俺の家、もうダメかもしんない。
昔思いついたけど展開が思いつかなくて投げていた一発ネタが、今書いてみたら驚くほどすらすらと書けたのでひとつ。一部の台詞回しについてAIに相談しています。
主人公達の名前がやりたかっただけの禁断の出オチ一発ギャグn度打ちコメディです。また、BLネタはありませんが作中に腐女子やら何やらが出てきます。
キーワードは「機動戦士」。わからない方はググりながら読んでみてください。
「自覚」が芽生えたのは、十歳の誕生日を控えた夏のことだった。
それ以前にも兆候はあった。子供の頃によくわからないものを欲しがって泣いていたとか、何かを見て「アレみたいだな」と自分でもよくわからないものに似てると既視感を覚えるとか、そんな些細な違和感が。
決定打となったのは、ある日母親が半べその弟を連れて帰ってきたことだ。ぐずぐずと鼻を鳴らす弟を見て何があったのか聞くと、母は「それがね」と眉を少し下げて答えた。
「今日伺ったお茶会に、フリアンから嫁いできたご夫人がいらっしゃったのだけど。そのご夫人の妹君がちょうど「カミーユ」というお名前だったそうで……連れていたご子息がカミーユを『男のくせに女の名前だ』とからかって、喧嘩になってしまったのよ」
その瞬間、俺の脳裏を凄まじい既視感がよぎった。女の名前なのに、と名前を馬鹿にされた少年が相手をリズミカルにぶん殴る幻覚が小気味良い曲と共に思考回路を駆け巡り、全ての点が線で繋がる。目の前をぶち抜く白昼夢にしばしフリーズしていた俺は心配そうな母の声で我に返り、顔をくしゃくしゃにした弟に向き直った。
「大丈夫だ、カミーユ。カミーユは男でもおかしくない名前だ。男も女も、どちらにもある名前なんだぞ」
「でも。女の人とおんなじ名前だって」
「ご婦人と同じ名前というくらいでなんだ、それなら俺だって同じ名前のご婦人を見たぞ。だいたいな、初対面でいきなり人の名前を馬鹿にするなんて品性のない奴のやることだ。カミーユ、たとえばお前は「ニコル」って名前の女の子がいたとしても、男の名前だと馬鹿にしないだろう?」
「しない!」
「それでいいんだ。相手はまだそういう分別がついてない、いわばお子様だ。次に馬鹿にされたらマナー違反だと教えて、早く大人になれと言ってやりなさい」
俺の「大人の対応」のレクチャーに、カミーユが鼻水を引っ込めながら頷く。子供にとって大人は「カッコいいもの」で憧れの存在だから、自分は大人の対応ができるという意識は良い自信になるだろう。俺も現在進行形で大人ぶりたいジャリガキの年頃だからわかる。
いくらか気分が上向いたらしいカミーユは世話係に引き渡され、母は自分の侍女を連れてそれぞれの自室に戻っていった。俺は二人を見送ると、父がいるであろう執務室に足を向けた。
「父上、ニコルです。少しお話が」
気持ち背筋を伸ばして執務室の扉をノックしながら告げると「入れ」とくぐもった父の声が返ってくる。失礼します、と声をかけてから重たいドアを開ければ、ペンを片手に机に向かう父の姿が目に入った。
「ニコル。話とは何だ?」
机にペンを置きながら尋ねる父の側には侍従がひとりいた。俺は侍従の顔を見て少し躊躇したものの、ええいままよと口を開く。
「さっき、カミーユが泣きながら帰ってきました。俺からも慰めはしたのですが、いやに気に病んでいるようなので父上からも諭してやって欲しいのです」
「カミーユがか? 今日は確かキャディラック夫人の茶会に行くと聞いていたが、どこぞの子息とでも揉めたのか」
「名前を馬鹿にされたそうです。女の名前なのに、なんだ男か、と」
ぴく、と父の眉が動く。わずかに寄った眉間の皺は、息子への非礼に憤ってのものか。俺は父の顔をじっと見据えながら話を続ける。
「母上からはそのくらいしか聞き及んでいませんが、カミーユの性格的に諍いがあっても少し言い返したくらいだと思います。姉上が同席していなくて幸運でした」
「まあな……あれは逆に相手を泣かしかねん」
「性根を叩き直そうと頬を張るくらいはしそうですね。『甘ったれを殴ってなぜ悪いか』と」
そう言って両手を広げ、腰を捻って後ろを向いたポーズを取ってみせれば、ぶふぉっと噴き出すような音が聞こえた。振り返ると、澄ました顔の侍従の横で父が口元を押さえて背を丸めている。
「暴力はいけない」
ぼそり、と呟けばまたも父に反応があった。平静を取り繕うような顔をしてはいるが、間違いなく俺の発言に目の色が変わっている。俺にはわかる。これは「同類」の印だ。
父は眉間を揉むと、側に控えた侍従に席を外すよう命じた。侍従は一礼の後に速やかに退出し、俺と父だけが執務室に残される。
「父上。俺達の名前は、どういう想いを込めて付けられたのです?」
「当ててみなさい。お前が私と同じ知識を持つならわかるはずだ」
父の言葉にはこちらを値踏みするような響きがあった。俺はつかつかと机に歩み寄り、思い切り両手を叩きつける。
「子供の名前で遊ぶな‼︎」
「遊びでやってんじゃな……」
「言いたいのはこっちだよ‼︎」
もし家父長制の強い世界に生まれついていなければ、間違いなく俺はこのふざけた父親に修正パンチを叩き込んでいただろう。よりにもよってこんな悪ノリオタク確定の人間を名付け親にされた悲劇に、俺——ニコル・レインは頭を抱えたのであった。
俺は転生者である。それも二〇二六年の日本からの転生者だ。
前世の享年は確か四十一。ゴミ出しのためにマンションの階段を降りる途中で足を滑らせた先の記憶がないので、たぶんそれが死因。貧乏性で底が擦り切れたサンダルを履いていたのと雨の日と厄年が効いたのだろう。我ながら情けない死に方だ。
で、おそらくは俺の目の前で同類を見つけて嬉しそうにしているこの父親も転生者。それも俺と同じ、もしくはもっと厄介で嫌な感じのオタク。
根拠は俺達の名前だ。我が家は二男三女で、上から長女のアナベル、次女のザビーネ、長男のニコル、三女のレティシア、次男のカミーユの五人きょうだい。
伝わる人には伝わるだろう。ヒントは「女の名前なのに、なんだ男か」だ。この言葉に食い付いた時点で、親父は俺と同じ作品群を知っているオタクだと確定した。その上でこんな名前を付けているのならもう悪質でしかない。
「何を思って大事な娘息子の名前で遊んだんですか? しかも嫡男にニコルって。死に様を擦り倒されろと仰る? これからピアノでも習わされるんですか俺は」
「待て落ち着け息子よ、お前はそっちのニコルじゃない。漫画は読まんのか? ほらあの、木星のニコルだよ。前前作の主人公の息子」
「あー……そういやいたか。あの整形前の親父似の」
「そう。ザビーネ繋がりでね、ほら」
「そのザビーネ、男ですよね。姉上方によりにもよって男キャラの名前を付けて回ったのはどういうおつもりで? いくらこっちじゃ女の名前だからって」
「それはまあ……どうせわかる人いないからいいかなって……オルガも考えたけどシラフで呼べる気がしなくてやめた」
「ならアナベルとザビーネの時点でやめとけや‼︎ ザビーネなんか作中モロに名前呼びだろ‼︎ 貴族の娘にんな名前付けるとか嫌がらせなんか⁉︎ おぉ⁉︎」
「だってぇ……この辺だとそんなに変な名前でもないし……ちょっと異国風の名前にするのがオシャレな時期だったからいいかなと……」
「じゃあアナベルとザビーネとカミーユのスペルが一般的なものと違うのはなぜですか」
「……うん!」
「開き直るな馬鹿親父‼︎」
べちーん、と父の頭をひっぱたく代わりに机に思い切りツッコミチョップを叩き込んで、俺は肩で息をする。机に不満をぶつけ続けたせいで手が痛いが、こうでもしないとマジで手が出そうなので致し方ない。親父の顔に殴られた痕なんか残そうものなら、家族会議の末俺が大目玉を食らうのは自明の理だ。なんと厳しい世の中なことか。
「失礼ですが、いつのお生まれでいらっしゃる? レティシアを知ってる時点でキラキラネームの概念もご存知とは思いますけどね」
「えっと、平成……」
「はい歳下確定ェ‼︎」
