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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第12章 王立学院三年 一学期

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第199話 ギルドからの指名依頼

 三年Sクラスでの生活にも、少しずつ慣れてきた。


 平日は、座学、応用課題、実戦演習。


 休日は、無理のない範囲で冒険者活動。


 そんな日々が続いている。


 三年Sクラスの授業は、やはり簡単ではない。


 知識を覚えるだけでは足りない。


 どう判断するか。


 誰に任せるか。


 何を優先し、何を捨てるか。


 そういうことまで問われる。


 だが、そのおかげで森の見え方も少し変わった。


 ただ魔物を倒すだけではない。


 依頼の目的は何か。


 次に来る人が困らないために、何を見ておくべきか。


 そういうことまで考えるようになっていた。


 ◇


 最近は、休日の冒険者活動にヴィクトルも加わるようになった。


 以前のヴィクトルなら、休みの日くらい休ませてくれと言っていただろう。


 だが、今は違う。


 少し面倒そうな顔をしながらも、ちゃんと装備を整えてギルドに来ている。


「ヴィクトル、本当に来るようになったな」


 俺が言うと、ヴィクトルは肩をすくめた。


「俺ももうちょっと頑張らないとみんなに置いていかれちゃうからね」


「珍しく前向きだな」


「失礼だな。俺だって必要だと思えばやるよ」


 そう言う顔は、やっぱり少し面倒くさそうだった。


 今日のメンバーは、俺、セレナ、ガイル、ナディア、ヴィクトルの五人。


 エドガーはいない。


 第二王子という立場上、休日に少人数で森へ入る許可は下りなかった。


 王都近郊とはいえ、森には魔物が出る。


 警護の問題を考えれば、王が許可しなかったのも当然だろう。


 ただ、エドガーはそれで立ち止まっているわけではない。


 学校が始まる前の早朝、王都騎士団の訓練に参加しているらしい。


 冒険者として森へ入ることはできない。


 だが、王都騎士団と訓練できるのは、エドガーだからこそだ。


 エドガーはエドガーで、自分にできる場所で技を磨いている。


 ◇


 冒険者ギルドに入ると、朝の活気が広がっていた。


 俺たちもいつものように掲示板へ向かおうとした。


 その時、受付の女性がこちらへ声をかけてきた。


「リオンさん、少しよろしいでしょうか」


「はい。何かありましたか」


「実は、皆さんにギルドから指名依頼があります」


「指名依頼?」


 俺は思わず聞き返した。


 セレナも少し目を細める。


 ガイルは黙って受付を見る。


 ナディアは静かに姿勢を正した。


 ヴィクトルは小声で呟く。


「指名依頼って、なんか急に冒険者っぽくなったね」


 受付の女性は、少しだけ笑ってから依頼書を取り出した。


「危険度の高い討伐ではありません。

王都近郊の薬草採取地点周辺の現地調査です」


「現地調査ですか」


「はい。最近、採取者からいくつか報告が上がっています。

小型魔物を見かける頻度が増えた、採取地点までの道が分かりにくい、足場が悪くなっている場所がある、という内容です」


 受付の女性は、依頼書を机の上に置いた。


「ギルドとしては、初心者冒険者向けの注意書きを更新したいと考えています」


 なるほど。


 単なる討伐ではない。


 今後、その場所へ向かう冒険者や採取者のために、現地の状況を整理する依頼だ。


「なぜ俺たちに?」


 俺が聞くと、受付の女性は少し真面目な表情になった。


「以前の黒い魔石片の件もそうですが、皆さんの報告は具体的でした。

場所、状況、魔物の動き、危険箇所まで整理されていましたので」


 黒い魔石片。


 その言葉に、少しだけ空気が重くなる。


「もちろん、今回その件を調べていただきたいわけではありません。

異常な魔物や不審なものを見つけた場合は、無理をせず戻って報告してください」


「分かりました」


 俺は頷いた。


 セレナも依頼書に目を通す。


「薬草採取地点の確認、小型魔物の痕跡調査、必要に応じて討伐。

あとは、初心者向けの注意点の整理ね」


「はい」


「受けてもいいと思うわ」


 セレナが言う。


 ガイルも短く頷いた。


「問題ない」


 ナディアも言う。


「危険を避けるための調査なら、意味がありますね」


 ヴィクトルは依頼書を見ながら、少しだけ口元を上げた。


「こういう依頼なら、俺も役に立てそうだね」


 俺は受付に向き直る。


「受けます」


「ありがとうございます」


 こうして、俺たちはギルドからの指名依頼を受けることになった。


 ◇


 乗合馬車で森の近くへ向かう途中、ヴィクトルは窓の外をよく見ていた。


