一掌十三針を「粗い」と三度拒んだ船主が、十二枚の帆はすべて私が縫ったと港で証言しました
一掌ぶんに十三針。
そこまで数えてから、フォティニはギンタスの信用を切った。
帆布市の検反台に広げられたのは、秋の北風を受ける大帆だった。十四枚の帆布を継ぎ、裾には二重の返し縫い。誰が縫ったかと聞かれれば、フォティニの左右十本の指が揃って挙手する。昨日から曲がったまま戻らない右の人差し指まで、律儀に。
だが、注文控えの作者欄にあるのはエドガルスの名だけだった。
「当工房の技法は、荒天でも継ぎ目が開きません」
叔父は船主たちへ胸を張った。その技法とやらを縫った本人には、今朝、「帆布を汚すな」と言った口である。口は便利だ。縫い針より頻繁に持ち替えられる。
ギンタスは帆布を開き、帆耳を引いた。
難破船買い、と背後で誰かが呼んだ。彼は沈んだ船まで買って直す。人の評判より、濡れた船材の芯を信用する男だ。
その指が帆裾を返した。
折り重なった布の陰から、青い糸で縫い取った小さな作者印が現れる。パナギオタから譲られた印。フォティニが、自分の仕事にだけ残してきた名代だった。
ギンタスは印を上向きに置いた。
十三針を、二度なぞった。
「針目が粗い。この帆は買わない」
フォティニの中で、彼の信用が帆柱から落ちた。
十三針を粗いと呼ぶなら、目玉の代わりに小石でも詰めておけばよろしい。海辺で無料配布されている。二つ選んでも代金はかからない。
「粗い、ですと?」
エドガルスの声は船主相手なので、よく乾いていた。フォティニへ向けるときだけ湿って重くなる声だ。
「この私が仕立てた帆を?」
「注文控えにはそうあるな」
ギンタスは作者欄へ目を落とした。
フォティニは自分の指を握った。言ってはいけない。私が縫った、と口にすれば、叔父はパナギオタの寝床と薬代を切る。
港務書記のスタマティアが拒否札へ日付、船名、寸法、船主名を書き入れた。余白には端から端まで一本の横線。後書きの入り込む隙はない。
「署名を」
ギンタスが署名する。
スタマティアは拒否札を帆耳へ結びつけ、港務所の若者に顎を向けた。大帆は工房の荷車ではなく、港の保管棚へ運ばれていった。
「買われもしない帆を見送って、何を突っ立っている」
帰宅した途端、エドガルスの声は予定どおり湿った。
彼は薬包を二つ、作業台の端へ置いた。一つは今夜、もう一つは三日後。人質としては軽い。中身まで軽くされると困る。
「言われた所だけ縫え。作者の名を決めるのは親方だ」
フォティニは薬包を懐へ入れた。
反論は十三針より細かく縫い込んで、飲み下した。
ただ、妙だった。
拒否された大帆は、夜になっても工房へ戻らなかった。
* * *
二枚目は、小型船の冬帆だった。
フォティニが補強帯の端を一指ぶんずらし、横風を逃がしたものだ。注文控えの作者欄には、やはりエドガルス。署名だけは依頼した船主本人。帆の寸法も、納める日も、港務台帳へ写されている。
そしてギンタスは、積まれた帆の中から迷わずそれを選んだ。
帆裾を返す。青い作者印を上にする。
「針目が粗い。この帆は買わない」
二度目。
偶然の信用は、ここで品切れになった。
「ギンタスさん」
「フォティニ職人」
「その呼び方で一針戻します」
「俺は何針ほど失っている?」
「今の質問で二針です」
「まだ縫い代が残っているなら光栄だ」
減点。即時、さらに二針。
どうしてこの男の軽口だけ、いちいち数え直してしまうのだろう。腹立たしい。採点する価値もない相手なら、零点と書いて放置できるのに。
スタマティアが二枚目の拒否札を結んだ。
「粗いかどうかは私の欄ではありません。誰が縫ったかは、私の欄です」