まさかの父親が歳下の可能性に、俺は再び頭を抱える。俺より生まれが遅くても享年が上、つまり俺より未来から来たのであればまだよかったが、どうやら二〇二五年に二十二歳という若い身空で天に召されたらしい。聞けば日頃からエナドリ中毒で、これ以上留年できないとエナドリをがぶ飲みし不調を押して徹夜の卒論デスレースをしていたのが最後の記憶だとか。ボロサンダル滑落死の俺も人の死因をどうこう言えた義理ではないが、大変親不孝な死に方だと思う。
「本編放送前に死んだのがすごく心残りでな……アレ結局どんな話になったんだ? ちゃんと謎とか解けた?」
「卒論締切直前に映画見てんじゃねーよハゲ‼︎」
父親がよりにもよって未練として口にしたのは、二〇二五年一月中旬公開の劇場先行版新作アニメだった。昔のことなのであまり記憶にないが、卒論の締め切りはだいたい一月の中旬から下旬あたりではなかったか。あまりの不真面目さにちょっと懐かしい慣用句で罵倒してしまった。
ひとまずブチ切れながらもうろ覚えの概要を話してやれば「知らないからって騙そうとしてない?」と言われて、また机に拳を叩きつける羽目になった。俺は絶対に嘘なんか言ってない。全部あのオタクの集団幻覚みたいな内容が悪い。
◇◆◇◆◇◆◇
「ふうん、そう。それじゃお前もようやっと思い出したのね」
その日の夜。無礼を承知で上の姉の部屋に突撃すれば、我が家の五きょうだいで最強の権力者ことアナベルお姉様はなんてことのないような顔でそう言い放った。
「まさか姉上も記憶をお持ちだったとは……」
「お父様を除けば私が一番最初よ。その次がザビーネとレティシアだから、現状はお前が最後尾ね」
ねえ、とアナベルお姉様が微笑みかければ、ザビーネお姉様がお上品な笑みで応じる。俺がまだハナタレの頃、この仲良しお姉様達を見て「キングギドラみたい」と言い、アナベルお姉様にビンタされた後でキングギドラって何? と自分の吐いた言葉で混乱したのはいい思い出だ。今ならわかる、それは女性に向けるには失礼な形容詞であると。あと首が一個足りないと。
「ちなみに父上に一発『修正』をなさるつもりは……」
「ないわよ。残念ながら、娘が父に手を上げるなんて許されない世の中だもの。お父様が逆賊だったら手討ちにするくらいは許されるだろうけど、悲しいことにそんな気概もない一貴族ですものね」
残念ながら、という前置きには世が世ならぶん殴っていたのにという無念が滲んでいる——気がした。我が家の裏ボスたるアナベルお姉様が無理と言うなら無理か、と俺は早々に頭の中の計画書を丸めてゴミ箱へ捨てる。諦めがいいのが今世の俺の美点だ。
「しかしレティシアまで記憶持ちとは思いませんでしたよ。夕食の時はそんな素振りはありませんでしたから」
「あの子は大人しいし、そこまで詳しいわけではないから。記憶が戻って自分の名前の由来を知った時は少し落ち込んでいたのよ」
「よくアナベル姉上は平手打ちなさいませんでしたね……」
「あれでも今世の父だもの。郷に入っては郷に従うものよ」
涼しい顔で紅茶を口に運びながら、アナベルお姉様が言う。俺だけでなくアナベルお姉様もザビーネお姉様も転生者だとは父から聞いていたのだが、その説明だけでは信じないと思ったのか父は夕食時にちょっとしたショーをやらかした。俺の分だけ料理の味付けを薄くして出したのだ。
なんか妙に味が薄いな? と疑問を抱きながらもこんなもんかと思って黙々と食べていると「何か気付いたことはないか」と父に聞かれ、味付けが薄いと答えたら父はただ一言「塩が足らんのです」と俺に告げた。
食事に何か変わったところがあればすぐ気付かないとダメだぞ、と俺に教えるための一芝居だったと父は説明していたが、どこからどう考えても「塩が足らんのです」を言うか言わせたかっただけの茶番である。なぜかドヤ顔の父に俺だけでなくアナベルお姉様やザビーネお姉様も呆れた視線を送り、母上とレティシアは無反応を貫いていた。父上ってすごいなあ、と素直にリアクションしていたのは末っ子のカミーユだけだ。
「母上は転生者ではないのでしょうか?」
「どうかしら。今のところお前のように前世の記憶がちらついている様子はないし、違うのかもしれないわね。もし転生者なのを隠しているとしても、お父様の悪ノリには気付いていないのだと思いたいわ。お母様まであのノリだったら嫌だから」
「確かに……」
アナベルお姉様の仮定に、俺は素直に頷いた。母上は我が家の良心にして実質的なボスである。父が子供の名前で「女の名前なのに、なんだ男か」カーニバルをしていると知っていれば、父があんなに呑気にしていられるはずがない。同じ転生者だとしても、俺達の名前の由来となった作品群の知識を持っていない一般人の可能性が高い。
「母上と父上の出会いって、父上の一目惚れでしたよね。名前が決め手の結婚だったら母上が黙ってないでしょうね」
「お父様は違うと主張しているけれどね。子供の名前での遊びようを考えると怪しいものだわ」
「自分の名前まで変えるほどですものね」
「ですねぇ……」
横から口を挟むザビーネお姉様に相槌を打って、俺は遠い目をした。ちなみに母上の名はルクレツィアで、父は結婚に際して自分の名をオリヴァーからミリアルドに改名している。元の名前のままでもよかろうに、わざわざメチャクチャカッコいい奴に改名しているのが腹が立つ。
◇◆◇◆◇◆◇
前世の記憶を取り戻したからといって、俺の人生は劇的な変化を遂げはしなかった。なんせチート能力もないし、現代知識チートするだけの知識もない。というか、この世界にある「魔術」そのものがチートみたいなもんだ。その魔術を利用した道具を買って日常的に使える身分に転生したおかげで、生活環境は前世に負けず劣らず整っている。お金があるって素晴らしい。
で。魔法があるなら、魔力とか魔術への向き不向きもある。俺は幸いそれなりに魔力を持って生まれたので、読み書き教養と一緒に剣術と魔術を習っていた。
「今日は風の呪文を覚えましょう。まずは小さな風を起こして対象を切り裂く【風の刃】という呪文です」
呪文はこう書きます、と手元の黒板にすらすらと呪文を綴っていくのは、俺の魔術の師のバーナード先生だ。若干二十歳ながら魔術師協会の第一位認定という国家資格的なものを取った俊英で、優しくて教え方が上手くておまけにイケメンの素敵な先生である。
ちなみに魔術師協会の階位は下から数えて第三位から第一位まであり、その上に協会に何かしらの貢献をするなどした人にだけ与えられる名誉位の賢者があるらしい。父は先生にぜひ賢者になって欲しいなどと言っていたので、名前で家庭教師に選んだ可能性が高い。あの親父は一体どこまで人の名前で遊ぶつもりなのか。
「さて、ニコル君。この呪文のどこが風を示す部分でしょうか」
先生の質問に、俺は「ここです」と黒板に書かれた呪文の先頭を指差した。先生は満足気に頷き、その通りと俺を褒める。
この世界の魔術には精霊言語という特殊な言語を用い、魔力を纏わせた声で呪文を読み上げるか魔力源を添えて呪文を書き記すことで魔術を使うことができる。精霊言語は文字通り精霊の言葉で、世界の理に干渉する力を持つとかなんとか言われているらしいが、ともかく魔術とは呪文で「何を」「いつ」「どこへ」「どうするか」という指定をすることで色んな現象を起こす技術だ。なんとなくプログラミングに似ている、気はする。
「たとえばこのように呪文を書き換えることで、風の刃の強さを変えることができます。殺傷力のない小さな風の渦から、剣と同じくらいの切れ味にもできるわけですね」
試してみましょう、とバーナード先生がリンゴをひとつ机の上に置いて呪文を唱える。すると机上に小さな風が吹き、風に揉まれたリンゴがころころと揺れた。
「これが一番威力を弱くした状態です。次は一般的な威力にしてみましょう」
またバーナード先生が呪文を唱えると、今度は風に揉まれたリンゴの表面が切り裂かれて小さな破片が飛び散る。さっきまで無傷だったリンゴは、瞬く間に不器用な皮剥きをされたようにでこぼこになってごろんと机に転がった。
「対人の威嚇が目的であれば、だいたいこのくらいです。もう少し強くすると肉まで切れてしまうので、くれぐれも使い方には気を付けてくださいね」
