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未来少年2nd  作者: 織間リオ
第五章【哀しき決戦】
27/49

26、激闘の後に

 エスパー諸島では、雷雲の隊長、出雲武の撃破と、残存勢力が少量であることより、撤退したと思われている。生き残ったエスパーは、それぞれが、燃え始めた各地の森林や住宅の消火作業へと動き始めた。

 沿岸のカスタムを偵察していた秋人、的射、由利は、そのエスパー諸島より撤退してくるカスタムの予測ルートを割り出すことに成功した。これにより、敵の本拠地の所在が明確となったのだ。つまり、三人の任務は、達成されたというのに等しいものであった。


 彼ら以外として、単体で行動していた紅蓮は、カスタマーのエリート集団『虹七色』の一人、青水河川の撃破に成功。その時、怒りのままに攻撃してくる物体が紅蓮の視界に入った。

「うぉぉぉぉっ!!!」

勢いよく繰り出された拳を、紅蓮は易々とかわす。拳の持ち主は、河川の兄、冷雅であった。その目には、怒りと悲しみが渦巻く瞳が映っていた。紅蓮は、その瞳の理由を察した。自分が河川を殺したからであるのは、誰が言うまでも無く明白であった。

「赤火紅蓮・・・・・・」

冷雅が、低い声で紅蓮の名を呼ぶ。紅蓮の目は、その声と瞳ではなく、すでに別のものへと移っている。紅蓮はちらと後ろを見やる。すでにバギー運転手であるリドガはカスタムを殲滅していて、エンジンをふかして、出発の時をいまかいまかと待っていた。

「貴様を・・・・・・殺す・・・・・・!!」

拳が紅蓮へと突っ込んでくる。が、紅蓮はその大振りな攻撃を見切り、その右腕が紅蓮の側方まで突き出された時、紅蓮はパワーストーンがついたままのコピリスをもぎ取る。紅蓮は動きが鈍い冷雅の背中を蹴り押すと、すぐさまバギーへと飛び乗った。

「リドガ!」

「あいよ!!」

威勢のいい返事と共に、バギーのエンジンは点火され、一気に森林地帯を走りぬけた。紅蓮も、当面の目的と、個人的な目的の両方を達成したのであった。

(冷雅・・・・・・返してもらうぞ)

心中で、紅蓮は呟いた。

 それから一週間ほどして、待ち合わせた紅蓮達は、敵の本拠地の正確な位置を、秋人ら三人から取得した。バギーは、五人乗るには十分な大きさである。紅蓮は補助席に、リドガの後ろには的射、その隣に闘也。さらにその後ろには由利が座り、その隣に秋人が腰を下ろしていた。

「あと百キロか・・・・・・」

ぼそりと紅蓮の後ろに座っていた闘也が呟いた。百キロ先には、カスタマーの本拠地がある。海中にあるというのが一番有力な情報ではあるが、そこへ辿りつくには、困難を極めるであろうことは、紅蓮は熟知していた。

 紅蓮は知りえないことではあったが、なぜ集合に一週間もの期間を有したかと言えば、闘也の当初の目的であった、戦力の増強のためである。数日間の交渉により、どうにか軍を手配することを約束されたらしい。

「・・・・・・あ・・・・・・あれは!」

秋人が身を乗り出してうろたえる。なんと、正面には巨大な鉄壁の砦が築かれていたのである。地平線にぽつりと見えたときには、山かと思っていたが、そうではなかった。全体が茶色がかった砦の各所には、数多のカスタムがうろうろしていた。数としては、軽く千人は超えているであろう。

 砦の先には、おそらく海があるはずである。カスタマーの本拠地が海中に沈んでいる海が。さしずめ、ここは最終防衛ラインと言ったところであろう。紅蓮は闘也に、ここから徒歩で接近するべきだと提案した。闘也も同じことを考えていたようで、それに同意した。

 全員が一人ずつ、リドガへと頭を下げる。闘也が頭を下げようとした時には、リドガはそれを拒んだ。

「わしごときに、頭を下げられては困りますよ」

戒めであり、それでいて冗談でもあるようにリドガは闘也に言った。闘也を先頭に、五人はバギーを後にし、すでに巨大な建造物と見受けられた砦へと歩き出した。


 バギー地点より数キロほど歩いた。すでに砦は見上げることでその存在が確かなものになるほど迫っていた。紅蓮の横で、闘也は巨大なブーメランを作り出す。両手で持っても尚、引きずっている状態である。由利は、風を起こし、ブーメランの軌道を作り出す。闘也は、周囲の四人に「下がってろ」と短く指示を出すと、自分はその場で回転を始めた。回転によってブーメランをより遠くに飛ばすためである。闘也の手からブーメランが放たれたとき、戦闘開始を告げる鐘が、紅蓮の中で確かに響いた。

「突撃する! 一気に突っ込め!」

五人はそれぞれに走り出す。的射や由利は、後方での支援となるため、そこまで接近はしないが、接近戦が中心である男三人は、先陣を切って、砦へと突っ込んだ。三人全員が、ムゲンを最初から発動した状態での作戦開始であった。

「二百くらいか」

前方に防衛陣として現れたカスタムの数を見て秋人は呟いた。闘也は、その数を聞いて苦い表情をした。この数で苦戦するからではない。その数だけ、人を傷つけるからこその表情だということを、紅蓮も秋人も知っていた。

目前に迫ってきたカスタムを前に、闘也はソウルツインソードを作り出す。二本の短剣を握り締めた闘也は、先陣を切っている三人の中でさらに先陣を切って敵軍の中へと突っ込む。引き続いて秋人も能力によって一気に敵軍へと突っ込んでいく。紅蓮は、左手の新たなパワーストーンを握り締める。懐かしくも、新鮮な感じがコピリスを握る左手に蘇る。紅蓮は、パワーストーンをコピリスへとセットし、ふたを閉じる。

