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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第10章 王立学院一年 二学期

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第151話 純石の反応

「これは……」


 手の中の透明な石を見つめたまま、俺はその場でしばらく動かなかった。


 青輝石ではない。

 光らない。

 魔力もほとんど通らない。

 だから値もつかないし、工房では混じりものとして扱われている。


 理屈だけ聞けば、それで終わる話だ。


 けれど、綻びの目がわずかに反応した。


 しかも、ただの「不要品」相手に出る反応にしては曖昧すぎる。


 《反応:微》

 《判別保留》


 普段ならもっとはっきり出る。

 役に立つか、立たないか。危険か、そうでないか。

 この目は、そのへんを割合容赦なく示してくれる。


 なのに、今は違う。


 まだ掴みきれていない。

 けれど、何かがある。


「リオン様?」


 入庫担当の男が、おそるおそる声をかけてきた。


「ああ、悪い。少し気になっただけだ」


 そう答えながら、俺は手の中の石をもう一度軽く転がした。


 透明。

 いや、完全な無色ではない。光の加減によって、ほんのわずかに白っぽく濁って見える。青輝石のような青の深みはない。宝石としても、たしかに中途半端だ。


「これ、いつも捨ててるのか?」

「全部じゃありませんが、大体はそうですね。重しに回したり、砕いて埋め材に混ぜたりもしますが、街灯づくりには使いません」


 男は少し肩をすくめた。


「見た目だけなら綺麗なんですけどね。使えない石です」


 その言い方が、妙に引っかかった。


 使えない。


 たぶん、ここにいる職人たちの認識としてはその通りなんだろう。

 魔力に関わる石の価値は、だいたい


 光るか。

 魔力を通して反応するか。

 魔道具に向くか。


 そのへんで決まる。


 だったら、何も起こさない石は外れだ。


 俺は純石を仕分け場の台へ置いたまま、周囲を見回した。


 選別の流れはまだ詰まっている。

 箱から石を出し、青輝石の等級や規格を分け、規格外をはじき、それ以外の混じりものを取り除く。量が増えているせいで、担当の手元に判断待ちがどんどん溜まっていた。


 その中で、さっき見えた“わずかな違和感”の正体を探す。


 すると、また目の端で小さな光が揺れた。


「……今の」


 俺は反射的にそちらへ視線を向けた。


 廃棄に回される規格外の青輝石が積まれた箱の端。

 そのすぐ横で、仕分けを終えた純石の山が別箱へ移されている。

 ちょうど職人が、透明な石をざらりとまとめて放り込んだところだった。


 その瞬間だけ、規格外青輝石の欠片が、ほんのかすかに明滅した。


 見間違いかと思うほど弱い。


 でも、見えた。


「今、何かしましたか?」

 ミアが小さく聞く。


「いや……」


 俺は一歩近づいた。


 入庫担当の男はきょとんとしている。

 他の職人たちも、特に気にした様子はない。


 つまり、今のは珍しくもないが、誰も意味を見出していない類の現象なのか。


「その石、こっちへ移す時に、たまに何か起きたりするか?」


 俺が聞くと、男は首をかしげた。


「何か、ですか?」

「青い石が反応するとか」

「ああ……」


 男は少し考えてから、曖昧に笑った。


「言われてみれば、足踏み砥石のそばに置いておいた時なんか、たまに青輝石の欠片が妙に長く光るように見えることはあります。気のせいかと思ってましたが」

「他にもあるか?」

「石切り台の近くとか、研磨台のそばとか……そのへんでたまに。ですが、毎回じゃありませんし、仕事に関係するほどじゃないので、誰も気にしてませんでした」


 やっぱり、か。


 前から現場にはあった。

 ただ、価値ある現象として数えられていなかっただけだ。


 俺は純石の箱と、近くの足踏み砥石、それから規格外青輝石の欠片を見比べた。


 反応する時としない時がある。

 だが、ただ置いてあるだけではなさそうだ。

 足踏み。回転。振動。

 そのあたりが怪しい。


 純石へ意識を向けた瞬間、綻びの目の表示が浮かんだ。


 《直接通魔:低》

 《圧振反応:有》

 《蓄魔適性:微》

 《回転継続:効率上昇》

 《条件安定性:低》


 ――これだ。


 やっぱり、ただの石じゃない。


 しかも、俺がさっきぼんやり感じた通り、これは“魔力を直接流して使う石”じゃない。


 圧力。

 振動。