では実践を、と先生が新しいリンゴを机に置いて呪文を唱えるよう促す。俺は見よう見まねで呪文を唱えてみるが、リンゴは微動だにしない。
「少し発音が違いますね」
先生によると、どうも詠唱をミスったのがいけないらしい。精霊言語による呪文は発音や綴りを誤ると上手く発動しないので、フィーリングでやるとつまずくのがなかなかつらいところだ。
俺は先生のお手本を聞きながら発音を繰り返して、何度目かのチャレンジでようやっとリンゴの皮剥きに成功した。その後は威力を弱くしたバージョンも含めて詠唱の練習をして、疲れるまで何度も何度も魔術を使ってから授業はお開きとなった。
「お疲れ様でした。来週までしっかりと練習を繰り返してくださいね」
「はい。ありがとうございました」
魔術を覚える上で大事なのは、一にも二にも継続と根性だ。呪文の種類と正しい発音を頭に叩き込んで、何度も唱えて身体に覚えさせる。魔力を使い続けることで体内魔力の総量、いわば最大MPは増えるらしいので、まだ魔術を習っていない弟を除けば我が家で一番魔力が少ない俺は人一倍努力しなければならない。みそっかすはつらいよ。
先生が帰った翌日も隙を見ては呪文の復習をし、またその翌日も庭で適当な木の枝を薪割り台に乗せて練習していたら、たまたまお散歩に出てきたらしいお姉様方が通りがかった。
「お父様にも成果を見ていただいたら? デモンストレーションに髪を切って差し上げるとか」
「できません」
物騒なことを口走るアナベルお姉様に、俺は真顔で即答した。確かに頭の風通しを良くしてやりたいと思ったことはあるが、腐っても父は父だ。家の代表がはげちょろぴんになって人前に出たら我が家が丸ごと笑い者になってしまう。「冗談よ」と澄まし顔でレースの扇を扇ぐアナベルお姉様も、過去に同じ葛藤をしたことがあるのかもしれない。
「その呪文、最弱にして頭に使うと髪が乾きやすくなるわよ」
私はぐちゃぐちゃになるからやらないけれど、とライフハックを教えてくれたのはザビーネお姉様だ。確かにザビーネお姉様のつやさらロングヘアでは一度乱れると大変だろう。
ちなみにこの仲良しお姉様方はどちらもセンター分けロングヘアだが、アナベルお姉様は銀に近いプラチナブロンドでおでこを広く出していて、ザビーネお姉様は濃いめの金髪で少しおでこに前髪をかけている。さながら金のお姉様と銀のお姉様だ。鉄のお姉様がいたら完全にキングギドラだったろう。
「間違えて最弱にしそびれるとざんばら頭になるから気を付けなさいね」
「姉上、切らせようとなさってませんか?」
何らかの作為を感じるアドバイスを訝しむと、ザビーネお姉様は「何のことかしら」としらを切った。さてはこっちのお姉様も頭ウインド計画を企てたことがあるな。自分まで恥をかくリスクがなければ、父の頭はとうの昔にはげちょろぴんになっていたに違いない。
「髪を生やすか伸ばす魔法があればね……」
「やっぱり切るつもりですね姉上」
悩ましげに溜息を吐くザビーネお姉様に、俺は秒でツッコミを入れた。下のお姉様はわりかし優しいので、こうやって気軽なじゃれ合いができるのだ。
なお、上のお姉様のじゃれつきは猛獣が獲物を追い詰めた時のそれみたいなものなのでとても気軽には受けられない。上のお姉様と緊迫感が伴わないじゃれ合いができるのは、同じ女の子のザビーネお姉様とレティシアだけだ。男はつらいね。
◇◆◇◆◇◆◇
時は流れて、俺は十五歳になった。
我が家は全員年子なので長子のアナベルお姉様は十七歳、末っ子のカミーユは十三歳だ。俺が転生者の自覚を持った時はまだ泣き虫お坊ちゃんだったカミーユも、俺と一緒に剣術と魔術を習えるくらいにはいっぱしの男に近付いてきた。
そしてそのカミーユも、つい最近転生者だと発覚した。
「僕、アニメキャラの名前だったんですね……てっきり父上が流行りに乗って付けたものとばかり……」
「泣くな弟よ。その苦しみは俺も同じだ、共に父上を恨もう」
「泣いてません。ちょっと恨みはしますけど……」
「それでいいのだ弟よ」
俺達の名前の元ネタ作品群を知っていたらしいカミーユは、案の定ちょっとへこんでいた。アニメや漫画の主人公の名前を付けるのは前世でもあったが、そんなもんは当然からかいの対象になる。こちらの世界では元ネタを知っている人間がいないから揶揄される心配がないとはいえ、二次元由来痛ネームを背負わねばならぬ気恥ずかしさはあるわけで。
「幸いこの世界には改名制度がある。嫌なら成人後に届け出て変えていいんだぞ」
「兄上は改名なさるのですか?」
「ちょっと迷ってる」
わかる人がいないからって子供の名前で遊びまくった親父に思うところはありまくるが、正直言うと俺は自分の名前に愛着を持ち始めている。ご婦人と被ることもありはするけど中性的な名前だから仕方ないし、世間的に変な名前でもない。
アナベルお姉様も最初は改名を考えていたが慣れてしまったからもういいと思っているそうだし、ザビーネお姉様も元ネタがそこまで嫌いじゃないから受け入れているらしくて、レティシアも由来はともかく綺麗な名前だからと自分の名前を大事にしている。
後はカミーユがどう思うかなのだが、どうもカミーユも長くこの名前と付き合ううちにこれが自分の名前だという意識を持ったようで「変えたいと思うほど嫌いでもない」と口にした。つまり我が家はこのままGの一族であり続けるということだ。せめて次代ではこの流れを断ち切ることにしよう。
「ところで兄上。今のところ、記憶があるのは父上と兄上達だけなのですよね?」
「ああ。母上とお祖父様お祖母様は未確定だ。たぶんないと思うけどな」
「……父方のお祖父様かお祖母様も転生者の可能性はありませんか? 名付けに反対されなかったそうですし」
「いやあそれは……どうだろう……違うと思いたいな……」
カミーユが提示した可能性は、俺も一度は考慮したことがあった。だけど時々顔を合わせてもそんな素振りはちっとも見せなかったし、親父もお祖父様方の前では大人しくしている。俺が転生者だとわかった瞬間隙あらば前世のミームを擦ってくる痛いオタクの父が、同じ転生者の前でそれを我慢できるだろうか。
何よりお祖父様方まで転生者なら父が俺達に痛ネームを付けるのを黙認したことになってしまうので、母と同じく無関係か何にもオタク知識がない転生者であって欲しい。父と同じ人種が身内に二人もいたら嫌だ。
「たぶんお祖父様達の名前は偶然だよ。父上がそれを見て悪ノリしただけだ。俺達が生まれた頃は異国風の名前がブームだったそうだし、実際周りもそんな感じの名前が多いだろ。世間的にはおかしくない名前を付けてるから、元ネタがわからなきゃ強く反対する理由はないんだよ」
「そうですかね……そうかも……」
俺の父方の祖父母、つまりレイン家先代伯爵夫妻はジョナサンとマーガレットという名前で、それぞれ愛称は「ヨナ」と「リタ」だ。ヨナという呼び方がやや珍しくはあるが、どちらもこの国では一般的な名前だから本当に偶然ということは十分考えられる。
というか本当に偶然であって欲しい。でなければ俺のお祖父様かお祖母様は、アニメキャラの名前で互いを呼び合う痛オタクになってしまう。素直に尊敬できなくなった親父の代わりにメチャクチャ敬服しているお祖父様や優しく物知りで素敵なお祖母様がそんな人間だったら、俺はしばらく立ち直れなくなってしまうかもしれない。
俺は偶像を壊したくない一心で祖父母転生者説を切り捨てたが、カミーユはどうも疑念が晴れなかったらしい。アナベルお姉様やザビーネお姉様、レティシアにも同様の疑問をぶつけて回った結果、レティシアの口から思わぬ証言が得られたという。
「お祖父様が昔飼っていらした猟犬、ライとオノという名前だったでしょう。ライはともかくオノは少し珍しい響きだと感じたから、名前の由来を聞いてみたことがあるの。そうしたら、昔自分が好きだった強い人から名を借りたと仰って……確か、ライデンとオノガワだったかしら。
日本語らしくはあるけれどさっぱり由来はわからないし、それ以上聞いてみてもお祖父様は教えてくださらなかったから、結局わからずじまいで。お姉様にも聞いてみたけれど、特に心当たりはないそうなの。カミーユは何か知らない?」
