦が途切れるまで、すべり続けていた。
的射、由利は、カスタムとの戦闘を開始していた。剣が振り回され、銃が放たれる。数多の攻撃を、的射と由利はそれぞれの反射神経を駆使して回避していた。的射は接近してきたカスタムに、銃口より噴出した高水圧の剣で両断する。由利は、三人のカスタムに囲まれる。その三人が一斉に切りかかる。由利は、杖を振りかざし、杖の先端より放電させる。その放電をまともに食らったカスタムの二人は沈黙したものの、もう一人が背後から迫っていた。
「くっ・・・・・・」
最後のあがきとでもいうように、杖を構えた直後、カスタムの剣がはじかれ、その後両腕に銃弾が撃ちぬかれる。的射の咄嗟の判断により、由利はなんとか救出することができた。
「・・・・・・! この感じ!」
的射は呟く。前方より迫りくる人影が四つ。一つは、虹七色の青水冷雅。あの時、紅蓮との戦闘により、大きく負傷したにも関わらず、再び戦場に乗り込んでくる。一体、彼の回復能力は限界があるのだろうか?
そして、残りの三人は、元は仲間であった、黒い三彗星。暗志、信自、殺闇の三人である。的射は、遠距離狙撃用のスナイパーライフルから、近距離用のハンドガンに持ち変える。両手それぞれにグリップされた銃のリロードを済ませると、的射は叫びながらも接近した。
「戦っても・・・・・・失うしかないのにぃっ!!」
的射の中の神経が一気に研ぎ澄まされる。同時に、視界が一気に開き、体が一瞬にして軽くなる。目は獲物を見つめる真っ直ぐなものであった。的射は、ここで再び、ムゲンを引き起こしたのである。
「はぁぁぁっ!!」
的射は銃を乱射し、冷雅と黒い三彗星へと接近する。冷雅はムゲンを引き起こしていることにより、空中に飛び出して射線を回避し、暗志達は素早い横移動の動きで回避に成功した。三人に向けて銃を撃っていた的射は、上空より剣を振り下ろす冷雅に気づけなかった。
「あ・・・・・・!!」
しかし、その剣が的射に触れることはなかった。冷雅の存在に気づき、上を見上げた時、一つの影が、冷雅と共に落下するのが一瞬、本当に一瞬の間見えた。もしムゲンの発動がなければ、今の瞬間的な光景を目にすることはできなかっただろう。的射より少々離れたところで、砂煙が上がる。銃を撃ちながら後退した的射は、横目でちらとそちらを伺った。冷雅を押さえつけたのは、上空より飛んできた秋人であった。
「やらせるかよっ!!」
はき捨てるように言い放った秋人は、さらに殴りかかる。的射は、すぐに神経をそちらから外し、目の前に迫り来る三人の姿に神経を集中していた。
的射は、スナイパーライフルから銃弾を撃ち込む。しかし、その攻撃は殺闇の創り出したブラックホールに吸い込まれ、吸収される。的射は、スナイパーライフルを廃し、ハンドガンを構える。的射は、後退しながらも銃を三人に続けざまに浴びせかける。十発ほど撃ち込んだうち、五発以上は不発に終わったが、各一発ずつ、三人の腕、もしくは肩に命中した。的射は、それの勢いに乗るように、体を前方に突進させる。スナイパーライフルを握り締め、高水圧の水剣で、三人に振るう。しかし、その水剣は宙を薙ぎ、隙だらけの的射に、ブラックホールにより接近してきた暗志が襲い掛かる。
やられる・・・・・・!!
しかし、その暗志の攻撃が的射に命中することはなかった。由利の火炎球が暗志を吹き飛ばしたのである。
「的射!」
「ありがと、由利!」
短く礼を述べると、的射はハンドガンに持ち替える。的射は、左右に飛び回りながら、銃を撃つ。全ての弾が外れてしまったものの、的射は銃の発射を止めない。的射は、由利の援護を受けながら後退し、リロードする。
「これでぇぇぇっ!!!」
的射が撃ちだした三発の銃弾が、三人それぞれの体に命中した。