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未来少年2nd  作者: 織間リオ
第四章【ムゲンの激突】
22/49

21、新たな力

 山を横にして、フライブースターパックで、一つの戦闘エリアに向かっている男がいた。いや、成人の男性というには、その様相も実年齢もあまりにかけ離れていて、少年と言ったほうが、的確である。カスタマー本部から、戦闘エリアの少し前まで、カスタマー輸送艦、『CSR―01 アオミ』で揺られながら進み、戦闘区域に進入すると同時に輸送艦から飛び出す。自分は兄と違って、任務には全うする。いや、結果的には、兄である冷雅も、任務は達成しているが、自分は兄とは違う。血の繋がりがあるからといって、誰しも正確が同じなわけではない。

 少年――青水河川は、岩陰からの銃弾と、その反対側から投げられている飛翔物を見て、河川は無線機に指を押し当て、本部に回線を開いた。

「こちら河川。目標との戦闘を試みる」

河川は、フライブースターパックに両手で掴む。テレパシーで、フライブースターパックの速度を上げる。加速をしていくフライブースターパックの上で、河川は、改めてこの任務の重要性を思い出す。

 今回、河川に与えられた任務は、魂波闘也、風見秋人、赤火紅蓮と交戦予定にある、遠藤的射、白鐘由利を支援し、最悪でも共に撤退をすることだ。今回の作戦時間は、闇亜の発表が始まる、十四時ちょうどまでの三十分間。河川としては、敵との交戦に十分間をかけ、その間に二人は少しずつ下がらせる。作戦終了五分前には、撤退しなければならない。

「ブースターバズーカ、燃料圧縮粒子チャージ完了」

加速を緩めることなく、フライブースターパックのバズーカの砲口を向ける。河川は、発射のトリガーを引き絞った。

「発射っ!!」

ブースターバズーカの光が、その砲口から迸った。


 上空から光り輝くものが、燃料圧縮粒子のバズーカだと分かった紅蓮は、自分に向かってきたその圧縮粒子バズーカを後ろに飛び退いてかわす。バズーカの轟音に注意を向けた闘也と秋人も、その着弾点から、紅蓮と同じ動きでかわした。少年が、フライブースターパックから飛び降りてきて、的射達の前へと降り立った。

「名乗ってくれないか? おそらくはカスタマーだとは思うが」

闘也はそう言いつつも、少年へと銃口を向ける。少年は、そのすらっとした体にほどよくついた筋肉の胴体とは裏腹に、顔はまだ幼さが残るものであった。

「カスタマー、虹七色。青水河川」

「!! 冷雅の兄弟か!」

紅蓮は河川の名字、青水というものから、冷雅との関係を尋ねた。

「兄をご存知で?」

河川は自分が冷雅の弟であることを、その一言で自白した。どうやら、そのことに関して隠すつもりはないらしい。

「その兄に伝えて欲しい」

河川は微動だにしない。それは紅蓮も同じではあるが、紅蓮の方は、怒りのこもったものであった。

「早いとこ、コピリスを返せとな」

「この戦闘を、生きて返れたら、そうさせてもらいます」

その口調すら幼いものである河川を、紅蓮は睨みつける。

「お二人さん」

河川は、的射と由利にその顔を向け、口を開く。

「間もなく『あれ』の時間です。あと二十分したら撤退するので、よろしくお願いします」

「・・・・・・了解」

その問いかけに、的射は了承の返事を返す。河川が紅蓮へと向き直ったのを確認した紅蓮は、地を蹴り、一気に河川へと接近していった。紅蓮はコピフからパワーストーンを取り出し、河川へと横薙ぎに振るう。が、ブレのない動きで河川はそれをバックステップでかわす。紅蓮はかわされたのを確認すると、すぐに再び地を蹴り、河川へと急迫する。河川は、紅蓮の横をすれ違ってかわす。が、完璧にはかわせず、パワーストーンの先端部分が、彼の右腕をかすめる。

「いつっ・・・・・・!!」

河川は、右腕の危険を感じ取る。河川は、黒い球体を両手を胸の前にかざして作り出す。黒い三彗星の使うブラックホールではない。はっきりしているのは、あれは少なからずこちらへと飛んでくることであった。

「ぐはぁっ!」

球体が振り返った紅蓮に直撃する。小さいせいか、威力はさほど大きくなく、僅かに姿勢をよろめかせる程度であった。


 河川は、誰にも見えぬよう、だが確かに、深呼吸を一回した。兄、冷雅の持ち帰ってきたコピーングリスバンと呼ばれる装置は、複製の能力の効果を向上させる効果が確認されている。とりあえずは、冷雅が使用者ということに決定し、冷雅がコピリスを所有している。冷雅は喜んでいる表情は見せなかったが、四六時中コピリスを肌身離さず持っていることから、少なくとも嫌悪していることはないであろう。自分が気に入ってるのかを聞いても、怒鳴り返されるだけであるし、そっとしておくことを河川は決め込んでいた。