作者欄のエドガルスという字を乾いた指で押さえ、署名入りの注文控えと見比べる。
帆はまた港務所へ運ばれた。
「なぜ工房へ返さない!」
エドガルスが追うと、スタマティアは歩幅さえ変えなかった。
「安全不良で拒否された帆は、確認が済むまで封印棚です。規則の数字なら四十七です」
「うちの帆だぞ」
「棚は港のものです」
その夜、エドガルスは糸切り鋏を作業台へ叩きつけた。
「次から作者印は内側へ折り込め。余計な青糸を船主に見せるな」
「親方印は表へ出すのですか」
「当たり前だ。当工房の品だからな」
同じ帆に印を二つ置くと、一方は余計になるらしい。じつに学びの多い工房である。今日学んだことを全部捨てたい。
フォティニは黙って、薄い粥と煮た豆を盆へ載せた。
奥の小部屋では、パナギオタが寝台の上で帆針を磨いていた。傷めた脚は毛布の下から動かない。それでもフォティニの縫いかけを一目見るなり、弱い声が飛んだ。
「補強帯の角が半指ずれてる。ほどきな」
「はい」
「叔父さんに言われたのかい」
「はい」
「じゃあ一指ずらしな。半端がいちばん裂ける」
さすが師匠。権力への反抗まで寸法指定である。
フォティニは食事と薬を置き、床板の下を確かめた。そこには自筆の原寸寸法帳と、独立用に集めた帆針、針当て、蝋引き麻糸がある。
十二枚。
船名、帆柱間隔、帆耳の角度、継ぎ数。エドガルス名義で売られた十二枚すべてを、フォティニは原寸から記録していた。
拒否された二枚だけが、工房へ戻っていない。
粗いと貶された。なのに交換も焼却もされず、港の封印棚に残った。
ギンタスは二度とも、青い印を上向きに置いた。
信用の採点を、少しだけ保留にした。
少しだけである。三針。いや二針。今のは本人に知らせない。
* * *
「三度目も、買わないと言ってください」
閉港後の検反台で、フォティニは切り出した。
ギンタスは持っていた角灯を台へ置いた。驚くと眉がほんの少し上がる。二度も帆を侮辱した男としては、驚き方が慎ましい。
「頼み方として、かなり新しいな」
「新しさへの感想は求めていません」
「フォティニ職人から三度目を頼まれた、と記念に刻んでも?」
「その笑い方で二針減点です」
「まだ正数か?」
「質問は三つまでにしてください」
ギンタスの口元から笑いが消えた。
「自筆の寸法帳があるか」
「あります」
「十二枚すべてか」
「あります」
「公に出せるか」
床板を剥がされる。独立用の針道具も見つかる。エドガルスは薬代を止め、パナギオタを工房から追い出すだろう。
フォティニは頷いた。
「出します」
「分かった」
それだけだった。
助けるとも、守るとも言わない。ギンタスは角灯の芯を上げ、彼女の荒れた指を一度見た。その視線だけが長い。長いので減点しづらい。困る。
帰ると、パナギオタは起きていた。
フォティニが床板から寸法帳と針道具を取り出すのを見て、枕元の古い針当てを差し出した。
「持っておいき」
「でも、これは親方の」
「おまえの指のほうが働く」
針当てを受け取った指は、薬包を握ったときより動かなかった。
「名を出せば、ここには戻れないかもしれません」
「そりゃ困るね。豆を煮る者がいなくなる」
「親方」
「工程を間違えるんじゃないよ。まず名を取り返す。寝床はその次だ」
パナギオタはフォティニの指へ針当てを押し込んだ。
「名まで貸した覚えはないよ」
翌朝、スタマティアが港務所の扉へ公開検反の札を出した。
同一工房から安全不良の訴えが三件。
十二枚目の大帆と、封印棚の拒否帆二枚を含む十二枚の帆、注文控え原本、港務台帳。関係する船主と帆縫い職人は検反台へ。