 景色を眺めているだけではない。


 街道の幅。


 荷車の通りやすさ。


 森から道へ抜けられそうな場所。


 そういうものを見ている。


「何を見てるんだ?」


 俺が聞くと、ヴィクトルは窓の外を見たまま答えた。


「採取者が通りやすそうな道と、逃げにくそうな場所。

あと、荷物を持って戻る時に危なそうなところ」


「そこまで見るのか」


「今回の依頼は、魔物を倒すことだけが目的じゃないでしょ。

薬草を採った人が、無事に帰れるかも大事だと思うけど」


 言われてみれば、その通りだった。


 採取者は戦いに来ているわけではない。


 薬草を採りに来て、荷物を持って帰る。


 その時に足場が悪ければ危険だ。


 逃げ道が分かりにくければ、魔物に遭遇した時に遅れる。


 ヴィクトルは、俺たちとは違う角度で森を見ている。


 こういう目は、今回の依頼にはかなり向いている。


 セレナも頷いた。


「採取者目線で見る必要があるわね」


 ナディアも言った。


「危険な場所が分かれば、避けることができます」


 ガイルは短く言う。


「見つけた魔物は倒す」


「それも大事だな」


 俺は苦笑しながら答えた。


 ◇


 森の入口に着くと、俺たちはまず依頼内容を確認した。


 薬草採取地点は、森の手前から少し入った場所にある。


 深く入り込む必要はない。


 ただし、採取者が通る道と、魔物の通り道が近い可能性があるらしい。


「今日は奥へは行かないからな」


 俺が言うと、ガイルが頷く。


「分かっている」


 ヴィクトルが小さく言う。


「その返事、毎回確認されてるよね」


「必要だからよ」


 セレナが淡々と返す。


 ガイルは少しだけ不満そうに見えたが、言い返さなかった。


 俺は役割を確認する。


「ガイルは前。セレナは魔法で進路と敵の動きを抑えてくれ。

ナディアは後方と支援。ヴィクトルは地形と採取者目線で危ない場所を見てほしい。

俺は全体と異常がないかを見る」


「了解」


 ヴィクトルが軽く手を上げる。


 森に入ると、空気が変わった。


 俺は綻びの目で周囲を確認した。


 妙な表示はない。


 死骸が動いている気配もない。


 だが、油断はしない。


 ◇


 採取地点へ向かう道は、思っていたより分かりにくかった。


 小さな獣道のような道がいくつも分かれている。


 慣れている冒険者なら迷わないかもしれない。


 だが、初心者や薬草採取が目的の者なら、間違える可能性は十分にあった。


 ヴィクトルは足元を見ながら歩いていた。


「この分かれ道、右に行くと遠回りだけど足場は安定してる。

左は近いけど、ぬかるみが多いね」


「依頼書には?」


 俺が聞くと、セレナが確認する。


「採取地点へは左の道が近い、としか書いていないわ」


「初心者は左へ行きそうだな」


「で、足を取られる」


 ヴィクトルが言う。


「雨の後なら、もっと危ないと思う」


 俺はその場所を記録した。


 採取地点へ向かうなら、晴れの日は左でもいい。


 だが、雨の後は右回りが安全。


 そう報告した方が良さそうだ。


 さらに進むと、折れた枝と足跡があった。


 ガイルが前方を見た。


「魔物の跡だな」


「小型だと思う」


 俺は足跡を見る。


 綻びの目にも、薄く表示が浮かぶ。


 《通過痕:小型魔物》

 《接触可能性:中》

 《注意地点:採取路手前》


 採取者が通る道と、小型魔物が横切る道が近い。


 これは危ない。


「ここは報告に入れよう」


 俺が言うと、ヴィクトルも頷いた。


「採取地点に入る手前だね。ここで出会うと、逃げる方向が限られる」


 セレナが周囲を見る。


「視界も悪いわ。茂みが少し高い」


 ナディアも言った。


「採取者が荷物を持っていたら、反応が遅れるかもしれません」


 俺たちは、その場所を詳しく確認した。


 ◇


 採取地点の近くまで来た時、茂みの奥で何かが動いた。


 ガイルがすぐに剣の柄へ手を置く。


「いる」


「ああ」


 俺も気づいていた。


 小型魔物が四体。


 依頼の範囲内だ。


 だが、場所が悪い。


 このまま採取地点側へ逃がすと、次に来る採取者にとって危険になる。


 その時、ヴィクトルが低く言った。


「左に抜けられると採取地点へ行く。先に塞いだ方がいい」


 俺は左を見る。


 低い斜面と、細い抜け道。


 小型魔物が逃げ込むにはちょうどいい。


「あの倒木、少し動かせない?」


 ヴィクトルが指差した先には、半分朽ちた倒木があった。


 セレナがすぐに頷く。


「やってみるわ」


 風が走った。


 倒木の周囲の枯れ葉が舞い、木がわずかにずれる。


 ガイルが一歩踏み込み、足で押し込んだ。


 抜け道が狭まる。


「これで十分」


 ヴィクトルが言った。


 次の瞬間、小型魔物が飛び出してきた。


 ガイルが正面に出る。


