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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第13章 リオンの夏休み(3年生)

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第224話 便利すぎる魔法

 翌朝。


 俺は王立学院の寮の自室で目を覚ました。


 窓の外には、夏の朝の光が差し込んでいる。


 いつもなら、学院で迎える朝は少し落ち着く。


 だが今日は違った。


 昨日は、あまりにもいろいろなことがありすぎた。


 その結果、司法院の調査官は護衛付きでハル領へ向かうことになった。


 たぶん、すでに早馬で出発しているはずだ。


 俺も、ハル領へ戻らなければならない。


 父上は病床にいる。


 ノルとレナードには、司法院の調査官が向かっていることを伝えなければならない。


 ガザルと思われる男は、まだ騎士団の詰め所にいる。


 黒い魔石片も、西の森の術式跡も、これから調べられる。


 だが、その前に一つだけ済ませておくべきことがあった。


 学院長への報告だ。


 俺は、王立学院の自室を転移先として使った。


 しかも、学院長からは福嶋亮太の魔法を自重するように言われていた。


 緊急だったとはいえ、何も言わずに戻るのはまずい。


 ヴァレスト公爵にも、学院長へ説明するように言われている。


 俺は顔を洗い、最低限の身支度を整えた。


 そして、学院長室へ向かった。


 ◇


 夏休み中の学院は静かだった。


 廊下を歩いても、生徒の姿はほとんどない。


 普段なら聞こえる話し声や足音も、今はかなり少ない。


 それでも、学院が完全に止まっているわけではなかった。


 事務方らしき職員が、書類を抱えて歩いている。


 教師の姿もいくつか見えた。


 夏休みとはいえ、新学期の準備もあれば、研究資料の管理もある。



 学院長がいる可能性は高い。


 そう思って取り次ぎを頼むと、すぐに中へ通された。


 扉を叩く。


「入ってくれ」


 中から、いつもの低い声が返ってきた。


 俺は扉を開けた。


 学院長は机に向かい、何かの書類を読んでいた。


 こちらへ顔を向けた瞬間、少し意外そうに眉を動かす。


「おぉ、ハル。まだ実家には帰ってなかったのか」


 自然な声だった。


 学院長からすれば、夏休みに入った生徒が、まだ学院に残っていたように見えたのだろう。


 俺は一瞬だけ言葉に詰まった。


「いえ。帰っていました」


「ん?」


 学院長の目が細くなる。


「帰っていた?」


「はい。昨日、ハル領から王都へ戻りました」


 部屋の空気が、そこで変わった。


 学院長は、ゆっくりと書類を机に置く。


「……どういう意味だ」


 ごまかせる話ではない。


 俺は背筋を伸ばした。


「学院長。自重するように言われていた福嶋亮太の魔法を使いました」


 学院長の表情が、一段低くなる。


「自重しろと言ったはずだ」


「はい」


「それで?」


 怒鳴られはしなかった。


 だが、声は明らかに重い。


 俺は頭を下げた。


「今回は、使わざるを得ないと判断しました」


「理由を話せ」


 学院長は短く言った。


 俺は頷き、昨日ハル領で起きたことを説明した。


 ◇


 できるだけ要点だけを伝える。


 ハル領西の森で、死骸魔物の群れが出たこと。


 その魔物たちの胸には、黒い魔石片が埋め込まれていたこと。


 核を壊すと、動きが止まったこと。


 王都西南の森で見つかった黒い魔石片と、特徴が似ていたこと。


 森の奥で術者らしき男を捕らえたこと。


 その男が、灰狼の牙の頭目ガザルである可能性が高いこと。


 さらに、誰かから依頼されて動いていた疑いがあること。


 ただし、貴族関与については、まだ証拠がないこと。


 そして、王都ギルドと司法院へ報告したこと。


「ヴァレスト公爵にも説明しました。司法院の長として、調査官をハル領へ送る判断をされています」


 学院長は黙って聞いていた。


 最初は、転移魔法を使ったことへの厳しさが顔に出ていた。


 だが、話が進むにつれて、その表情が少しずつ変わっていく。


 怒りだけではない。


 事態の大きさを測っている顔だった。


「黒い魔石片。灰狼の牙。ガザル。貴族関与の可能性」


 学院長は、低く繰り返した。


「確かに、早馬の二日を待つには重い話だな」


「はい」


「君が王都へ急いだ判断は、理解できる」