「赤火紅蓮、戦闘を開始する」

『パワーストーン――クロウ』

懐かしい金属音声が、紅蓮の戦闘開始の宣言に続いて聞こえた。


 はるか上空にて、紅蓮、闘也、秋人の戦闘を見下す者達がいた。彼らもまた、カスタマーエリート集団『虹七色』のメンバーである。

 一人は、紫葉陽花という女性である。スラリとした体型

と、陽光を受けてよりいっそう際立つ金髪が特徴である。

 その傍らで紅蓮達の戦闘を見ているのは、銀城龍我王である。二人を含め、青水冷雅、白亜光輝、深緑大地、そして、波気乱州が現在の虹七色の全メンバーである。先日、残る一人のメンバー、青水河川が撃破されたことにより、カスタマー本部では速急に新たなメンバーを探していた。

「陽花、よく見ておけ」

「・・・・・・はい」

彼らの眼下では、火花を散らせながらの戦闘が繰り広げられていた。


 紅蓮は、展開した爪で、次々とカスタムを切り刻んでいく。闘也は、心臓部は決して狙わず、必ず脚部と武装しか狙うことはなかった。秋人は、もともと殺傷能力がないために、次々と殴り倒していった。戦闘開始前からも感じてはいたが、やはり数が多い。三人で向かっていってもこれしか数を減らせていないとなると、敵はかなりの強者であることは容易に察することができた。

「ちぃっ・・・・・・!」

紅蓮は両爪のパワーストーンをコピフへとしまいこむと、別のパワーストーンを懐より取り出す。紅蓮は、すぐさまそれをコピリスにはめ込むと、一気に敵陣へと再突進していく。

『パワーストーン――ソード』

紅蓮の左手に、剣がしっかりと握られる。紅蓮は一気に敵陣へともぐりこむと、敵を一振りでなぎ払う。体勢を崩したカスタムも中にはいた。倒されたうちの一人のカスタムがうめき声を上げながら倒れた。

「くそぉ、強化型のこの俺がぁぁっ!!」

紅蓮はその言葉に引っかかりを感じた。元々強化されたような超能力者であるカスタムがさらに強化され、戦場に投入される。あってはならない事実なのかもしれないが、それでもカスタマーはそれを難なく実行に移してきたのである。紅蓮は歯を喰いしばると、向かい来るカスタムを一閃した。

「これでっ!!」

紅蓮は残った十数人のカスタムを前に、コピリスのボタンを押す。コピリスが、そのボタンに反応して、音声を響かせる。

『フィニッシュアタック――ソード』

真空の刃となった剣が、カスタム達を両断した。この戦闘で、紅蓮は何人殺めたかは覚えていなかった。

 第一防衛陣の沈黙。それは、この巨大要塞攻略の第一歩であった。戦闘開始時、闘也の放った巨大ブーメランは、その空を薙ぎ、一直線に砦へと突き進んだ。風により、速度と軌道能力の上がったブーメランは、真横にずらりとならんだ砲台計二十基を破壊せしめた。その後、間髪入れずに防衛陣を落とされたのだ。敵は動揺を隠せずにはいられないはずである。

 紅蓮は、正面より高速で迫ってくる二つの光を見つけた。

 一つは、命令を成そうとする忠誠心が伝わってくる銀色の光。

 もう一つは、復讐に燃える青い光であった。


 半ば、狂人と化していた。

 弟を殺され、自分の一番嫌いな、自分の物を奪われるという失敗。その二つが、彼を怒りのエネルギーにより突き動かしていた。青い怒りの光の中で冷雅は亡き者となった河川と、復讐の対象である紅蓮を、脳内に交互に映し出していた。いや、映し出されていたという方が正しいのかもしれない。

 俺が奪うのは、物だけではない。

「青水冷雅、目標を奪い取る!!!」

 対象である命も、だ。奪取スナッチの能力を持つ者の得物は、その命を奪い取るために、刃はその鋭さを増し、鎚はより堅牢になる。

 冷雅は、腰の鞘より、一本の長刀を抜き取った。


 ムゲンを引き起こした状態で、銀色の光を放つサイコストといえば、闘也の中に浮かぶ人物は二人としていなかった。

「乱州・・・・・・」

闘也はその者の名を呼ぶ。聞こえていないのは分かっている。だが、呼ばずにはいられなかった。銀色の光が確かに近づいてきていた。

「俺が・・・・・・倒す」

殺したくはない。今まで共に戦ってきた戦友であり、親友であるから。

 だが、仇は討たねばならない。同胞エスパー達の仇を。

 乱州が唯一残された、罪を償う方法、それは一つしかない。

 また、共に戦うこと。敵同士ではなく、今度は、味方として。

『闘也、こっちに敵が! 虹七色だと思う!!』

無線機を通して、的射の焦りの声が聞こえてくる。闘也は、秋人へと指示を下す。

「秋人、援護に回れ」

「でも、お前達は・・・・・・」

躊躇っている秋人に向かって、闘也は教えるように言った。

「これは、俺の・・・・・・俺達の戦いだ」

「・・・・・・分かった。死ぬなよ」

秋人が返答するまでに数瞬の時を有したが、その言葉だけを言い残すと、秋人は的射達の方へと走り去っていった。

 自分には自分の、紅蓮には紅蓮の、秋人達には、秋人達の戦い方がある。

 ならば、自分が今成すべきことは一つ。任務遂行などという堅苦しいものではない。私怨すら含まれているかもしれない。だが、それでもやらなければならない。戦いを起こしてはならない。戦いを止めなければならないのだ。

 だから。

「魂波闘也、目標を討つ」

「赤火紅蓮、戦闘を開始する」


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