カミーユもライデンとオノガワと聞いて思い当たる節はなかったのか、その証言を片手に俺に意見を求めにやってきた。俺もオノガワの方はさっぱりだが、一応ライデンに心当たりはあった。親父が擦り倒している作品群の外伝の人物か、もしくは江戸時代の最強力士雷電為右衛門だ。オノガワという和名っぽい単語と並んでいるあたり、こちらが本命と見てよさそうである。
「江戸時代の人か、相撲マニア……?」
二次元オタクの可能性は考えたくないので相撲に絞ると、やはり好きな力士の名前を猟犬につけたということになる。現代に近い生まれの人がチョイスするには雷電為右衛門はメチャクチャ渋すぎるので、よっぽどの懐古主義か当時の人と考えるのが自然だ。
もし江戸時代からの転生者なら、親父のオタク趣味など理解できなくて当然だ。ひとまず痛いオタクではなさそうでよかった、と俺は胸を撫で下ろしたのだが。
「江戸っ子が剣と魔法のファンタジー世界に転生って面白すぎねえ……?」
お祖父様が生粋の江戸っ子かもしれない、という疑念を持つとそれはそれでお祖父様を見る目が変わってしまって、俺はしばらくお祖父様のことで頭がいっぱいになったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
何度か触れているが、我が家は貴族である。貴族であるからには、誰かが家を継いで一族の血を残さねばならない。
今のところその後継者の最有力候補は俺だ。魔力がちょっと残念な以外には目立った欠点もなく、カミーユの方が飛び抜けて優秀ということもない。なので年功序列に従って俺が次期当主、カミーユは万が一があった際の候補という位置付けにいる。
だから、年頃になった俺は次期当主夫人となる婚約者を探していた。探すと言っても選ぶのはほとんど父と母だ。家同士の釣り合いだとか利益だとかを考えて適当と思われる相手をピックアップして見合いの席を設け、実際に顔を合わせた上で俺が最終的な判断を下す。
判断基準は好みや相性より、「立派に伯爵夫人が務まりそうか」で決める。これは母上に口を酸っぱくして言い含められたことだ。どれだけ好ましく感じた女性でも、伯爵夫人としての資質に欠けていたなら彼女は大変な苦労を強いられることになる。レイン伯爵家のためにも相手の女性のためにも必ずそれだけは守りなさいね、と力説する母上に対し、父上はというと。
「私がルクレツィアを選んだのは、彼女が優れた女性であったのもあるが何より私が彼女に惹かれ、彼女が私の側に立つことを許してくれたからだ。資質ある女性を選ぶなら己もそれに見合った、家を担うに相応しい男でありなさい」
その言葉自体は立派だったが、名前で嫁を選んだ疑惑と合わさると威厳も半減するというものだった。ひとまず肝に銘じますとだけ答えて、俺は見合いの場へ望んだ。
「レイン伯爵家長男のニコルと申します。本日はご足労いただき感謝いたします」
「マクフリー伯爵家が次女、セレーネと申します。お会いできて光栄に存じますわ」
対面したセレーネ嬢は所作が綺麗で、立ち振る舞いや語り口に確かな知性と気品を感じさせる人だった。おまけにブルーグリーンのつぶらな瞳が可愛らしい美少女だ。我が家の女性陣はキリッとした美人ばかりだから、こういう愛くるしい系の美少女は新鮮に思える。
「レイン様は剣術がお得意だとか。私の家では女が剣を握るなどはしたないと咎められておりましたけれど、夫人とて有事の折は自らが剣を握る覚悟をせねばならないと考えておりますの。もしレイン様さえよろしければご教授を願いたいですわ。もちろん、父には内緒で」
「いや、たいした腕ではないのですがね。よい師を付けてもらったおかげでそれなりに見られる程度には鍛えられましたので、師の受け売りでよろしければお引き受けしましょう」
セレーネ嬢はどうも剣術に興味があるようで、婚約したら剣術を教えて欲しいとかわいくお願いをされた。我が家では有事に備えてお姉様方もレティシアも護身術を習っているので反対する理由はないし、セレーネ嬢自身も婚約者として大変好ましい人物なのでこのまま婚約を進めるのもやぶさかでない。
やぶさかではない、のだが。
「セレーネって、いたよなぁ……外伝主人公だったよなぁ……よりにもよって死ぬ方のニコルと同じ世界線か……」
やはりと言うべきか何というか、親父が見合い相手の選定に関わっていた以上セレーネ嬢もやはり俺達と共通点のあるお名前をお持ちの女性だった。かといっていくつか候補がある中で一番条件が良く、かつ顔合わせをしてメチャクチャ好印象だったのを考えればそんな理由で蹴るのはあまりにもったいない。
父の手のひらの上で転がされているのを悔しく思いながらも婚約の話を進めてもらい、晴れて俺とセレーネ嬢は婚約者同士になったのだが。婚約から半年が経ったある日、定例の交流の席でとんでもない事実が判明した。
二人で我が家の庭園を歩いている時に、不意にセレーネ嬢がとあるフレーズを呟いたのだ。我ながら凄まじい反応速度でぐりんっとセレーネ嬢の方を向いてしまった俺に、セレーネ嬢が目を瞬く。
「失礼。今、何か……」
「いいえ。ただの独り言ですわ」
セレーネ嬢は愛らしくはにかみながらごまかしたが、俺の耳は確かに例の歌詞を聞き取っていた。俺に前世の自覚が芽生えたあの日、頭の中で流れた曲の歌い出しのワンフレーズを。
俺はしばしの逡巡の後、その曲の続きの歌詞を口にした。すると連歌を詠むようにセレーネ嬢がさらにその続きを述べて、サビ部分で俺達の声がメロディーを伴って重なる。
「失礼。転生者ですね?」
「ではニコル様も……」
「はい。我が家は母を除いて皆転生者が確定しております」
「ああ……」
セレーネ嬢は驚愕に見開いた目を潤ませたかと思えば、その場で泣き崩れてしまった。俺は大慌てでセレーネ嬢をベンチに連れて行き、泣き止まない彼女を座らせる。
「世界のどこかに私と同じ人がいるかもしれないと、ずっと探してきたのです。だけど私の頭がおかしいだけかもしれませんから、直接確かめる勇気がなくて……本当によかった……」
「俺に尋ねたのは、やはり名前のせいで?」
「いえ。世間の価値観とは少し異なった、前世に近い考え方をなさる方だったのでもしかしたら……と思ったのです。それで、覚えている流行りの曲を口ずさんだら気付いてくださるかもと」
話を聞くに、どうもセレーネ嬢は前世でバズったから例の曲を知っていただけで、俺達の名前の由来となった作品群にはそう明るくないようだ。名前が何か、と聞かれて俺は恥を忍んで打ち明けるべきか悩みに悩んだが、セレーネ嬢が泣いているのを見たお姉様方が突撃してきたことでそれどころではなくなった。
「淑女を泣かせるとはたいした男になったものね、愚弟」
「発言をお許しいただきたく。姉上と俺達の間には認識の齟齬がございます」
「申してみなさい」
「ははーっ」
アナベルお姉様に圧をかけられて、俺はセレーネ嬢の許可を取った上であらかたの事情を打ち明けた。セレーネ嬢も同じ転生者と聞いてアナベルお姉様はわずかに片眉を動かし、ザビーネお姉様は目を細め、レティシアは顔を輝かせた。淑女の経験値の違いがよくわかる反応だ。
「では、マクフリー様も私達の仲間なのですね」
「セレーネで結構ですわ。こんなにたくさん私と同じ方がいただなんて、とても知りませんでした」
セレーネ嬢とレティシアは互いに手を取り合って喜び、お互いの知識の擦り合わせを始めた。その結果、セレーネ嬢は例の曲とそれを素材にした動画がバズったことで元ネタの作品に興味を持ってちょびっと見ていたらしい。あとレティシアは平成生まれ令和没で、俗に言う「種」シリーズが好きだったと判明した。劇場版を見られてよかったね。
「カミーユは知っていたのだけれど、まさか由来がそれだとは思いませんでしたわ。それどころか皆様揃って同じ由来のお名前だなんて」
「タイトルとシリーズはごちゃ混ぜですけどね。そのくせ『女の名前なのになんだ男か』で統一してるからたちが悪くて」
「お父様ったら、オルガも候補に入れていたそうなんですよ。さすがにやめたと仰っていましたけれど……」