 回転。


 そういう動きに反応して性質が変わるタイプだ。


「ミア」

「はい」

「足踏み砥石のそば、少し借りる」


 そう言うと、ミアはすぐに周囲の職人へ声をかけて場所を空けさせた。こういう時の動きが早い。


 俺は規格外青輝石の欠片をいくつか選び、そのうち一つを砥石台の脇へ置いた。

 そのすぐ横に、さっきの純石も置く。


「普段通りに回してくれ」


 砥石担当の職人にそう頼むと、男は戸惑いながらも足を踏み板に乗せた。


 ぎい、ぎい、と木と金属が軋む音。

 回転が始まる。

 砥石の軸から細かな振動が床へ伝わり、その脇に置いた純石がわずかに震えた。


 俺はじっと見つめる。


 1回、2回では何も起きない。


 だが、振動が一定のリズムで続いた数呼吸後。


 規格外の青輝石が、ほんのかすかに青く滲んだ。


 小さい。

 けれど、確実に光った。


「……おい」

 砥石担当の職人が目を見開く。

「今、光りませんでしたか」

 ミアも珍しくはっきり驚きを見せた。


「もう少し続けてくれ」


 俺が言うと、職人は無言で足踏みを続けた。


 すると、さっきよりも少し分かりやすく、青輝石がまた明滅する。


 規格外品だから光り方そのものは弱い。

 けれど、それで十分だった。


 ただの見間違いじゃない。


 純石が、振動や回転を受けることで、青輝石の反応を変えている。


「今度は止めてくれ」


 砥石が止まる。

 振動も消える。


 すると青輝石の反応も途切れた。


 俺は純石を手に取り、別のやり方を試すことにした。


 台の上に規格外青輝石を置き、純石をそのそばへ寄せる。

 ただ持っているだけでは反応しない。


 今度は木枠の角へ純石を当て、一定の細かい振動になるよう手首で小さく揺らしてみる。


 何度か角度を変える。

 強く振るのではなく、細かく、連続して。


 すると、数度目で青輝石の表面にうっすら青白い光が浮いた。


「やっぱり……」


 思わず声が漏れる。


 ただ上下に振るだけでは駄目だ。

 1回強く叩いても反応は薄い。

 けれど、細かな振動を一定に与えると、反応が変わる。


 ミアが横から静かに言う。


「人が魔力を流しているわけではありません」

「ああ」


 そうだ。


 今、俺は魔力を流していない。

 ただ、純石へ動きを与えているだけだ。


 なのに青輝石が反応している。


 俺は手の中の純石を見つめながら、学院の魔法理論の講義を思い出していた。


 魔力を構成する魔素は、大気中にも存在する。

 魔法使いはそれを体内に取り込み、練り、使う。

 青輝石は、魔力を受ければ光る。


 なら、この純石は何だ。


 魔力を直接通しても反応しない。

 だが、圧力や振動、回転を受けると様子が変わる。


 考えられるとすれば――。


「この石は……魔力を通す石じゃない」


 自分の考えを整理するように、口に出す。


「でも、動きを与えることで、大気中の魔素を引き寄せてるのか、あるいは自分の中へ留めやすくなってるのかもしれない」


 断定はできない。

 理屈の全部が分かったわけでもない。


 それでも、今の現象を説明するなら、その方向が一番近い。


 入庫担当の男がぽかんとした顔で俺を見ていた。


「リオン様、それって……」

「少なくとも、ただの使えない石じゃない」


 俺は純石を持ち上げた。


 光らない。

 魔力も通りにくい。

 けれど、動かすと反応が変わる。


 もしこれが、動力によって微量の魔力を帯びる石だとしたら。


 それを青輝石へ渡せるなら。


 街灯の点灯で、騎士が毎回すべての魔力を流し込む必要はなくなるかもしれない。


 今はまだ、ごくわずかな反応だ。

 この程度で街灯を灯せるとは到底思えない。


 だが、より大きな動きを純石にあてたらどうだ。

 街灯1本1本に直接魔力を流し込むのではなく、何かしらの動力で純石が魔力を帯びさせる。

その魔力を街灯に流すことができれば、騎士たちの負担はかなり変わる。


 そこまで考えたところで、自然と視線が工房の外へ向いた。


 人の手ではなく。

 もっと長く。

 もっと安定して。

 毎日回り続けるものがあれば――。


 俺は手の中の純石を見つめたまま、静かに息を吐く。


「問題は」


 小さく呟く。


「この石を、どうやって毎日、安定して動かし続けるかだな」





最後まで読んでいただきありがとうございます。

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風車とかかな
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