14、戦いの記憶
その夜、紅蓮は泣き続けた。人目を気にしている様子は全くない。ただただ、自分を責め、悲観的な部分だけをあらわにしていた。
俺は、コピリスがあってこそだったのか・・・・・・?
俺は、コピリスに依存しすぎていたのか・・・・・・?
俺は、コピリスがなけれ弱いというのか・・・・・・?
俺は・・・・・・俺は・・・・・・。
「俺は・・・・・・俺はァァァァァァッ!!!!」
静寂であるはずの夜の闇の中に、少年の悲痛な叫びが響き渡った。
自分の能力を知ったとき、紅蓮はその能力を自在に使えるようにするため、日々訓練に努めた。小学校入学直前に言われたことであった。唯一の超能力者であった闘也を目の前に、神経を集中させ、その能力をそのまま使えるようにしようとした。しかし、それは全くといっていいほど成長の証はなかった。
台風が直撃していようが雷が鳴り響いていようが吹雪であろうがお構い無しに日々訓練を続けた。それを続けている間に、一年が過ぎ、二年が過ぎ、気づいた頃には、小学校を卒業していた。彼は、卒業式を境にその心を完璧に閉ざした。引越しをすることとなり、紅蓮は別の中学に転入することとなった。
その後、中学に入学してからは、ほとんど誰とも話さず過ごした。サイコストなんて無論いなかった。帰宅すれば休むことなく訓練を続けた。勉強など、する気もなかった。する必要等、どこにもなかった。授業中も、遠くにいる闘也のことしか、考えることはなかった。指名されたときは、その問題を即座に理解し、正確な答えを僅か三秒ではじき出していた。
そんな訓練漬けの生活をし続け、十月になっていた。
十月。超能力戦争の開戦。
それを機に、紅蓮は戦闘に参加しようと試みた。しかし、エスパーの能力は十分な情報がない上、紅蓮の能力はほとんど役に立たないものであった。
戦う力がない紅蓮は、家族と共に非難した。途中でサイコスト軍に、サイコストだからと引き止められたが、事情を説明し、通してもらっていた。
しかし、それは長く続かなかった。サイコスト軍は、「銃で戦闘に参加してほしい」と頼まれた。紅蓮は、親の了承を得るのに苦労はしたが、なんとか軍に入ることができた。銃を両手に抱え、入隊宣言をし、とあるサイコストの隊に入った。
緑色の軍服を身に纏い、胸にはサイコストとローマ字で書かれた刺繍が施されている。紅蓮は、隊長に深く礼をする。隊長は、紅蓮の姿を見て少し微笑んだ。
「お前、結構できそうだな。俺は隊長の木下正人。よろしくな」
差し出された手を払いはしなかったが、握ることもなかった。
「赤火紅蓮。よろしくお願いします」
それだけを言い、少し頭を下げると、すぐにその場から離れていった。上司にさえこの態度であったが、その戦闘技術は正人と同等のものであった。支部長から、隊長をやらないかと誘われたが、やる気など微塵にもなかったため、その誘いを断った。
数多のエスパー達と戦いを続けてきた。数で押されることもあれば、戦術で押されることもあり、窮地に追い込まれたこともしばしあった。紅蓮自身、そのような状況に陥ったのは、一度や二度ではない。だが、紅蓮は隊の中では、その能力によってか、それなりの成果を挙げていた。
そんな中である一人のサイコストが、隊の助っ人として現れた。年は、紅蓮と同じ、あるいはさほど離れていないと見える。バランスのとれた体型に、よく動きそうな口が特徴的である。紅蓮は、直接彼と話すこともなければ、機にかけることもなかった。
「波気乱州君だ。俺の見る限り、かなりの腕の持ち主だ」
当時は気にかけてはいなかったが、紅蓮は現在に至ってそれを思い出した。波気乱州。炎天中央高校襲撃前のとき、彼からさしのべられた友情の握手を拒否した。対立姿勢をとった。無論、現在もそれは変わらない。
彼は紅蓮が予想していた以上の戦果を挙げた。といっても、彼が自分達の隊と共に戦闘をしたのは一回だけではあったが。
そして、それからも幾度もの戦いを潜り抜け、超能力戦争はようやくその幕を閉じることとなった。
超能力戦争が終了後、久々に我が家へと紅蓮は帰った。超能力戦争が終わる寸前だったが、両親は先に帰ったと避難所の人は言っていた。
紅蓮は、ゆっくりと居間のドアを開ける。各所に血が見えた。紅蓮は全身に悪寒を感じた。その瞬間は動きを止めたが、動き出した途端、止まっていた時には想像もつかないほどの速さで進んでいた。目の前には、血まみれで倒れた両親の姿があった。母は何かに手を伸ばし、父はその肩に手を添えている。
写真には、紅蓮と両親が写っていた。今の姿からは到底考えられない笑みを浮かべている。紅蓮だけが、その写真の中で笑ってはいない。ただまっすぐにレンズを見ていた。紅蓮はその写真を手に取り、一目惚れでもしたかのようにじっと見つめた。だが、その写真の中の紅蓮は、見つめる紅蓮とは正反対に、真っ直ぐに紅蓮を睨みつけていた。
お前が死なせたんだ。お前が両親を見捨てたんだ。
写真の中の紅蓮が、本当は聞こえないはずなのに聞こえてくる。写真には全くの動きはないし、周りには自分と両親以外には誰一人いなかった。
これは、自分自身の声・・・・・・なのか・・・・・・。
「くそ・・・・・・」
紅蓮は、自らの体を振るわせる。自分自身へと怒り、エスパーへの怒り、写真の中の自分へと怒り、そして、自分自身の能力への怒り。
「くそォォォォォッ!!!」
彼は、この日初めて、自らの感情で泣いた。
コピリスを奪われた今日と同じように。