5話
王妃が亡くなってからも、王女は王のために手紙を書き続けました。力が及ばず王妃を救えなかったことを謝り、王が気落ちしないよう励ましの言葉を書きつづりました。
面と向かって会うことは出来ません。王妃を失ったばかりで喪に服している王に今面会することは、王の名誉を傷つける行為にしかならないからです。
王がまだ王子出会った頃の日々を思いだし、王女はじっと手紙を見つめました。以前は王の隣に座る日を夢見て、ペンをとったものです。あの頃よりも今のほうが、王を思う気持ちが膨らんでいることに王女は気づいていました。
毎日、ただひたすらに王のことを思って手紙を書きました。そばにおいてほしいという気持ちより、最大の悲しみから王を救うことができなかった事実がペンを追い立てました。
時折返ってくる手紙には生まれた娘の様子がかかれています。娘は白雪と名付けられ、城の者に愛され幸せに暮らしているとのことでした。王妃の遺言にあったのだそうで、その名にふさわしい美姫だと書かれていました。
薄っぺらい紙の上ですくすくと成長する白雪の姿に、王女も喜びを抱きました。娘だけでも救えたことで王も少なからず救われているように思いました。
王妃が亡くなってから1年が過ぎ、王女の元へ送られてくる求婚の手紙も尽きた頃のことです。隣国の王が、王女へ面会を求めてきました。王女は戸惑いながらも王を自国へ招きました。王は会うなりにこういいました。
「王女よ、どうか私の元へ嫁いで白雪の母となってくれないか」
突然のことに驚いた王女は、返事を待ってもらい部屋へ舞い戻りました。確かに王女の胸は、期待と喜びに弾んでいましたが不安もありました。
王妃が亡くなってたった1年です。国民に愛され、城の者にも敬われた彼女に自分が取って代われるでしょうか。彼女はただでさえ、世界一美しい女性だったというのに。
王女は鏡に尋ねました。
「鏡よ鏡、私を幸せにしてくれるのはあのお方?」
「ええ、そうです。王女様、あなたを幸せに出来るのは隣国の王ただ一人!」
答えを聞いて、王女は再び謁見の間へ戻ります。その足取りは軽く、自然に笑みがうかびました。今考えれば不安よりも数段喜びの方が勝っています。鏡の同意が無くても王の元へいく決心をつけられたのかもしれないと王女はこっそり笑いました。
どれほど期待に胸を躍らせていたのでしょう。どんなに重い事実を告げる時でも平坦な鏡の声音が、日頃より弾んでいるように聞こえるなんて。
「私でよろしければ、あなたの妻にしてください」
満面の笑みで告げた王女に、王もうれしそうに笑みを返しました。