第4章 - 法医学捜査 (前編)
「で、レオン。何が分かった?」
ジュリエッチが訊いた。
俺は瞬きをしながら、彼女がドローンを操作して犯行現場のビルをマッピングしている様子を観察していた。指先がコントローラーを滑るように動き、技術的でありながら優雅ですらある。
感心せざるを得ない腕前だった。声に出して認めるつもりはないが。あのデバイスを操る姿には何か催眠術のようなものがあって、まるで彼女の心の延長であるかのようだった。
一瞬、その器用さが他の活動に向けられたらどうなるか想像してしまったが、すぐに考えを振り払った。
朝の5時。ムーンブルー・モーテルの前に立っている俺たち。空気は冬の明け方特有の湿った冷たさを帯びていて、アスファルトから立ち上る靄は長い一日を約束していた。
まともな人間なら誰でもベッドに戻りたくなる朝だが、不審死は時間を選ばない。少なくとも、こういう薄暗い環境で活きるパートナーがいる場合は。
到着したとき、黄色いテープがすでに境界線を引いていた。二人の警備員が正面入口を挟んで立ち、真剣な面持ちで身分証明を確認している。
この世界が法医学捜査についてあまり知識を持たないことを考えると、安心できる光景だった。
「誰かがここで現場保存を理解してるのは良いことだな」
俺は呟き、警備員たちが境界線を守る様子を見つめた。
「それ、私のアイデアだったんだけど」
ジュリエッチがコントローラーから目を離さずに答えた。声には少しだけ誇らしさが滲んでいた。
「証拠が頻繁に失われてることに気づいて、基本的なプロトコルをいくつか確立したのよ」
もちろん彼女だろうな、と思った。いつも一歩先を行き、他の者が必要だと想像もしないことを考えている。
そのとき、レオンがタブレットから顔を上げた。頬が赤く染まっている。寒さのせいか、それとも別の理由か、判断しかねた。
「ジュリエッチ……エリオット! やっと来たか!」
レオンが急いで近づいてきて、小さな写真をトロフィーのように振りかざした。
「見てよ、昨日キンミがレベカに会ったとき、どれだけ喜んだか。ちゃんと『パパ』って言えたんだよ……」
「レオン、神様。愛してるのは分かるけど、今は私の名付け娘の話をする時間じゃないでしょ。」
ジュリエッチの遮りにはため息が混じっていたが、唇にはほとんど見えないほどの微笑が浮かんでいた。
好きな相手、たとえ苛立たせる存在であっても、向ける特有の表情。彼女が同時に愛情と焦れったさを示せるのは興味深い。
思っていた以上に感心してしまう能力だと、自分に認めた。
「あなた……レオンの娘の名付け親なの?」
俺は純粋に驚いて訊いた。
ジュリエッチがそんな家族的な役割を担っているとは、彼女のイメージと合わない。
「まあ、この子の両親はネジが全部揃ってるわけじゃないから、名付け親になるのが賢明だと思ったのよ」
ジュリエッチは例の皮肉っぽい口調で言ったが、視線は一瞬だけ柔らかくなった。
「誰かが多少の良識を持って、家での見本を補う必要があったから」
「おい、それ酷くないか!」
レオンが少し傷ついた様子で反論したが、笑顔を浮かべていた。
「ネジは全部ないかもしれないけど、頭はまだ首の上にちゃんとついてるぞ……今のところはな。まあ、気にすんなよ、エリオット。ジュリエッチは冷たいフリしてるけど、中身は甘いんだ。典型的なツンデレってやつ」
「ふむ……」
俺は呟いた。まるで単なる観察のように。
「彼女の冷たさと皮肉には……それなりの魅力があるな」
ジュリエッチが横目で俺を見て、すぐに目を逸らした。
「あんたたち、そろそろくだらないお喋りは終わった?」
彼女は言い、ビルの周りを飛ぶドローンに視線を戻した。
レオンを見て、それからジュリエッチを見た。否定はしても、二人の間のやり取りと、からかい合う気安さが、説明できない何かをチクリと感じさせた。
嫉妬だろうか? いや、違う。おそらく、彼女とこういう親密さを持つことへの好奇心だ。
「とにかく、レオン、分かったことを教えてくれるのか、それともまだ引き延ばすつもり?」