 その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。


 だが、学院長はすぐに続けた。


「だが、それと転移魔法を勝手に使ってよいかは別だ」


「はい」


「転移魔法は、まだわからないことが多く、安全に使える保証もないはずだが?」


「分かっています」


「分かっている者ほど危うい」


 学院長は、俺をまっすぐ見た。


「自分は分かっていると思って使うからだ」


 その言葉は、かなり刺さった。


 確かに、俺は危険性を理解しているつもりだった。


 だからこそ、今回だけは必要だと判断した。


 けれど、そこが危ない。


 自分で必要だと判断できてしまうから、使えてしまう。


 前世でも、そういうものを見てきた。


 便利な仕組み。

 便利な抜け道。

 便利すぎる人材。


 最初は、今だけだと思って使う。


 だが、何度か使ううちに、それが当たり前になる。


 学院長が言っているのは、たぶんそういうことだ。


「今回は、情報の遅れそのものが危険だと判断しました」


 俺がそう言うと、学院長はしばらく黙った。


 そして、深く息を吐く。


「その判断は、間違っていない」


「ありがとうございます」


「だが、次からは必ず報告しろ。事前が無理なら事後でもだ」


「はい」


「今回は事後にあたるがな」


「……すみません」


 俺はもう一度頭を下げた。


 学院長は眉間を押さえた。


「まったく。夏休みに入ったと思ったら、ハル領で事件を拾い、王都へ飛び、司法院まで動かしているとはな」


「拾ったわけでは……」


「巻き込まれたと言いたいのか」


「はい」


「君の場合、それも半分しか信用できん」


 言い返しにくい。


 俺は黙った。


 学院長は呆れたように鼻を鳴らしたが、目はまだ厳しいままだった。


 ◇


「それで、今からどうするつもりだ」


「ハル領へ戻ります」


 学院長はすぐに察した。


「転移魔法でか」


「はい」


「昨日、王都へ来るために使ったばかりだろう」


「ハル領と王都の距離では、一日一回が安全圏だと思っています。昨日は王都へ来るために使いました。今日は戻るために使えます」


「確信はあるのか」


「絶対ではありません。ただ、昨日の転移後の魔力消費と体調から考えると、一日置けば可能だと思います」


 学院長は、俺の返答を吟味するように目を細めた。


「他人を連れては?」


「まだ試していません。現時点では危険です」


「司法院の調査官は?」


「早馬で向かっています。ヴァレスト公爵にも、そちらの方が早くて確実だと伝えました」


「なぜだ」


「同伴転移は未検証です。短距離で試してからでなければ、長距離には使えません。

しかも検証に時間をかければ、結局早馬の方が早い可能性があります」


 学院長は、少しだけ頷いた。


「そこを分かっているなら、まだよい」


 褒められているのか、最低限の失点で済んだのか分からない。


 たぶん後者だ。


「ハル領へ戻る理由は?」


「司法院の調査官を迎える準備が必要です。

父上は病床ですし、ノルやレナードには、王都で確認できたことを伝えなければなりません。

ガザルと思われる男の拘束も続いています」


「なるほど」


 学院長は椅子に背を預けた。


「戻る必要はある、ということか」


「はい」


「なら、今回の帰還については認める」


「ありがとうございます」


「ただし、条件をつける」


 俺は姿勢を正した。


 ここからが、本題だと分かった。


 ◇


 学院長は指を一本立てた。


「まず、王立学院の敷地内を転移の起点、あるいは到着点として使う場合、必ず私に報告しろ」


「はい」


「事前が原則だ。緊急時でも、使用後ただちに伝えること」


「分かりました」


 二本目。


「他人を伴う転移は禁止する。検証なしにやるな。必要があるなら、私か、信頼できる教師の立ち会いをつける」


「はい」


 三本目。


「目印を増やす場合、場所と目的を記録しろ。

勝手にあちこちへ置くな」


「はい」


 四本目。


「王都とハル領のような長距離転移は、緊急時、または明確な必要がある場合に限る」


「分かりました」


 最後に、学院長は声を少し落とした。


「この魔法について、不必要に他者へ話すな」


「はい」


「これは正式な学院規則ではない。今この場での暫定措置だ。だが、守れ」


「守ります」


 学院長は、俺の顔をしばらく見ていた。


「君は、便利なものを見つけると、すぐに実用へ落とし込む」


「……そうかもしれません」


「それは長所だ。領地を動かすには必要な力でもある」


