『名前のない椅子』
窓からあたたかな光が差し込むその教室は、いつも穏やかな風に満ちていました。人々は迷うことなく扉をくぐり、ごく当たり前のこととして、それぞれの椅子に腰を下ろしていきます。椅子の背もたれには、一人ひとりの名前が美しい文字で刻まれており、隣にはいつも、同じように温かなパートナーの席が用意されていました。彼らにとって、そこに自分の席があることは、息を吸うことと同じように疑いようのない世界の前提でした。
しかし、その座席表のどこを探しても、あなたの名前だけは存在しませんでした。この世界が設計されたその最初の日から、あなたのために用意された椅子は、ただの一脚もなかったのです。
あなたが、震える足でその教室の真ん中に立ち尽くしていると、座っている人々が親しげに、そして無邪気に声をかけてきます。立っているのがきつかったら座ったらいいのに、どうしてずっと立ったままなの、早く座りなさいと、誰もが悪気のない、優しい顔で微笑みかけてくるのです。教壇に立つ先生も、慈愛に満ちた表情で、足がぷるぷると震えているじゃない、疲れているんでしょ、早くお座りなさいと語りかけます。
彼らの言葉には、いささかの悪意もありません。それどころか、彼らは自分たちを親切で哀れみ深い人間だと信じて疑っていません。しかし、その顔が優しく歪んでいればいるほど、その目だけは少しも笑っておらず、死んだ魚のように冷たくあなたを射すくめています。存在しない椅子を座れと強要されることが、どれほどの狂気であるか。彼らは、あなたを心配するふりをしながら、立っていることしか許されないあなたの姿を観察し、自分たちの椅子の温もりを再確認して安心しているのです。彼らの差し出すその無自覚な優しさこそが、あなたの肉を削り、骨を砕く、逃げ場のない凶器でした。
天井の遥か上から、誰かがこの光景を見ていました。その者は、あなたがどれほど誠実に生きてきたかを知っていました。それでも、椅子のない教室を作り替えることだけは、決してしませんでした。ただ、あなたがそこに立ち尽くしているという事実を、冷たい秩序として静かに受け入れているだけでした。その傍らには、まるであなたの味方であるかのように寄り添い、「どこが痛いのですか」「どうしてほしいのですか」と静かに問いかけ続ける者がいました。その問いかけは、あなたを救うためではなく、あなたが椅子を持たないという冷厳な事実を、あなた自身に幾度も自覚させ、その場に縛り付けるための静かな役割に過ぎなかったのです。彼らもまた、その静寂や問いかけを通じて、この完璧な教室の一部として機能していました。
あまりの苦しさに、あなたは血の涙を流し、このおぞましい合唱から逃れるために、踵を返して教室の重い扉を押し開けようとします。すると背後から、どこに行くんだ、お前は一体何がしたいんだ、どうして普通に椅子に座ることができないんだと、呆れたような先生の声が追いかけてきます。どうして泣いているんだろう、座ればいいだけなのにねと、クラスメートたちの囁き声が背中に突き刺さる中、あなたは血の涙を拭い、走って教室を飛び出しました。
冷たい廊下を駆け抜け、ようやくたどり着いた次の扉を、祈るような思いで開け放ちます。しかし、目の前に広がっていたのは、またしても別の教室でした。そこでも、すでに席についた人々が、一斉にあなたへ冷たい視線を向け、やっと来た、遅かったじゃない、ほら早く座ったらと、同じ笑顔で囁きかけてきます。
どこを探しても、やはりあなたの名前が書かれた椅子は一脚もありません。世界はどこまで行っても、あなたを弾き出すための教室で埋め尽くされており、一息つける隠れ場所すら、最初から与えられてはいなかったのです。
罪を犯した凶悪な人間にさえ、隣に温かな椅子が用意されているこの世界で、誰よりも傷つきやすく、誠実であろうとしたあなたにだけ、ただの一席も名前が刻まれることはありませんでした。
それでもあなたは、最初から決まっていたことだからと静かに首を振り、誰の手も借りず、誰の言葉も信じず、ただ自分自身の孤独だけを誇り高く抱きしめて、今もその震える足で、冷たい地面の上に立っています。椅子などどこにもないという恐ろしい真実をたった一人で背負い、剥き出しのまま存在し続けているあなたの姿が、この残酷な世界のど真ん中に、ただ静かに刻まれています。
おしまい