 本部からの情報では、目の前の少年、赤火紅蓮の所有する能力は複製のみ。しかも、複製の能力は、コピリスがなければ名前だけのものらしい。紅蓮がムゲンを発動させたことにより、新たな力、両爪を習得したのは、河川からでも容易に想像はついた

「オール・・・・・・森羅万象の能力?」

「勘がいいな」

「知識力があると言って欲しいですね」

紅蓮の賞賛の言葉に対して、河川はいたずらっぽく言葉を返す。その一言が彼の感情を逆なでしたらしく、彼は河川へと、表情から想像はできぬもので声を荒げる。

「関係ない。俺はお前を倒す」

「殺さないんですか?」

「状況によっては」

二人の間で、今にも戦闘が再開されようとしていた。口調だけでは、戦いが始まる気配は微塵もないが、その言葉は、まさに戦いを象徴するのには十分すぎるものであった。

「殺すっ!!」

紅蓮は河川に向かって突進してくる。両手の指の形で展開された金属の爪は、河川に、頭上から遅いかかる。

「殺らせるかっ!」

河川は、紅蓮の爪を、左手で受け止める。金属の爪は、河川の腕を両断するまではいかずとも、何かを持つほど力はこもらぬ腕となっていた。河川は、心中で紅蓮へと叫ぶ。

(コピリスが奪われ、悲しいか! 赤火紅蓮!!)

(一度の挫折・・・・・・経験して何が悪い!!)

河川はわざとテレパシーで紅蓮へと伝える。彼の口からは、相手を罵倒する言葉は出てこない。見た目からでも、それはすぐに察することはできる。しかし、彼は現在十三歳である。超能力戦争時は、僅か十一歳という若さで戦線に身を投じた少年であったのだ。戦いを経験して、まるっきり性格が変わらないという人間がいたら、会ってみたいとすら、河川は望んだほどである。十一歳だ。その年齢は、超能力戦争の英雄と言われた魂波闘也達よりも若いものである。戦場でも、数百人のエスパーを殺めてきた。戦いの極意とまではいかなくとも、ある程度の戦術は、応用まで身につけているのだ。

「はぁっ!!」

河川は、両手から黒い球体を作り出し、それを紅蓮へと向ける。

 河川の能力、外傷ダメージは、敵の攻撃を受け、そのダメージが蓄積されることで真価を発揮するものである。河川の身体にダメージが蓄積されるほど、両手の内より放たれる球体は、より大きく、より強いものとなる。世間一般で簡単に表記するのならば、捨て身だ。

「甘い!!」

紅蓮は咄嗟の判断で両爪を展開させ、その腕を交差させる形で黒い攻撃球体を斬る。紅蓮を避けるように、球体は分裂し、あえなく外れた。


 河川が戦闘に参加したことにより、文字通り三対三の勝負となったため、闘也と秋人は、各一人ずつを担当することとなった。闘也は、由利へと突撃する。それに了承した秋人は、的射へとその体を向けた。

 火炎の球体を飛ばしてくる由利は、超能力戦争の時よりも、衰えるどころか、より強力な攻撃を放ってくるようになった。闘也は一喝しながらムゲンを発動させる。瞬発的な動きでその火炎球をかわし、さらに由利へと接近する。由利の放った雷を避けるのとほぼ同時に、由利の顔面に、闘也は強力な蹴りを入れる。その重みに耐え切れずに、由利は数メートルの距離を吹き飛ばされる。

「やめろ! 由利!」

しかし、闘也の戦闘停止の呼びかけに、記憶を縮小された由利が答えるはずもなく、今度は地面に持っている杖を当て、地割れを起こさせる。闘也は地面に危険であることを察知し、地割れが闘也の足元を直撃するのに呼応するように、闘也は空中へとその身を投げ出す。体勢を整え、空中から接近しようと構えた闘也に、今度は風を巻き上げ、近づけまいとしている。風は無色透明、見分けるのは困難を極める。闘也は、一度距離を置き、ブーメランを作り出し、自分と由利との間に投げ込む。ブーメランは風にあおられ、渦を巻いている風に乗った。

「そんなものが、効くわけがないわ!!」

しかし、こうなることこそが闘也の狙いであった。風の動きを、ブーメランの動きから推測するためである。風はおそらく一つであろう。闘也は、その風が通っている部分の左右に、それぞれブーメランを投げ込む。由利は、そのうちの一つは、雷により、撃ち落としたが、残る一つは杖で受け止めざるを得なかった。闘也の手より放たれた力強いブーメランは、杖をはじき、由利にこれまでにない隙を作った。

「そこぉっ!!」

闘也は、瞬間的と言っても過言ではない速さで、由利の後ろへと回り込む。回りこむ間に作り出したハンマーで、由利を上空高くへと打ち上げる。闘也は、一気に急上昇していく由利を追いかける。由利は抵抗して雷を数発放ったが、すでに闘也のものとなっていた戦いの流れは、その雷を闘也に当てることを許さなかった。