「十二枚目を開きます」
乾いた声とともに、留め紐が解かれた。
* * *
大帆が検反台から石床へ流れ落ちた。
港の船主たちはエドガルスへ場所を譲り、帆縫い職人たちは親方印の見える側へ集まった。フォティニは下働きとして台の端に立たされた。いつもの位置。縫う手は要るが、名は要らない位置だ。
ギンタスが帆布を開く。
帆耳を引き、裾を返した。
内側へ折り込まれた青い作者印が見えた。
エドガルスの頬が動く。右手が糸切り鋏へ伸びた。
「鋏を置いてください」
スタマティアが注文控えから目も上げずに言った。
「糸屑が気になっただけだ」
「検反中の証拠に触れようとした者、という欄を増やすことになります」
鋏が置かれた。刃先だけが青い糸を向いていた。
ギンタスは帆裾を台へ戻した。
「針目が粗い。この帆は買わない」
三度目の拒否に、港務所の鐘が一つ鳴った。
スタマティアは新しい拒否札を書かず、二枚の拒否札と三枚目の注文控えを並べた。
「同一工房、同一理由、三件。安全不良として公開検反を開始します。申立人は署名を」
ギンタスが署名した。
「待て。難破船買いの言いがかりだ!」
エドガルスの声は、フォティニへ命じるときの倍はあった。船主たちの前だから三倍にするつもりだったらしい。だがスタマティアが港務台帳を置くと、一倍を割った。
「当工房の技法に欠陥などない。そこの下働きが、指示を守らず勝手に——」
「今、どなたが縫ったと?」
「こいつだ。失敗した部分だけだ!」
「作者欄にはあなたの名があります」
エドガルスの口が閉じた。
自分の名で売り、粗いと言われれば下働きの罪にする。糸の両端を同時に引けば、真ん中で結び目になる。今日はその結び目へ叔父の首がよく収まっていた。
「ギンタスさん」
フォティニは彼を見た。
「三枚とも、本当に粗いと思っていますか」
ギンタスは返事をしなかった。
代わりに、第一の拒否札へ指を置いた。
その指先から、あの日の検反台が開いた。
同じ秋の北風。同じ時刻。十四枚継ぎの大帆。
あの日、ギンタスは帆布の山へ近づく前から、青い糸を探していた。
エドガルスが「当工房の技法」と声を張る。台の後ろにはフォティニがいた。袖口から覗く指には、蝋引き麻糸で擦れた赤い筋。彼女は自分の仕事を見られるときだけ、呼吸の回数が減る。
ギンタスは帆布を開いた。
帆耳の伸びを確かめる。海上で二度水を吸えば、狙った角度へ落ち着く切り方。帆柱間隔を測り直す必要もない。
帆裾を返した。
青い作者印が見えた。
一掌ぶんを数えるまでもなかった。
十三針。
粗いはずがない。冬の荒潮を受ける返し縫いを、十二枚とも同じ十三針で揃えられる者を、彼は一人しか知らなかった。
だが、注文控えの作者欄にはエドガルスとある。
買えば、エドガルスの仕事として海へ出る。問い詰めれば、青い印は切られ、別の帆へ交換される。工房へ返せば、焼かれるかもしれない。
安全不良として拒否された帆だけは、港の封印棚へ入る。
ギンタスは青い作者印を上向きに置いた。
「針目が粗い。この帆は買わない」
フォティニの顔から色が引いた。
ギンタスはそちらを見なかった。見れば、理由を言う。言えば、彼女の用意が整う前にエドガルスが証拠を消す。
スタマティアが拒否札を帆耳へ結んだ。
帆が運び出される。エドガルスとフォティニが工房へ戻るまで、ギンタスは別の帆の陰で待った。
足音が消えてから、封印棚の前へ立つ。
「青い印を隠すな。縫い手の名が確定するまで、このまま封じてくれ」
「拒否理由は粗い針目です」
「そう書いてくれ」
「虚偽なら、あなたの署名で残ります」
「残せ」
スタマティアは彼を一度だけ見た。
