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異世界探偵のひとりごと ~ 【WEB短編版】  作者: D'Salvatore
第1巻

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第5章 - 法医学捜査(後編)

 ジュリエッチが鍵を回し、ドアを開けた。俺たちを迎えたのは、狭くて機能的な空間。そこには俺がよく知ってるあの匂いが染み付いていた。洗剤と淀んだ空気、それに経験が教えてくれた、死の残り香とでも言うべき何か……言葉にできない匂いが混ざってる。


 ジュリエッチがドアの脇で一瞬だけためらったのを感じて、つい手を伸ばして彼女の腕にそっと触れた。守るような仕草が、考えるより先に出ちまった。彼女が素早く俺を見上げて、驚いた様子だったけど……離れはしなかった。


 代わりに、ほとんど気づかないくらい小さく頷いて、静かな支えに感謝してるみたいだった。


 ダブルベッドが部屋の大半を占めていて、青いシーツがかかってる。隅には木製の小さなテーブルと椅子が二脚、古いクローゼットが一つ。照明は天井のランプと、テーブルの上の小さなスタンドから来てた。そしてベッドの真ん中には……俺たちの被害者、松本翔が横たわっていた。


 商人は仰向けに寝ていて、腕は体の横にリラックスして置かれてる……いや、完全にリラックスしてるわけじゃない。微妙な硬さがあって、俺の目はすぐにそれを捉えた。


 でも服は無傷だった。どうやら一度も脱がれてない様子の暗い色のスラックスに、胸まで留められた白いシャツ。まあ、支配人が自然死だと考えたのも当然か。


 争った形跡はなく、最初の検証に必要な範囲以外の乱れもない。


 平和な死の完璧な光景だった。健康な四十二歳の男が、安モーテルで平和に死ぬことなんて滅多にないって事実を除けばな。


「支配人が見つけた通りなのか?」


 ジュリエッチがベッドに近づくのを見ながら、俺は訊いた。


「ああ……だから最初は自然死だと思ったらしい。何も……暴力的じゃないように見えるからな」


 レオンが答えた。


 オーバーコートの中から外科用手袋を取り出しながら、俺はベッドに近づいた。この世界には生体証拠の保存に関する確立されたプロトコルなんてないけど、俺が開発した習慣で、いつも持ち歩いてる。


「ジュリエッチ、分析を始める前に全部記録してスキャンしてくれ。証拠に手をつける前の映像記録が不可欠なんだ」


「それが……法医学捜査のやり方なの?」


 彼女の声には素直で分かりやすい好奇心があった。まるで俺がどう仕事するか、本当に理解したいみたいに。


「ああ。証拠と犯罪現場を汚染するのを避けなきゃいけない」


 手袋をはめながら、俺は説明した。


「その……手袋、どこで手に入れたの?」


「いつもキットを持ち歩いてるんだ。外科手術にもこういう仕事にも使える」


 ジュリエッチの注意深い視線を感じながら、俺は答えた。


 彼女は頷いて、小型ドローンを現場記録用に向けた。デバイスが静かに飛んで、細部を捉えてく。彼女がそれを操作する様子を、俺は魅了されて見てた。


 センサーの青い光が部屋を照らして、肉眼じゃ見逃すような細部を明らかにしていく。被害者に視線を戻して、仕事に集中しようとした。


 遺体の位置は俺を騙さない……整いすぎてる。俺の経験じゃ、遺体は手を加えないとこんなに整った状態にはならない。そして……手を加えたってことは、この場合、名前も素性もはっきりしてるってことだ。


 突然死の遺体は普通、最後の闘いの痕跡を見せる。収縮した筋肉、苦痛の表情、意識の最後の瞬間を示す姿勢とかな。


 だが、松本はまるで解剖学の知識がある誰かに整えられたみたいだった。あるいは、あまりに一瞬で死んだから、どんな身体反応も起こる時間がなかったのか。疑惑が俺の中でどんどん膨らんでいく。