ジュリエッチがドローンから目を離さずに言った。
「ああ、そうだった!」
レオンが咳払いをして、タブレットを引き寄せた。
「被害者は松本翔。42歳、商人で、中心街で織物店を営んでる。真夜中過ぎに支配人が遺体を発見した」
画面をスクロールしてから続けた。
「死因は不明だが、街で起きてる奇妙な事件を考えると、支配人は警察に通報する方が良いと判断した。俺も全部確認する前に、あんたたちを呼んだ方がいいと思ってさ」
「で、これだけ騒ぐ理由は?」
俺は片眉を上げて訊いた。
「連続殺人にみんな疲れてるのよ」
ジュリエッチが答えた。声は断固としているが、視線はドローンに釘付けだ。
「不審死はどんなものでも記録される。たとえ自然死に見えてもね。私とローレンスが実施したプロトコルの一部よ」
理にかなっている。用心のしすぎで失敗するより、不注意で証拠を失う方がマシだ。頷きながら、ムーンブルー・モーテルに注意を向けた。ただし、彼女が「私とローレンス」と自然に言ったことに気づかずにはいられなかった。信頼を共有する者同士の口ぶりだ。
「ふむ……賢いプロトコルだな」
俺はコメントし、言葉を宙に残した。
ジュリエッチが素早く俺を見た。皮肉が含まれているか評価するように。何も見つけられないと、唇の端にほとんど見えない小さな笑みが浮かんだ。
再び目の前の建物に視線を向けた。サスペンス映画のセットのように聳え立つ場所で、ペンキは不規則な層で剥がれ落ち、下の灰色の木材を晒している。
曇ったガラス窓は疲れた空を映し出し、あまりにも多くを見てきた者の疲労を表していた。湿気とカビが冷たい空気に漂い、安っぽい香水と工業用洗剤が混ざっている。
プライバシーと慎重さを求める人々を引き寄せる種類の施設。訪れる者について質問をしない、典型的な場所だ。
「魅力的な環境だな」
俺は呟き、ジュリエッチを見た。
「街の観光ガイドで最高評価を受けてるに違いない」
「少なくとも本物よ」
彼女が肩をすくめて答えた。
「偽物のふりをするテーマ別モーテルとは違ってね。ここは少なくとも目的をはっきりさせてる」
俺は低く笑った。彼女が最も憂鬱な状況でもユーモアを見つけられることに感心して。
「この数時間、俺がいない間に何があった?」
レオンがタブレットを操作しながら、俺に囁いた。
この世界が異なる時代を奇妙に混ぜ合わせていることを考えていた。魔法が日常を支配し、そのため多くの技術が脇に置かれているが、すべてではない。
ジュリエッチが発明するデバイスは、前世の21世紀の基準から見ても印象的で先進的だった。この矛盾が俺を惹きつけた。魔法が支配する世界で、どうやってこれほど洗練された技術を生み出せるのか?
注意をレオンに向けた。彼は陽気な態度を鎧のように纏い、ほとんどの者が見ない真剣さを隠していた。だが、臆病な道化の裏には、慎重に立ち回る者がいると疑い始めていた。それを尊敬している。
彼がこの二重性をバランス良く保ち、家族への愛を仕事の闇への解毒剤として使っているのは魅力的だった。
「何の話だ?」
俺は訊いた。
「あんたたち、妙に打ち解けてて、アイデアやコメントで補い合ってる……変な感じでさ」
レオンが視線を上げた。
「馬車の後、何か……あったのか?」
「何も……残念ながら」
俺は囁いた。
レオンがため息をついて、タブレットに視線を戻した。
「女ってのは、どうしてこんなに複雑なんだ……」
「それは誰もが自問する疑問だな」
俺は言い、ジュリエッチが肩越しに俺たちを見たことに気づいた。
「そこで何コソコソ話してんの?」
ジュリエッチが苛立った口調で言った。
「仕事しに来たんだと思ってたけど……レオン、情報をまとめてくれない? それとも、二人のおしゃべり女にスペース譲った方がいい?」
「ああ、そうだな……」
「松本は常連客だったのか?」
俺は訊き、頭の中で探偵モードを起動した。
「実は、そうなんだ」
レオンが微笑んで、タブレットの画面をスクロールした。