 意外な言葉だった。


 俺が顔を上げると、学院長はすぐに続ける。


「だが、魔法によっては、その早さが危うさになる。転移魔法はその最たるものだ」


「はい」


 学院長がじろりと俺を見た。


「不満そうな顔をするな。君が使った魔法は、その程度には影響が大きい」


「……はい」


 何も言えない。


 実際、昨日の転移一つで、王都ギルドと司法院の初動は二日早まった。


 距離を消す。


 時間を縮める。


 その意味は、俺自身が一番感じている。


 学院長は、少しだけ声を和らげた。


「ハル」


「はい」


「今回、君が王都へ飛んだ判断そのものは責めない」


 俺は顔を上げた。


「ただし、その魔法に慣れるな」


「慣れるな、ですか」


「ああ」


 学院長は、机の上の書類を指先で軽く叩いた。


「便利な手段は、何度か使ううちに当たり前になる。

最初は緊急時だけと思っていても、次第に理由をつけて使うようになる」


 その言葉は、前世の記憶にも重なった。


 便利なものは、人を助ける。


 だが、使い方を誤れば、判断の基準まで変えてしまう。


 俺は静かに頷いた。


「分かりました」


「本当に分かっているかは、今後の君を見て判断する」


「厳しいですね」


「当然だ」


 学院長は即答した。


「君は十三歳で、すでに放っておくには危なすぎる」


 褒められているのか、警戒されているのか。


 たぶん両方だ。


 ◇


 学院長室を出る時、俺はもう一度頭を下げた。


「報告が遅れて、申し訳ありませんでした」


「次からは早く来い」


「はい」


「ハル領へ戻ったら、まず大人たちと連携しろ。司法院の調査官も向かっている。君一人で抱えるな」


「ヴァレスト公爵にも、同じことを言われました」


「なら、二人分聞いたことになるな」


「はい」


 学院長は鼻を鳴らす。


「行け。だが、無茶はするな」


「分かりました」


「……その返事が一番信用ならん」


 最後にそう言われた。


 俺は何とも言えない顔で学院長室を出た。


 ◇


 自室へ戻る途中、学院の廊下は相変わらず静かだった。


 だが、さっきとは少し感じ方が違う。


 昨日、俺はここへ転移してきた。


 そして今日、ここからハル領へ戻る。


 学院長に報告したことで、少なくとも完全な無断使用ではなくなった。


 しかし、許されたから軽くなるわけではない。


 転移魔法は、やはり重い。


 俺は自室に入り、扉を閉めた。


 床に刻んだ目印は、昨日と同じ場所にある。


 見た目にはほとんど分からない。


 だが、魔力を向けると、そこに確かな反応があった。


 持ち帰るものを確認する。


 王都ギルドで確認された灰狼の牙の記録。


 司法院が調査官を送ったこと。


 ヴァレスト公爵の判断。


 学院長に報告済みであること。


 これらを、父上達に伝えなければならない。


 俺は目印の前に立つ。


 ハル領の自室に設置した目印を思い浮かべる。


 机。


 窓。


 床板の継ぎ目。


 昨日、自分で刻んだ術式。


 目を閉じ、魔力を流す。


 王立学院の目印が淡く反応した。


 遠くにあるハル領の目印を探る。


 昨日よりも、少しだけ感覚が掴みやすい。


 俺は呼吸を整えた。


 入口を開く。


 出口を固定する。


 道を通す。


 視界が白く弾けた。


 ◇


 次に目を開けた時、そこはハル領の自室だった。


 朝の光が、窓から差し込んでいる。


 見慣れた机。


 端に寄せた荷物。


 床の隅に刻んだ目印。


 淡い光が、すぐに消えていった。


 戻ってきた。


 俺はしばらく動かず、体の感覚を確かめる。


 めまいはない。


 吐き気もない。


 魔力の消耗はあるが、昨日ほどの緊張はない。


 転移は成功した。


 だが、安心している場合ではない。


 王都での報告は終わった。


 司法院も動き始めた。


 学院長にも筋は通した。


 けれど、事件が終わったわけではない。


 俺は自室の扉へ向かった。


 まずは、ノルとレナードに伝えなければならない。


 ハル領は、王国の司法院の調査官を迎える準備に入る。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
了解、トランザム!
便利すぎるスキルになれて使い倒してんだから魔法も使うやろ普通
昨日の時点で早馬が出るの見てるくせに何故 たぶんすでに とか言ってるの
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