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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第13章 リオンの夏休み(3年生)

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第221話 王都へ飛ぶ

 詰め所を出たあと、俺はノルとレナードと共に屋敷へ戻った。


 空はもう夕方に近い。


 西の森で魔物の群れに襲われ、森の奥で術者らしき男を捕らえ、詰め所で尋問を行った。


 今日一日で起きたこととしては、あまりにも重い。


 捕らえた男は、ガザルである可能性が高い。


 灰狼の牙という盗賊団の頭目かもしれない男。


 西の森の旧拠点に関わり、こちらに強い恨みを持っている男。


 さらに、グレイヴ領の者と接触した可能性もある。


 そして、黒い魔石片。


 王都西南の森で見たものと似ている。


 あれが同じ系統のものなら、王都ギルドには記録が残っているはずだ。


 問題は、距離だった。


 ハル領から王都までは、馬車なら五日。


 早馬でも二日はかかる。


 二日。


 普段なら、そこまで長いとは思わない。


 だが、今は違う。


 ガザルの関係者が動くかもしれない。


 黒い魔石片に関する記録照会が遅れるかもしれない。


 グレイヴ領の者が関わっているなら、その間に証拠を消される可能性もある。


 今の問題は、ただ情報を送ることではない。


 速度だった。


 早く王都ギルドへ知らせ、過去の記録と照合する。


 早く、黒い魔石片と灰狼の牙をつなぐ情報があるか確かめる。


 そこまで考えた時、俺は一つの魔法を思い出していた。


 福嶋亮太の魔法理論書にあった、転移魔法だ。


 ◇


 父上の部屋に入ると、母上がそばにいた。


 父上は寝台に上半身を起こしている。


 顔色はまだよくない。


 だが、俺を見る目はしっかりしていた。


「戻ったか、リオン」


「うん。ただいま、父上」


 母上が心配そうに俺を見る。


「怪我はないの?」


「ないよ。大丈夫」


 母上は小さく息を吐いた。


 俺は父上の前に立ち、できるだけ短く報告した。


 西の森で死骸魔物が出たこと。


 胸に黒い魔石片が埋め込まれていたこと。


 森の奥で術者らしき男を捕らえたこと。


 その男が、以前の西の森の旧拠点に関わるガザルである可能性が高いこと。


 黒い魔石片について、王都ギルドと急ぎ情報を共有したいこと。


 グレイヴ領の名にも反応があったこと。


 ただし、まだ証拠はないこと。


 父上は黙って聞いていた。


 途中で口を挟まなかった。


 俺が話し終えると、少しだけ目を閉じる。


「分かったことと、まだ分からないことは分けているな」


「うん」


「ならいい」


 父上は静かに言った。


「黒い魔石片があったこと。死骸魔物が動いていたこと。ガザルと思われる男を捕らえたこと。王都ギルドに照会すること。ここまでは進めていい」


「グレイヴ領の件は?」


「まだ言い切るな」


 父上の声は弱い。


 けれど、言葉ははっきりしていた。


「反応があった。接触の可能性がある。そこまでだ。侯爵本人の名を出すには、証拠が足りない」


「分かってるよ」


「分かっているならいい」


 父上は少し息を整えた。


 母上がすぐに水を差し出す。


 父上は一口だけ飲んでから、俺を見る。


「王都ギルドへは、早馬を出すのか」


「それだと二日かかる」


「急ぎたいのだな」


「うん」


 俺は少し迷った。


 だが、ここで隠しても仕方がない。


「今日中に王都へ行けるかもしれない」


 母上の表情が変わった。


「今日中に?」


 父上も目を細める。


「どういうことだ」


「ある本にあった魔法を使う」


 その瞬間、父上の顔にわずかな緊張が走った。

「ある本?」


「うん。王立図書館で見つけた本の中に転移魔法があったんだ。

目印を置いた場所同士を結ぶ魔法」


 母上が不安そうに聞く。


「危険はないの?」


「完全にないとは言えない」


 俺は正直に答えた。


「でも、学院で一度成功してる。夏休み前に、訓練所で試した。」


「一度成功しているだけで、使うのか」


 父上の声には、責める響きはなかった。


 ただ、確認するような言い方だった。


「学院長からは、自重するように言われてる」


「そんな魔法を使うのか」


「うん。俺も、気軽に使っていい魔法じゃないと思ってる」


 転移魔法は便利すぎる。


 距離の意味を変える。


 情報の流れを変える。


 人の移動も、領地間の力関係も、全部変えてしまう可能性がある。


 学院長が自重しろと言った理由は分かる。


 それでも。


「今回は、自重してる場合じゃない」


 俺は言った。


「黒い魔石片とガザルのことを、できるだけ早く王都ギルドへ確認したい。

早馬の二日を待つより、俺が行った方が早い」


 父上はしばらく俺を見ていた。


 それから、静かに頷いた。


「おまえの考えるとおりにしてみろ」


「父上」


「学院長への報告は後でもいい。だが、隠すな」


「分かった」


 母上はまだ心配そうだった。


「本当に大丈夫なのね」


「大丈夫って言い切るのは怖いけど、やる価値はある」


「リオン」


「無茶はしない。王都へ着いたら、ギルドに行って、必要な情報だけ確認する」


 母上は小さく息を吐いた。


「戻ってくるのよ」


「うん。戻ってくる」


 父上は最後に一言だけ言った。


