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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第12章 王立学院三年 一学期

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第216話 人を育てるための確認

 翌日。


 俺は領都工房へ向かった。


 昨日、働く人向けの学び場を見た。


 そこで分かったのは、読み書きや計算が、ただの勉強ではないということだった。


 自分の名前を書ける。


 数字を読める。


 木札を見て、置き場を間違えない。


 帳面に印をつけられる。


 それだけで、できる仕事は変わる。


 そして、自分の賃金や仕送りの数字を自分で確かめられるようにもなる。


 働く人自身を守る力にもなるのだ。


 だからこそ、学び場を広げる必要がある。


 ただし、その前に確認しなければならないことがある。


 今、現場にいる人たちは、どこまで読めるのか。


 どこまで数えられるのか。


 木札や作業札をどれくらい理解しているのか。


 そこが分からなければ、何から教えればいいのかも決められない。


 最初に確認する場所は、領都工房にした。


 石切り場や西の森でも必要だ。


 だが、工房は文字、数字、木札、帳面がもっとも作業に直結する。


 まずはここから始めるのがいい。


 同行するのは、ノルとミア。


 そして、文官のレナードだ。


 集会所で教えていたヨハンにも、工房側で協力してもらうことになっている。


 ◇


 工房に着くと、すでに作業は始まっていた。


 青輝石の箱が運び込まれる。


 純石の箱が並ぶ。


 部品を揃える者。


 箱札を確認する者。


 完成した街灯を布で包む者。


 荷車へ積む者。


 昨日までと同じように、工房はよく動いていた。


 だが、今日は少しだけ空気が違う。


 作業員たちの視線が、こちらをちらちらと見ている。


 工房長も、それに気づいているようだった。


「リオン様、お待ちしておりました」


「うん。今日はよろしく」


「はい。ただ……」


 工房長は少し言いにくそうに周囲を見た。


「作業員たちが、少し緊張しております」


「やっぱり」


 俺は工房の中を見回した。


 原因は分かる。


 昨日、読み書きや計算の確認を始めると伝えた。


 こちらは、どこから教えればいいかを見るための確認だと思っている。


 だが、受ける側からすれば違う。


 読めないことを知られるのではないか。


 できないと仕事を外されるのではないか。


 賃金を下げられるのではないか。


 そう考える者がいても不思議ではない。


 ミアが小さな声で言った。


「リオン様、皆様、少し不安そうです」


「うん。先に説明した方がいいね」


 ノルも頷く。


「その方がよろしいでしょう。誤解が広がる前に、はっきり伝えるべきです」


 俺は工房長に言った。


「少しだけ、作業を止められる?」


「はい」


 工房長が声をかけると、近くにいた作業員たちが手を止めた。


 全員ではない。


 火を扱う作業や、途中で止められない作業はそのままだ。


 だが、補助作業に入っていた者たちが集まってくる。


 ハル領の若者。


 工房の見習い。


 グレイヴ領から来た出稼ぎの者。


 年齢も立場もばらばらだ。


 俺は、彼らの前に立った。


 視線が集まる。


 緊張している者もいる。

 目を伏せている者もいる。


 俺は、ゆっくり口を開いた。


「今日やるのは、試験じゃない」


 最初に、そこを言った。


 何人かが顔を上げる。


「読めない人を見つけて、仕事を外すためでもない。

計算が苦手な人の賃金を下げるためでもない」


 工房の中が静かになる。


「俺が知りたいのは、誰ができないかじゃない。

どこから教えれば、仕事がしやすくなるかだ」


 俺は机に置かれていた木札を一つ手に取った。


「この札が読めれば、置き場を間違えにくくなる。

数字が読めれば、箱の数を自分で確かめられる。

名前が読めれば、帳面の中から自分の名前を見つけられる」


 作業員たちは黙って聞いている。


「読めないのが悪いんじゃない。教わる場所がなかっただけだ」


 その言葉に、何人かの表情が少し変わった。


「だから、今日の確認で仕事を取り上げることはしない。むしろ、できることを増やすために確認する」


 俺は、はっきりと言った。


「できないことを責めるためじゃない。教える順番を決めるためだ」


 少しだけ、空気が緩んだ。


 完全に安心したわけではないだろう。


 でも、最初よりは顔が上がっている。


 ヨハンが小さく息を吐いたのが見えた。


 レナードは、今の説明を帳面に書き留めている。


 たぶん、この言い方を他の現場にも伝えるつもりなのだろう。


 ◇