「支配人によると、2年くらい通ってたらしい。ただ、パターンに変化があって、最近はかなり落ち込んでたみたいだ」
ジュリエッチが片眉を上げた。誰もが注目する仕草だ。彼女の分析的な心が何か重要なことを捉えた合図だと、俺は学び始めていた。
「どんな変化?」
レオンが躊躇し、俺は画面を覗き込んだ。彼がタブレットに手書きのメモを選択していた。
「松本は高い部屋を予約してた。17号室か18号室で、いつも違う女性を連れてた。2、3日分払って、その間ずっと部屋に籠もってたらしい」
「独身だったのか?」
俺は尋ねた。
「それとも家族がいて、ここで『街の尊敬される市民』として振る舞ってたのか?」
レオンが口笛を吹いて笑った。
「意地悪なコメントだな、エリオット。まあ、彼は家族がいなかった。独身で、正式な相続人もいない。支配人が説明した変化ってのは、この2か月、もっと簡素な部屋を選ぶようになって、滞在も1泊だけに短くなった。それに、この数か月はいつも一人で来てたらしい」
レオンが俺を真っ直ぐ見た。
「疲れてたのかもな……それとも……」
「それともビジネスが複雑になってきたか」
ジュリエッチが言い、俺たち二人の隣に立った。ドローンから視線を外して。
「まあ、良いニュースがあるわ。外部確認では、魔獣がビルにいた形跡はなかった」
「古き神々に感謝」
レオンが安堵のため息をついた。
「あんな生き物にまた遭遇したくないな」
俺は眉を寄せてジュリエッチを見た。彼女が危険な生物と対峙する可能性に完全に落ち着いているように見えることに気づいて。彼女について発見している、また一つの複雑な層だ。
「なぜ首都に魔獣がいるんだ?」
彼女が肩をすくめ、謎めいた笑みを浮かべた。その表情の裏にあるすべての秘密を知りたくなる笑みだ。
「事態は複雑なのよ、エリオット……レオン、被害者の財務状況は確認した?」
「ああ、でも正直、不正は見つからなかった」
レオンが言い、指が画面を動いた。
「それに、支配人は松本がいつも現金で払ってたって」
「じゃあ、金銭的な問題じゃない……」
ジュリエッチが考え込むように呟いた。
彼女が情報を処理する様子を観察した。彼女の心がどう働くかには魅惑的な何かがあり、あの青緑の瞳の裏で歯車が回転しているのがほとんど見えるようだった。
彼女の思考の一歩一歩を追えたらと思った。
「レオン」
俺が遮った。
「松本がこの施設を訪れる時間帯は? 曜日にパターンはあったか?」
「いつも木曜か金曜だった。夜8時頃に到着して、それより早いことは絶対になかった。そしてチェックアウトまで邪魔しないよう頼んでた」
レオンが画面をスクロールして、メモを読んだ。
「この2か月は?」
ジュリエッチが俺の次の質問を先取りした。一瞬、俺たちの視線が交わった。
「部屋と同伴者だけが変わったのか、それとも時間帯も?」
「同じ曜日を守ってたが、出るのが早くなった」
レオンが答えた。
「最後の数回は、朝5時頃、正式なチェックアウトのずっと前に部屋を出てたらしい」
「大きな行動変化だな」
俺は呟いた。
「同意するわ」
ジュリエッチが言った。
「外的圧力なしに、確立されたルーティンを変える人はいない」
彼女が俺の推論を補完した。まるで俺の考えを読んでいるかのように。奇妙な感覚を覚えた。親近感と、それ以上の何かが混ざり合って。
「部屋を見よう」
ジュリエッチが続け、すでに入口に向かって歩き始めていた。
「ここで雨に濡れながら、分からないことを推測しても仕方ない。結局、この情報は調査に役立たないかもしれないし」
俺は頷いて微笑んだ。彼女の直接的なアプローチに感心して。
「同意する。現場は、証人すら説明できない物語を語る」
ジュリエッチが肩越しに振り返り、俺の心拍を少し速くする笑みを投げかけた。
「それがその法医学捜査の一部?」
「基本的な原則にすぎない」
俺は確認し、数歩で彼女に追いついた。
「物理的証拠は嘘をつかない。誰かの感情を守るために矛盾もしない」
「人とは違ってね」
