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未来少年2nd  作者: 織間リオ
第二章【純粋と改造】
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10、戦いの黒幕

 炎天からはかなりの距離である場所に、それはあった。ここは、大体四国のあたりである。なぜ大体四国なのか。ここは、本州と四国の間に建設された海中施設だったからだ。

「魂波闘也以外に、やっかいなピュアが現れたな」

一人の男が、部下が送ってきた映像を眺める。そのやっかいなピュアとは、紅蓮のことである。無論彼らは、その少年の名が紅蓮であることは知らない。

「こいつの腕についているのはなんだ?」

男は、紅蓮の腕についている白い不思議な物体の正体を側近に問い詰めた。側近はあらかじめその質問が来るのを分かっていたかのように、手元の資料からその答えが載っているページを開き、読み始めた。

「コピーングリスバン。Mエスパー島にて開発されましたが、この少年によって強奪。パワーストーンと呼ばれる石によって、様々な能力を使うことが可能なようです」

映像の中で少年が、コピリスにパワーストーンをはめ込んでいる。その石をはめた瞬間、少年は姿を消した。いや、実際に消えたわけではない。高速の能力によって、見えないほどに速いのだ。

「青水はどこにいる?」

「現在、炎天に向かっています。現在待機中ですので、、今からでも命令できますが・・・・・・」

「ああ、分かった。命令は俺からしておく」

側近の言葉を途中でさえぎり、男は返事をする。映像を止めると、側近にコーヒーを求めた。口で言わずとも、その手の動きによって指示を出す。側近は、やはりその動きを理解しているようで、「かしこまりました」と頭を下げると、男の部屋を後にした。

 部屋には、男一人となった。男は、キーボードをすばやく叩くと、映像を呼び出す。映像には、ぐっすりと眠っている少年の姿があった。男は少年の名を呼ぶ。

「青水」

呼んでは見たが、返事は愚か、全くの反応を見せなかった。男は少しばかり苛立ちを含んだ声で再び少年の名を呼ぶ。

「青水・・・・・・!」

それでも、尚、反応がないまま寝顔を映像にさらけだしている少年に堪忍袋がはちきれたようで、男は叫んだ。

「青水冷雅!!」

「はひぃぃっ!!」

さすがにその叫びが耳に響いたのか、少年は飛び起きて返事をした。しかし、そんなみっともない返事をした後に、その男の姿を映像に見つけると、すかさず敬礼した。

「はっ!」

「はっ! じゃない! 何回呼んだと思ってるんだ!」

「えーと・・・・・・三回ですか?」

「五回だ!」

男はわざと嘘をついた。逆に言えば、冷雅の答えは全く当たっているのだが、男はあえてそのことについては黙っていた。そうして呼ぶ回数を多くすることで、これからの意識を高める必要があるからだ。それを言えば、三回でも十分駄目なことはダメなのだが。

「まさか。黒田様は必ず少し間を空けるじゃないですか。映像開かれてから、まだ二十秒しか経ってません。とても五回は呼べませんよ」

冷雅の言葉に「ちっ・・・・・・」と言葉を漏らし、舌打ちする。黒田と呼ばれた男は舌打ちした顔の面影を消し去り、真顔になって青水に言った。

「では、本題に入る。お前は今、炎天に向かっているそうだな」

黒田は青水の答えを待つ。無論、その答えはすぐに返ってくる。

「はい。炎天で何かしろと?」

「とある少年が腕にはめているコピーングリスバンを強奪してこい」

黒田は、青水に命令を下す。青水は短く返答すると、映像を切った。黒田はゆっくりと椅子に腰を下ろした。手元にある小さな写真には、自分と、その自分によく似た少年がいた。

超能力戦争にも参加し、不良からは一応足を洗ったようだが、カスタムになったことに関しては問題だった。


 『サイコスト狩り』の特徴上、カスタムは全員がこれに関与しなければならない。黒田と暗志は、超能力戦争の開戦以来、連絡が取れていない。なぜなら、彼は四国に単身赴任していたからだ。その途中、超能力戦争が起こったのだ。当たり前のことではあるが、もちろん、炎天に戻る手段など一つとしてない。戦争中だ。空から飛行機で向かえば撃ち落とされるし、電車に乗ろうも、兵隊のサイコストばかり。狙われてもおかしくはない。徒歩でいこうにも、距離が遠すぎる上に、満足な食料調達もできないのだ。餓死してしまっては元も子もなかったのだ。

 超能力戦争が始まり、四ヶ月が経とうとしていた。開戦の理由が知りたいのもあり、彼はサイコスト協会へと足を運んだ。地下に作られたサイコスト協会では、人だかりができていた。その人だかりのほとんどは男。そして、その中の三分の二以上が、体のゴツい大男と呼ぶのにふさわしい者達だった。そう、そこで彼は出会ってしまった。

 改造超能力者――カスタムサイコストという存在と。

 その瞬間、彼の中にふつふつと思いが湧き上がってきた。その思い、というよりは、感情であろう。その感情は。怒り。

 なぜ戦争を起こしたのか。関係ない自分達を巻き込んで、何が楽しい。確かに、戦っている超能力者達の中には必死になって戦っている者達もいる。将来教科書に載るかもしれないほど英雄的な存在も現れるだろう。だが、それでも、その陰で苦しんでいる人達がいるのだ。彼らがそのことを熟知し、考えてくれていても、戦争をしていることに変わりはない。

 そして、中には、そんな戦争を楽しんでいるやつもいるはずなのだ・・・・・・!