 確認は、工房で使うものを使って行った。


 難しい文章を読ませることはしない。


 まずは、名前。


 次に、数字札。


 それから、箱札。


 最後に、木札と簡単な帳面。


 ヨハンが前に立つ。


「では、まずこれは何の札か分かる人」


 ヨハンは、街灯用青輝石の箱につける札を掲げた。


「青輝石」


 一人が答える。


「はい。では、これは?」


「純石」


「そうです。では、この数字は?」


「二十」


「では、二十の箱が三つあれば?」


「……六十」


「はい」


 数字を読める者は、意外と多かった。


 特に、荷運びや箱詰めに入っている者は、箱の数を数える経験がある。


 ただし、全員が計算できるわけではない。


 二十、三十、四十のように、札として見慣れた数字は読める。


 でも、それを足したり引いたりすると、急に止まる者がいる。


 文字も同じだった。


 青輝石。

 純石。

 街灯。

 東置き場。

 西置き場。


 そうした仕事でよく見る札は、形として覚えている者がいた。


 だが、新しい文字になると読めない。


 自分の名前は分からないのに、工房の札だけは見分けられる者もいる。


 俺はその様子を見ながら、少し驚いていた。


 読み書きができるか、できないか。


 そんな単純な話ではなかった。


 仕事の中で覚えたものは読める。


 数は数えられるが、文字は苦手。


 名前は書けないが、箱札は間違えない。


 簡単な足し算はできるが、帳面への記入はできない。


 人によって、かなり違う。


 ◇


 レナードが横で小さく言った。


「思っていたより、細かく分かれますね」


「うん」


「読み書きができる者、できない者、という二つに分けるだけでは足りません」


「そうだね」


 俺は頷いた。


 前世でも同じだった。


 社員研修を作る時、全員に同じ内容を教えればいいわけではない。


 すでにできる人。


 少し教えればできる人。


 前提から教える必要がある人。


 実務ではできているが、理屈としては分かっていない人。


 それを一緒にしてしまうと、誰にとっても中途半端になる。


 今の工房も同じだ。


 全員に同じ講習を受けさせればいいわけではない。


 目の前の現場には、それぞれ違う現在地がある。


 その瞬間、視界に文字が浮かんだ。


 《読み書き:個人差大》

 《数字理解:作業経験により補完》

 《木札認識:形状記憶に依存》

 《帳面記入:不足》

 《教育順序:未整理》


 やっぱり、そこだ。


 学び場は必要だ。


 だが、全員に同じことを同じ順番で教えるだけでは、効率が悪い。


 必要なのは、段階を分けることだ。


 ◇


 確認を終えた後、俺は工房長、ヨハン、レナードを集めた。


 ノルとミアもそばにいる。


「分けよう」


 俺が言うと、ヨハンが首を傾げた。


「分ける、とは?」


「講習の段階を分ける」


 俺は机に置かれた札を見ながら言った。


「全員に同じことを教えるんじゃなくて、今どこまでできるかで、教える順番を変える」


 レナードが筆を構えた。


「段階を、どのように分けますか」


「まず初級」


 俺は指を一本立てる。


「自分の名前を読める。自分の名前を書ける。数字札を読める。十、二十、三十のような箱札が分かる。簡単な足し算と引き算を覚える。木札の読み方を覚える」


 ヨハンが頷く。


「今の学び場で一番多い内容ですね」


「うん。次に中級」


 俺は指を二本にした。


「箱数の確認。置き場の札の読み取り。簡単な帳面への印。出荷数の確認。作業札を見て、どこへ運ぶか判断できる」


 工房長が真剣な顔になる。


「そこまでできれば、補助作業の幅がかなり広がります」


「最後に、帳面補助候補」


 俺は三本目の指を立てた。


「数字を記録できる。名前と数を間違えずに書ける。受け取った箱数と出した箱数を比べられる。賃金や仕送りの数字も確認できる」


 レナードが筆を走らせる。


「初級、中級、帳面補助候補……」


「これは身分や優劣の分け方じゃない」


 俺は念を押した。


「教える順番を決めるための分け方だ」


「はい」


「それと、本人にも分かるようにしてほしい。自分が何を覚えれば次へ進めるのか」


 ヨハンは少し驚いた顔をした。


「本人にも、ですか」


「うん。何を勉強しているのか分からないままだと続かない。

名前を書けるようになったら、次は数字。

数字が分かれば、箱の数。箱の数が分かれば、帳面の印。そうやって見えた方がいい」


 ミアが静かに頷いた。


「できるようになったことが分かると、続けやすいでしょうね」


「そう思う」


 学びは、先が見えないとつらい。


 特に、大人になってから学ぶ人たちにとってはそうだ。


 仕事で疲れた後に集会所へ来る。


 恥ずかしさもある。


 眠さもある。


 それでも続けてもらうには、少しずつできることが増えていると感じられる必要がある。