彼女が観察した。口調には、この真実についての個人的な経験を示唆する何かがあった。
「その通り……だから俺は証拠と仕事する方が好きだ。より……信頼できる」
「予測可能?」
彼女が訊いた。瞳に面白そうな輝きを浮かべて。
「必ずしも予測可能じゃないが、常に正直だ」
「興味深い哲学ね。対人関係をより……困難にするでしょうね」
そこには暗黙の質問があった。俺自身について何かを明かす機会だ。一瞬、完全に正直に答えることを考えた。不信がどう俺の常なる伴侶になったかを話すこと。だが、違うことを選んだ。
「生きてる人間より死体の方が成功率が高い、とでも言おうか」
彼女が笑った。純粋な音が、俺を不意打ちした。
「少なくとも死体は診断に反論しないものね」
「その通り。会話は下手だが」
「ねえ、念のため言っとくけど、俺もまだここにいるぞ」
レオンが咳払いして言った。
「お見合いダンスは終わったか?」
俺はジュリエッチに視線を戻し、避けられないうちに微笑んだ。彼女の答えを聞く必要はなかった。唇の曲線から推測できたから。
モーテルに入りながら、俺たちの会話がどれほど自然さを帯びていたか気づいた。まるで何年も組んでいるパートナーのように。つい最近一緒に働き始めたばかりの二人の専門家ではなく。
メインホールに入ると、支配人がフロントで俺たちを待っていた。中年の痩せた男で、肩は丸まっている。
落ち窪んだ目は憑りつかれたように見え、おそらくほとんど眠っていない。安い煙草と温め直したコーヒー、そしてもっと何かが環境の空気に染み込んでいた。
「技術の聖女?」
支配人がジュリエッチを見てほとんど叫んだ。
「古き神々に感謝します。これで誰がやったか分かるでしょう」
ジュリエッチがその称号を、諦めと軽い当惑を混ぜた表情で受け取る様子を観察した。
「支配人さん、犯行現場まで案内していただけます?」
ジュリエッチが訊いた。
「奥様、もしお許しいただければ、ご一緒するのは遠慮させてください」
彼は震える手で鍵を渡しながら呟いた。
「12号室で見たものの後では、あれは長い間頭に残るでしょう」
俺は彼の手を注意深く観察した。震えは単なるショックからではない。おそらく慢性的なアルコール依存症か離脱症状だ。
黄ばんだ目が俺の疑いを確認した。
「遺体を見つけたのは何時ですか?」
俺は訊き、尋問の専門的な口調を採用した。
「夜10時頃です。松本様が配達を頼んでいたんですが、10時15分になっても現れず、心配になりまして」
支配人が神経質に手をこすった。
「何度もドアを叩いたんですが、返事がなかったので、マスターキーを使って……」
彼は生唾を飲み込んだ。
「そして遺体を見つけた」
ジュリエッチが優しく補完した。彼女の通常の直接的なアプローチとは対照的な優しさで。
男はただ頷いた。
「ドアを開けたとき、見たものを具体的に教えてください」
俺は続けた。
「現場がどうだったか、ただ説明してください」
「ドアには内側のチェーンがかかってました」
彼はゆっくり言った。
「少し力を入れて開けなきゃいけなかった。松本様はベッドに仰向けに寝ていて、とても穏やかで。深く眠ってるんだと思いました。でも呼んでも返事がなかったとき、気づいたんです」
「何かに触れましたか? 何か動かしましたか? ベッドに近づきましたか?」
俺の質問が論理的な順序で出てきて、ジュリエッチが俺を観察していることに気づいた。
「いいえ、いいえ、いいえ!」
支配人が素早く答え、躊躇してから続けた。
「ええと、光が欲しくてカーテンを開けて、脈を確認しました、もちろん。でも他には何も触ってません、誓います」
「どの脈ですか? 首? 手首?」
俺は訊き、ジュリエッチの視線を感じた。
「首です。探偵物語でいつも読むように、首で脈を確認しました」
支配人が答え、自分の首に触れた。
「部屋に入ったとき、室温はどうでしたか?」
支配人が質問に戸惑ったようだが、ジュリエッチが僅かに姿勢を正したのに気づいた。情報の重要性を捉えたかのように。
