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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第12章 王立学院三年 一学期

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第202話 3年Sクラス一学期期末試験初日

 期末試験初日の朝。


 三年Sクラスの教室は、いつもより静かだった。

 試験前特有の、浮つきと緊張が混ざった空気だ。


 俺たち六人も、それぞれ席に着いていた。


 セレナはいつも通り落ち着いている。


 エドガーも静かに資料を閉じ、筆記用具を整えていた。


 ナディアは最後に一度だけ要点を確認し、ゆっくり息を吐く。


 ヴィクトルは眠そうな顔をしていたが、机の上の紙にはびっしりと要点が書き込まれている。


 ガイルは無言だった。


 ただ、参考書を閉じる時の目は、昨日より少しだけはっきりしていた。


「ガイルさん」


 ナディアが小さく声をかける。


「実戦に置き換えれば大丈夫です」


 ガイルは短く頷いた。


「分かっている」


 その一言に、昨日までの勉強の跡が見えた気がした。


 ◇


 教室の扉が開き、ベルンハルト先生が入ってきた。


 その瞬間、教室の空気がさらに締まる。


 先生は教卓に試験用紙の束を置き、教室全体を見回した。


「今日から一学期期末試験に入る」


 低い声だった。


「初日は筆記だ。暗記だけでは点は取れんぞ」


 誰も口を開かない。


「学んだ知識を使って判断しろ」


 それだけ言うと、先生は試験用紙を配り始めた。


 紙が机の上に置かれる音が、やけに大きく聞こえる。


 俺は問題用紙を裏返したまま、開始の合図を待った。


 心臓が速いわけではない。


 だが、軽くもない。


 三年Sクラスで頭角を現し始めた。


 それは確かだ。


 だが、試験は別だ。


 ここで結果を出せなければ、五年への飛び級など口にできない。


「始め」


 ベルンハルト先生の声が落ちた。


 俺は問題用紙を表に返した。


 ◇


 最初に全体を眺めた瞬間、思った。


 難しい。


 一年の頃の試験とは、明らかに違う。


 単純に用語を書かせる問題は少ない。


 制度。

 魔法理論。

 戦術論。


 それらが一つの状況の中に混ぜ込まれている。


 覚えているかどうかだけではなく、どの知識をどの場面で使うかまで問われている。


 だが、全く解けないわけではない。


 そこが、春休みの頃とは違っていた。


 最初に三年の教科書を開いた時は、知らない言葉が多すぎた。


 二年の内容を飛ばしている分、穴も多かった。


 けれど、春休みに詰め込んだ。


 三年Sクラスで応用課題を解いた。


 訓練場で失敗した。


 その一つ一つが、問題文の中の言葉と少しずつつながっていく。


 俺はペンを持ち、最初の問題に取りかかった。


 ◇


 制度の問題は、少し迷った。


 領主、ギルド、騎士団。


 どこが先に動き、どこで報告が必要になるのか。


 文字だけで追うと、少しややこしい。


 だが、森沿いの村を思い浮かべると、流れが見えた。


 小型魔物が出た。


 まず村と領主側が状況を確認する。


 必要ならギルドへ依頼を出す。


 被害が広がれば騎士団へ報告する。


 昨日、ナディアがガイルに説明していた内容が頭に浮かんだ。


 誰が一番強いかではない。


 誰がどの段階で動くか。


 そう考えると、問題文の見え方が変わる。


 俺は答えを書き込んだ。


 魔法理論の問題では、セレナとの勉強を思い出した。


 魔法は、敵を倒すためだけのものではない。


 味方の進路を作る。


 相手の動きをずらす。


 消耗を抑える。


 そういう使い方もある。


 戦術論では、ベルンハルト先生の演習が頭に浮かんだ。


 敵を倒すことだけが目的ではない。


 指定地点へ到達する。


 守るべきものを守る。


 時間内に戻る。


 目的を見失えば、どれだけ戦えても評価は落ちる。


 難しい。


 だが、手は止まらない。


 分からない問題もある。


 言葉に詰まるところもある。


 それでも、白紙で固まる感じではなかった。


 ◇


 視界の端で、仲間たちの様子が少しだけ見えた。


 セレナは落ち着いていた。


 最初から最後まで、ほとんどペースが変わらない。


