1、少年の強襲
少年は走っていた。ただ求める物のために、たった一人で、敵地とも言える場所に。
『シンニュウシャ、ハッケン。シンニュウシャ、ハッケン』
コンピュータの音声が彼のいる建物の壁や床に反響しながら鳴り響く。少年は持っているハンドガンの引き金を引き、防犯カメラを破壊していく。それでも、少年の足が止まることはない。
「Dブロック、突破」
少年は一言そう呟く。誰に言ったわけでもない。自分自身に、そう認識させるためだ。この先には、通常の兵士もうようよしている。先ほど以上に、気を引き締めて進まなければならない。
少年は壁によりかかり、T字に分かれた通路から、敵が来ていないかを確認する。こちらに走ってくる男達の姿が見える。少年はハンドガンをしまい、肩に掛けていたアサルトライフルに弾を詰め込み、装填する。安全装置――セーフティを解除する。そして、タイミングを見計らい、向かい来る男達を、アサルトライフルで撃ち始めた。
銃声が聞こえたのと、味方が何人か倒れたのに気づいた彼らは、一斉に少年へと銃を向けた。
「敵だ!撃て撃てぇっ!」
何十発もの弾丸が少年に向かって飛び込んでくる。少年はそれを壁に隠れてやり過ごす。そして、再び体を乗り出し、残っている男達を撃ち倒した。
「Eブロック、突破」
次のFブロックに、例の物がある。少年は、ただひたすら、そのために命を懸けて走り続けていたのだ。
銀色で固められた鉄の通路を、少年はいまだに駆け抜けていた。どこにも錆付いている部分はなく、輝きを放っているようにも見えたのは、この工場が出来て間もないことを思わせるのには十分な判断材料だった。
しばらくして、巨大な扉の前までたどり着く。扉の前で、敵がいないかどうかを、銃を構えながら確認する。周辺に人はいない。扉にはセキュリティがかかっている。彼は、先ほどまで倒してきた兵達の中に、研究員がいることを知っていた。そのため、彼はその研究員の指紋を取ってきていた。少年は、それを利用してセキュリティを難なくパスする。
巨大な扉が開く。少年はバイザーを装着する。赤外線レーザーが張り巡らされている部屋の中央に目的の物があった。
彼は、本物のスパイさながらに赤外線が作動していない部分を通り抜け、目的の物までたどり着く。目の前に輝くそれは、まさしく、少年が求め続けた物だった。
「コピーングリスバン・・・・・・」
彼はその物の名は呟くように口に出した。全体を白いカラーリングで統一されたコピーングリスバンは、彼にとっては、ダイヤモンドよりも価値のあるものだ。そして、それに付属するように、六角形の石が置かれていた。透明なその石もまた、彼には必要な物であり、コピーングリスバンにも、必要不可欠な物だ。
彼はしばし、それらに見とれたあと、それを持って、再び赤外線を潜り抜け、部屋から飛び出した。少年は走る。元来た道を走り、その場所から立ち去ろうとする。
少年は走り続ける。だが、それを拒むように数人の男達が取り囲む。
「ソルジャーエスパーか」
男達はそれぞれが剣を持ち、構えていた。少年は周囲を警戒しながらコピーングリスバンを右腕に装着した。
「コピリスの力、試させてもらう」
少年はそう呟くと、左手に石を持ち、自らに見せ付けるようにその石を前に構えた。少年は、勢いよくその石をコピーングリスバン――略称コピリス――にはめ込んだ。そして、開いていたふたのようなものを閉める。それに反応してコピリスが起動する。
『パワーストーン――コピー』
コピリスに内蔵されている音声が、彼には歓迎の声のように聞こえた。彼は全身に複製の力を身に纏う。
そう、彼の能力は複製。しかし、物を増やすのではない。他の超能力を自らの物にする力なのだ。そして、少年の奪い取ったコピリスは、その力は無限に引き出すための物。
「これより戦闘を開始する」
少年のいたって冷静な言葉に怒りを覚えたのか、男達は少年に向かって走り出す。数は五。少年は一人の男の顔面を勢いよく強打する。そして、そのまま逃げるように五人の後ろに回りこむ。
すると、彼の握られた拳の中で、何かが生成されていく。拳を中から押し出すように生成されたのは、先ほどはめた石と同じ形状である、コピリスにはめる、パワーストーンと呼ばれるものだ。少年は、閉じられたコピリスのふたを開ける。そして、そのパワーストーンを二つ目の穴にはめ込む。
『パワーストーン――ソード』
彼の目の前に、一本の剣が現れる。その剣は、彼らが使っている剣と同じ剣だ。そう、これこそが複製の力。相手の能力を全てこちらに複製し、吸収される。精神的な能力であろうと、実体のある能力でも。少年はその剣を振りかざし、男達へと向かっていく。
「うおりゃぁぁ!!」
男達はそれぞれに雄叫びを上げ、少年に切りかかる。だが、少年は無言のうちにそれらの全てを流れるようにかわし、すれ違いざまに切り刻む。
五人は、一気に劣勢となった。数で押せば勝てると思っていたが、そうではなかった。少年は、慈悲など見せない。見せる必要も、与える必要もないから。
少年は足に装着された排出装置、コピーフットバン、略してコピフから、一つの石を取り出す。もちろん、それはパワーストーンだが、先ほどまでのとは、少しばかり性能は違う。少年は、その石を、コピリスのところまで持ってくる。今度は先ほどの二つが入っている場所ではなく、その反対側のところにはめ込む。音声が再び発せられる。
『タイプツール――サンダー』
それにあわせて剣が雷を帯びる。少年は、コピリスについているボタンを押した。それに反応して、コピリスの音声が発せられる。
『フィニッシュアタック――サンダーソード』
雷を帯びた剣を、少年はゆっくりと後ろに引く。そして、それを間に勢いよく突き出す。そこから、雷を帯びた刃が半透明なまま、彼らを貫いた。
「戦闘・・・・・・終了」
少年はちいさくそう呟くと、一気に元来た道を走り、工場を抜け出す。そして、工場の裏に広がっている海のすぐ横につけてあった白いグライダーに飛び乗る。そして、助走をつけ、ゆっくりとエスパー島の海を飛んでいく。
少年――赤火紅蓮は、日本へと帰っていった。