「室温? ええと……普通だったと思います。少し冷たくて息苦しい感じでした。窓は閉まってました」
「他に何か変わったことは? 夜中に何か変な音は?」
男が一瞬躊躇したように見え、手伝いたいという気持ちと、宿泊客のプライバシーを守る本能との間で葛藤しているのが分かった。
「まあ……」
支配人がゆっくり始めた。
「隣の部屋が使用中で……若いカップルでした。彼らは夜中かなりの音を立ててました」
「どんな音ですか?」
ジュリエッチが訊いた。
支配人が周りを見回してから答えた。
「大きな声で話し、よく笑ってました……こういう施設では典型的です。客は来て、やることをやって、帰る」
「そういう音には慣れてるでしょう。なぜその特定の音が注意を引いたんです?」
俺は言った。
「奇妙な音がしたんです……小さな爆発のような」
支配人が眉を寄せた。
「若者特有の……まあ、20代の活力とリビドーを楽しんでるんだろうと思いました」
ジュリエッチと俺は視線を交わした。その瞬間、ほとんどお互いの心が読めるような繋がりを感じた。おそらく二人とも同時に同じ結論に達していた。小さな爆発は典型的なロマンチックなレパートリーの一部ではない。
「その音を聞いたのは何時ですか?」
俺は訊き、彼女が同じ質問をする準備ができていたことに気づいた。
「8時半頃に始まりました。2、3時間続いて、11時頃に止まりました」
興味深い。松本が夜中に死んだなら、タイミングは隣の部屋の活動と危険なほど一致している。目の端で、ジュリエッチが同じ結論に達したのを見た。眉間に小さな皺が現れた。
「何回くらいの破裂音があったか推測できますか?」
俺は訊いた。
「12回くらい? もっとかも。不規則で、強いものもあれば弱いものもありました」
彼が集中して思い出そうとしているようだった。
「この種の活動はここでは普通ですか?」
ジュリエッチが訊いた。
「見てください、奥様」
支配人が身を正し、より防御的な態度を取った。
「客が部屋で何をするかしないか、質問はしません。金を払って財産を壊さない限り、自由にできます」
正直な答えだ。少なくとも何も隠そうとしていない。
「そのカップルはまだここに?」
ジュリエッチが訊いた。
「いいえ、早朝に出ました。松本様の遺体を発見する前です。真夜中頃でしたが……彼らだとは思えません」
「なぜそう言うんです?」
俺は眉間に触れて、混乱して訊いた。
「あなたが誰か分かってます」
支配人が生唾を飲み込んだ。
「あなたのような方……我らが愛する帝国軍の兵士でした」
俺は眉を上げた。
「俺の顔はそんなに有名か?」
「エリオット、あんたの顔は街中のスクリーンに映ってる」
レオンが俺の肩を叩いた。
「認識されるに決まってるだろ」
「あのスクリーンを作った本人は、すぐには俺を認識しなかったがな」
俺は言い、ジュリエッチを横目で見て、わざと挑発した。
彼女はただ肩をすくめたが、小さな共謀の微笑に気づいた。
「もっと……重要なことに気を取られてたのよ」
彼女が答え、口調には俺の正体が本当の問題ではなかったことを示唆する何かがあった。
「名前は分かりますか?」
レオンが訊き、メモの準備をした。
「岡田大輝と岡田美優です。現金で払い、部屋で一日過ごして、出て行きました」
「チェックイン時、どんな様子でしたか?」
俺が遮った。
「緊張してた? 興奮してた? 普通?」
「かなり興奮してたと言えます。彼女は楽しそうで、部屋のサービスについて色々質問してました。彼は彼女に感銘を与えたがってました。自分の特殊能力について何度も言及してました」
「特殊能力?」
「戦闘魔法の専門性のおかげで戦争を生き延びたと自慢してました」
俺は目を細めた。パズルのピースが組み合わさり始めている。
「何か変わった装備を持っているのに気づきましたか? 武器、魔法の道具? 街中で使うには奇妙なもの?」
「そういう細かいことには注意を払いませんでしたが、彼の荷物が重くて……動かしたとき、カバンから青い光が漏れてたのを覚えてます」