「オルガ、とは……?」
「えーと。ネットミームの止まらない人です」
簡潔な説明と一緒に俺がすっとおでこから手で流線を引くジェスチャーをすれば、セレーネ嬢は「ああ、あの」と頷く。さすがにネットで散々擦られた存在だけあってビジュアルは知っていたらしい。
「ごめんなさい、私は映画くらいしか存じ上げなくて……」
「お気になさらず。似たような時代に生まれついて同じ文化に触れている時点で奇跡のようなものですから」
「ところで、セレーネ様のメインジャンルはどちらで?」
「ええっと、私は……」
話していくうちにお互い同種のオタクと判明したレティシアとセレーネ嬢はすっかり打ち解けたようで、俺を置き去りにしてオタク談義に花を咲かせ始めた。どうも前世のセレーネ嬢は乙女ゲーマー兼夢女子というやつで、前世だと緑のおじさんにメロついていたらしい。そしてレティシアはカプ厨で、主人公格の一人のイケメンとボーイッシュ系のお姫様キャラのカプが最推しだったとか。未来の奥さんと妹が仲良くなってくれたのは嬉しいが、なんだか複雑な心地である。
「俺の知らないセレーネ嬢とレティシアがいる……」
「あなた、戦争を避けてかあまり踏み込んでこなかったものね。あの子は私達の前だとわりとこうよ」
「え、じゃあ姉上方も?」
「畑は違うけれどね。主食は違ってもお互い許容範囲だから仲良くしていたの。ちなみにお姉様が一番の古兵よ」
ねえお姉様、と微笑むザビーネお姉様と優雅な笑みを返すアナベルお姉様の姿に、俺は全てを察した。レティシアが男女のカップリングを好むオタクで、お姉様方が畑違いのオタクということはつまりそういうことであろう。その文化はメチャクチャ昔から存在し、嘘か誠か初代のリアタイ放送時はそっちのお姉さん方が人気を支えていたと聞く。
「時に姉上、リアタイ世代の作品は?」
「記憶が戻って早々お父様にブチ切れたとだけ言っておくわ。あまり乙女の秘密を詮索するものではなくてよ」
ひらひらと扇を扇ぐザビーネお姉様に、俺はそれ以上の詮索を止めた。ザビーネお姉様がこう釘を刺している以上、ご本人の面前でアナベルお姉様の前世の生年を探るのは自殺行為だ。まあたぶんザビーネお姉様は発言的に俺とそう離れていないだろうから、アナベルお姉様が前世においても最年長と見てよかろう。ますます頭が上がらなくなってしまった。
◇◆◇◆◇◆◇
俺とセレーネ嬢が正式に夫婦として結ばれたのは、俺が十九歳でセレーネ嬢が十八になる年のことだった。
前世では親に孫の顔はおろか結婚式さえ見せられなかった俺が、十九で結婚である。一人前の男は所帯を持って当たり前の世の中とはいえ、色々と考えさせられる部分は多い。
「俺、ちゃんとした父親になれるかな……」
もっぱらの心配事はそれだ。子供の名前で遊びまくった痛オタクの父も、対外的には立派な当主としてやっている。俺も記憶が戻るまでは父親として尊敬していたし、痛い人だと認識を改めた今でも領地経営の腕前は評価している。
俺よりも早死にした無計画不真面目馬鹿オタクがしっかりやれてるんだから俺だって大丈夫、と思いたいけど、不安は消えない。いかに現代日本を生きた記憶があったって、この世界での人生は一回目だ。貴族として、領主として大きな責任を背負っていかなければならないこの先の人生で係長がせいぜいだった前世の経験なんてそうそう通用するとは思えない。
「あなたの妻として、レイン伯爵家の女として、陰日向にあなたを支えるつもりです。共に歩んで参りましょうね」
そんな俺の悩みを言わずとも察しているのか、セレーネはどこまでも優しかった。せめて惚れた女の前くらいでは胸を張れるように、と父に習いながら領政に向き合い、社交と領内の視察に奔走し、自分の未熟さに落ち込み、今でもちょくちょく会いに来てくれるバーナード先生にだけ弱音を吐くうちに、セレーネが懐妊した。
「身体にだけは気を付けてくれよ」
「わかっていますわ」
心配することしかできない俺に、セレーネはたおやかに微笑んだ。前世よりも平均結婚年齢は若く、科学に負けじと魔術が発展している世界でも出産のリスクはゼロではない。ごく稀にとはいえ産後の肥立ちが悪く亡くなる妻もいるという話を聞けば、ますます不安材料が増えるばかりだった。
「あまり憂いを表に出すなよ。頼るべき者が迷っていては周囲が余計惑うばかりだ。使えるものは親でも使って万全を尽くして、虚勢でもいいからどんと構えろ」
「わかっていますよ」
こんな時ばかり頼り甲斐のあるセリフを吐く父親に、俺はどう向き合えばいいのかわからなかった。いつしか若輩者として現当主兼人生の先輩である父に教えを乞うことが当たり前になっていたし、尊敬できるようで尊敬したくない父親だとずっと思っていたから、一人の子供としてどう父と接すればいいのかを忘れてしまっていた。
「父親って何なんでしょうね先生……」
「お父君に聞いてみては?」
「それができないから悩んでるんですけど」
うぐぐ、と頭を悩ませる俺にバーナード先生は黙って薬酒を注いでくれた。前世で言う、命を養う酒の類だ。健康維持のためにちょびっと飲むものだからうまくはないけど疲れた身体にはよく効く。
「実直なのはあなたの美点ですが、一人で抱え込みすぎるのはよくありませんよ。普段は駄目なものは駄目とすぐ見切りを付けられるのに、どうしてこういう時ばかりは意地を張るんでしょうね」
「意地があるんですよ、男の子には」
「もう子供ではないでしょう?」
「言葉の綾です」
昔から憧れていた名言を呟いてみたが、シチュエーションのせいなのか俺の格が伴わないせいなのかずいぶんと情けない響きになってしまった。不自然でない言葉遣いに直しているとはいえ、時々前世のネットミームだのなんだのを吐いてしまうのは俺の悪い癖だ。痛いオタクだと散々親父をボロクソ言ってきたけれど、俺も人のことは言えない悪いオタクである。
「はあ〜あ。二十歳なんて大人だと思ってたけど、いざなってみたら全然気持ちが追っつかないや。駄目っすね、俺って」
「皆そんなものですよ。侮られないように未熟さを覆い隠して、大人の顔をして前を向いているだけです。私もそうでした」
「先生が? 嘘だぁ」
「本当ですよ」
くす、と先生が笑って、だからニコルも自信を持ちなさいと俺の背を叩く。俺は曖昧な笑みを返して、先生が注いでくれた薬酒に口をつけた。
親父だったら、ここで「嘘が下手だな」などと言うところなのだろう。だけれど俺は言わない。俺が子供の頃に出会ったバーナード先生はとてもスマートでカッコいい大人だった。その先生が俺を励ましてくれるために教えてくれた小さな秘密が嘘でも本当でも、大事にしたいと思ったから。
先生が俺のためにと作ってくれる薬酒は、毎度のことながら癖のある味をしていた。つんと鼻に抜ける薬草のきつさについ顔をしかめると、先生が口直しの水を注いでくれる。細やかな気配りに、俺もこういう大人になりたい——とますます尊敬の念が増したのであった。
それから数ヶ月後、俺が理想の大人に近付く前に初めての我が子が生まれた。セレーネに似た黒い髪に俺譲りの青い瞳の男の子だ。
「おお、おお! これが我が家の跡取り息子か!」
「あまり大きな声を出さないでくださいよ父上」
「わかっておるわい!」
「ああもう起きちゃったじゃありませんか!」
「あわわわわ」
レイン伯爵家に誕生した新たな命に、家族は大いに沸いた。父なんて異様に抱っこをしたがるのでめちゃくちゃ面倒だった。もっとも父が抱くと赤ん坊がぐずるので一度抱かせれば引き離すのは容易だったが。
「それでニコル。赤ん坊の名前は考えたのか」
「父上には考えさせませんよ」
「いやまだ何も言ってないのだが……」
初手から警戒されて父は露骨にしゅんとしていたが、俺は騙されない。これは疑われたことではなく命名に関与できないことに落胆しているのだ。実際、先に嫁いで第一子を産んだお姉様方が子供に付けた名前を聞いて「ノエルとエドガーっていたっけ?」と聞いてきたのだから。ちなみに、父が知らないか忘れているだけでノエルとエドガーはシリーズにいる。お姉様達はそのことをご存知なのだろうか?
