4話
世界で一番美しい王妃を持った王が、幸せではない。それはどういうことでしょう。鏡に尋ねると、淡々とした口調ですぐに答えは返ってきました。
「王妃様が病でお倒れになりました。王妃様は王の子供を身ごもっており、出産までとても体が持ちそうにありません。このままでは王妃共々命を失ってしまいます。王は不幸を嘆き悲しんでいます」
あの王妃が命を脅かされていると知り、王女がまず考えたのは王のことでした。愛した方が苦しんでいるのだから、王はなおのこと苦しみを味わっていることでしょう。
鏡の言う通りなら、王女には彼の悲しみをすべて取り除くことは出来ません。なにをしても、最後には王妃が亡くなってしまうのですから。
それでも今の王女に出来ることは、たった1つ。王女は鏡に向き直ると真剣に問いかけました。
「その病を治すことは?」
「不治の病で、治療はできません。かの国の医術では命を長らえることすら難しい状態です」
「かの国では?我が国の医師ならばどうです。治すことは出来ませんか?」
「申し上げましたとおり、不治の病はあなた様の国の医師でも治すことは出来ません。ですが、命を長らえることは出来ます。少なくとも御子様のお命は助かりましょう」
鏡の答えを聞いて、王女はすぐに王の元へ向かいました。国一番の医師に手紙と高価な薬草を持たせ、隣国へ向かわせたのです。王女の国の医師がよその医師よりもずっと優れていることは皆の知るところだったので、隣国の王は医師をありがたく迎え入れました。
鏡の言うとおり王妃の病は思わしくなく、その命は風前の灯火でした。用意した薬草をすべて引き渡しても足りません。王女は王と王妃へ次々と励ましの手紙を送り、薬草を添え隣国へ送りました。
それから6つの月が過ぎ、王妃はベッドから体を起こせるようになりました。王妃は治るかもしれないと国民は期待しましたが、それからたった1月しかたたないうちにおそれていた事態がおこりました。王妃は産気づいてしまったのです。それは望まれた命でしたが、まだ病み上がりの王妃にはとても大きな負担となりました。
生まれたのは、愛らしい娘でした。王妃は自らの娘とともにベッドへ横たわり過ごしました。残された時を、一辺も無駄にしないように始終娘を抱きしめていたといいます。
王女は、その事実を国に帰ってきた医師から聞きました。なんと言うことでしょう。娘が生まれてからたったの数日で、世界一美しい王妃は息を引き取ってしまったのです。
鏡の言う通り、王女は王を悲しみから救うことができまえんでした。王から貰った、長い間のご協力に感謝する、とつづられた手紙は涙でところどころにじんでいます。王女も手紙を胸に抱き涙を流しました。