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未来少年2nd  作者: 織間リオ
第五章【哀しき決戦】
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28、感情と理性

 気がついたとき、光輝は青空を見上げていた。青い空が映る視界の隅には、大小さまざまな雲の姿も捉えることができた。地面は柔らかい。おそらくは、草原の芝であろう。光輝は、顔面に鈍い痛みがあることを悟った。あのとき、高速スピードの能力を使う少年に、顔面を殴られ、気絶したのであろう。光輝は、頭を動かし、周囲を見渡す。その目は、相棒である、深緑大地の姿を求めていた。

 視界の隅に映る大地の姿を確認した光輝は、ゆっくりと立ち上がり、ふらつく足取りでありながらも大地の下へと向かった。光輝は、大地の傍らに座り込み、その身体をゆすり、相棒の名を呼ぶ。

「大地・・・・・・大地・・・・・・」

 返事はない。光輝はゆっくりとその耳を大地の心臓に近づける。結果を知るのが恐ろしかった。彼は、そんなはずはないと、かぶりをふり、大地の心臓に耳を当てた。

 動いている。大地は生きている。

 リズミカルな音を立てながら、心臓が動いているのを確認した光輝は、続いて思い出したように策敵に集中した。先ほどの三人がいるとも限らない。最も、光輝が動き出した時点でなんらかの対応をしているだろうが。

「いない・・・・・・な」

 光輝は周辺の安全を確認すると、無線機で本部へと連絡する。

「こちら白亜光輝。深緑大地負傷のため、本部に帰投します」

通信回線を閉じた光輝は、カスタマーの輸送艦を呼び寄せる。レーダーでの索敵結果・・・・・・敵無所在もんだいなし。安全確認完了。流れていく文字が伝える結果に、光輝は安心した。光輝は、砦を回り込む形で撤退した。適切な、理性での対応は、彼らを無事、本部へ帰還することとなった。


 一方、そんな光輝とは正反対に、いまだに感情で戦っている男がいた。弟の仇を討つべく、復讐の炎を紅蓮へと燃え上がらせている、青水冷雅である。

 その冷雅の相手をしていた紅蓮は、先ほどでは考えられない動きをする冷雅に圧倒されていた。

「分からんだろう・・・・・・俺があんたの家族を殺したと?」

「何っ!?」

紅蓮は、その冷雅の言葉に一瞬衝撃を覚える。家族を、一瞬にして失ったあの日。手元にあった。決して崩れることのないと思われていた平和の光。それを崩したのが、今の目の前にいる男だと言うのか。

「俺は、あの戦争で家族を亡くした!! 河川を除いてな!」

「家族を・・・・・・!」

そのとき、紅蓮は、冷雅が自分と同じ境遇の者であることに気づいた。数多の死傷者を出した超能力戦争。その中に、紅蓮の家族、そして、冷雅の家族も含まれていたのである。

 だが、と紅蓮は心中、かぶりをふった。

 つまり彼は、憎しみで紅蓮の家族を屠り、弟を亡くした憎しみで紅蓮へと向かってくるのである。もし、冷雅が今こうして戦っている理由が、家族を殺されたための憎しみと復讐心であるならば。

 戦いの中、戦士として最も恥ずべきものである。

 感情に流され、その感情のままに全ての人間を屠っていく。感情のみでの戦いは、やがて自分すらも破壊してしまう。そう、自らの理性が破壊されることによって。

「だからこそ俺は! 戦争を起こしたピュアとエスパーを許す気はない!!」

 紅蓮は知った。彼の覚悟を。戦いを起こした元凶を叩く。ピュアサイコストと、エスパーを。それが、冷雅が戦う理由なのかもしれない。だが、それでも、殺した人間が自分と同じサイコストであることに変わりはない。