「あなた、ニコルも言っていたでしょう。ウィキンズ先生に名付け親になっていただくそうですよ」
「ああ、そうか。そうだったな。なら仕方ないか」
母に言われて、惜しそうにしながらも父が引き下がる。ウィキンズとはバーナード先生の姓だ。俺の家庭教師として雇ったのをきっかけに先生はすっかり我が家のお抱え魔術師になっていて、我が子の名付け親だけでなく魔術の師にもなる約束をしてくれている。本当に、先生には頭が上がらない。
その先生は今、この日のために学んだという占星術を用いて生まれたばかりの子供の名前を決めている最中だ。名前は一生の授かり物だから、生まれた月日や容姿も加味して一番運勢の良い名前にしたいそうだ。熱の入り方がすごすぎる。
「そろそろ決ま……」
「しっ、話しかけないでください。気が散るといけません」
「しかしもう何十分もああしているが……」
「それだけ真剣なんです。水を差さないでください」
別室にこもる先生を少し覗きに行ったら、先生は天球儀と絵図が刻まれた盤を前にしてすさまじい早口で何事かを呟きながら紙にペンを走らせていた。この世界の占星術は条件を当てはめて運勢を導き出す数式みたいなものですよ、と昔先生から聞いたことがあるので、まさに今スパコン並の速度で頭脳をフル回転させて計算をしているのだろう。天才ってすごい。
そわつく父を引きずって執務に戻らせて、俺はセレーネと赤ん坊と三人だけになった。うるさい父がいなくなったおかげか赤ん坊は揺籠の中ですやすやと眠っていて、セレーネはその姿を愛おしげに見つめている。
「男の子でよかった。初めが女の子だと、男を産めとせっつかれるそうだから」
「ええ。でも一人ではいけませんから、きょうだいも産まなければ」
「また君には苦労をかけてしまうな……」
「その分あなたも悩んでいらっしゃるでしょう。お互い様ですわ」
セレーネと言葉を交わしながら、俺は赤ん坊を見下ろした。子供というのは産まれた時点で終わりではない。食事や衣服や学費でお金がかかるし、なんにも知らないしなんにもできない赤ん坊を一から世話していっぱしの人間に育て上げなければならないのだ。貴族だから養育費にはそんなに困らないし、育児も乳母や世話係や教育係にある程度任せられるけれど、子供はやはり親の背を見て育つものだ。子供が物心ついた時に恥ずかしく思われず、かつ人生の先輩として頼り教えを乞うことができる父親を目指さねばなるまい。
ひとまずは威厳と余裕からだな、と考えていると部屋に控えめなノックが響いた。どうも先生が長い占いを終えて、名前の候補を持ってきてくれたらしい。どうぞ入ってくださいと伝えればメイドがそっと開けた扉から少し疲れた顔をした先生が入ってきた。
「いくつか候補はありますが、一番運勢が良い名前がこれです。産まれたのは男の子なので『カーティス』ですね」
いつもより掠れた声で話す先生に、俺は先生が指し示した紙と先生とセレーネと赤ん坊を順番に見回した。先生が占い結果を記したらしい紙には、同じ頭文字から始まる名前がずらっと書き連ねてある。その中で丸がつけられているのがカーティスとセシリアという名前だ。
男ならカーティス、女ならセシリア。たぶん通称はセシリー。セシリアないしセシリーもだいぶアレがコレだけど、ニコルの息子がカーティスってちょっとどうなんだ?
「まあ。素敵な名前ですわね」
セレーネはやはり元ネタを知らないらしく、素直に喜んでいた。俺も元ネタの知識さえなければ手放しで絶賛していただろうから、何とも言えない。
「あくまで候補ですから、お二人で話し合って決めてください。では」
それだけ言い残すと、先生は軽く会釈をして去っていった。部屋から退出する間際に戸口に肩をぶつけてゴッと鈍い音が鳴ったので肝を冷やしたが、幸い赤ん坊は起きることがなく先生も何事もなかったように歩いていったので大丈夫だと思う。相当お疲れのようだから後で労いの差し入れでも持って行こう。
「ニコル様、何か気になることでも……?」
また赤ん坊と三人きりに戻ったことで、セレーネがおずおずと尋ねてくる。先生の出してくれた候補に俺が微妙な反応をしたからだろう。俺は素直にニコルとカーティスの元ネタとその接点について話した。
「まさか、そんな……偶然の悪戯ってあるものなのですね」
「しかもその他もだいぶ被弾してるんだよ。カナードもカリスもチャックもカーディアスもダメ。女まで見たらシャリアもクリスティーナも……あっシャルロッテもダメだな……」
「あ、確かに。シャリアもありますわね。でもまさかそこまで範囲が広いとは……」
「だよなぁ……」
セレーネと二人で名前候補を覗き込みながら、俺は深く溜息を吐いた。なまじ歴史が深いドル箱タイトルなだけに、当たり判定なんて探せば探すほど広がっていくのを失念していた。一見するとおかしくない名前ばかりが並んだ紙面は、しかし前世の知識と照らし合わせるとどこもかしこも被弾だらけだ。おまけによく見たらシャアなんて名前もある。なんでお前がピンポイントにいるんだ。そんでなんでシャリアと並んでやがるんだ。おっさんずマヴか。
「あ、見てください。ここにシャアが」
「うん。俺も気付いた」
数少ない知っている名前を見つけてちょっと嬉しそうにするセレーネを見て、俺はわしゃわしゃと頭を掻いた。
次代こそは親父の悪ノリの呪縛から逃れて普通の名前にしたいと思ったけれども、改めて思い出せばその判定は鯨の背ほど広い。仮にこの候補から被弾していない名前を選び取ったとしても、俺が知らないだけで実は被弾していたということもあり得る。
ではこの名前候補は一旦無しにして絶対被らない名前をつけるか、と言われるとそれもノーだ。俺が先生に名付け親になって欲しいと考えた一番の理由は、先生に憧れと恩義があるから。その先生が一生懸命に選んでくれた名前をふいにするなんて俺にはできない。
そも、考えてみればどんな名前をつけようとも前世の何らかのキャラクター名に引っかかるのではないか。この国における一般的な名前は前世の西洋風のそれとほとんど一致しているのだ。ヨーロッパやそれっぽい世界を舞台にした作品なんて日本には腐るほどあった。そう考えれば被弾範囲はお釈迦様の手のひらくらいまで広がる。
下手に被りを気にして独創的な名前をつけても、この国で妙な名前と揶揄されては意味がない。それならいっそ、変なこだわりは捨てて恩人の心遣いを尊重した方がずっといい。
しばらく考えた後、俺は自分の考えをセレーネに打ち明けた。セレーネは小さく頷いて、しなやかな指で俺の手を握ってくれた。
その晩、俺は赤ん坊の揺籠に小さな護符を吊るした。子供が生まれる前から作っていた木の護符には、災い避けの呪文と一緒に息子の名前を刻み込んである。
カーティス・レイン。それが俺の息子の名前だ。
◇◆◇◆◇◆◇
カーティスが四歳になる頃、お姉様方とレティシアが子供を連れて我が家にやってきた。同時に王都の方で文官になったというカミーユも恋人を連れてきたので、我が家はいっぺんに大騒ぎになった。
「お前、結局流れを断ち切れていないじゃないの」
「いやあ、ははは……」
呆れた視線を投げかけてくるアナベルお姉様——今はブライア公爵夫人に、俺は言葉を濁しながら息子達の方を見た。広い庭の芝生では、カーティスがいとこ達とボール投げで遊んでいる。妹のステラは女の子同士で固まってお人形遊びをしているようだ。
「よいではありませんか、お姉様。ニコルはきちんと名付け親を選んだそうですし、何よりあの頼りない弟が少しは見られるような男になったのです。少しくらいは褒めてやりませんと」
「そうね。まあ、お前にしてはよくやっているわ。これからも励みなさい、ニコル」
「はい……」