 ◇


 その時、先ほど確認を受けていた若い男が、恐る恐る近づいてきた。


 グレイヴ領から来た出稼ぎの一人だ。


 名前はマルク。


 西の森側作業場で、柵の外に縄を拾いに行こうとして止められた若者だった。


 今は工房の荷運びにも入っているらしい。


「リオン様」


「うん」


「俺、読めないと仕事を外されるのかと思ってました」


 その声は、小さかった。


 だが、周りにいた者たちにも聞こえた。


 同じように思っていた者は、たぶん少なくない。


「違う」


 俺はすぐに答えた。


「読めるようになれば、できる仕事が増える。そのための確認だ」


「できる仕事が増える……」


「うん。今は荷運びが中心でも、数字が分かれば箱の数を確認できる。木札が読めれば置き場を間違えにくくなる。帳面に印をつけられるようになれば、もっと任せられる仕事が増える」


 マルクは黙って聞いていた。


「でも、急に全部できる必要はない。最初は数字札だけでもいい。次に木札。その次に帳面。順番に覚えればいい」


「俺でも、できますか」


「できるようにするための学び場だ」


 俺がそう言うと、マルクは少しだけ目を伏せた。


「……なら、行きます。夜のやつ」


「うん。ヨハンに言っておいて」


 ヨハンが頷く。


「待っているよ」


 マルクは不器用に頭を下げ、持ち場へ戻っていった。


 その背中を見ながら、俺は胸の奥で少しだけ息を吐いた。


 伝え方を間違えれば、これは人を追い詰めるものになる。


 だが、うまく伝えられれば、人を前へ進めるものになる。


 同じ確認でも、意味はまるで違う。


 ◇


 工房長が、少し表情を和らげて言った。


「リオン様。これなら、作業員たちも受け入れやすいかもしれません」


「そうだといいけどね」


「ただ、三段階に分けるとなると、教える側も少し増やす必要があります」


「ヨハン一人では厳しい?」


 ヨハンは少し苦笑した。


「正直、人数が増えると厳しいです」


「だよね」


 予想はしていた。


 学び場を広げるなら、教師役も必要になる。


 ただ、最初から専門の教師をそろえるのは難しい。


「まずは、帳面補助候補になれる人を、将来の教える側にも回せないか考えよう」


「教わった者が、次に教える側に回るのですか」


 レナードが聞いた。


「うん。全部を教える必要はない。

数字札だけなら教えられる人、名前の書き方だけなら見られる人、木札の読み方だけなら教えられる人。

そういう形でもいい」


 ノルが頷く。


「兵の訓練でも、基礎を覚えた者が次の者を見ることはあります」


「それと同じだね」


 全部を一人の先生が教える必要はない。


 できるようになった人が、少し下の人を見る。


 それだけで、教える力は増える。


 前世の会社でも、教育係を増やす時はそうだった。


 完璧な人を待っていても、仕組みは広がらない。


 教えられる範囲を切り出せばいい。


「レナード」


「はい」


「今日の確認結果をまとめて。初級、中級、帳面補助候補の三段階で」


「承知しました」


「それと、石切り場と西の森でも、同じように始める。ただし、工房と同じ内容をそのまま使わない」


「現場ごとに変える、ということですね」


「うん。石切り場なら、石の分類札と箱数。西の森なら、作業範囲の札、退避場所、荷車数。現場で使うものから入る」


「分かりました」


 ミアが小さく言った。


「それなら、学ぶ方も意味が分かりやすいですね」


「そう思う」


 読むために読むのではない。


 数えるために数えるのでもない。


 仕事を安全に、正しく、自分のためにも進めるために学ぶ。


 それが大事だった。


 ◇


 確認を終え、工房を出る頃には、日が傾き始めていた。


 作業員たちは、それぞれの持ち場へ戻っている。


 さっきまで不安そうだった者たちも、少し表情が和らいでいた。


 もちろん、すべてが解決したわけではない。


 読み書きが苦手なことを恥ずかしく思う者はいる。


 疲れて講習に来られない者もいる。


 自分には関係ないと思っている者もいる。


 だが、今日の確認で一つ分かった。


 できるか、できないか。


 その二つで人を分けてはいけない。


 人には、それぞれ現在地がある。


 その違いを、できない理由にするのではなく、教える順番に変える。


 それが、人を育てるということなのだと思う。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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昔、システム系のバイトを、していた友人が C言語を覚えたら時給が上る。と勉強をしていました。 学習と昇級が結びつくと頑張る人は多い。
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