「急げ。だが、焦るでないぞ」


「分かった」


 その言葉を受けて、俺は部屋を出た。


 ◇


 俺は自室へ戻った。


 感傷に浸る余裕はない。


 まず、机の上を片づける。


 床に置いていた荷物を端へ寄せる。


 扉の位置。

 窓の位置。

 机の角度。


 自分が確実に認識できる場所を確認する。


 転移魔法で大事なのは、目印だ。


 行き先をただ思い浮かべるだけでは危ない。


 空間の入口と出口を固定する基準が必要になる。


 王立学院の自室には、すでに目印がある。


 学院で試した時に設置したものだ。


 ならば、ハル領側にも同じような目印を設置すればいい。


 ここが、戻ってくるための出口になる。


 俺は部屋の隅を選んだ。


 誰かに踏まれない。


 それでいて、自分が一目で分かる場所。


 小さく魔力を流しながら、床板の継ぎ目に沿って術式を刻む。


 目立つ必要はない。


 俺が認識できればいい。


 薄く光が走った。


 すぐに消える。


 目印は、そこに固定された。


 俺は息を整えた。


 次に、持っていくものを選ぶ。


 西の森襲撃の記録の写し。


 黒い魔石片の形や状態を書いた記録。


 核を砕くと死骸魔物が止まったという記録。


 ガザルと思われる男の尋問記録。


 王都ギルドへの照会文。


 それから、黒い魔石片の小さな破片を一つだけ。


 俺が準備を終える頃、扉が叩かれた。


「若様」


 ノルの声だった。


「入って」


 ノルが入ってくる。


 その後ろにはミアもいた。


 ミアは小さな包みを持っている。


「最低限の着替えと水をお持ちしました」


「ありがとう」


「本当に、お一人で行かれるのですか」


 ノルが聞く。


「うん。転移魔法で他の人を連れていくのは、まだ試してない。

今回は俺一人の方が安全だと思う」


「王都に着いた後は」


「すぐ王都ギルドへ行く」


「ギルドから出る時も、できるだけ人目のある道を使ってください。

灰狼の牙の関係者が王都に残っている可能性もあります」


「分かった」


 ノルは、まだ納得しきっていない顔だった。


 でも、止めなかった。


 止められる状況ではないと分かっているのだろう。


「こちらでは、ガザルと思われる男の監視と、西の森の警備を続けます」


「お願い」


 ミアが不安そうに俺を見る。


「リオン様、お気をつけください」


「ありがとう。大丈夫」


 そう言いながらも、胸の奥には緊張があった。


 学院で一度成功している。


 それは事実だ。


 でも今回は、訓練所での試験とは違う。


 ハル領と王都。


 早馬で二日かかる距離を、一気に越える。


 失敗すれば、ただでは済まない。


 俺は目印の前に立った。


 ◇


 学院長の言葉が頭をよぎる。


 福嶋亮太の魔法は、大きすぎる。


 軽々しく使うな。


 特に転移魔法は、人の移動だけでなく、情報と権力の流れまで変える。


 その通りだと思う。


 距離が消える。


 時間が縮む。


 それは、とんでもない力だ。


 もしこの魔法が広く知られれば、王国の仕組みそのものが変わるかもしれない。


 だが、今はその危険を理解したうえで使う。


 早馬の片道二日を待つ間に、失われるものがあるかもしれない。


 なら、今は飛ぶべきだ。


 俺は目を閉じた。


 思い浮かべるのは、王立学院の自室。


 机。


 本棚。


 窓。


 床の感触。


 そして、あの部屋に設置してある転移の目印。


 魔力を流す。


 ハル領の自室に刻んだ目印が、淡く反応する。


 次に、遠く離れた王立学院の目印を探る。


 細い糸を手繰るような感覚。


 空間の奥に、小さな光がある。


 そこへ、こちらの目印を結ぶ。


 入口を開く。


 出口を固定する。


 道を通す。


 部屋の輪郭が揺れた。


 音が遠のく。


 ノルとミアの気配が、少しずつ薄くなる。


 足元の感覚が消える。


 次の瞬間、視界が白く弾けた。


 ◇


 目を開けると、そこは王立学院の自室だった。


 静かだ。


 夏休み中の学院は、人の気配が薄い。


 見慣れた机。


 本棚。


 窓。


 学院の空気。


 床の目印が、淡い光を残して消えていく。


 転移は成功した。


 俺はゆっくり息を吐いた。


「……来た」


 早馬で二日かかる距離を、一瞬で越えた。


 その事実に、少しだけ背筋が冷えた。


 便利だ。


 便利すぎる。


 学院長が自重しろと言った意味が、改めて分かる。


 俺は荷物を持ち直した。


 学院長には、あとで怒られるかもしれない。


 福嶋亮太の魔法を使ったことも、きちんと報告しなければならない。


 だが、今はそれより先に行くべき場所がある。


 王都ギルド。


 黒い魔石片と、灰狼の牙。


 その二つをつなぐ記録が、そこにあるかもしれない。


 俺は照会文を握りしめ、王立学院の自室を出た。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
福嶋亮太の魔法について、家族などにも話すなと言われていたのに、平気で色んな人に話しているのは何故なんでしょうか?
転移者、転生者限定の魔法かもしれませんね 何事もリスクや危険を恐れ過ぎては研究、開発は出来ないだろうし新しい物は生み出せないはず その意味でも福嶋亮太さんという人は凄いと思う 建国設立に関わった凄い人…
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