「そうさ、カスタマー創設の計画は、前大戦時より始動していたのだ!!」

 怒りと憎しみを乗せた冷雅の太刀が振り下ろされる。紅蓮は、左手に構えた剣でその太刀を受け止める。二つの剣の間で、火花が散る。冷雅がそのつばぜり合いを制し、紅蓮の体勢を崩す。冷雅は、もはや防ぎようのない紅蓮の首に、剣をめり込ませる。しかし、その太刀が紅蓮の首を跳ばすことはなかった。太刀を横薙ぎに振るった先に、紅蓮の姿はなくなっていたのである。冷雅が剣を前に突き出している間に、紅蓮は背後に出現し、その背中に、腕を伸ばして殴りつけた。

 そう、紅蓮は、乱州の能力の複製である、身体の能力を、首に太刀がめり込む瞬間に使ったのである。

 背後からの攻撃に対応が遅れた冷雅は、苛立ちに舌を打ちながらも、追撃に備え、太刀を両手に構える。紅蓮は、その間にも冷雅の視界に入らぬよう動き回り、冷雅の真横より、剣先を滑り込ませる。その攻撃は、冷雅の反応力により、浅い切り傷を冷雅の身体に刻みこんだだけであったが、確実なダメージにはなっていた。紅蓮は、その反応力に感嘆しながらも、追撃の手を緩めるような愚行は犯さなかった。頭上より紅蓮は剣を振り下ろす。冷雅は、やはり紅蓮の動きに反応し、太刀で紅蓮の剣を受け止める。

「お前の憎しみだけで、世界は変わらない!」

紅蓮は、つばぜり合いを捨てる。押し合っていた剣を、太刀から放すと、すぐさまその太刀を握っている冷雅の右手を切りつける。いきなり行われた攻撃は、冷雅の手より、その太刀を落とす結果となった。

「世界は、人類全ての手で変わるものだ!」

「世界は俺を見放した!」

「俺だって・・・・・・見放されているっ!!」

紅蓮は、冷雅の言葉をほぼそのまま返した。そうだ。自分は世界より見放されている。両親を無くし、能力は幼きころから特訓したものの報われることはなかった。そして、今目の前にいる少年に、自分にしか持てない物だと思っていたコピリスを盗まれた。だからこそ、世界は自分を見放している。だが、見放されたから、戦っているわけではない。

「あんたには、まだ魂波闘也が残っているだろうに!!」

「肉親など、俺にはもういない! お前のように!」

剣が無くなった冷雅は、よけることに精一杯になっていた。紅蓮は、尚も斬撃を繰り出す。その全てがかわされたものの、冷雅の動きに、紅蓮は完璧に対応していた。

「ならば何故お前は戦う!」

 冷雅が、紅蓮に対して愚問を投げかける。紅蓮は、その質問に率直に答えた。

「森羅万象の、超能力者となるためだ!!」


 目の前に、一人の少年が立っていた。親友であり、相棒であるはずの少年、波気乱州である。闘也は、視界がぼやけていることを自覚していた。目の前から、殴りかかってくる親友の姿が映る。ぼやける視界により、回避もままならぬ闘也は、その拳を直に食らった。体が半回転し、地面へと倒れる。闘也は、その攻撃により、目を覚ました。乱州との戦いは終わっていない。腕を剣にした乱州は、闘也の心臓目掛けて剣を振り下ろす。が、その腕を心臓に突き刺すところには至らなかった。

 闘也は、ソウルハンマーを心臓の前に突き出す。ハンマーにはじかれた腕のしびれに苛立っている乱州に、闘也はソウルハンマーを投げつける。隙のできた乱州を確認した闘也は、体勢を立て直し、乱州の攻撃に備え、ソウルツインソードを創り出す。乱州が、かぶりをふって我に返り、こちらへと突進してくる。