「誰が縫ったかは、私の欄です」
拒否札に引かれた横線を、乾いた指で押さえた。
現在の検反台で、ギンタスは第一の拒否札から指を離した。
「粗いという評価は虚偽だ」
港務所のざわめきが止まった。
「十二枚すべて、フォティニ職人の作だと知っていた。三枚については工房へ返さず封印棚へ移すために、俺が虚偽の拒否理由を書いた」
スタマティアが白紙を一枚置く。
「理由を知らせなかったことも」
「認める」
「本人に侮辱と受け取られると予測できたことも」
ギンタスの指が止まった。
「認める」
「署名を」
彼は署名した。
フォティニはその手を見ていた。帆を守った手。彼女へ何も言わず、勝手に軽蔑される側へ回った手。
美談にするには、一言足りない。いえ、百言ほど足りない。よって満点は差し上げない。
けれど零点にも、もう戻せなかった。
「フォティニ職人」
公の場で、ギンタスはそう呼んだ。
「帳面を出せるか」
フォティニは原寸寸法帳を検反台へ置いた。
「出します。私の名で」
* * *
第一枚は、十四枚継ぎの大帆。
フォティニは原寸寸法帳を開き、船名の記された頁を示した。
「帆柱間隔はここ。帆耳は北風を受けて二度伸びる分、原寸から半指内へ入れています。裾は一掌十三針。作者印は左端から二尺」
ギンタスが封印棚の大帆を開く。
スタマティアが注文控えの日付、船名、寸法、依頼主の署名を読む。
すべて一致した。
エドガルスが親方印を指した。
「工房の印がある! 設計も技法も当工房の——」
「では、帆耳を半指入れた理由を」
フォティニが尋ねる。
「それは、風を、その……逃がすためだ」
「二度水を吸った後、どちらへ伸びますか」
「下働きが親方を試すな!」
答えは海へ逃げたらしい。便利な港である。
スタマティアは第一枚の作者欄に訂正線を引いた。元の字は消さない。その脇へ、フォティニと記す。
第二枚、冬帆。補強帯の端が一指ずれている。
第三枚、修繕帆。古い裂け目の左右だけ、麻糸の撚りを逆にしてある。
第四枚から第七枚までは、青い作者印の位置と帆耳の角度が帳面に重なった。
第八枚では船主が、自分の船上で頼んだ補強帯の追加を証言した。第九枚と第十枚は、修繕跡の針穴まで原寸図どおりだった。
第十一枚。
第十二枚。
ギンタスが一掌へ指を置くたび、十三針が並んだ。
スタマティアは港務台帳の写しと、工房から提出された注文控え原本を左右へ分けた。
「港務台帳は毎夕、提出時点の内容を転記しています。日付、船名、寸法、依頼主署名は十二件とも原本と一致。作者欄も、提出時の記載をそのまま写してあります」
次に、エドガルスの原本を持ち上げた。
「一致しないのは作者欄です。提出時には空欄だった六件へ後書き。フォティニとあった四件は削り。残る二件は青い印の記載を消して、エドガルスへ変更」
「身内の工房だ。作者欄をどう扱おうと——」
「給金台帳では、フォティニへ下働き分しか支払われていません」
「家族を養ってやった!」
「薬代は工房経費として船主へ請求されています」
スタマティアが数字を読む。
エドガルスの顔から、船主へ向ける色が消えた。フォティニへ命じる色も消えた。残ったのは、訂正線を引かれる前の余白の色だった。
港の帆縫い職人が一人、エドガルスの側から離れた。
続いて船主が、船名入りの注文札をフォティニの前へ置く。
一枚。
二枚。
台の端に札が重なった。誰も口々に褒めはしない。ただ、頭を下げる向きだけが変わった。
十二枚の帆より重いものが、ようやくこちら側へ移ってきた。
フォティニは手を伸ばさなかった。まだ終わっていない。
スタマティアが訂正記録を読み上げる。
