11、思い出す戦い
秋人は目をゆっくりと開けた。ここはどこだろうか。自分は何をしていたのか、まだよく把握できていない。今の秋人そのものさえも把握できていなかった。秋人を覗き込む顔が見える。秋人はゆっくりと体を起こす。
「秋人」
いつだかも聞いたことのある声が自分を呼ぶ。目をしっかりと開く。目の前に闘也がいた。秋人はその体を立たせる。目の前には炎天の住宅街の一部がしっかりと見えていた。
「闘也・・・・・・俺は・・・・・・」
秋人は戸惑いを見せる。今まで自分は何をしていたのだろうか。最後に自分が見たのは、サイコストオーラを持った者達が、学校に攻め込んできて、それから・・・・・・。
「サイコスト狩り」
闘也が呟く。その言葉の意味を秋人は理解しきれていない。サイコスト狩り・・・・・・自分は狩られたのか・・・・・・。サイコスト、つまりは味方に。
「やつらはカスタムだ」
「カスタム・・・・・・だと・・・・・・?」
秋人は顔を歪ませる。カスタムといえば、二年前の超能力戦争の時に作られた人工的なサイコストだ。そのカスタムが、同胞達を自分のような殺人鬼に変えているというのか・・・・・・。
「いつから気を失っていた?」
闘也の方が聞いてきた。こちらが聞きたいくらいだが、とりあえずは答えた。
「四月の・・・・・・十七日だったか・・・・・・そんとき、カスタムが攻めてきて・・・・・・」
秋人は、脳の片隅に置かれている記憶から情報を引き出した。今度は闘也が顔を歪ませ、誰にともなく呟いた。
「こっちと同じ・・・・・・」
「中央もあったのか・・・・・・!!」
まるで威嚇でもするかのように、秋人は一歩、闘也に向かって踏み出した。闘也の方は、詰め寄られたにも関わらず、一歩として後ろには下がらない。
「おそらくは、全国で行われている・・・・・・」
「そんな・・・・・・じゃあ、乱州達は・・・・・・!」
秋人は闘也の肩を掴んだ。闘也は、その顔を沈ませ、呟いた。
「学校はボロボロ、サイコストは皆連れてかれた」
「そんな・・・・・・!」
秋人は闘也の肩から自分の手を離す。沈み込んだ二人は、残りの仲間のことを考えていた。
今、彼らはどうしているのだろうか。もし、自分と同じようにされているとしたら、彼ら全員と戦わなければならない。そうなれば、誰か一人だとしても、殺してしまう危険性がある。幸い、自分はまともな殺傷武器みたいなのはないし、殺されはしなかったから、よかったのかもしれない。だが、残り三人は全員が殺傷能力を持っている。
乱州は、巨大な拳を作り出せば潰し殺せるし、その腕を剣にだって変形できる。場合によっては、無敵な体に変えられるかもしれない。
由利も、火で焼かれ、水で溺れさせ、雷で痺れさせ、風で呼吸をできなくし、地で体を打ちつけられる。
的射ならば、射撃の能力でいつ狙撃されてもおかしくない。近距離でも、水を噴出した水剣で襲い掛かってくる。
だが、自分を含めて多くのサイコストがさらわれたというのに、なぜ闘也だけが連れ去られることなく残ったのだろうか。闘也のサイコストとしての能力は恐ろしい。向こうにしてみれば一番欲しい獲物であるはずだ。闘也を見つけられないわけもない。
「闘也さんっ!!」
今度は聞きなれない声が聞こえてきた。闘也はもちろん、秋人もその声の方を見た。
「カスタムです・・・・・・!」
すでに付近には、軽く百はいるであろうカスタムサイコストが迫っていた。秋人は、軽く地面を蹴るように滑らせる。
「仲間に手出しさせてくれたお返しさせてもらうぜ!」
「ああ!」
闘也と秋人は身構えた。
紅蓮の声に応じた闘也と秋人が身構えたのを見ると、紅蓮はコピフからパワーストーンを取り出した。肩の辺りまで持っていき、半回転させると、勢いよくコピリスへと突っ込み、ふたを閉じた。
『パワーストーン――コピー』
その音声が聞こえたのを確認すると、紅蓮はカスタムを睨みつけ、誰にいうわけでもなく言い放った。
「赤火紅蓮。反乱兵、カスタムサイコストに対して、戦闘を開始する!」
紅蓮はそれを言い終わると一気に敵陣へと地を蹴って走り出した。自分は、反乱兵鎮圧部隊だ。もう容赦はしない。
闘也は小型の剣を二本作り出し、走り出す。秋人は、紅蓮や闘也よりも先に、カスタムを殴り始めていた。
