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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第19章 グレイヴ伯爵&五年冬休み編

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第485話 一緒なら

 翌朝。


 学院寮の部屋で簡単な朝食を済ませたところで、扉が叩かれた。


「はい」


「リオン・ハル殿。王宮から使者がお見えです」


「……王宮?」


「ピー?」


 ベッドの上にいたピコも顔を上げる。


 昨日行ったばかりなんだけど。


 嫌な予感がする。


 ◇


「また王宮?」


 ローデン商会の王都支店へ入ると、ヴィクトルが呆れた顔をした。


「うん」


「昨日も行ってたよな?」


「行ってた」


「忙しいな、お前」


「俺もそう思う」


「ピー!」


 抱えていたピコをヴィクトルへ渡す。


「今日もお願いしていい?」


「いいけど」


 ヴィクトルがピコを抱える。


「ピー!」


「ほら。こいつ、もう慣れてるぞ」


「それはそれで複雑だな」


「飯が出る場所として覚えられてるんじゃないか?」


「ピー!」


「たぶん当たりだね」


 ピコの頭を軽く撫でる。


「じゃあ行ってくる」


「おう」


 王宮へ向かった。


 ◇


 案内された部屋へ入る。


「失礼します」


 中にいたのは陛下とラウグレン公。


 そして、もう一人。


「エドガー?」


「リオン」


 エドガーがこちらを見る。


「エドガーも呼ばれたの?」


「ああ。僕も今朝突然だ」


 顔を見合わせる。


 エドガーがいて少しだけ安心した。


「二人とも座れ」


 陛下に言われ、俺たちは並んで席についた。


「今日呼んだのは、グレイヴ伯爵についてだ」


 やっぱり。


「ただし、グレイヴ本人の話ではない」


「違うんですか?」


「ああ。司法上のことはユリウスに任せている」


 陛下がラウグレン公を見る。


 ラウグレン公が机の上に何枚かの資料を置いた。


「問題はグレイヴ領そのものだ」


「領地……」


「今回の調査で、グレイヴ伯爵家が王家へ提出していた財政資料の一部に、重大な問題があることが分かった」


「はい」


「そうなると、それ以外の報告についても、そのまま信用するわけにはいかない」


 税収。


 人口。


 農地。


 水路。


 道路。


 王家が支援した事業の進捗。


 領地の雇用状況。


 これまで王家は、グレイヴ伯爵家から上がってくる報告を基に判断していた。


「すべてが虚偽だと決めつけるつもりはない」


 ラウグレン公が言う。


「だが、どこまでが正しく、どこに問題があるのかは確認し直す必要がある」


「なるほど」


「そのため、王家から正式な視察団を出す」


 陛下が言った。


 確かに、それが一番確実だと思う。


「領都だけを見るつもりはない」


 ラウグレン公が続ける。


「主要な農村、水路、街道、王家が支援した事業地、それから人口流出が特に多い地域も確認する」


「かなり広いですね」


「当然、グレイヴ領全域を回るわけではない。地域ごとに状況の異なる場所を選んで見る」


「それでも結構かかりそうですね」


「現地で七日ほどを予定している」


「一週間……」


 ハル領より広い伯爵領だ。


 主要な場所だけでも、そのくらいは必要なんだろう。


 エドガーが資料へ視線を落とした。


「王都からグレイヴ領都までは?」


「通常の馬車で四日かかります」


「となると往復で八日ですね」


「ああ」


 エドガーが少し考える。


「ということは、十五日ほどですか」


 四日。


 七日。


 四日。


「……十五日か」


「何だ、その顔は」


 陛下が俺を見る。


「いや、冬休みって意外と短いなと思いまして」


 隣でエドガーが小さく笑った。


「僕も今、同じことを考えていた」


「エドガーも?」


「僕だって学生だからな」


 なんとなく安心する。


 第二王子でも、冬休みが減るのは気になるらしい。


「話はまだ終わっていないぞ」


「あ、はい」


 陛下が俺たちを見る。


「エドガー」


「はい」


「お前にも同行してもらう」


「承知しました」


 返事が早い。


「王族として、自分の目で見てこい。王宮に届く報告書だけでは分からないものもある」


「はい」


 エドガーが真っ直ぐ頷く。


 以前、俺も王家の地方視察には同行したことがある。


 でも、あの時は自分が何を見るべきなのか、そこまで考えていなかった。


 今回は違う。


「それから、リオン」


「はい」


「お前も行け」


「…………」


 やっぱり。


「自分もですか?」


「そうだ」


「何となくそんな気はしてました」


「なら話が早い」


 陛下が少し笑った。


「ただし、勘違いするな。グレイヴ領をお前に立て直せと言っているわけではない」


「それなら安心しました」