十二枚の作者名をフォティニへ訂正。未払い給金と売上差額を算出し、エドガルスが賠償。親方資格を返上。以後、港務所監督下の裁断係としてのみ就業を認める。人員の雇用、作者欄への記入、給金の受領と配分には触れさせない。
「謝罪を」
エドガルスはフォティニを見た。
「身内のことで、少し行き違いが——」
「謝罪欄へは入りません」
スタマティアが乾いて訂正した。
エドガルスの指が、賠償額の上で震えた。
「フォティニに、迷惑をかけた」
「呼称を」
「下働きに何を——」
船主たちの注文札が、いっせいにフォティニの側を向いていた。
十二枚の帆も、十二か所の作者欄も、青い印を上にして開かれている。逃げ道はもう鋏でも切れない。
スタマティアが署名欄を指した。
「訂正後の作者へ、正式な呼称で」
エドガルスの唇が白くなった。
工房で何度も「言われた所だけ縫え」と動いた口が、今度は港務台帳に合わせて動く。
「フォティニ親方。あなたの名と給金を奪った。申し訳なかった」
フォティニは返事をしなかった。
許す言葉は、署名欄のどこにもない。
「賠償、資格返上、権限喪失を承諾します」
「署名を」
エドガルスが署名した。
スタマティアが受領印を押す。
赤い印が紙へ落ちた瞬間、船主たちはエドガルスへ向けていた注文札を引き上げ、フォティニの前へ差し出した。
「フォティニ親方。うちの冬帆を」
「フォティニ親方、次はこの船名で」
「フォティニ親方」
呼び直されるたび、消されていた名が港務台帳より先に港へ広がっていく。
よろしい。
一掌十三針を粗いと言われた分まで、きっちり縫い返した。しかも叔父本人の署名つき。これは少々、いや、たいへん気分がいい。
スタマティアは十二か所目の訂正欄へ横線を引いた。
その後でようやく、ギンタスが一枚の契約書を出した。
「俺の船の帆を、全部頼みたい」
「全部うちへ回せ、ではなく?」
「減点を避けた」
「手遅れです」
契約書には専属の文字があった。工房と住居はギンタスが用意し、給金も彼が管理する。顧客の注文は彼の許可を要する。
帆を守る男は、油断すると縫い手まで封印棚へ入れたがるらしい。
「専属はお断りします」
ギンタスの眉が上がった。
「代わりに共同契約です。作者名を全品へ記すこと。給金は私へ直接払うこと。顧客は私が選ぶこと。住居は契約に含めないこと。解約は私本人の署名で成立すること」
「ほかには?」
「私の針道具へ勝手に触れないこと」
「厳しいな」
「二針減点です」
フォティニは契約書の余白へ条項を書き足した。スタマティアが確認し、余白を横線で閉じる。
ギンタスは一項ずつ読み、異議を挟まず署名した。
それから、別の小さな紙を置いた。
「これは契約ではない」
「注文書ですか」
「求婚だ」
港中の視線が、器用に帆布へ逃げた。
ギンタスは逃がさなかった。フォティニの荒れた指へ、自分の署名した共同契約を押し出す。
「俺は君の帆も、君も手放したくない」
「その言い方は減点です」
「では訂正する。選んでほしい。俺を」
軽口が消えていた。
フォティニは、青い作者印を上向きに置いた手を見た。
「あの日、ギンタスさんは私を所有せず、私の帆だけを守りました」
「君には何も知らせなかった」
「その代価は、先ほど署名していただきました」
「まだ足りないなら払う」
「結婚は承ります。専属はお断りします」
「順番が逆では?」
「私の契約ですから」
フォティニはもう、彼の名から針数を引かなかった。
スタマティアが新しい共同契約を検反台の中央へ置く。
最上段の作者欄には、フォティニ。
その下に、ギンタス。
フォティニは自分の名を先に署名した。