「目を覚ませ! 由利ィィィッ!!!」

ハンマーをツインソウルヌンチャクへと切り替える。勢いよく振り下ろされた二本のヌンチャクに、腰が強打する。そのまま、由利は地上へと落ちていった。


 闘也が由利の放ってきた火炎球をかわし、戦闘が始まった頃、秋人もまた、的射との戦闘を開始していた。的射が銃弾を放つ余裕がないまま、秋人は一瞬にして的射へと接近した。そして、的射の目の前でその足を止め、頬に一発の拳をめり込ませる。なんとか踏ん張りを見せた的射は、銃から水を強力噴射した。それを、自らの頭上へと掲げる。

「的射ちゃん、止めとけって!」

「軽々しく私の名を呼ぶな!!」

的射は、右手に握られた銃を、秋人へと振り下ろす。一方の秋人は、その振り下ろされた銃を「あらよっと」などと余裕の回避をした。的射がその銃を振り下ろしている間に背後へと回りこんだ秋人は、その銃を蹴り落とす。そして、的射の襟を掴むと、宙へとほうり投げる。

「女の子を殴るのは、俺の主義を裏切るが・・・・・・」

秋人は、宙に浮いた的射へと一瞬にして追いつくと、両手を組んで拳を作り、それを頭上から的射へと振り下ろした。

「今回だけは、許すぜ、俺!!」

由利が闘也のツインソウルヌンチャクで叩き落されたのと、ほぼ時を同じくして、的射も地面に叩きつけられた。

 闘也も秋人も、二人の記憶が戻ることを信じて。


 河川は、この戦況の不利を察し、撤退することを決めた。時間も残り少ない。的射、由利も戦える状態ではないし、連れ戻そうにも、三対一という絶対的な数的不利と、超能力戦争の英雄が二人もいることを知っているため、河川は撤退することを決めた。

「戦えてよかったよ。赤火紅蓮さん」

小ばかにしたような口調で河川は紅蓮へと話しかける。彼は、彼の持つもう一つの能力、回復ヒーリングの能力によって各所の傷を癒すと、素早くフライブースターパックに飛び乗り、その場を立ち去った。

 カスタマー虹七色専用輸送艦『CSR―01 アオミ』の中で、モニターをじっと河川は見つめた。そこに、カスタマー司令官、黒田闇亜の姿が映る。

(ついに始まったか・・・・・・)

自動操縦にて、一時その進路を本部へと取っていたアオミの中で、周囲に全くの警戒を示さぬまま、河川はその映像を見ていた。

『私は、カスタムサイコストで組織された『カスタマー』と言うものである。我々は、いずれの日本、いや、世界を支配しようと企むピュアサイコスト達に対し、我々は徹底抗戦をここに表明したいと思い、全放送を占拠し、この映像を流しています』

「来るぞ・・・・・・」

河川は、ごくりとつばを飲み込んだ。


 その映像は、闘也達にもしっかりと確認することができた。闘也の端末に、緊急通信が入ったのだ。相手は正規軍特殊任務専門部隊『雷雲』の隊長、出雲 武であった。すぐに闘也は映像回線を開いた。

 四、五十代の男が映像に映る。秋人、紅蓮もその映像をしっかりと見ていた。

『この戦いは、我々の自由を勝ち取り、自らの正義を貫き、今後の世界に、安寧をもたらすためのものです!!』

「何だよ、この映像・・・・・・!」

秋人がその映像を見て、僅かに怒りの声を上げた。闘也も口にこそ出さないが、その顔は怒りに歪んでいた。

『我々はここに、第二次超能力戦争の、開戦を表する!!!』

開戦――その言葉は、闘也の胸に深く突き刺さるものであった。ようやく止めた、サイコストとエスパーの超能力戦争。ようやく平和を取り戻すことができたと思っていた。

 しかし、それは違っていた。一度戦いが起これば、それはまたいずれ、必ず起こることとなる。心のどこかでは分かっていた。その前兆として、『サイコスト狩り』も見て、実際にその襲撃にあった。結局、世界はまた、戦うばかりのものへと戻ってしまった。自分は、あのとき戦争を止めておきながら、再発を防ぐことができなかった。

 苦い思いで、闇亜の演説の最後の言葉を聞いた闘也に、柔らかな声が頭上から降り注ぐ。

「闘也・・・・・・」

闘也ははっとして、その声の方を向く。的射であった。

「また、止めようよ。戦いを。それは、前にも闘也がしたことでしょ」

その後ろには、由利の姿もあった。その表情から、二人には攻撃の意志が感じられなかった。二人は、記憶を取り戻したのである。闘也は、ゆっくりと立ち上がり、的射を優しく包むように抱きしめた。的射はその頬を赤らめる。

「ありがとう。俺はまた、戦争という言葉に閉じ込められるところだった」

闘也は、的射に優しく語り掛ける。ゆっくりと的射を離し、その両肩にそれぞれ手を乗せる。

「そのために、まずは乱州を取り戻す。あいつが、戦いを起こす側にはなっちゃいけないからな」

僅かに険しい表情を的射に見せ、闘也はその口を開く。闘也の言葉が途切れると、的射も決意して、大きくうなずいた。

「うん」

 超能力戦争の英雄達、そして、新たに加わった赤火紅蓮。彼らは、新たな戦い、『第二次超能力戦争』に身を投じることを決意した。


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