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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第10章 王立学院一年 二学期

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第156話 一斉点灯

 翌朝、俺は父の執務室にいた。


 窓の外はよく晴れている。冬の朝らしい澄んだ光が机の上へ差し込んでいたが、部屋の空気は穏やかというより引き締まっていた。


 父の向かいに座る俺の横にはノルが立っている。


「昨日の試験結果を踏まえて、今日は何をするつもりだ」


 父がそう聞く。


 俺は迷わず答えた。


「実地試験をやりたい」


「工房の中ではなく、街でか」

「ああ。工房で仕組みが動くことは見えた。でも、あれは所詮、仮組みだ。

導魔線の長さも分岐も、実際の街灯とは条件が違う。

街の中でやらないと、本当に使えるかは分からない」


 父は黙って先を促した。


「それと、やるなら少数じゃ意味がない。大通りで試したい」


「何本だ」


「20本」


 ノルがわずかに眉を上げた。


 父もさすがにすぐには返さない。


「……20本か」

「数本まとめて点いたところで、騎士団の負担軽減がどれだけあるかは見えにくい。

今、一番街灯が多いのは大通りだろ。

だったら、そこをまとめて点けられるか試したほうがいい」


 ノルが低く言う。


「理にはかなっていますな。どうせ試すなら、一番人目があり、一番負担の重い区画で見るべきだ」


「危険はないのか」

 父が聞く。


「失敗しても灯らないだけなら問題は小さい。

最終的には騎士がいつものやり方で点ければ済む。

ただ、導魔線の接続や水車側の機構が不安定だと厄介だから、そこは先に工房で詰めておく」


 父はしばらく考え込んだあと、ゆっくり頷いた。


「よし。やれ」


「ありがとう」


「ただし、騎士団の点灯担当は待機させておく。試験が駄目なら、いつも通り点ける」


「それでいい」


 ノルも短く頷いた。


「こちらで人を回します」


 話は決まった。


 ここからは、もう動くしかない。


 ◇


 工房へ戻ると、職人たちはすでにざわついていた。


 昨日の試験で、純石に個体差があること、変換機構で反応を引き出せることまでは皆が見ている。

今朝の空気は、半信半疑ではなく、明らかに「本当にやるのか」というものだった。


「若様、聞きましたよ。大通り20本だそうで」

 ベテラン職人が口角を上げる。


「聞こえるの早すぎないか」


「こういう話は回るのが早いんです」


 工房の中央に、昨日の試作機を元にした部材が並べられていた。


 変換機構。

 高品質の純石。

 起動箱へつなぐための導魔線。

 接続用の金具。

 木枠と補強材。


 俺はその前に立って、全員を見る。


「今日やるのは、大通り20本の一斉点灯だ」

 工房の空気が一段静かになる。


「ただし、最初から完璧にいくとは思ってない。

大事なのは、どこで落ちるかを見ることだ。

点かなかったらすぐ原因を潰す。焦って雑にやるな」


 木工職人、石工、金具職人、入庫担当、それぞれが短く返事をする。


 そこで俺は、用意していた純石を三つ並べた。


「中核に使うのはこれだ」


 透明度の高い純石。昨日の試験で最も反応が良かった個体だ。


 綻びの目を向ける。


