20、望まぬ戦い、望む戦い
紅蓮、闘也、秋人の三人は、炎天から南西を目指して進んでいた。無論、ただ闇雲に歩いているわけではない。
数時間前、乱州、黒い三彗星との戦闘からは二時間ほど経ったころだった。エスパー島に、カスタマーが襲撃したとの報告があった。侵入者は、虹七色の二人。名は、白亜光輝、深緑大地。エスパー正規軍特殊任務専門部隊、通称『雷雲』の三人が、防衛のためにその二人との戦闘を行ったらしいが、劣勢のまま進んでいたらしい。途中で向こうはなぜか撤退をし、三人には軽傷という負け印がつけられた。
と、それともう一つ。遠方偵察をしていたエルガ・ハットより、「カスタマーの本部、悪くとも支部か隠れ家の位置を特定」という報せが闘也に入った。場所は、四国、本州間に位置する海峡。その奥底の海底に、カスタマーの兵士輸送艦が向かっていたという。紅蓮達は、その情報を元にして、炎天より南西に位置するそのポイントへと向かうことにした。途中にエスパー軍の小型バギーがあるというので、まずはそのポイントにということで話は決まった。
「闘也さん」
紅蓮は、自分の前を歩いている闘也に向かって、その名を呼んだ。感情を含まない冷ややかな口調ではあったが、忠誠心は、その言葉には溢れるほど入っていた。
「目的地のポイントには、このペースで何時間かかりますか?」
エスパー軍より提供された小型バギーまでの残り時間を尋ねる。闘也はそれを聞くと、端末を操作し、残り時間を算出した。
「このペースなら、四時か・・・・・・」
四時間でつくと言いかけた闘也に、戦慄が走った。闘也は咄嗟に横方向に飛び出す。闘也のいたところに、銃弾が通り過ぎた。背景に山が聳え立っている。ここはそのふもとである。銃弾は地面の岩に当たると、失速し、岩の強度に負けて弾き飛ばされた。闘也は周囲に注意を向ける。方向、速度からして、相手はそこまで遠くにはいないはずだ。
「そこか!」
闘也は再び放たれた銃弾をかわす。そして、三日月が角張ったような武器を取り出す。持ち手のグリップ以外は鋭い刃である。
「行け! ブーメラン!!」
闘也が、超能力戦争終結後、新たに習得した武器の一つ、それがこのブーメランである。敵の位置が特定しづらいとき、あるいはおおまかにしか分からぬ時には重宝するものである。また、グリップ部分にはカメラがついている。闘也がテレパシーを送り、撮影タイミングを投げながらも設定し、飛んでいったころに、戦闘態勢をとるのである。
「外れてほしいな、俺の予感・・・・・・」
秋人は小さくそう呟くと、闘也の位置を狙い撃ってくる方角を見つめた。
「見つけた・・・・・・」
闘也は脳内へと伝わってくる情報を整理する。やはり、という当感と、まさかという驚愕が入り混じっていた。
「的射・・・・・・」
秋人は、その一言に目を見開く。秋人は自分に銃弾が飛んできたのを察知し、滑るように左方へとその身を跳ばす。宙を切り裂いた銃弾は、やはり岩に当たり、弾き飛ばされた。
「・・・・・・! これは・・・・・・」
小さく呟いた闘也の言葉は、明らかに秋人の顔に驚愕と焦りの表情を露にさせていた。
「属性に気をつけろ」
闘也は、ブーメランをさらに作り出す。作りながらもそのブーメランを投げることを忘れることなく、次々と投げつける。彼方遠方へと飛んでいくブーメランのうちの二つが、狙撃ポイントからの放電によって撃ち落とされる。その放電に当たることなく突き進んでいたブーメランの一つが、やはり狙撃ポイントからの攻撃で落ちる。その攻撃は、火炎放射。炎と雷。やはり、ブーメランからの情報は確かなものであった。
闘也達に攻撃してきたのは、超能力戦争の英雄、遠藤的射、白鐘由利!!
「敵が来る。戦闘準備はいいな?」
言われずとも、紅蓮と秋人の戦闘準備は完了している。
一分と経たぬ内に、狙撃ポイントから二人の少女が姿を現す。一人は、ショートヘアで、髪は茶色がかっている。パッチリとした目が特徴的である。だが、その可憐な顔とは裏腹に、その手には狙撃銃――スナイパーライフルが握られている。その隣にいる少女は、すらっとした体つきで、大人のような雰囲気すら漂わせている。髪は肩までおろされている。銃を持っている少女より僅かに鋭い目つきからさえ、大人の印象が受けられた。
二人の少女は、雷による防御膜で身を固めながらこちらへと向かってくる。闘也は、ソードを構えて待ち構えていた。二組の距離が五十メートルほどになった時、闘也は二人の少女に言った。
「的射! 由利! お前達もPカスタムとなったのか!?」
しかし、二人はその質問に答える気はさらさらないようである。代わりの答えが、ショートヘアの少女が口を開いた。
「狙い撃ちにする!」
的射は、スナイパーライフルにかかっているセーフティを解除する。向こうはいつでもこちらに撃ちこむことができる。
「自然の力、侮らないほうがよろしくて?」
その言動も、やはり大人っぽいな――と紅蓮は心中で思う。だが、紅蓮は自分が戦士であることを自覚している。目の前にいるのは敵である。闘也を撃ち、味方の秋人を撃ち、いずれは自分にもその砲弾を浴びせてくるであろう。元より闘也に手を出した時点で、闘也の指示以前から、紅蓮の胸は決まっていた。
「赤火紅蓮、戦闘を開始する」
紅蓮の言葉は、闘也にも苦い表情を作り出させるを得なかった。