「そこまで任せるつもりはない」


 当然だ。


 伯爵領を十五歳の学生に丸投げされたら、俺も困る。


「今回、お前に求めるのは意見だ」


「意見?」


「ハル領を見てきたお前の目で、グレイヴ領を見てほしい」


 ラウグレン公が言う。


「農地、雇用、商業、水路、領民の生活。王家の役人とは違うところに気づく可能性がある」


「…………」


「昨日、お前は人口流出が最初の原因ではなく、領地が悪くなった結果として始まったと言ったな」


「はい」


「なら、その原因が今のグレイヴ領にどれだけ残っているのか。それを現地で見てほしい」


 なるほど。


「でも、自分はグレイヴ領を資料でしか知りません」


「だからだ」


 陛下が即答した。


「え?」


「その資料が信用できなくなった」


「……ああ」


 確かに。


「答えを出してから行けとは言っていない」


 陛下が続ける。


「実際に見ろ。分からないなら、分からないと言えばいい」


「はい」


 それならできる。


 いや、何が見えるかは分からない。


 でも最初から答えを決めて現地へ行くより、その方がいい。


「僕も助かります」


 隣からエドガーが言った。


「え?」


「僕は王家側の資料を見る機会はある。でも、領地を立て直す現場に関しては、リオンの方がずっと経験がある」


「俺だって全部分かるわけじゃないよ」


「それでも僕よりは分かるだろ」


「まあ……」


「僕一人で行けと言われるより、リオンが一緒の方がいい」


「…………」


 ちょっと嬉しい。


「俺もエドガーがいるなら助かるよ」


「どうして?」


「前にも王家の視察には同行したことがあるけど、今回は最初から役割を持って参加するから」


「ああ」


「誰にどこまで聞いていいのかとか、勝手に動いていいのかとか、そういうのはエドガーの方が分かるでしょ」


「そこは任せろ」


「頼りにしてる」


「こっちも」


 同じ場所へ行く。


 でも、見るものはたぶん違う。


 俺だけでは見落とすものをエドガーが見る。


 エドガーが気づかないものを、俺が見つけられるかもしれない。


「仲がいいのは結構だが、視察団の責任者は別にいるからな」


 陛下が言った。


「あ、はい」


「当然です」


 俺とエドガーがほぼ同時に答える。


 ラウグレン公が少し笑った。


「王家の監察官を責任者にする。財政担当、農政担当、記録官、それに護衛も同行する」


「出発は?」


 エドガーが聞く。


「二日後だ」


「二日後……」


 早い。


「何か予定があるのか?」


 陛下に聞かれる。


「冬休み後半にはハル領へ戻る予定があります」


「予定通りなら十五日ほどで王都へ戻れる」


 ラウグレン公が言う。


「なら大丈夫だと思います」


 ミラが来るのは冬休み後半。


 予定通りなら間に合う。


「視察が終わったら、一度王都へ戻るんですよね?」


「ああ」


 陛下が頷く。


「直接報告してもらう」


「分かりました」


 そこまでが今回の仕事になる。


「分かりました。同行します」


「僕も問題ありません」


「では決まりだ」


 陛下が資料を俺たちの前へ押し出す。


「今日と明日で準備しておけ」


「はい」


 ◇


 王宮の部屋を出る。


「十五日か」


 思わず呟いた。


「長いな」


 隣を歩くエドガーも同じことを言う。


「エドガーもそう思う?」


「思うよ」


「よかった」


「何が?」


「王子だから気にしないのかと思ってた」


「何でも王族扱いするな」


「王子でしょ」


「冬休みが減ることまで喜ぶ王子はいない」


「それもそうか」


 少し笑う。


 その時、ふと思い出した。


「……ピコ、どうしよう」


「ピコ?」


「十五日もヴィクトルに預けるのは、さすがに悪いかなって」


「連れていけばいいだろ」


「え?」


「ピコも」


「グレイヴ領に?」


「ああ」


「王家の正式な視察団だよ?」


「だから何だ?」


「いや……スライム連れて行っていいのかなって」


「学院にも普段から連れてきてるし、視察の邪魔をするような奴でもないだろ」


「それはそうだけど」


「責任者には伝えておけばいい。僕からも話しておく」


「いいの?」


「いつも一緒なんだろ?」


「うん」


「なら、二週間近く離す必要もないだろ」


 エドガーが普通のことみたいに言う。


「ありがとう」


「別に」


「助かるよ」


「僕も長い馬車移動でピコがいた方が退屈しなくて済みそうだ」


 少しだけ気が楽になった。


 ◇


「グレイヴ領?」


 ローデン商会へ戻ると、ヴィクトルが大きな声を出した。


「うん」


「いつ?」


「二日後」


「急だな」


「俺もそう思う」


 ヴィクトルの腕の中で、ピコがこちらを見ている。


「ピー!」


「ただいま」


 ピコを受け取る。


「どのくらい行くんだ?」


「王都から四日。現地で七日。帰り四日」


「十五日?」


「うん」


「お前の冬休み、なくなってない?」


「まだ半分以上あるよ」