 《蓄魔適性:高》

 《反応保持:優》

 《圧振反応:良》


 やはり、こいつが当たりだ。


「こっちの二つは補助」

 やや反応の劣る純石を左右へ置く。


「高品質純石ひとつに負荷を集めすぎるより、まずは分散させる」


 ベテラン職人がにやりと笑った。


「一つの強い石に頼りすぎないって話、もう始まってますな」


「最初からそこを外すと後で痛い目を見る」


 ノルが導魔線の束を見て言う。


「大通りの起動箱20か所まで、仮設でつなぎます。分岐は三段で切る予定です」


「均等に見えても、端は落ちやすい。長さだけじゃなく接続の甘さも見る」


「承知しました」


 そこからは慌ただしかった。


 街中の用水路沿い、小型水車小屋を建てる。

 といっても建物そのものは大げさなものではない。

木組みの簡易小屋に、純石を回すための変換機構を収め、雨風をしのげるようにした程度だ。


 水車自体は既存技術だ。

 ただ、中身は違う。


 石臼を回すための力を、そのまま使うのではない。

 水車の遅くて重い回転を、純石向きの細かく連続した動きへ変える。


 そのための木円盤。

 等間隔の突起。

 微調整できる固定台。

 純石を“叩く”のではなく“細かく押し続ける”ための遊び。


 綻びの目を使いながら、俺は何度も接続箇所を見た。


 《接続ズレ:有》

 《固定強度:不足》

 《分岐偏り:発生》


「そこの金具、締め直し」

「こっちは木枠を一枚足して」

「導魔線の分岐、右に寄りすぎ。均して」


 職人たちが即座に動く。


 ただの思いつきじゃない。

 ただの作業でもない。


 工房の発想が、街の仕組みに変わっていく音がしていた。


 ◇


 夕方。


 空の色が薄く冷えていき、いつもなら騎士たちが一本ずつ街灯を点け始める時間になった。


 大通りには、少しずつ人が集まっていた。


 商人。

 仕事帰りの職人。

 荷運び。

 近くの住民。

 

そして、今日は騎士たちもいつもと違い、街灯のそばではなく、水車小屋の近くに立っている。


 父も来た。

 ノルはその隣で腕を組んでいる。


 誰も街灯の起動箱に触れない。


 その異様さに、ざわつきは自然と広がっていた。


「本当に点くのか?」


「20本まとめて、って聞いたぞ」


「そんなことできるのかよ」


 聞こえてくる声を背に、俺は水車小屋の中へ入る。


 水は流れている。

 水車は回っている。

 変換機構も問題ない。


 中核の純石へ綻びの目を向ける。


 《蓄魔保持:安定》

 《振動効率:中》

 《出力余裕:有》


 よし。


「始めるぞ」


 俺が言うと、工房の木工職人が最終固定を終え、ノルが外で合図を送る。


 変換機構が、こつ、こつ、こつ、と細かく動き始めた。


 水車の回転が変わり、純石へ伝わり、その反応が導魔線へ流れ込んでいく。


 次の瞬間。


 大通りの街灯が、ひとつ、ふたつ、みっつ――と灯り始めた。


 だが。


「……端が遅い」


 俺はすぐに気づいた。


 中央寄りはいい。

 けれど、通りの端側にある数本だけ、灯りが半拍遅れ、しかも少し弱い。


 外でもざわめきが起きる。


「点いたけど……」


「揃ってねえぞ」


 綻びの目、発動。


 《分岐偏り:大》

 《末端導魔損失:増》

 《接続ズレ:左端》


「左端の分岐、やり直す!」

 俺はすぐ叫んだ。


「そこの接続が食ってる。導魔線を一度外して、長さを均して!