「レオン、ここに着いた時、室温は確認したか?」


 分析を始めながら、俺は訊いた。


「そこまでは考えなかった……なんで?」


「体温から、正確な死亡時刻の手がかりが得られるんだ。十二時間以上経ってても、法医物理学に基づいた推定はできる」


 自分のニーズに合わせて改造した体温計を鞄から取り出しながら、俺は説明した。


「ジュリエッチ、今の室温は?」


 彼女が俺のやってることをよく見えるように位置を変えたのを感じながら、俺は訊いた。


「十八度」


 ドローンの映像を見るために使ってる画面を確認しながら、彼女は答えた。


 被害者の体温を慎重に測った。ジュリエッチの注意深い視線が、俺の動きの一つ一つを追ってるのを感じながら。体温計は二十度を示した。室温よりたった二度高いだけ。数字は嘘をつかない。


「体温から見て、少なくとも十時間前に死亡してる。おそらく昨夜の九時から深夜零時の間だ。冷却速度から見て、長時間の苦悶はなく、急速な死だったと思われる」


「どうしてそんなに確信できるんだ?」


 明らかに感心した様子で、レオンが訊いた。


 ジュリエッチがドローンを止めて、完全に俺を観察してるのに気づいた。彼女の注意が全部、俺の説明に向けられてる。俺の言葉だけじゃなく、分析の進め方まで記憶してるみたいに、彼女の眼差しには何か強烈なものがあった。


「人間の身体は死後、予測可能な速度で熱を失う。室温、服装、体格、死亡前の運動の有無などの要因にもよるけど、一時間に一度から二度だ」


 俺は説明した。


「十時間以上経ってるのに、遺体と室温の差がたった二度ってことは、松本は死の瞬間まで血流が良好で、おそらく病気じゃなかったってことだ」


「エンジェルでさえ死亡時刻の特定には苦労してるのに……」


 ジュリエッチが呟いて、明らかに感心してた。彼女がそう言った時の様子に、俺の胸の中で何かが動いた。


「あなたたち二人、いい友達になりそうね……」


「それが法医学主任か?」


 俺は訊いた。


「まあ、じゃあ彼女の仕事を楽にして、俺の情報を確認できるよう詳細なメモを作らないとな」


 遺体を細かく調べ始めて、最初の分析で見逃されたかもしれない証拠を探した。松本は四十二歳にしちゃ優れた体格をしてる。太ってなくて、筋肉は定期的な運動を示唆してた。


 手入れの行き届いた手には、タコや肉体労働の痕跡はない。爪は清潔で手入れされてて、下に汚れもなく、防御しようとした痕跡も何かを掴んだ痕跡もなかった。でも、何かが俺を深く悩ませてた。


 微妙で、ほとんど気づかないくらいだけど……そこにあった。


「何かが……おかしい……」


 眉をひそめながら、俺は呟いた。


「何?」


 ジュリエッチが近づいてきて、突然、俺のすぐ近くにいた。あまりに近くて、彼女の体から発する熱と、彼女だけに結びつけ始めてたあの微かな花の香りを感じられるくらい。


 被害者の表情に集中するよう、俺は自分の心に命じた。目の周りの筋肉は、自然死とは矛盾する残留緊張を示してる。


 むしろ……突然の驚きみたいだ。不意を突かれたかのような。


「レオン、支配人が本当に脈を確認する以外、何も触ってないって確認したか?」


 松本から目を離さず、でもジュリエッチの近さを強烈に意識しながら、俺は訊いた。


「そう言ってた。なんで? 何か見えてるのか?」


 レオンが好奇心を持って訊いた。


「腕の位置が突然の自然死とは矛盾してる。左腕はわずかに曲がってて、死んだ時に何かしてたみたいだ。一方で右腕はリラックスしてる」


 顔の表情をもっと近くで調べるために動きながら、俺は指摘した。


 ジュリエッチが完璧な同期で俺と一緒に動いた。まるで俺の動きを予測してるみたいに。


「それに……顔の筋肉は突然の緊張の痕跡を示してる。このタイプの死の典型的なパターンじゃない」


 俺たちの動きがどう補完し合ってるか感じながら、俺は付け加えた。


 ジュリエッチがドローン操作を止めて、さらに近づいてきた。


「誰かが遺体を動かしたって示唆してるの?」


 彼女の声は低く、親密で、まるで秘密を共有してるみたいだった。


「あるいは特定の行動の最中に死んだか……でも……三つ目の可能性もある……」


 彼女が完全な注意で俺を見つめてるのを感じながら、俺は答えた。


「何?」


 近づきながら、レオンが訊いた。


 ジュリエッチが俺の目を真っ直ぐ見て、待ってる。一瞬、俺が言葉にする前に彼女が俺の考えを読み取れるような気がした。俺たちの間の繋がりは、ほとんど触れられるくらいだった。