 エドガーも淡々と問題を処理している。


 何度か問題用紙全体を見直し、時間配分を調整しているようだった。


 ナディアは、一問ごとに丁寧に読んでいる。


 急いではいない。


 だが、止まってもいない。


 ヴィクトルは途中で少し顔をしかめた。


 しかし、商人や物流に関わる問題に入ったのだろう。


 急にペンの動きが速くなる。


 分かりやすい。


 そして、ガイル。


 最初の数分は、やはり止まっていた。


 だが、昨日とは違った。


 問題文を睨んだまま固まるのではなく、一度目を閉じる。


 それから、ゆっくりとペンを動かし始めた。


 実戦に置き換えているのだろう。


 言葉はまだ遅い。


 たぶん、答え方も固い。


 それでも書いている。


 その姿を見て、少しだけ安心した。


 もちろん、人の心配をしている余裕があるわけではない。


 俺はすぐに自分の問題へ視線を戻した。


 ◇


 時間は思ったより速く過ぎていった。


 簡単な問題は少ない。


 だが、全部が難問というわけでもない。


 確実に取れるところを落とさない。


 迷う問題は、問題文を状況に置き換える。


 細かい用語で詰まったところは、前後の流れから筋を作る。


 完璧ではない。


 だが、戦えている。


 そう感じた。


 春休みに机に向かい続けた日々。


 三年Sクラスで何度も食らいついた課題。


 休日に森へ出て、現場を見た時間。


 図書室で弱点を潰した夜。


 それらが、今、答案の上に少しずつ形になっている。


 ベルンハルト先生が言っていた。


 知識を使って判断しろ。


 今なら、その意味が少し分かる。


 知識だけでは足りない。


 感覚だけでも足りない。


 覚えたものを、状況の中で使う。


 三年Sクラスの筆記は、そういう試験だった。


 ◇


「そこまで」


 ベルンハルト先生の声が響いた。


 教室の空気が一気に緩む。


 ペンを置く音。


 息を吐く音。


 椅子にもたれる音。


 試験用紙が回収されていく。


 俺もペンを置き、軽く指を開いた。


 思った以上に力が入っていたらしい。


 問題用紙が回収された後、ヴィクトルが机に突っ伏した。


「終わった……いや、まだ初日か」


「まだ初日ね」


 セレナが冷静に言う。


「今それ言う?」


「事実でしょう」


「そうだけどさ」


 ヴィクトルが顔を上げずに答えた。


 ナディアはガイルの方を見る。


「ガイルさん、どうでしたか?」


 ガイルは少し考えた。


「前より書けた」


「それなら良かったです」


「まだ遅い」


「それでも、白紙ではなかったのでしょう?」


「ああ」


 ナディアは柔らかく微笑んだ。


 ガイルはそれ以上何も言わなかったが、少しだけ肩の力が抜けたように見えた。


 エドガーが静かに言う。


「筆記は終わった。次は応用課題だ」


「分かってるけど、少し休ませてくれ」


 ヴィクトルがぼやく。


 その言葉に、少しだけ笑いが起きた。


 ◇


 教室を出る頃、三年Sクラスの生徒たちもそれぞれ表情が違っていた。


 手応えがあった者。


 難しかったと呟く者。


 もう次の応用課題へ意識を向けている者。


 クラウスはいつも通り落ち着いている。


 ライオネルも、特に崩れた様子はない。


 この人たちは、やはり簡単には揺れない。


 ◇


 筆記試験は終わった。


 一年の頃より、ずっと難しかった。


 だが、全く歯が立たない試験ではなかった。


期末試験はまだ始まったばかりだ。


 応用課題。


 実戦演習。


 三年Sクラスで上位に入るためには、ここからが本番だった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
毎回この期末試験周り読んでて思うけど、どうやって主人公は仲間の顔まで把握出来てるんだ? 視野が広いって問題じゃないだろって毎回突っ込んでる 本当にテスト中で大きく視野を確保出来ない中で正確に教師以外…
『心臓が速いわけではない。  だが、軽くもない。』 ……ん? この場合の軽い…とは? (プレッシャーが重いとかのあとならなんとなくわかるんですが)
一気読みして来ました ハイペースの更新嬉しいのですが無理しないでください どう終わるか楽しみです
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