分岐金具も少し戻して!」


 ベテラン職人と金具職人が走る。

 ノルも騎士に指示して通りの端を押さえさせた。


 父は何も言わない。

 ただじっと見ている。


 数分もかからなかった。


 調整を終えた職人が顔を上げる。


「若様!」


「うん、もう一度だ」


 深く息を吸う。


 水車は回っている。

 変換機構も動く。

 純石の反応は安定。

 導魔線の偏りも減った。


「いける」


 そう呟いて、再起動を指示した。


 こつ、こつ、こつ。


 細かい動きが続き、純石が反応し、導魔線へ力が流れる。


 そして今度は――。


 大通り20本の街灯が、ほぼ同時に、ふっと灯った。


 一瞬で、冬の夕暮れが押し返される。


 通り全体が明るくなった。


「……おお」

 誰かが息を呑む。


 今まで一本ずつ点けて回っていた灯りだ。

 それが、今はひとつの仕組みでまとめて灯っている。


 住民たちが言葉を失って見上げていた。

 商人が目を見開いている。

 騎士たちも、いつものように散って点灯する必要がないまま、その場に立ち尽くしていた。


 ノルが、珍しくしばらく何も言わなかった。


 やがて低く、はっきりと言う。


「……これなら、団員の魔力消費を抑えられる」


「ああ」


 父が小さく息を吐く音が聞こえた。


 その横顔は静かだったが、目だけがいつもよりわずかに鋭い。

 領の仕組みが変わる瞬間を、ちゃんと見ている顔だ。


 ベテラン職人は口元を押さえ、やや遅れて笑った。


「やっちまいましたな、若様」


「まだ一区画だ」


「一区画でも十分すごいでしょう」


 それは、その通りだった。


 ◇


 点灯の持続を確認しながら、俺は通りの端から端までを歩いた。


 20本。

 今のところ、問題なく灯っている。


 ただし、ここで浮かれるのは違う。


 綻びの目を軽く流す。


 《出力安定:可》

 《水量依存:中》

 《維持余力:要観察》

 《長期運用:検証不足》


 見えた課題もちゃんとある。


「若様」

 ノルが並んできた。

「どう見ます」


「成功だ。でも完成じゃない」


「水量が落ちた時も見ないといけませんな」


「それに純石の交換時期、導魔線の保護、点検の手順もいる」


 ノルは頷く。

「ですが、一区画が回るなら、他もやれます」


「うん」


 俺は灯った大通りを見た。


「だから一か所集中はしない」


 父もそこへ加わる。


「3か所、か」


「そう」


 俺ははっきり答えた。


「街中の用水路沿いに水車小屋を3か所。区画ごとに受け持たせる。

1か所が止まっても、残りで主要部は維持できるようにする」


「理由は」


「水路に水が来ないこともある。点検も故障も、純石の交換もある。

1か所に全部を集めたら、そこが落ちた時に全部消える」


 父は少しだけ口元を緩めた。


「そこまで考えているなら十分だ」

「上質な純石なら、理屈の上では1基で100本級もあり得る。

でも実運用は別だ。余裕を見て分けたほうがいい」


「つまり、強い石ひとつで全部を支えるんじゃない、と」


「そういうこと」


 この話は、もう発明そのものじゃない。

 配置と運用の話だ。


 どこに置くか。

 どう分けるか。

 止まった時どうするか。


 そこまで含めて初めて、街灯は“便利な装置”から“領都のインフラ”になる。


 ◇


 試験を終え、工房へ戻る頃には、空は完全に夜になっていた。


 けれど今夜の大通りは、いつもより少し違って見えた。


 それは灯りの明るさのせいだけじゃない。

 あの20本が、人の手で一本ずつ点けられたのではなく、ひとつの仕組みによって支えられていると知っているからだ。


 工房の中で、俺は最後にもう一度、高品質の純石を手に取った。


 透明で、地味で、ずっと価値を見落とされてきた石。


 それが今は、領都の夜を変えようとしている。


「一つの強い石が要るんじゃない」


 誰に聞かせるでもなく、俺は小さく呟いた。


「止まっても消えない仕組みのほうが大事なんだ」


 水車。

 純石。

 導魔線。

 街灯。


 ばらばらだった部品は、ようやく同じ仕組みとして噛み合い始めた。


 まだ課題はある。

 だが、もう夢物語じゃない。

 領都の灯りは、今日、点としてではなく線としてつながった。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
これ二学期の章に含めずに冬休みの章で独立させるべきじゃないのかな
純石コツコツマシーンに用水路の水車必要?そんなトルク必要?? ぶっちゃけ1/100の大きさの水車で足りるんじゃないの? 1/100水車なら水の量は単純計算で1/1000000で済むんで、大きなタルぐら…
お父さんに対する尊敬の念が感じられなくて、違和感。家臣に騙されてたし、もしかして見下してます?
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