「体の一部だけが反応する時間しかないほど一瞬で死んだ可能性。突然の内部外傷、速効性の毒、それとも……」


 ジュリエッチが俺の思考の流れを先取りして言った。


 彼女は止まって、俺を見つめた。そして恐ろしい可能性が俺の心に形成された。


「直接的な魔法外傷」


 俺は続けた。


「十分強力な攻撃、中枢神経系を攻撃できるマナの放出……でも明らかな外部の痕跡は残さない」


 遺体に視線を戻して、指先を冷やすように氷の魔法を流し始めた。捜査のために開発した技術で、温度制御を使って肉眼じゃ見えない証拠を明らかにする。


「何をしてるんだ?」


 魅了された様子で見ながら、レオンが訊いた。


 ジュリエッチがさらに俺の方に身を乗り出すのを感じた。彼女の息がほとんど俺の肩に触れそうだった。彼女は完全な注意で俺の技術を観察してる。そして彼女の存在は、俺の気を散らすどころか、むしろ俺の集中を研ぎ澄ますみたいだった。


「氷の魔法を使って指紋やその他の証拠を明らかにしてる」


 俺は辛抱強く説明した。


 このプロセスには強い集中が必要だ。こんなに注意深く知的な観客に見られてる時は特に難しい。


 表面の温度を徐々に下げて、薄い霜の層を制御しながら形成させなきゃいけない。


 指紋を明らかにするのに十分な厚さだけど、俺たちが求めてる細部を覆い隠すほど厚くならないように。ベッド脇のテーブルから始めた。霜が木の上に形成されるにつれて、最初の痕跡が現れた。


「この……法医学捜査ってやつに、どんどん魅了されてきたわ……」


 心からの賞賛を込めた声で、ジュリエッチが呟いた。


「実は、これ俺の応用なんだ……」


 彼女を感心させたことに密かな誇りを感じながら、俺は答えた。


「背後の科学はシンプルだけど、実用化には時間がかかった……魔法と組み合わせるように形作らなきゃいけなかったからな」


「どうしてそんなこと知ってるんだ? 軍で習ったのか?」


 指紋のパターンが現れ始めるのを見ながら、レオンが訊いた。


「こんなの見たことなかった」


「実は違う……でも、概念は基本的なんだ。冷気が、俺たちの指が触れたあらゆる表面に残す天然の油を、四十八時間以内なら証拠化する」


「それって……本当に可能なの?」


 ジュリエッチが身を乗り出して、声には好奇心の色があった。


「魔法の氷を使えない人でも使えるように、これを応用できるかしら?」


「ああ、でもそのためには、もっと特化した装置をいくつか作る必要があるな……」


「ふうん……じゃあ後で詳しく説明して。開発するから」


 ジュリエッチが言った。


 彼女の笑顔は、新しい技術装置を作るチャンスへの興奮を全部見せてた。


 俺は頷いて、氷が証拠化した指紋に注意を戻した。テーブルの上には少なくとも四組の異なる指紋を数えた。明らかに松本のもの、それから遺体を発見した時の支配人のものだろう……