「そういう問題か?」


「俺もよく分からない」


 ヴィクトルが笑う。


「で、ピコは?」


「連れていく」


「お」


「エドガーが、連れていけばいいって」


「エドガーも行くのか?」


「うん」


「第二王子と一緒に領地視察か」


「俺たちだけじゃないよ。王家の監察官とか役人もいる」


「まあ、そりゃそうか」


 ヴィクトルが少し考える。


「でもエドガーが一緒ならいいな」


「俺もそう思う」


「珍しく即答だな」


「王家側のことはエドガーの方が分かるし」


「向こうは?」


「俺がいた方が現場を見る時に助かるって」


 ヴィクトルがニヤッとする。


「相思相愛だな」


「その言い方やめて」


「ピー!」


「ピコまで乗るな」


 ヴィクトルが笑う。


 俺もつられて笑った。


「グレイヴ領なら、商人の話も聞くんだろ?」


「たぶん」


「必要なら、うちの取引先をいくつか教えるけど」


「ありがとう。でも今回は王家の正式な視察だから、まず監察官に確認するよ」


「分かった」


 以前なら、自分で勝手に聞きに行っていたかもしれない。


 でも今回は違う。


 俺は調査をする人間じゃない。


 王家の視察団に同行して、現地を見る。


 それでいい。


 ◇


 学院寮へ戻る。


「ピー!」


「旅行じゃないからね」


「ピー!」


 ピコは分かっていないらしい。


 机の上に王宮でもらった資料を広げる。


 地図。


 視察予定地。


 過去に王家が支援した事業。


 人口流出が多い地域。


 農地。


 水路。


「広いな……」


 ハル領より大きい。


 一週間で全部を見ることはできない。


 領都。


 王家の支援事業が多い地域。


 人口流出が特に大きい村。


 農業中心の地域。


 商業が比較的残っている地域。


 いくつか違う場所を選んで見ていくことになる。


 地図の端へ目を移す。


 王都からグレイヴ領都まで四日。


 グレイヴ領都からハル領までは三日ほど。


 普通なら、視察が終わったあとそのままハル領へ向かった方が近い。


 でも今回は王家の正式な視察だ。


 一度王都へ戻って、陛下へ報告するところまでが仕事になる。


「まあ、仕方ないか」


「ピー?」


「王都に戻るまでが仕事だって」


「ピー!」


「分かってないよね」


 俺は地図へ視線を戻した。


 これまで俺が知っていたグレイヴ領は、全部誰かが書いたものの中にあった。


 グレイヴ伯爵から王家へ出された報告。


 王宮の資料。


 商会の記録。


 そこに書かれていたことが、全部間違っていたとは思わない。


 でも、もう資料だけを見て判断することはできない。


 今度は自分の目で見る。


 しかも一人じゃない。


 エドガーもいる。


 あいつなら、俺とは違うところを見るはずだ。


 それはたぶん、俺にとっても助かる。


 ◇


 二日後。


 王都の門の前には、何台もの馬車が並んでいた。


 王家の監察官。


 財政担当。


 農政担当。


 記録官。


 護衛。


 そして。


「おはよう、リオン」


「おはよう」


 エドガーがいた。


「ピー!」


 俺の腕の中でピコが鳴く。


 エドガーが笑う。


「本当に連れてきたな」


「エドガーが連れていけって言ったんじゃん」


「そうだったな」


「ピー!」


 視察団を率いる監察官が、俺の腕の中のピコを見る。


「リオン殿。そのスライムも同行するのですね」


「はい。ご迷惑にならないようにします」


「僕からも昨日伝えています」


 エドガーが言う。


「承知しております」


 監察官が頷く。


「日程に影響しない範囲でお願いします」


「分かりました」


「ピー!」


「ピコも分かったみたいです」


「本当か?」


 エドガーが笑う。


「たぶん分かってない」


「だろうな」


 俺も笑った。


「では出発します!」


 監察官の声が響く。


 俺たちは馬車へ乗った。


 ゆっくりと馬車が動き始める。


 王都の門を抜け、城壁が少しずつ遠ざかっていく。


 これまで資料の中でしか知らなかったグレイヴ領。


 王都から四日。


 今度はエドガーと一緒に、その領地を自分たちの目で見ることになった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
もう一点、以前から気になっていたのですが、今回の伯爵領視察について、国王がリオン個人へ直接命令している点はどういう扱いなのでしょうか。 リオンはハル子爵家の人間で、学院もすでに二学期を終えています。…
なんつーか・・・状況というのは原因を的確に押さえて対処できないと加速度的に悪くなるもんですね 天候など経年的に変化するものでも「今より悪くなる前提」で対策採らないと悪くなった時に対処できない 人為の原…
級友のパパと話しているノリだけど、、、 陛下ですからね!!! あと、 王家も王家で、給金くらいはだして!
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