 戦いを楽しむことになんの意味があるというのか。戦いに身を投じれば、殴り殴られ、蹴り蹴られ、撃ち撃たれ、斬り斬られ、死なせ死に、殺し殺される。そんなものを楽しむことがおかしい。自分の無力さを嫌悪する。もし自分に力があれば、そんなやつらも、エスパーも全てを倒していたい。いや、倒していたはずだ。

 戦いを終わらせたい。これは、平和を望む者全ての願いだ。だが、おさまったところで、再び新たな戦いが始まっていく。戦いが始まっているわけではないが、前大戦時の名残として、エスパーの反乱兵が沸きだしている。

 全ての戦いの根源は、サイコストにある。

 サイコストがいなければ、超能力戦争も起きなかった。反乱兵も無論、沸きあがることはなかった。超能力戦争だって、エスパーがサイコストに対して行った戦争だ。一般市民のことを考えもしていなかった。


 黒田の前に、コーヒーが置かれる。砂糖が少し多めに入っているコーヒーである。彼が自ら指示した味どおりに、側近は作って持ってきた。

「ユル」

「なんでしょう、闇亜様」

側近は今日初めて、闇亜の名を呼ぶ。黒田闇亜。それが彼の名だった。親がなぜこの名前をつけたのかは分からなかった。

「エスパーの動向が知りたい。偵察部隊を出すよう指示しろ」

「承知しました」

側近――ユルは、深々と頭を下げると、背を向け、闇亜の部屋を後にした。


 日本より東、つまりは太平洋上の島のある一室で、数人の男達が頭を悩ませていた。ここは、エスパー諸島である。その中のLエスパー島に位置する最高議会で、数人の男達が頭を抱えていたのだ。

 Lエスパー島は、Mエスパー島よりも高位のエスパー達が住む島である。ここの議会で決められたことは、各島主と相談の後、各島々へと報告がまわっていく。今回の議題は、もちろん、コピリスが奪取されたことに関してだ。

「この事態をどう対処しますか?矢川議長」

矢川博雪やがわ ひろゆき。エスパー最高議会議長。後ろに長く髪が伸びていて、後ろで結ばれている。眼鏡の中の細い眼光が、手元の資料に滑る様に走っていく。

 主犯、サイコスト赤火紅蓮。副犯なし。内部からの情報の漏れ、なし。インターネット上での検索結果、該当なし。目的、コピーングリスバンの強奪。概要、Mエスパー島にて開発されていた能力複製装置、コピーングリスバン。四月二日、強奪事件発生。負傷者、六十三人。うち、死亡確定人数が二十五人。四肢のいずれかの切断被害者、十人以上。エスパー諸島憲法により、判決、極刑、よくて終身刑。

「そいつは今どこにいる?」

博雪は周りにいた男達に訊ねる。彼らからは意外な言葉が返ってきた。

「闘也様がついているそうです」

博雪は少しばかり目を見開く。といっても、元々鋭い、細い目つきのため、近くにいない男達はそのことに気づいてはいない。

「分かった。闘也様の独断で、赤火紅蓮の判決を決めてもらおう」

博雪はホチキスで止められた資料を表紙まで戻す。席を立ち上がると、歩きながら彼らに言った。

「以上が結論だ。解散」

「はっ・・・・・・」

それに引き続いて議員の男達が次々と席を後にしていった。博雪は議長室の椅子に腰を下ろすと、念力作動型情報処理機を取り出す。これは、一般的には、サイコパソコンと言われている。従来のパソコンと違い、念力で動かすため、電気を全く使わない。ノーマルでは使いようがないのだが、サイコストやエスパーにとっては、軽い念力を送る程度ならば、どんな弱い者だとしても、休憩時間を挟まずに五時間は送り続けられる。

 サイコパソコンで赤火紅蓮の情報を探り出す。特別に全エスパー、サイコストの閲覧が可能であるページへとリンクすることができる。これができるのは、サイコスト、エスパー含め、数人しかいない。博雪が知っている限りでは、自分、闘也、S、M、Lエスパー島主、サイコストのお偉いさん方。名前は忘れた。

 出てきた検索結果には、博雪は思わず声を出した。

「な・・・・・・」

いや、そんなはずはない。この情報場の管轄外など・・・・・・。

「ない・・・・・・だと・・・・・・?」

検索結果に、赤火紅蓮の情報は一つとしてなかった。その後も数十分調べ続けては見たが、全く見つかることはなかった。まさか、自らの検索サーチの能力にもかからないなど・・・・・・。

「くっ・・・・・・何故・・・・・・」

彼はその目に悲観と憤怒を浮かべながら、サイコパソコンをシャットダウンさせた。


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