 でも、少なくとも他に二人がこの表面に触れてた。一つは小さめの指紋で、確実に女性のもの。もう一つはもっと大きくて、指の長い男のものだった。


「ジュリエッチ……お前のドローン、残留魔法エネルギーの痕跡を検出できるか?」


「もちろん……」


 俺が質問を終える前に、もう操作してた。


「でも、なんで?」


「このベッドの部屋と十三号室を隔ててる壁に向けてくれ。特に、ベッドに横たわってる人の胸の高さに相当する位置のエネルギー集中を探してくれ」


 彼女は熟練職人の精密さでコントロールを操作して、デバイスを指示した場所に向けた。ほぼ即座に、小さな画面に明るい赤の集中が映った。


「魔法エネルギーの痕跡がある」


 ジュリエッチが確認して、仕事上の興奮と何かもっと個人的なものが混ざった表情で俺を見た。


「そしてパターンは……ランダムじゃない。ほとんど軌道みたい……何かがこの壁を通過したかのような」


 俺の鼓動が速くなった。まさに俺が疑ってたことだ。そして彼女の顔の表情から見て、ジュリエッチも同じ結論に達してた。


 壁に近づいて、木材に段階的冷却技術を適用した。ジュリエッチが俺のすぐ後ろに位置するのを感じながら。プロセスは遅かったけど、俺の心臓を躍らせるものを明らかにした。


 木材の小さな穴、肉眼じゃほとんど見えない。小さなコインより大きくなくて、完璧に円形で、縁は高速貫通を示唆してる。


 穴の周りの木の繊維はわずかに焦げてた。


「ジュリエッチ……これを見てくれ……」


 彼女が素早く近づいてきて、レオンも続いた。穴の内部を冷やすためにさらに魔法を使った時、驚くべきことが起きた。魔法エネルギーの残留物が、穴の内部で青みがかった氷の微小な結晶に変化した。


「これってマナの残留物?」


 ジュリエッチが囁いて、もっとよく観察するために身を乗り出した時、俺は彼女の肩が俺のに触れるのを感じた。


「マナの物質化なんて見たことない……ある意味、美しい……恐ろしい形で」


 同意せざるを得なかったけど、マナの残留物について考えてるのか、あんなに近くにあるジュリエッチの顔について考えてるのか分からなかった。発見の美しさが、俺の上司の美しさと混ざり合ってた。


「少なくとも今、仮説はできた……この穴は一つの部屋からもう一つへ貫通してる」


 木材に手を這わせながら、俺は言った。


「かなりの力を持った何かがここを通過した。そして結晶化した残留物から見て、半固体形態に集中した魔法エネルギーだった」


「隣の部屋から撃ったって言ってるのか?」


 レオンが眉を上げて、声には信じられない様子があった。


「言ってるんじゃない……断言してる」


 俺はベッドの松本を見て、それから穴を見た。


「高さ、方向……全部合ってる。証拠は嘘をつかない、レオン」


「それを……暗算で計算したの?」


 ジュリエッチが訊いて、彼女の声の賞賛に、隠そうとした控えめな誇りが引き出された。


「基本的に、この部屋に残された証拠を観察してるだけだ」


 カジュアルに聞こえるよう答えたけど、また彼女を感心させたことに密かに満足してた。


 ジュリエッチがドローンのコントロールに戻って、より詳細なスキャンに向けた。


「魔法の弾丸の残留痕跡がある」


 彼女が確認した。


「高強度の魔法エネルギー放出、非常に最近のもの。そして拡散パターンから見て、十時間から十二時間前に発射されたと言える」


「俺の死亡時刻の計算と一致する」


 ピースが収まってることに満足して、俺は小さく言った。


「でも松本には目に見える傷がない」


 レオンが反論して、妥当な異議を唱えた。


 彼は正しかった。法廷で弁護人が俺の顔に擦りつけるポイントだ。木材を貫通するほど強い発射なら、被害者の肉と骨を破壊できるはずだけど、それを裏付けるものは何もなかった。


