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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第11章 王立学院一年 三学期

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第173話 ガイル、冒険者になる

 次の休みの日の早朝。


 王都の冒険者ギルド前で、俺とセレナはガイルを待っていた。


ギルドの周りはすでに動き始めている。


 依頼へ向かう冒険者。

 荷物を運ぶ商人。

 防寒具を着込んだ町の人たち。


「来たわね」


 セレナがそう言った。


 視線の先を見ると、ガイルがこちらへ歩いてきていた。


 今日は学院の制服ではない。

 動きやすそうな厚手の服に、腕や胸元を守る簡素な防具。

 腰には剣を下げている。


 元々体格が大きいせいもあって、こういう格好をすると妙に似合う。


「おはよう」


 ガイルが短く言う。


「ああ。思ったより冒険者っぽいな」


「これはベイルン家の訓練着だからな」


 セレナが少しだけ笑った。


「冒険者というより、騎士見習いね」


「それは認める」


 ガイルがあっさり言うと、セレナは少しだけ満足げな顔をした。


「じゃあ、まずは登録だな」


 俺が言うと、ガイルは頷いた。


「ああ」


 俺たちは三人で冒険者ギルドへ入った。


 ◇


 受付に向かうと、いつもの受付の女性がこちらに気づいた。


「あら、今日は三人ですか」


「はい。彼の登録をお願いします」


 俺がガイルを示すと、受付の女性は少しだけ目を上げた。


 ガイルの体格は、初登録の少年としてはかなり目立つ。

 しかも立ち方が、明らかにただの素人ではない。


「新規登録ですね。では、こちらへ」


 ガイルは書類を受け取った。


「名前、年齢、主な戦い方……職業欄か」


「ガイルなら戦士でいいんじゃないか」


 俺が言うと、ガイルは少し考えて頷いた。


「剣も使うが、魔法も使う。剣士というよりは戦士か」


「主な役割は前に出ることになるだろうしな」


「分かった」


 ガイルは職業欄に戦士と記入した。


 受付の女性が内容を確認し、登録証を用意する。


「ガイル・ベイルンさん。登録完了です。等級はG級からになります」


 横でセレナが少しだけ口元を上げた。


「ようこそ、G級へ」


 ガイルがそちらを見る。


「ずいぶん偉そうだな、D級」


「先輩だから」


「少しだけだろう」


「それでも先輩は先輩よ」


 ガイルは少しだけ眉を上げたが、特に反論はしなかった。


「実績がないなら下からだ。そこに不満はない」


 その答えに、受付の女性が少し驚いたような顔をした。


 たぶん、貴族の子弟が最初から下位扱いされることに不満を言う場面も、それなりに見てきたのだろう。


 ガイルはそういうところで無駄にごねない。


 家格への誇りはある。

 でも、筋の通ったことは受け入れる。


「では、今日は三人で臨時パーティー登録をされますか?」


「お願いします」


 俺が答える。


「リオンさんがB級、セレナさんがD級、ガイルさんがG級ですね。等級差がありますので、依頼の選択にはご注意ください」


「今日はガイルの初依頼なので、低級で行きます」


「それがよろしいかと思います」


 受付の女性がそう言って、登録処理を進めた。


 ガイルは依頼掲示板の方へ視線を向けている。


 その目は、もう少し難しい依頼にも向いていた。

 だが、何も言わなかった。


 昨日の話をちゃんと覚えているのだろう。


 ◇


 依頼掲示板の前に移動する。


 薬草採集。

 荷運びの護衛。

 低級魔物討伐。


 セレナはD級になったことで、以前より少し幅広く依頼を見ている。

 ガイルは戦えそうなものに目が行っている。


 俺はその二人を見ながら、条件に合うものを探した。


「これだな」


 選んだのは、王都北西の森の入口付近に出るワイルドボア複数体の討伐依頼だった。


 ガイルが依頼書を見る。


「ワイルドボアか」


「低級魔物だ。ただし突進力はある」


「止めればいいんだな」


「まあ、そうだな」


 俺は少しだけ言葉を選んだ。


「今日はガイルの動きを見る。ワイルドボアは突っ込んでくるから、一対一ならやりやすい。

でも複数出た時に、どう動くかを見るにはちょうどいい」


 ガイルは俺を見た。


「複数か」


「ああ」


 セレナが横から言う。


「低級でも、複数になると面倒よ」


「お前が言うと、少し説得力があるな」


「経験者だから」


「分かった」


 ガイルは素直に頷いた。


 受付で依頼を受け、俺たちは王都郊外へ向かう乗合馬車に乗った。


 ◇