 セレナの風が右側へ抜けようとした魔物の動きを抑える。


 俺は左へ回ろうとした一体へ向かった。


 逃げ道は、さっきより狭い。


 小型魔物の動きが一瞬詰まる。


 そこへ踏み込み、斬り払う。


 ナディアは後ろへ抜けかけた一体を落ち着いて止めた。


 深追いはしない。


 進路を変えさせ、こちらが処理しやすい位置へ流す。


 最後はガイルが正面の一体を斬り倒し、戦闘は短く終わった。


 ◇


「今の判断、助かった」


 俺が言うと、ヴィクトルは肩をすくめた。


「戦う前に面倒を減らした方が楽でしょ」


「実際、その通りね」


 セレナも頷く。


「地形を見る人がいると、かなり動きやすいわ」


 ナディアも言った。


「採取地点へ逃がさずに済んだのは大きいですね」


 ガイルは短く言う。


「悪くない」


 ヴィクトルが少しだけ目を丸くする。


「ガイルに褒められると、なんか不思議な気分だね」


「褒めた」


「いや、それは分かってる」


 そのやり取りに、少しだけ笑いが起きた。


 ヴィクトルは、正面から敵を倒すタイプではない。


 だが、敵がどう動くか、どこへ逃げるか、どこを塞げば楽になるかを見る。


 その判断があるだけで、戦いはかなり楽になる。


 ◇


 その後、俺たちは採取地点周辺を確認した。


 薬草自体は、依頼書に書かれていた場所に生えている。


 ただ、その周辺にはいくつか注意点があった。


 採取地点の手前に、小型魔物の通り道がある。


 雨の後は、近道の足場が悪くなる。


 茂みが高く、視界が悪い場所がある。


 逃げるなら南側の道が安全。


 倒木の左側へ入り込むと、採取地点側へ魔物を逃がしやすい。


 俺たちは、それらを簡単にまとめた。


 黒い魔石片や死骸駆動術式に関わる痕跡はない。


 それも確認しておく。


 今回の依頼は、ただ魔物を倒すことではない。


 次に来る人が安全に動ける情報を持ち帰ることだ。


 三年Sクラスで学んだ、目的を見るという考え方。


 それが、こういう場面でも役に立っている。


 ◇


 ギルドへ戻ると、受付の職員は俺たちの報告を聞いて少し驚いたようだった。


「ここまで整理してくださったんですか」


「依頼書を更新すると聞いていたので」


 俺が言うと、ヴィクトルが横から補足した。


「採取地点に入る手前が一番危ないと思います。

初心者には、雨の後は右回りの道を使うよう書いておいた方がいいです」


 受付の職員はすぐに記録を取る。


「助かります。これなら初心者向けの注意書きにも使えます」


 セレナが言う。


「小型魔物は討伐しましたが、通り道は残っています。

しばらくは注意した方がいいと思います」


「分かりました。依頼書にも追記しておきます」


 報酬は、通常の討伐分に加えて、調査報告分が少し上乗せされた。


 大きな額ではない。


 だが、ギルドからの信頼が少し増えたように感じた。


 ◇


 ギルドの食堂で軽く食事を取ることにした。


 席に座ると、ヴィクトルが大きく息を吐く。


「机に向かうより楽かと思ったけど、森も普通に疲れるね」


「慣れだ」


 ガイルが言う。


「その一言で片づけるの、やめてくれない?」


「事実だ」


「そういうところだよ」


 セレナが小さく笑う。


 ナディアも少し表情を緩めていた。


 食事をしながら、自然とエドガーの話になった。


「エドガーも来られたらよかったんだけどね」


 ヴィクトルが言う。


「立場上、難しいでしょうね」


セレナが静かに答えた。


 俺も頷く。


「王から許可が出なかったらしい。警護の問題が大きい」


 ヴィクトルはナディアを見る。


「それを言ったら、ナディアもセルヴァン王国の王族じゃない?」


「私の場合は、学院での実地経験も含めて許可をいただいています。もちろん、危険度の高い依頼や、森の奥へ入るような行動は認められていませんが」


「なるほど。条件付きってことか」


「はい。それに、私はこの国の王位継承に関わる立場ではありません。エドガー様とは、少し事情が違います」


 セレナも頷いた。


「エドガー様の場合、何かあればアルスレイン王家の問題になるわ。護衛をつければ冒険者活動ではなくなるし、つけなければ王都騎士団の責任問題になる」


「確かに、それは無理だね」


 ヴィクトルは納得したように息を吐いた。


「だから、エドガーは朝、王都騎士団の訓練に参加しているらしい」


 俺が言うと、セレナが頷いた。


「エドガーらしいわね。できないことを嘆くより、できる場所で積み上げる」

 その言葉に、俺も同意した。


 六人全員が、いつも同じ場所で同じことをしているわけではない。


 だが、それぞれの場所で前に進んでいる。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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