ザビーネお姉様の助け舟によって幸いそこまでつつかれずに済んだが、この調子ではお姉様方の子供も流れを汲んでますよと教えたらどうなることか。改めて墓場まで持って行こう、と決意をしたところで、足元にころころとボールが転がってきた。
「父上、投げてくださーい」
「父親使いが荒いな、まったく」
俺は軽く振りかぶって、手を広げたカーティスの方へボールを投げた。ボールはカーティスの手に弾かれて転がり、カーティスがそれを早足で追う。
「下手ね」
「本当」
「はは……」
お姉様方からの批判は、もちろんカーティスではなく俺に向けられたものだ。お姉様は甥っ子姪っ子には優しいが俺には厳しい。弟はつらいよ。
「ところでニコル。あなた、カミーユの恋人をどう思う?」
「ガーランド嬢ですか? しっかりしていそうで、カミーユには良い相手だと思いますが」
「そうね。カミーユは気弱だから手綱を取ってくれるくらいの女性がちょうどいいわ。ニコルもそうだったものね」
「義兄上もそうですもんね」
「お黙り」
軽く減らず口を叩いてみれば、ザビーネお姉様に扇の先で額を小突かれる。カーティス達が近くにいなければ「こつん」では済まず「ぺしん」になっていただろう。なお、ザビーネお姉様ではなくアナベルお姉様が相手なら甥っ子姪っ子の前だろうと問答無用で「ボ」だ。レイン伯爵家最強長女アナベルお姉様と遊んではいけない。
「そういえば、お姉様達はジャックを見なくていいのですか?」
「後で見に行くわよ。今はレティシアとカミーユに譲るわ」
ねえ、と微笑み合うお姉様方の姿は、何年経っても変わらない。あとひとつ首を足したらキングギドラになるボスの風格だ。レティシアはおとなしい子で本当によかった。
そのレティシアは、現在俺達に長女と長男を預けて俺の第三子のジャックを見に行っている。今頃はセレーネと思い出話に花を咲かしているかもしれないし、カミーユと交代でジャックを抱っこしてあやしているかもしれない。ジャックは人見知りをしない子だからきっと大人気だ。
「お父さま、むすんで」
ふと気付くと、ステラが足元に立って俺のズボンの裾を引いていた。その手にはツインテールがほどけてしまったお気に入りの人形が抱かれている。
「二つ結びがいいかな」
「ひとつがいい」
「こう?」
「お母さまみたいにゆって」
娘のリクエストに従って、俺は毛糸でできた人形の髪の毛を編み込みをつけたポニーテールにしてやった。ステラは「ありがとう」と顔を輝かせて、いとこの下へ走っていく。
「ニコルにしてはやるわね」
「及第点よ」
「どうも」
お姉様方の厳しい採点を謹んで受け取ると、兄上と呼ぶ声が聞こえた。見れば戸口の側で恋人とレティシアを連れたカミーユが手を振っている。
「交代だそうです。ジャックを見ていらしたらどうですか」
「そうね。ノエル達を任せたわよ、ニコル」
「きちんと見ておきなさいね」
「はい」
カミーユ達と入れ替わりに屋敷に入っていくお姉様方を見送って、俺はレティシアとカミーユと向き合った。レティシアはすっかり淑女の顔つきになって、カミーユも俺と同じくらい背が高くなった。二人とももう立派な大人だ。
「ジャックはどうだった?」
「とても可愛かったですわ。お兄様にそっくり」
「あまり人懐こいので驚きましたよ。赤ん坊はもっと泣くものだと思っていましたから」
「そうだろう。自慢の息子だ」
えへん、と胸を張ってみればレティシアもカミーユも、その恋人のガーランド嬢もくすくすと笑った。俺も気付けば立派な親馬鹿だ。
「大きくなったらレナードも連れてきてくれ。ジャックのいい遊び相手になる」
「もちろんですわ。その時はカミーユも来てちょうだいね」
「はい。自分の子供も連れて来られるよう努力します」
カミーユの言葉に、ガーランド嬢が頬を赤くする。まだ初々しさを残した恋人達を妹と微笑ましく見守っていると、「旦那様」と呼ぶ声がした。
「どうした」
走ってきたメイドに尋ねると、どうもジャックがぐずり始めたらしい。いくら人懐こいジャックでも公爵夫人の女帝オーラには耐えられなかったのだろうか。
「今行く」
息子達を見ていてくれとレティシアに頼んで、早足でジャックの部屋に向かう。ジャックは人見知りしない分、泣きのスイッチが入ると俺かセレーネのどっちかが抱っこしないと泣き止まないことがある。しかもどちらが正解なのかはその時々で変わるから大変だ。
現場に到着すると、扉越しにジャックの鳴き声が聞こえた。相変わらずの大音量だ。赤ん坊の肺活量というものは本当にすごい。
「ジャック、お父様が来たぞ。泣き止んでおくれ」
部屋に入ってすぐセレーネからギャン泣きするジャックを受け取り、両手で抱いてあやす。軽く背中を叩いたり話しかけたりしていれば次第にジャックの鳴き声は小さくなって、代わりに可愛らしい笑い声を上げ始めた。
「本当に泣き止んだわ」
「ニコルにも取り柄ができたのね」
感心した様子のお姉様達にジャックを引き渡して、交代で抱っこしてもらう。ザビーネお姉様は問題ないが、やはりアナベルお姉様になると少しぐずり始めるようだ。変な所が遺伝してしまったのかもしれない。
「どうして私が抱くと泣くのかしらね」
微妙に不服そうなアナベルお姉様を横目に、俺は腕の中に抱いたジャックの頬を撫でる。ジャックはつぶらな瞳に俺を映し、ふっくらとした頬で笑っていた。
「よしよし。お父様だぞ、ジャック」
名前を呼んでやれば、愛くるしい次男坊が返事をするように声を上げて笑う。腕の中の愛おしい重みを感じながら、俺はザビーネお姉様に苦言を呈されるまでいつまでもいつまでもジャックをあやしていた。
「女の名前なのに、なんだ男か」で構成されたきょうだいに生まれた苦労人の男主人公の話を書きてえなあ、という思いつきが発端の話でした。
なろうを見てるとアナベルとかザビーネとかレティシアとかちょいちょい見るけど、私が通ったジャンルだと全員男(レティシアは無性かも)なのでそっちが脳裏にちらついて微妙に集中できないという不治の病にかかっているんです。女の名前なのに、なんだ風評被害か。
◆ニコル
きょうだいの真ん中長男坊。名前の由来はピアノの人ではなく木星の方だと父親は言い張る。
容姿はオレンジっぽい金髪に青い瞳で、背はやや低い。姉とそう変わらない身長なのがコンプレックス。
頭の中ではチャラついたモノローグを流しているが、けっこう真面目で繊細かつ心配性なたち。
前世はSD直撃世代で、一番好きなのは騎士ガンダム。それ以外だとGガンが好き。
セレーネとの間に長男カーティス、長女ステラ、次男ジャックの三人の子をもうけた。なおカーティスとステラは黒髪青目、ジャックは金髪緑目。
◆セレーネ
マクフリー伯爵家次女。種の外伝に同じ名前の女主人公がいる。
容姿は黒髪にブルーグリーンの瞳。身長は普通くらいで、胸はわりと大きい。
おっとりした雰囲気とは裏腹に肝の据わったしっかり者で、有事の際は不安が勝りやすいニコルを叱咤する場面も多い。一方で「知らない人間の記憶を持つ自分は異常なのではないか」という不安を晴らしてくれた同じ転生者のニコルには深い恩義と思慕を感じており、しばしば家長として頼り甲斐のある顔を見せてくれる彼を心から愛し信頼している。
前世は若めの乙女ゲーマー兼夢女子。最新ゲーからリメイクやリマスターされた過去の名作乙女ゲーまで良さげなものに手を出す一方で、流行り物にも乗ってみるアンテナが敏感な女子。そのため閃ハサもGQも知らないなりに飛びついており、GQと閃ハサの影響で初代の映画版を見るなどしていた。GQで何が起きたのかを理解して大変驚いたらしい。なおイケおじ好きで、乙女ゲーに若い男が多いことを嘆きつつもGQの緑のおじさんにメロついていた。
