22、それぞれの道へ
「我々はここに、第二次超能力戦争の開戦を表する!!」
力強い声でそう発表したのは、カスタムサイコスト組織、『カスタマー』司令官、黒田闇亜である。闇亜の口ぶりに、ノーマルの意見は大きく左右されることは言うまでもないはずである。戦いを止める。闘也達がそう誓い、本当にそれが成し遂げることができるよう、闘也はある一つの策を打ち出した。
「現状では、カスタムサイコストの方が、ピュアよりもはるかに多い。となれば、戦力の補充は必須だ」
淡々とした口調で、闘也は、彼と共に戦う、紅蓮、的射、秋人、由利の四人へと説明をしていた。
「だから俺は、一度エスパー諸島に戻る」
闘也の説明、というよりは、策を聞いていた四人は、それに対し、同意の答えを返した。そして、闘也はさらに続けた。
「紅蓮は、エスパーのバギーへと向かってくれ」
「了解」
紅蓮は、闘也の言葉に対して、一見すれば素っ気ないものではあったが、中身は決意に満ちた返答をした。
「的射、秋人、由利は、一度沖合いに向かい、カスタマーを偵察してほしい」
その策に対し、三人は承諾の答えを返した。
話を終え、立ち上がった闘也の背後から、数十人のカスタムが飛び掛った。不意打ちではある。だが、百にも満たぬカスタムの力は極めて微弱であった。
「作戦、開始だ!」
「了解!!」
それぞれがそれぞれの返答を返し、戦闘が開始される。闘也はそのカスタムの中を流れるようにすり抜ける。強引に速さで逃げるものではないこの回避に、カスタム達は追いつくことができなかった。
「頼むぞ!」
闘也は、振り返って銃弾を数発撃ちだす。その全ては、カスタムに命中し、そのまま闘也はムゲンを引き起こし、大空へと飛び立っていった。
紅蓮は、地を連続で素早く蹴りながら、闘也の示したポイントへとその体を運んでいた。すでに遠くなったが、後方では的射、秋人、由利の三人が、現れたカスタムとの戦闘を続けている。紅蓮の障害物になるものは、何一つとしてなかった。
(闘也さんからの命令・・・・・・必ず果たしてみせる)
紅蓮は、決意も新たに、地を蹴り、さらに先へと進んでいく。いつしか、このように走っていた。誰にも構うことなく、一人で走っていた。闘也は、戦力補充のためにエスパー諸島に渡った。乱州を取り戻すとも言った。だが、紅蓮にはそれよりも大事なことがあった。
コピリスの奪還。
奪取した青水冷雅より、コピリスを奪還する。同じように、コピリスをエスパー諸島より奪取した自分が言えるようなことではないのかもしれない。
山のふもとを一気に下り、岩肌の地面から、やがて地面は黄緑の短い若草が一面に生い茂る草原へと変わっていった。サッサッと音がかきたてながら紅蓮は尚も走り続けた。
的射、由利との戦闘地点から、歩いてのペースで二時間かかっていた。あの歩く速度を時速五キロとしたら、今はその六倍、三十キロである。このままのペースを維持すれば、二十分でバギー地点に到着できる。物事は早いほうがいい。だが、その目的は今の紅蓮には、関係なかった。闘也の命令を果たすため。そして、コピリスを再びこの腕に装着すること。戦いを止めることなど、ただ走り続けている紅蓮には記憶の隅で零れ落ちそうになっていたほどであった。
闇亜の演説を傍らで聞いていた深緑大地と白亜光輝は、その演説終了後、演説前に任されていた任務への出発を闇亜に告げ、二人は出発していた。
「闇亜様、本当に世界を変えるつもりなんだな」
光輝は、隣に座って小説を読んでいた大地にそれとなく呟いた。
「我々はそのために今こうして向かっているのだろう?」
人によれば、その言葉は苛立ちを覚えさせるものであるが、そのような言動にはなれている光輝には、苛立ちなど微塵にもなかった。
「行くぞ、光輝。出撃の時間だ」
「ああ」
大地につられて光輝も立ち上がる。光輝は拳を大地へと向ける。大地は、音一つ立てずに、光輝の拳に自分の拳を当てた。光輝は通信のモニターを開き、本部を呼び出す。
「白亜光輝、敵戦力を削ぎ落とす!」
光輝はそういうと、正面の出撃ハッチからその身を投げ出した。白い雲に覆われた空に、大地は本当に僅かな時間ではあるが見入った。大地は読んでいた本を後ろへ投げ捨てる。先ほどまで二人が座っていた椅子の間にあったテーブルの上に、本は綺麗に乗った。大地は開きっぱなしのモニターに告げた。
「深緑大地、目標を蹂躙する」
二人の戦士は、今、サイコスト協会香川支部の上空で出撃した。ピュアの作り出す世界を断絶するため。それにより乱れた秩序を、自分達カスタムが正すために。
(大地!! 目標ポイントを発見した!!)