「もっと注意深く遺体を調べる必要がある……レオン、松本の体のすべての表面を見られるよう位置を変えるのを手伝ってくれ」


 可能性について俺の心が働きながら、俺は指示した。


「でも、慎重に……証拠の完全性を保つ必要がある」


 慎重に、そして小さな筋肉に入り始めてた死後硬直を尊重しながら、俺たちは遺体を動かした。その時、事件の理解を完全に変える何かを発見した。


 心臓の高さ、白いシャツに、微小な痕跡があった。肉眼じゃ見えないけど、局所的冷却を適用した時、染みが小さな暗い円として現れた。壁の穴と全く同じサイズだった。


 でも血はなく、明らかな傷もない。布地の痕跡だけ、まるで何かが一瞬だけ集中したエネルギーでシャツに触れたかのような。そして謎がどんどん深まってくのを俺は感じた。


「ジュリエッチ、これを見てくれ……」


 彼女が近づいてきて、遺体の上に身を乗り出した。


「円形で、壁の穴と並んでる」


 彼女が集中した囁きで観察した。


「でもどうして傷がないの?」


「物理的な弾丸じゃなかったからだ」


 ピースが最終的に収まりながら、俺は話した。


「純粋なマナだった……衝撃で拡散して、全部を心血管系に放出した集中エネルギー」


「それって……可能なの?」


 明らかに興味を持って、レオンが訊いた。


「理論的には……ああ」


 ジュリエッチが低い声で言った。


「熟練した魔法使いなら、マナを一時的な半物理形態に成形できる。障害物を貫通して……外部の痕跡を残さずに内部から破壊するのに十分なほどに」


「くそ、あのバカは隣の部屋で騒音以上のことをしてたってわけか……」


 点を繋げながら、俺は呟いた。


「何の話をしてるんだ?」


 明らかに会話についていけず、レオンが訊いた。


「レオン、これは軍の独占技術だ。不必要にマナを消費する代わりに、魔法銃に供給するためにエネルギーを集中させる。発射は……心臓に直接雷を受けるようなもんだ。小さな外部の痕跡で即座の停止、でも内部の損傷は壊滅的」


 俺は説明した。


 ジュリエッチが青ざめたけど、彼女の目は恐怖と魅惑の間で燃えてた。状況の現実が俺たち全員に明らかになってきた。


「じゃああのバカは街の真ん中で軍事兵器を見せびらかしてたってこと……」


 信じられないという声で、ジュリエッチが言った。


「その通り」


 彼女の反応に注意しながら、俺は確認した。


「戦闘魔法の高度な訓練を受けた者だけが、このタイプの弾丸を作って制御できる」


 レオンが素早くメモを確認して、情報を照合した。


「時間が一致する。宿泊客が聞いた『小さな爆発』は、彼が武器を見せびらかしてた時のはずだ……そして致命的な発射は、十三号室が静かになった夜十時頃に起きたに違いない」


「でもなんで?」


 ジュリエッチが訊いた。


「なんで兵士が織物商人を殺すの?」


「意図的じゃなかったかもしれない」


 俺は示唆した。


「岡田氏は妻を感心させようと見せびらかしてた。そしてたぶんどこかで、偶然撃っちまったんだ」


 俺の心の中で証拠を整理し始めたけど、ジュリエッチが俺が学び始めてた鋭い知性で新しい情報を処理する様子も観察してた。


「そしてその発射が壁を貫通して、反対側の松本に当たった」


 ジュリエッチが続けて、またしても俺たちの精神的同調が俺を驚かせた。


「そう……全部、無謀さと見栄っ張りの結果」


 俺は確認した。


「俺の仮説はこうだ。ダイキは酔ってて、ミユを感心させようと軍事魔法銃を見せびらかしてた。どこかで制御を失って、壁越しに偶然撃っちまった。何が起きたか気づいた時、隣の部屋に駆けつけて誰か怪我してないか確認した。その時、ベッドで既に死んでる松本を見つけてパニックになった。どうにかして内側から鍵をかけて、一人で部屋で死んだかのように装った。それからすぐに逃げた」


「じゃあ容疑者が分かったわけね」


 ジュリエッチが言ったけど、満足してないようだった。


「まあ、十分ね……よくやったわ、エリオット」


「俺は何もしてない、犯罪現場で利用可能なものの分析をしただけだ。とにかく、レオン、夫婦を尋問に連れてくる時は、岡田氏が魔法の道具にアクセスできないようにしてくれ。この死が純粋に事故だったかどうかは、彼の証言でしか分からない」


 次の段階を既に計画しながら、俺は指示した。


「了解」


 素早くメモを取りながら、レオンが同意した。


「本当にありがとう、ジュリエッチとエリオット。これで二人を尋問できる」


「残りはお前とエンジェルに任せる、レオン」


 ジュリエッチが俺を横目で見ながら言った。


「さあ、エリオット、そろそろ家に帰る時間ね」

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