ニコルと結婚し子宝に恵まれて以降は妻として母として家庭をよく支え、やがて長男のカーティスに家督を譲ってからはニコルと二人で穏やかな余生を過ごした。歳を重ねたニコルがこれまで出会った中で一番魅力的なイケおじだった、という本心はレティシアにだけ語ったそうな。
◆アナベル
きょうだいの頂点長女様。名前の由来はコンペイトウの悪夢さん。
容姿は銀に近いプラチナブロンドに紫の瞳、背はすらりと高い。またかなりの爆乳の持ち主。
かなり気が強くおっかない性格で、そこそこヤンチャ坊主だった幼いニコルをビシバシしつけて姉に逆らわない聞き分けの良い子にした。なお妹には優しい。
前世は初代リアタイ世代の歴戦の貴腐人、というかもはや腐死鳥。令和まで生きており、かつて自分が熱を上げたキャラクターが令和においしくなって新登場したのを面白く思いながら観ていた。
公爵家に嫁ぎ、夫を尻に敷いて二男一女に恵まれた。
◆ザビーネ
きょうだいのNo.2次女様。名前の由来は貴族主義さん。
容姿は金髪に紫の瞳、姉と同様に長身。また胸はかなり大きい。
姉ほど苛烈ではないが気は強い方で、やや男勝り。淑女故にあまり披露することはないが、ビンタの威力はアナベルより上。前世は一人っ子だったので弟妹がいるのが嬉しく、よく構って遊んでいた。
前世はW直撃世代の貴腐人。そのため父がミリアルドという名前で、しかもそれが改名したものだと知りかなりキレていた。世代的に先輩のため、アナベルを「姉御」扱いし慕っている。
伯爵家に嫁ぎ、二男二女に恵まれた。やや姉さん女房気味だが尻に敷くまでは行っていない。
◆レティシア
きょうだいの四番目三女ちゃん。名前の由来はマイスター補充要員。
容姿は黒髪に紫の瞳、姉達と比べて小柄。胸はそこそこある方。
強気な姉達に反しておとなしい性格だが、好きなことにかける熱は人一倍。少し人見知りの気がある反面懐いた人にはとことん懐くので可愛がられやすい。
前世は種世代のカプ厨オタク。主食は男女だが、琴線に触れれば男男も女女も食える雑食。諦めかけていた劇場版を見られて成仏できたものの、ZEROの前に死んだのが心残り。
裕福な伯爵家に嫁ぎ、一目惚れ同士でラブラブな旦那様との間に三男四女をもうけた。産みすぎだよ!とニコルには心配されたそう。
◆カミーユ
きょうだいの末っ子次男くん。名前の由来は「なんだ男か」が逆鱗に触れた主人公。
容姿は黒髪で青い瞳、やや小柄。兄姉共々小柄なのは父方の祖母の血ではないか、と思っている。
内気で引っ込み思案な方で、幼い頃はきょうだいで一番の泣き虫だった。成長するにつれて泣き虫は克服し、穏和ながらも強く出るべき時は強く出ることを覚えたが、金銀お姉様いわく「まだヌルい」そう。
前世はAGE世代のオタク。初代世代の父親に育てられた影響でオタクになった。子供の頃はダン戦の方が好きだったので、AGEをしっかり視聴したのは大人になって以降。気になるところはありつつもなんだかんだ好きらしい。
兄が後継になったので何かしら身の振り方を考えようと色々していたところ、ダメ元で応募した王宮文官試験に合格。王宮勤めをしているうちに気になる女性ができ、アプローチの末両想いに。やがて彼女と結婚し男の子と女の子の兄妹をもうけ、幸せな家庭を築いた。
◆ミリアルド
レイン伯爵家当主、のち前伯爵。旧名はオリヴァーで、結婚の際に火消しの風の人の本名に改名した。周りには「異国の占いで出た縁起のいい名前」と説明している。
容姿は金髪碧眼で、貴族らしく口髭をたくわえている。背は普通くらい。
当主や父親としてはしっかりしているが内心転生者としての孤独感を抱えており、「同じ素性や趣味を持った人間が気付いてくれるように」と子供にアニメキャラの名前をつけまくり、時々ネットスラングを口走っては反応する人間を探している。転生者と判明した子供達相手にネットミームだのアニメのセリフだのを擦りまくるのは寂しさの反動で、同じ知識を持っているのを確かめ合ってたくさん前世の話をしたいからである。
前世は00世代の大学生。オタクの父母を持ち漫研やオタサー育ちのずぶずぶのオタクで、ネットミームや語録を日常的に擦っていた。
転生後はレイン伯爵家の嫡男として育ち、周りに転生者が見つからず誰にも言えない寂しさを抱えていたところでルクレツィアと出会い一目惚れ。改名の理由は「彼女に相応しい男になるように」という願掛けと転生者探しのためで、断じて名前だけが結婚の決め手ではない。が、日頃の言動のせいで子供達には疑われている。
レインに家督を譲った後はのんびり隠居生活を送り、時々孫の顔を見てはデレデレするおじいちゃんになった。
◆ルクレツィア
レイン伯爵夫人、のち前伯爵夫人。何日ぶりの再会かをめちゃくちゃ正確に覚えていたイケお姉さんと同じ名前である。
かなり気が強く男勝りで、その気丈さからかつて侯爵家との婚約話が破談になり悪評を立てられていた。
しかし夜会で偶然出会ったオリヴァー(のちのミリアルド)と話すうちに、横柄な侯爵令息に毅然と対応したことを生意気となじらずむしろカッコいいと称えてくれた彼に好感を持つ。その後オリヴァーからの婚約の打診を受け入れ、婚約者同士になる。
転生者ではないが、時々どこか寂しそうな顔を見せるも理由を語ってくれないオリヴァーに詰め寄ったところ転生者であることを告白されたため、彼が転生者なのは把握している。それでもオリヴァーのことを心から愛しており、オリヴァーの抱える孤独を埋める仲間が見つかるように子供に前世に繋がる名前を付けることを許した。なお、「女の名前なのになんだ男か」祭りであることは把握していないので知られたら折檻は必至。
子供達が転生者であることも夫伝いに知っており、仲間が見つかって夫が以前より明るくなったのを嬉しく思っていた。
隠居後に一匹の子猫を拾い、夫が「トールギス」と名付けたその猫と仲良く暮らしている。
◆バーナード
ニコルの魔術の教師で、のちにレイン伯爵家お抱え魔術師となる。
容姿は金髪に青い瞳で、すらっとした長身の美形。女性によくモテるが、一途に片想いする幼馴染がいるため全部かわしている。
大人の余裕を備えたスマートで完璧なイケメン、という風にニコルの前では振る舞っているが実は慎重派で恋には奥手。また隠しているだけで転生者であり、Gジェネとスパロボ程度でしか元ネタ知識がないので「ザビーネ?カミーユ?」と思いはしてもニコル達の名前がみんな繋がっていることに全然気付かなかった。後にひょんなきっかけで転生者バレした時にはニコルはひっくり返ったそうな。
ニコルの結婚に伴い、弟子の手前自分もそろそろ勇気を出さないと…!と勇気を出して幼馴染にプロポーズし、無事成就。のちに男女の双子を授かる。さらにレイン家の支援のもと進めていた研究の成果が認められて魔術師協会から賢者位を賜る。その頃には転生者バレしていたので、やけに喜ぶミリアルドと親父に呆れるニコルから解説を受けて「バーナードで賢者って……あっそういうことォ!?」とようやく気付いた。嘘だと言ってよバーニィ。
◆ジョナサン
レイン家前伯爵で、ニコル達の祖父。
容姿は赤毛に青い瞳で、背はやや高め。なお妻は金髪に青い目で小柄。
若い頃はやや喧嘩っ早かったが、歳を取って落ち着いてからは気風が良く情に厚い好々爺である。
転生前は江戸時代の人で、酒と花火と相撲をこよなく愛する粋な男だった。隠居後に友人の家で生まれた子犬を引き取り、「強い犬になれ」との願掛けで最強と名高い雷電為右衛門とスター横綱の小野川喜三郎にあやかった名前をつけて育てた。そのおかげか優秀な猟犬になったそうな。
妻のマーガレットは転生者ではなく、「ヨナ」と呼ばれているのも全くの偶然。婚約者時代に彼女の前で「与太郎」という言葉をうっかり使ったのを面白がられ、そこから妻だけには「ジョン」ではなく与太郎に近い「ヨナ」と呼ばれるようになった。