 乗合馬車の中で、俺は簡単に役割を確認した。


「ガイルは前に出る。セレナは魔法で制圧。俺は周囲を見る」


「俺は倒せばいいのか」


「倒せるなら倒していい。ただ、今日は倒す数を競わない」


 ガイルが少しだけ眉を動かす。


「競わない、か」


「依頼達成が目的だからな。あと、森では必要以上に大きい魔法は使わない」


 セレナが小さく頷いた。


「それ、私も最初に言われたわ」


「言ったな」


 ガイルがセレナを見る。


「お前もか」


「ええ。学院では威力も評価されるけど、森では大きすぎる魔法が邪魔になることもあるのよ」


「なるほど」


 ガイルは短く答えたが、たぶんまだ感覚としては分かっていない。


 それでいい。


 実際に見れば分かる。


 馬車が王都の門を抜ける。

 石造りの建物が遠ざかり、冬枯れの畑と低い森が見えてくる。


 セレナはもう、この移動にも慣れた顔をしている。

 ガイルは特に文句を言わない。


 むしろ、体格があるぶん、硬い座席にも普通に座っている。


 このあたりは適応が早そうだ。


 ◇


 森に入ると、ガイルの目つきが変わった。


 学院にいる時よりも、少し鋭い。


 ただ、視線が前に寄っている。


「ガイル」


「何だ」


「前だけ見るな。横も後ろも見る」


「……ああ」


 ガイルはすぐに視線を動かした。


 素直に修正する。

 やっぱり飲み込みは悪くない。


 森の入口からしばらく進んだところで、茂みが揺れた。


 ワイルドボアが一体、姿を現す。


 こちらに気づいた瞬間、低く唸り、地面を蹴った。


「来るぞ」


 俺が言うより早く、ガイルは前へ出た。


 ワイルドボアがまっすぐ突っ込んでくる。


 ガイルは避けなかった。


 足を踏み込み、両腕で牙の根元を受ける。


 鈍い音がした。

 地面が削れる。

 それでも、ガイルの体はほとんど下がらなかった。


「……止めたの?」


 セレナが小さく呟く。


 ガイルはそのまま腕力でワイルドボアの頭を横へねじり、地面へ叩きつけた。


 一撃だった。


 低級魔物とはいえ、突進を真正面から止めて押し返すのは普通じゃない。


 やっぱりガイルは強い。


 一対一なら、低級魔物では相手にならない。


「すごいな」


 俺が言うと、ガイルは少しだけこちらを見た。


「この程度ならな」


 謙遜ではない。

 事実として言っている。


 それだけの力はある。


 だが、その直後だった。


 茂みの奥がさらに揺れた。


 二体。

 いや、三体。


 別のワイルドボアが飛び出してくる。


 ガイルは正面の一体を倒した直後で、意識がまだそこに残っていた。

 二体目には反応した。

 だが、三体目が横へ抜ける。


 セレナがすぐに土魔法を放った。


 ワイルドボアの足元が盛り上がり、進路がずれる。

 俺も水魔法でさらに横へ流し、セレナの方へ抜けるのを防いだ。


 ガイルが顔をしかめる。


「正面の一体は止めた」


「ああ。完璧だった」


「なら――」


「でも、二体目と三体目への判断が遅れた」


 ガイルは黙った。


 責めているわけではない。

 今の一体目への対応は本当に完璧だった。


 ただ、森では魔物が一体ずつ綺麗に出てきてはくれない。


「一対一なら、ガイルは十分すぎるくらい強い。

でも複数になると、見る場所が増える」


「……分かった」


 短い返事だったが、表情は真剣だった。


 ◇


 次に出てきたワイルドボアは二体だった。


 今度こそ、まとめて処理しようとしたのだろう。


 ガイルは大きく踏み込み、強烈な風魔法を放った。


 風の圧が広がる。


 二体のワイルドボアはまとめて吹き飛ばされた。

 威力は十分すぎる。


 だが、風圧で枯れ枝が折れ、落ち葉が大きく舞い上がった。

 森の奥で鳥が騒ぎ、遠くの茂みまで不自然に揺れる。


「ガイル、今のは大きすぎる」


 俺が言うと、ガイルは少し不満そうにこちらを見た。


「倒しただろう」


「森では、倒せば終わりじゃない。

音や魔力の気配で、別の魔物を寄せることがある」


「……なるほどな」


 ガイルは倒れたワイルドボアを見る。

 確かに倒れている。

 だが、その周囲の落ち葉や枝は大きく乱れていた。


「強い魔法を撃てばいいわけじゃない、ということか」


「そういうこと」


 セレナは少しだけ先輩らしい顔をした。


「見せてくれ」


 ガイルが言う。


「何を?」


「お前のやり方だ」


 セレナは一瞬だけ意外そうにしたあと、小さく笑った。


「いいわ」


 ◇


 またワイルドボアが二体あらわれた。


 セレナは前へ出すぎず、まず二体の進路を見た。


 大きな魔法は使わない。


 土魔法で一体目の足元をわずかに持ち上げる。

 進路がずれる。