紅蓮もすぐにカスタムまで接近する。カスタムが剣を横振りして斬り付けてくる。紅蓮はしゃがみこんでそれを回避し、そのしゃがんだ反動で飛び上がり、そのカスタムの頭を殴りつけた。その場に倒れこんだカスタムの後ろから、さらにカスタムが迫る。
「紅蓮!」
闘也が剣を銃へと切り替え、鉛の弾丸をカスタムへと撃ち出す。この距離なだけあって、狙いは正確で、カスタムの腹部を直撃していた。
腹を押さえているカスタムを左手の拳で払うように殴りつける。横方向に倒れたカスタムに目を向けることもなく、紅蓮は目の前のカスタムに蹴りを入れた。
紅蓮は蹴りの反動を使い、少し後ろに下がると、コピフから剣のパワーストーンを取り出す。紅蓮はそのパワーストーンをすぐにコピリスへとはめ込む。コピリスから、すでに聞きなれた音声が聞こえる。
『パワーストーン――ソード』
その音声が静まると、紅蓮の前に実体剣が現れる。紅蓮はそれを左手で少し横暴に掴み、目の前のカスタムへと再接近する。姿勢を低くし、滑るように接近し、カスタム達の足を膝下から切り落とす。数としては四人だ。その瞳に一切の慈悲はない。
バランスを崩して倒れたカスタム達にやはり目を向けることもなく、次なる敵を斬り付ける。腕が斬り落ちる。紅蓮は全く止まることはない。自分は任務を遂行するのみ。感情を持つ必要はないし、持ったとして使い道はない。他の人はどうなのかは知らないが、自分では本当に使い道は分からなかった。
「てやぁぁぁっ!!」
紅蓮は目の前の敵に体当たりし、そのまま一気にその周辺にいたカスタムを横振りして切り裂いた。彼の動きに反応してか、剣が少しばかり伸びる。切り裂かれた者の中には、そのまま息を引き取った者だっているだろう。だが、紅蓮は止まることなく、カスタムを斬り続けた。
同じだ。
二年前と同じだ。
あのときと違うといえば、エスパーがカスタムになったことだけだろう。
二年前、超能力戦争の開戦より、エスパー軍は数万、いや数十万のエスパーで構成されていた。エスパー達の数は日本にいた数ではおそらくは守りきれなかったのかもしれない。
その中で、エスパーの殲滅を確かなものにした。斬り、殴り、潰し、撃ち、エスパー達を殺し続けてきた。そのときは、自分が同胞であるとは知らずに。
おそらく、エスパーの兵士達も同じだっただろう。目の前で同胞を殺す者もまた、同胞であることに。
これでは、サイコストの数は激減してしまう・・・・・・!!
降伏しか、彼らを救う方法はない。だが、それを成すためだからと、犠牲を出すのはよくない。大量殺人を犯せば、カスタム達は恨みを持ち、さらなる猛攻を加えてくる。しかし、だからといって一人も殺さずに戦ったとして、相手がありがとうございますと降伏することもないだろう。自分達が馬鹿にされたと勘違いし、カスタムを治療して再び戦線投入してきてもおかしくはない。
戦うしか道はない。でも、だからといって、人を殺すだけが、人と人との戦いではないはずだ。
闘也が右腕から右足にかけてカスタムを斬りおとす。そこから止まることなく、流れるように隣のカスタムの両足を切断する。そして、その二つの攻撃によってしゃがみこんだ闘也は、右足で地面を蹴り、正面のカスタムを斬り違った。腹部に斬撃の後を刻まれるものもいれば、ちょうど足と腹部の境目を斬られた者もいた。
「戦うのをやめろ! 死にたいのか!!」
その言葉が癪に障ったのか、カスタム達は先ほどよりも激しい攻撃を行う。斬撃の中を斬りながらすれ違う。ようやくカスタムの人ごみがなくなった。カスタム達の後ろに回ったのだ。闘也は一本の剣を握りなおそうと、軽く上に放り投げ、右手で取ろうとした。
取ろうとしたのだ。
刹那、闘也の剣が消えた。いや、剣自体はしっかり見えている。すぐに周辺を見渡す。そこにいたのは、一人の少年である。右手にきつく握り締められた剣を、闘也はしばしの間見つめる。この一瞬で奪い取るということは、秋人のような速度系の能力か、あるいは・・・・・・。
「なかなかの剣だ。想像から作られるだけあって、素材もいいし、なりより鋭い」
彼の評価はどれも良評価だが、それは、自分のものだからであろう。闘也はもう一本自分の剣を作り出し、目の前の少年に問うた。
「誰だ。お前」
「俺は青水冷雅。カスタム達の軍『カスタマー』の『虹七色』に所属しているイケメン君だ」
目の前の少年の自己紹介で――自称イケメン君であることを除いて――この戦いの裏が少しだけ見えたような気がした。