「まだだ・・・・・・まだ終わっていない!!」

横薙ぎに振るわれた剣は、闘也の衣服に傷を入れる程度にとどまった。闘也はそのことに気をとられるような愚行を犯すことは無く、すぐさま反撃に転じる。勢いよく振り下ろしたソウルツインソードは、乱州の剣のうち一本で防がれる。闘也は、そのつばぜり合いを続けることはなく、すぐに距離を取ると、ソウルツインソードを投げ捨てる。再び振り下ろされた乱州の剣を、背後に回りこむことで回避する。

闘也は、ソウルダブルランスを創り出す。両腕の脇に抱えられた二本の槍は、真っ直ぐに乱州へと向けられている。闘也は、すぐさま攻撃を開始し、ソウルダブルランスのうち、左腕に抱えた一本を突き出す。乱州は、その動きを見切り、僅かな隙間を作りながらも回避する。そのソウルランスを掴むと、乱州は闘也より引き抜く。闘也は、ソウルランス一本を使いまわし、乱州が奪ったソウルランスとぶつけ合った。それぞれの槍から、時折金属同士がぶつかることにより発生する火花が散り、誰の目に止まらぬうちに、その姿を消していった。闘也は、距離を置き、ソウルランスを投げ捨て、ソウルソードを構える。突きの構えである。乱州は、その攻撃の意図を察したらしく、闘也と同じように、ソウルランスを投げ捨て、腕を変形させて、剣を作りだす。闘也をまねるように、乱州は、突きの構えを取った。

 次で、決める。決着を。

 二人は、声に出さずとも、決着をつけることをその動作で決めていた。闘也は、つま先で地面を蹴りつけ、一気に乱州へと飛び込む。乱州も同様に、地面を勢いよく蹴り、闘也へと接近した。剣を互いに向け合った二人には、それぞれに、もはや迷いはなかった。

「はぁぁぁぁぁっ!!!!」

「てぇやぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 二人の雄叫びが、同時に響く。

 闘也は、それでも殺そうとはしない。心臓よりはるか下、わき腹よりも中央よりの部分をその剣の狙いにした。

 二人の剣が、それぞれの腹部へと入っていき、腰よりその剣先を見せ、貫いた。


 紅蓮と冷雅の戦いも、その頃終局を迎えようとしていた。

 紅蓮は、回避され続けているにもかかわらず、攻撃を続けている。冷雅の動きは極めて機敏であった。一瞬の隙を突き、背後より剣を振るっても、前方へ回避され、高速の能力を使い、敵をかく乱しても、さしたる結果は得られなかった。紅蓮は、またも攻撃を外す。紅蓮の剣さばきや、狙いは悪いものではない。しかし、感情を燃料としている敵の動きの方が、それに勝っただけの話なのである。

 正面より剣を横薙ぎに振るった紅蓮は、やはり敵の機敏さに苛立ちと感嘆を織り交ぜた舌打ちを繰り返していた。その苛立ちが隙となり、冷雅の蹴りが腹部へと直撃する。紅蓮は、目の前の怒り狂った少年を睨みつける。コピリスから剣の能力を抜き取り、かわりに両爪のパワーストーンをコピリスにはめ込む。

『パワーストーン――クロウ』

期間音声が紅蓮の鼓膜を刺激したころ、冷雅が眼前まで迫っていた。紅蓮は、冷雅が殴りかかろうと拳を引いた隙を見逃すことはなかった。たった今装着したばかりの両爪で、冷雅の腹部を貫く。その攻撃により、その拳を引いたまま前に突き出せなかった冷雅は、驚愕の表情を見せている。紅蓮は、両爪をそのまま真横に滑らせ、引き裂こうとした瞬間、冷雅の殺気が彼の体を硬直させた。

「ちっ・・・・・・」

舌打ちを小さく実行した紅蓮に、腹部に爪が突き刺さったままの冷雅の拳が顔面に鈍い衝撃を与えた。紅蓮は、その痛みに耐えながらも、自らを束縛するこの殺気を振り払おうとしていた。冷雅が、懐より、刃先の短い剣を取り出す。刃渡りは十センチ程度のナイフである。

 隠し玉・・・・・・!!

