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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第12章 王立学院三年 一学期

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第204話 リオン対クラウス

 クラウスが一歩踏み込んだ。


 速い。


 だが、それ以上に無駄がない。


 踏み込みすぎない。


 力みすぎない。


 こちらを一気に押し潰すのではなく、まず間合いを奪いに来る一歩だった。


 俺は木剣を合わせる。


 乾いた音が鳴った。


 重い。


 だが、ガイルのような真正面からの重さとは違う。


 受けた瞬間、こちらの剣の角度をずらされる。


 俺が押し返そうとする前に、クラウスはすでに半歩引いていた。


 そして、別の角度からまた入ってくる。


 速いだけじゃない。


 崩れない。


 それが、クラウスの強さだった。


 ◇


 俺は横へ動いた。


 正面からぶつかり続けても、簡単には崩せない。


 少し角度を変え、クラウスの右側へ回り込む。


 だが、クラウスは慌てない。


 半歩だけ足を動かし、俺の進路を消した。


 木剣がまたぶつかる。


 今度は俺が先に引き、浅く打ち込む。


 誘いだ。


 深く受けに来れば、そこから内側へ入れる。


 だが、クラウスは乗ってこなかった。


 必要な分だけ受け、必要な分だけ下がる。


 それ以上は動かない。


 俺は内心で舌を巻いた。


 やりにくい。


 派手な攻撃をしてくる相手なら、隙も生まれやすい。

 力任せに押してくる相手なら、流せる。

 速さに頼る相手なら、タイミングを外せる。


 だが、クラウスは違う。


 無理をしない。


 崩れそうになる前に、安全な形へ戻る。


 だから、決定打まで届かない。


 俺は一度、クラウスの動きに意識を集中した。


 綻びを探す。


 だが、視界には何も浮かばない。


 今、この瞬間のクラウスには、突ける綻びがない。


 それだけ整っているということだ。


 俺は息を細く吐いた。


 なるほど。


 これは強い。


 周囲の音が少し遠くなる。


 訓練場には、俺とクラウスの木剣がぶつかる音だけが残っているように感じた。


 俺は踏み込む。


 クラウスが受ける。


 すぐに戻る。


 俺が角度を変える。


 クラウスが消す。


 俺が一拍遅らせて打つ。


 クラウスは崩れない。


 最初は、クラウスが俺の攻撃を読んでいるのかと思った。


 だが、違う。


 全部を読んでいるわけではない。


 読んでいなくても、崩れない形へ戻るのが早いのだ。


 攻撃を受ける。


 角度をずらす。


 足を置き直す。


 間合いを戻す。


 その一つ一つが丁寧で、無駄がない。


 だから、こちらが攻めても、クラウスの形が崩れない。


 俺は攻め方を変えた。


 崩れている場所を探すのではない。


 崩れを作る。


 浅く打つ。


 すぐに引く。


 左へ誘う。


 右へ回る。


 同じような角度に見せて、ほんの少し踏み込みを遅らせる。


 クラウスは対応する。


 綺麗に対応する。


 だが、対応するたびに、クラウスは安全な形へ戻る。


 その戻り方を見る。


 足。

 腰。

 剣の角度。

 視線。


 クラウスは崩れていない。


 クラウスの目が、わずかに細くなった。


「狙いを変えたな」


 低い声だった。


 俺は答えなかった。


 答える余裕がないわけではない。


 答えれば、こちらの意図が少し見える。


 だから黙ったまま、もう一度踏み込む。


 クラウスが受ける。


 俺はそこで押し込まず、すぐに剣を引いた。


 クラウスが戻る。


 その足を見た。


 もう一度。


 今度は右から入る。


 クラウスは半歩下がって受ける。


 また戻る。


 似ている。


 全く同じではない。


 だが、完全に自由でもない。


 安全な形へ戻るために、クラウスは自然と似た位置へ足を置いている。


 俺はさらに圧をかけた。


 浅い攻撃を重ねる。


 何度目かの打ち込みを、クラウスが受けた瞬間だった。


 クラウスの右足が、ほんのわずかに同じ位置へ戻った。


 その時、視界に文字が浮かんだ。


 《綻び:右足の戻り》

 《重心:後方へ固定》

 《次動作:防御姿勢への復帰》


 見えた。


 最初からあった弱点ではない。


 この戦いの中で、俺が作った綻びだ。


 ◇


 俺は次の一歩を変えた。


 これまでと同じ角度に見せる。


 クラウスが受ける。


 そして、安全な形へ戻ろうとする。


 その戻り先へ、俺は先に入った。


「っ!」


 クラウスの呼吸が、ほんの一瞬だけ乱れた。