魔法のクリスタルか魔法の武器だな、と推測した。これで「小さな爆発」と光の閃光が説明できる。
ジュリエッチの視線が俺の上にあるのを感じ、視線を合わせると、彼女もそのパズルを組み立てていたのが分かった。
「どこから来たか、どこに行くか言ってましたか?」
「いいえ、でも……」
支配人がまた躊躇した。
「彼女が何度も『私のヒーロー』と呼んでるのを聞きました。彼は笑って、『何ができるか見せてやる』みたいなことを言ってました」
「ありがとうございます」
俺は言い、頷いた。
「参考になりました。他に付け加えることは?」
「いいえ。覚えてるのはこれだけです」
「分かりました」
俺は軽く頭を下げ、ジュリエッチに顔を向けた。
「被害者の部屋に行けると思う」
ジュリエッチが頷き、一瞬、俺たちの視線が保たれた。そこには期待があった。もっと近くで一緒に働く共有された期待。
専門的な興奮と、深く分析したくない個人的な緊張が混ざった何かを感じさせた。
「レオン、このカップルを見つけて署に連行するよう通達を出して。尋問はあなたがやって」
ジュリエッチが言った。
「今日は何が起こったか発見するのを手伝うだけ。本当に家に帰って休まなきゃ」
レオンが頷き、俺たちは廊下を歩いた。
壁は薄く、色褪せた花柄の壁紙が貼られている。どこかの部屋からラジオの音が聞こえ、別の部屋から流れる水の音も。赤暗いカーペットは特定の場所がすり減り、最も歩かれた道を示していた。
「本当に前夜、小さな爆発があったなら、他の宿泊客も聞いただろう」
俺は声に出して考えた。
「レオン、ここにいた他の宿泊客と話した?」
ジュリエッチが12号室のドアの前で立ち止まって訊いた。
また彼女が、俺が訊こうとしていたことを正確に先取りした。
「ああ」
レオンがタブレットの新しいページを開いて言った。
「まだここにいた全員と話したし、すでに出発した何人かにも連絡した。3人の異なる人が13号室から奇妙な音について言及してた」
「彼らはその音が何だと思ったんだ?」
「大声の会話と笑い声に加えて、何人もが『破裂音』を低く乾いた音として説明してた。花火に近いものだって。それに15号室の女性は、夜8時頃、13号室の窓から青い光の閃光を見たって言ってた」
「青い光の閃光だと確信してるのか?」
俺は眉を上げて訊いた。
レオンが頷いた。
「もし彼が元兵士で、破裂音と青い閃光を見たなら……」
俺は話し始め、推論が形作られる興奮を感じた。
「炎魔法専門の攻撃魔法使いだ」
ジュリエッチが俺の推論を自然に補完した。まるで何年も組んでいる二人組のように。
「それがあなたの考えでしょ、エリオット?」
俺たちの思考の完璧な同期が、単に専門的なもの以上の満足の震えを引き起こした。
「その通り」
俺は確認し、純粋な笑みが浮かぶのを感じた。
「それに、おそらくこの美優は本名じゃない。誰がこんな施設に自分の妻を連れてくる?」
ジュリエッチが眉を寄せ、どうやら俺の観察を考慮しているようだった。
「彼女が妻じゃなかったら」
彼女が考え込むように呟いた。
「あるいは最近結婚して、初夜を過ごす場所がなかったとか……」
俺は頷いた。
「まさに俺が考えてたことだ」
「ふむ……じゃあ今、推論のラインができたわね」
ジュリエッチが言った。
「レオン、岡田夫婦の態度はどう説明された?」
「教育があって、明らかに愛し合ってるカップルだと言われた。彼は背が高く、黒髪で、おそらく30歳くらい。身なりが良かった。女性は小柄で金髪、もっと若い、たぶん25歳。宿泊客は彼らを熱心だと説明して、何人かは新婚夫婦みたいだって言ってた」
「じゃあ本当に新婚?」
俺は訊き、ジュリエッチともう一つの意味深い視線を交わした。
単純な表情だけで意思疎通できる気安さが、ほとんど中毒的になってきていた。
「そうらしい」
レオンが顔を上げた。
「集められたのは以上だ」
「良い予備調査ね、レオン!」
ジュリエッチが言い、彼の顔が明るくなるのを見た。
「じゃあ、この部屋が何を語ってくれるか確認する時間ね」