 紅蓮は、そのままであれば自分は心臓であれ首であれ、その意識ごと引き裂かれることが可能であることを知る。紅蓮は、そのナイフが繰り出される前に、爪を腹部より抜き取り、蹴りを冷雅に食らわせ、距離を取った。

「く・・・・・・青水冷雅、撤退する・・・・・・」

苦悶の声で冷雅が無線機へと告げる。その一言を言い終えぬうちに、冷雅は遥遠くへと飛び去っていった。


 あれからどれほどの時間が経ったのか、彼には分からなかった。突き立てられた剣が腹部を貫いた瞬間、意識が途切れた。自分が突き刺した相手も同様であろう。

 乱州は、血がいまだ少しずつ流れ出ている腹部を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。目の前に人影が写る。今までの物事が全てフラッシュバックする。一瞬、頭を強く抑えねばならぬほど強い頭痛が乱州を襲う。頭痛が治まったとき、乱州は、自分が突き刺した『親友』の姿を見た。

 俺が・・・・・・殺したのか?

 いくら記憶を失っていたとはいえ、自分は闘也を、親友を殺してしまったのか。相棒を。自分にとって、誰にも変えることのできぬ相棒を。

 乱州は、闘也の前に膝を屈した。膝を屈したままの体勢で、乱州は闘也の名を呼んだ。

「闘也・・・・・・闘也・・・・・・」

返事はない。乱州は、自分の耳を相棒の心臓に当てようとはしなかった。ただただ、自分が傷つけたことに苛立ち、自分がそのことになんのためらいもなかったことに心を痛めた。乱州の雄叫びが、空虚な戦場に響いた。誰も彼を慰めようとはしない。誰もいないから、それは当たり前であるが、もし仮に誰かがそうしても、乱州は雄叫びを上げ続けるか、邪険にその人を振り払っていただろう。

「・・・・・・す・・・・・・」

 雄叫びを上げている乱州の耳に、一つの声が聞こえた。乱州の雄叫びは、一瞬にして収まる。ほとんど動かない体から、声が聞こえる。

「んす・・・・・・乱・・・・・・州・・・・・・」

「――っ!!」

目の前の声に、完全に乱州は驚愕しいた。と同時に、彼は期待に心が満たされていくのを感じた。

 そうだ。闘也がこの程度で死ぬはずがない。自分が、ここまでされて死んでいないように。自分よりも強い闘也が、この程度で死んでいるはずがない。乱州は、指が僅かに動いたのを見逃さなかった。親友の、相棒の名を叫ぶ。

「闘也!! おい・・・・・・闘也!!」

 閉じ続けていたまぶたが、乱州の声に反応し、ゆっくりと動き始めた。

「乱州。記憶は・・・・・・」

かすれた声で、闘也は聞いてきた。思考回路がままならないせいなのかもしれない。現に自分は、こうしてここで、相棒の身を案じているのだから。

「戻った・・・・・・さっきの攻撃でな」

「よかった・・・・・・」

闘也は、ゆっくりと、体を起こそうとする。腹部の傷が影響しているのか、うまく立つことはできていない。乱州は、闘也の起床に手を貸した。闘也の目には、安堵と驚愕が混じっていた。そして、その目は、潤んでいた。闘也の瞳より、しずくが落ちていく。

「泣くなよ、お前が・・・・・・さ・・・・・・」

闘也の姿を見た乱州の涙腺は、すでに緩みきっていた。乱州は、その膝を屈した状態より、土下座の姿勢へと移り変わる。

「闘也・・・・・・本当に悪かった!!! 俺は、お前を――」

「気にするな」

乱州は、その一言に顔を上げる。闘也は、その顔に笑みを作っていた。

「俺だって、もう気にしてない」

「・・・・・・ありがとう」

二人の間で、再び笑いが取り戻された。

 ようやく、砦の制圧の第一歩である戦闘は終了したのであった。


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