 初めて、クラウスの姿勢がわずかに崩れる。


 周囲の空気が動いた。


「クラウスが……」


 誰かの声が聞こえた気がした。


 だが、クラウスはすぐに立て直そうとする。


 やはり速い。


 崩れた瞬間に、もう次の形を作りにいっている。


 だが、一度生まれた綻びは、次の綻びを呼ぶ。


 クラウスが左へ剣を戻そうとした瞬間、また文字が浮かんだ。


 《綻び:左肩》

 《防御反応:遅延》

 《逃走方向:右後方》


 俺は踏み込んだ。


 逃げ道を塞ぐ。


 クラウスは後ろへ引こうとする。


 俺はそこへ先に剣を置く。


 クラウスが攻めに転じようとする。


 俺はその起点を潰す。


 今度は、こちらが流れを握っていた。


 それでも、クラウスは簡単には終わらない。


 木剣を合わせ、角度を変え、俺の踏み込みをずらしてくる。


 一度崩れた後でも、すぐに立て直す。


 綻びが見えている。


 なのに、簡単には届かない。


 見えた綻びを突く前に、クラウスは次の形へ移ろうとする。


 やはり強い。


 今まで戦った学生とは違う。


 だが、クラウスの動きに、わずかな遅れが生まれている。


 その遅れを、俺は見逃さなかった。


 もう一度、浅く打つ。


 クラウスが受ける。


 俺は剣を引かず、身体だけを半歩ずらした。


 クラウスの防御が、ほんの少し外へ流れる。


 「今だ!」。


 俺は一歩、内側へ入った。


 クラウスの剣が戻るより早く、俺の木剣の先がその胸元で止まる。


 訓練場が静まり返った。


 ベルンハルト先生の声が響く。


「勝負あり」


 ◇


 俺はゆっくりと木剣を下ろした。


 息が少し乱れている。


 思った以上に、神経を削られた。


 クラウスは一度、自分の胸元に止まった木剣の位置を見た。


 それから、俺を見る。


 悔しさはある。


 だが、表情は乱れていなかった。


「見事だ、リオン」


「ありがとうございました、クラウスさん」


 俺は頭を下げた。


 クラウスは少しだけ息を吐く。


「途中から、僕の戻る場所を読んでいたな」


 鋭い。


 やはり、ただ負けたわけではない。


 何をされたのか、すぐに理解している。


「はい」


 俺は答えた。


「最初は何も見えませんでした。でも、打ち合ううちに、クラウスさんが崩れないために戻る場所が見えました」


「崩れないための動きを見たのか」


「はい」


 クラウスは静かに頷いた。


「それなら、僕の負けだ」


 その言葉に、訓練場の空気が少し変わった。


 クラウスが認めた。


 三年Sクラスの中心にいる一人が、俺を相手として認めた。


 その意味は、決して小さくなかった。


 ◇


 試験区画から下がると、セレナが静かに息を吐いていた。


「よく崩したわね」


「かなり厳しかった」


 俺が答えると、エドガーが言う。


「クラウスさんの防御を破ったというより、防御に戻る動きを潰したんだな」


「ああ。たぶん、そういう形になった」


 ガイルは短く言った。


「強い」


 それは、俺への言葉でもあり、クラウスへの言葉でもあるように聞こえた。


 ナディアも頷く。


「クラウスさんは、崩れてからも立て直しが速かったです」


 ヴィクトルは肩をすくめた。


「見てるだけで疲れる試合だったよ」


 少しだけ笑いが起きる。


 だが、すぐに訓練場の空気は戻った。


 期末試験はまだ続いている。


 俺たちだけで終わりではない。


 他の生徒たちも、この一戦を見ていた。


 ライオネルも、黙ってこちらを見ていた。


 その目は、以前とは違う。


 認めたというより、火がついた目だった。


 次は自分だ。


 そう言っているように見えた。


 ◇


 ベルンハルト先生が短く講評する。


「レインフォードは崩れていなかった」


 先生の声に、全員が耳を向ける。


「だが、ハルは崩れるのを待つのではなく、崩れる状況を作った」


 俺は先生を見る。


「実戦では重要なことだ。相手の弱点が見えなければ、相手を動かして作れ」


 その言葉は、俺だけに向けられたものではなかった。


 訓練場にいる全員に向けられていた。


 クラウスは静かに聞いている。


 俺も、木剣を握ったまま頷いた。


 勝った。


 だが、楽な勝利ではなかった。


 クラウスは強かった。


 三年Sクラスの上位に入る。


 その言葉の重さを、ようやく少しだけ掴めた気がした。


 俺は木剣を握り直し、次の試合へ向かう生徒たちを見た。


 期末試験は、まだ続いている。


 だが、この一戦で、三年Sクラスの空気がまた少し変わったのは確かだった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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