(了解。破壊する)
テレパシーで伝えてきた光輝の言葉に対し、大地もテレパシーで返す。バズーカを肩に乗せた状態で作り出し、そのバズーカに取り付けられているスコープを覗き込む。目標ポイントであるサイコスト協会香川支部を、スコープを覗きながらロックオンする。落ち行く中で、しっかりと標準を合わせる。スコープの自動標準決定装置のレーダーが緑から赤に変わり、発射準備が整う。すでにバズーカのチャージも完了している。大地は声を張り上げ、バズーカのトリガーを引き絞った。
「当たれぇっ!!」
大地のバズーカの方向から、巨大な弾丸が放たれた。
眼下の爆発がバズーカにより起こったものであることは、光輝は熟知していた。放たれた弾丸は、一直線に突き進んでいった。放たれたのは一発ではあったが、それでも十分な威力を持っていた。少なくとも、敵の拠点のひとつを破壊する程度は。
「敵が来たか・・・・・・」
異変に気づいたのであろうピュアサイコストがサイコスト協会が出てくる。光輝は、その中でこちらへと飛翔してくる敵を捉えた。
おそらく、飛んできたピュアの能力は、飛行能力とその速さを劇的に向上させる飛躍か、翼を作り出すことである程度の飛行能力と強力な旋回能力を持った翼、それでもなければ、飛行能力は低くとも、攻撃方法が多彩である羽根であろう。こちらに飛翔してきたのは六人。うち、三人は巨大な翼を展開してこちらへと向かってきている。巨大な翼は、飛躍か翼の能力であるが、速度的に見て、その全員が翼の方の能力であることを確信した。
(来るぞ! 光輝!)
(分かってる!)
自分よりも高い場所から落ちている大地から、テレパシーによる警告が聞こえる。それに対してぶっきらぼうに答えを返すと、放たれてきた銃弾を防御の能力で受け止める。堅牢となった光輝の体に、ピュア達の放ってきた銃弾はほぼ全てはじき返された。徐々に近づいてきていたピュアのうちの一人が、黒煙を上げて地上へと落ち戻っていく。後方から大地がバズーカを撃ち放ったのである。大地は、チャージもそこそこに、次々とバズーカを発射する。六発放ったうち、四発はピュアのいる場所をかすめることなく地上へと落下していき、それ以外の一発は、ピュアの発生させたバリア・シールドと呼ばれる電磁展開型戦闘盾に防がれる。しかし、残った一発はその盾を構えそこねた一人に命中し、さきほど同様、黒煙を上げて地上へと落下した。
バリア・シールドにより、大地のバズーカを防いだピュアが、多数の針のような羽根をこちらに飛ばしてきた。先ほどの予測通り、このピュアは羽根の能力を有していた。光輝は、地面に対し垂直に近い体勢から、平行に近い体勢に変更する。それと対称的に、大地は地面に対しほぼ平行となる体勢をつくり、光輝の真後ろについた。光輝は防御の能力を展開し、その羽根の攻撃を自身の体を持って受け止めて防ぐ。
「行くぞ、光輝!!」
「フォーメーション、X98!!」
空中からの奇襲時に使うフォーメーションである。大地は、光輝の後ろでバズーカをチャージする。大地は、光輝の肩にバズーカの一部を乗せ、チャージの完了したバズーカを三発撃ち出す。そのうちの一発は誰に当たることもなく地上へと落ちていく。しかし、これは牽制であることは、フォーメーション的にすでに熟知していた。それにつられ、敵の砲撃の甘さにより、油断したところへと撃ちこまれる弾丸を当てるのである。その作戦とフォーメーションは見事に成功し、二人のピュアが黒煙を上げながら共に地上へと落下していく。残った二人がこちらへと接近してくる。近接戦を仕掛けるつもりであろう。しかし、これこそがこの作戦の締めとなるものである。大地が少しばかり光輝から距離を取る。近づいてきた二人を、光輝はガッチリと捕らえ、腕で締め上げる。身動きの取れなくなった二人のピュアに、正確に狙いを定めた大地のバズーカが当たる。その二人も、やはり黒煙を上げて地上へと落ちていく。
「地上部隊を片付けるぞ!」
光輝は上方でバズーカのスコープから目を離した大地へと叫ぶ。大地はうなずき、一気に地上へと突っ込んだ。
地上へと降り立った大地と光輝は、周辺に現れたピュアサイコストに、軽く笑みをこぼした。数としては三十ほどである。大地は、バズーカの調整を開始する。一人のピュアが銃弾を放ってくるが、光輝が大地の前に立ちふさがり、銃弾をはじき返す。今度は、その真逆の方角から銃弾が放たれるも、やはり光輝が立ちふさがり、銃弾をはね返す。三方向から同時に銃弾が放たれるが、光輝は今度は左右だけではなく、前後の動きすら利用してその銃弾をはじき返す。大地は、そんな光輝に囁くように報告する。
「変形、及びチャージ完了」
「了解っ!!」
光輝の言葉が返ってくると、砲口の大きくなったバズーカを、光輝のいない方角へと向ける。
「ビーム微粒子集束砲、発射っ!!」
光り輝く極太の粒子砲がバズーカより溢れんばかりに飛び出す。一瞬にして飲み込んでいくその極太ビームを自分もろとも回転する。光輝は、その動きに合わせて、軽々と大地の真上へと飛び上がる。光輝のいた部分にも、大地の粒子砲が走る。一回転したところで、大地の粒子砲は止まった。戦場は、その一発によって沈黙した。
「帰るぞ、光輝。任務は達成した」
「ああ。今日も疲れた」
「そんなことでは、決戦の時に後れをとるぞ」
「分かってるって!」
何気ない会話を交わしながらも、二人は再び上空へと飛び去って行った。