 すぐに水魔法を低く走らせ、二体目の足場を滑らせる。


 動きが乱れたところへ、小さく絞った風の刃。


 必要な場所だけを撃つ。


 音は小さい。

 周囲もほとんど荒れない。

 それでも、二体のワイルドボアはきっちり倒れた。


 ガイルは黙ってそれを見ていた。


「それで足りるのか」


「足りるように撃つのよ」


 セレナは当然のように言った。


「大きく撃つんじゃなくて、必要なところに当てるの」


 ガイルは少し黙る。


 セレナの言葉は、以前の彼女なら言わなかったものだ。


 森で実戦を重ねたからこそ、出てきた言葉だった。


「なるほど」


 ガイルは低く呟いた。


 ◇


 次の戦闘で、ガイルは火力を抑えようとした。


 ただ、慣れていない。


 風魔法の範囲を狭めた分、狙いが少しずれる。

 一体は止めたが、もう一体が横へ抜けかけた。


 セレナがすぐに水魔法で足場を崩し、俺が進路を塞ぐ。


「今のは悪くない」


 俺が言うと、ガイルはこちらを見た。


「抜けただろう」


「火力を落とそうとしたのは良かった。あとは、狙いをもう少し絞るといい」


「なるほどな」

 


 ◇


 最後に現れたのは、ワイルドボア三体だった。


 ガイルはすぐに突っ込まなかった。


 一歩、位置を取る。


 正面の一体を受け止める。

 ただし、今度は叩き潰すことに意識を使いすぎない。


 体の向きで二体目の進路を塞ぎ、三体目がセレナの射線に入るように誘導する。


 セレナはすぐに動いた。


 土魔法で三体目の足を乱し、水魔法で滑らせる。

 俺は横へ抜けそうな一体に水を当てて、進路を戻す。


 ガイルの一撃は、最初ほど派手ではなかった。


 最後はセレナの魔法と、ガイルの剣で順に仕留める。


 戦闘が終わると、ガイルは少し息を吐いた。


「今のは?」


「良かったと思う」


 俺が言うと、ガイルは不思議そうな顔をした。


「俺が倒した数は少ないぞ」


「パーティーで役割分担するんだ。複数相手なら、それの方が良い」


 ガイルは黙った。


 倒した数ではない。

 火力の大きさでもない。


 複数を相手にした時、自分がどう動けば全体が崩れないのか。


 そこに少しだけ気づいたようだった。


 ◇


 依頼に必要な討伐数は満たした。


 ガイルが討伐部位を回収しようとしたが、少し雑だった。


「そこ、ちゃんと切らないと証明にならないわよ」


 セレナがすぐに指摘する。


 ガイルは手元を見て、少しだけ眉を上げた。


「慣れてるな」


「一ヶ月やってるから」


「なるほど。さすが先輩だな」


 セレナは少しだけ得意げな顔をした。


「分かればいいのよ」


 ガイルは言い返さなかった。


 意外と素直だ。


 帰り道、ガイルはしばらく黙っていた。


 森を出て、乗合馬車の停留所へ向かう途中、ようやく口を開く。


「思っていたより、難しいな」


「魔物を倒すだけじゃないでしょ」


 セレナが言う。


 ガイルは頷いた。


「ああ。一対一なら問題ない。だが、複数になると見る場所が増える」


「それに、強い魔法を撃てばいいわけでもない」


 俺が言うと、ガイルは少しだけ苦笑した。


「俺は、思っていたより力を使いすぎていたらしい」


「学院だと、それが評価される場面も多いからな」


「そうだな」


 ガイルは手を開いて、少し見つめた。


「次は、もう少し抑えてみる」


 それは、ガイルにとってかなり大きな一歩なのかもしれない。


 ◇


 ギルドへ戻り、討伐部位を提出する。


 受付の女性は確認を終えると、ガイルを見て微笑んだ。


「初依頼としては十分です。お疲れさまでした」


「ああ」


 ガイルは短く答えた。

 けれど、少しだけ嬉しそうにも見えた。


 今日の依頼は成功だ。


 ただ、ガイル本人は満足しきっていないだろう。


 一対一なら、ガイルは圧倒的に強い。

 それは今日、よく分かった。


 だが森では、敵は一体ずつ綺麗に出てきてはくれない。

 そして、強すぎる魔法がいつも正解になるわけでもない。


 ガイルは今日、その違いを知った。


 たぶんそれは、武門の名家の嫡男にとって、かなり大きな一歩だった。 



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― 新着の感想 ―
素直なガイルがかっこいいな 素直じゃないセレナは可愛いね
大の大人が殺されるレベルの猪の突進を正面から受け止める12〜13歳の中学1年生。小宇宙に目覚めた聖闘士かな? どうやらこの世界は、どんなに努力しようとも才能でひっくり返される残酷な世界のようだ。
これだけ猪狩ってるのに肉とらないなんて…
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