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9. 阿修羅の如く

(阿修羅の如く)


「愚僧は、もはや僧侶ではない……、……、ただの俗人じゃ……、観世音菩薩に背かれて、わしを置いて行ってしまった……、それが夕顔じゃ……」

「……、どうしてですか……?」

 この男には、もう愚僧のした事が分かっているはずだ。

「分かるじゃろう……、男なら……、人は皆、煩悩と菩薩を持っている……、決して悪い事ではない、煩悩無くして、人は生きられない……、しかし、聖職者は、そうであってはいけないのじゃ……、人の姿の菩薩で無ければならない……、そして、わしは、一線を超えてしまった……、……」


 あれから、何年になるのか、もう忘れてしまった。

 あんたが月見と呼んでるあの娘、元は朱夏と呼ばれていた。名前の様に赤い着物がよく似合っていた可愛らしく美しい15歳の娘だった。

 男なら誰でもこの娘の面倒を見たいと思う。

 そんなある日の6月、流行病で、立て続けに朱夏の両親が亡くなった。あの広い屋敷に朱夏だけが残された。わしは、一人になってしまった朱夏の面倒を見る事にした。寺の隣だからな。面倒と言っても食事を運ぶくらいだけどな。

 そんな、8月の黄昏時のこと、朱夏は部屋の奥で裸になって体を拭いていた。

「朱夏、そんな淫らな格好をしてはいかんぞ!」

「和尚さん、今日は余りにも暑くて、裸ですごしたいくらよ」

「年頃の娘がそんな事を言うもんではない……、ご飯を持って来たから、冷めないうちにお上がり」

「和尚さんも一緒に食べて行かない?」

 あの子は、白小袖を羽織っただけで、胸をはだかせて、わしの前に座ったんじゃ……

「……、いや……、わしは、もう食べて来た……、今度また、一緒に食べよう……」

 わしは、そこから逃げる様に寺に戻ったんじゃ。

 しかし、一度ざわついた、わしの気持ちは、治らなかった。

 夜、寝間に入ると、更に気持ちは高ぶった。

 この寝苦しい夜、朱夏の顔と裸を思い浮かべていた。

 あの子も、さぞ寝苦しかろうと思った。

 わしが団扇で眠るまで、仰いでやろうと思った。

 朱夏の母親なら必ずやるはずだ。

 それができない今、わしが母親代わりにやろうと思ったんじゃ。

 だが、それは口実に過ぎないことは分かっていた。

 それでも、わしは団扇を持って、朱夏の寝間に入った。

 朱夏は、よほど寝苦しかったのか、小袖も脱いで、裸で寝ていた。

 何という娘かと思いながら、その美しさに見惚れて、あの子の側に座った。

 しばらく見ていると、あの子は寝返りと共に眠たそうな眼をわしに向けた。

 わしは、それに気付いて、慌てて朱夏の口を手で押さえた。大きな声を出されては困る。

 しかし、彼女の口を手で塞いでいると、わしの体は仰向きに寝ている彼女の上に覆いかぶさり、体は彼女を押さえ付けていた。

 朱夏は、しばらく抵抗していたが、時期にわしを受け入れようとしていた。

 こんな幼い娘でも夜這いをする男たちのことは知っていた様だ。

 わしは思いをとげ、寺に帰ろうとした時……

「和尚……、困るなー、順番を守ってもらわないと……、今日は俺の番なんだけど……、村の男たちが何人も一度に押しかけてはまずいだろうー、だから一晩一人に決めているんだよ」

「愚僧は、そんなんじゃ無い……、朱夏が寝苦しいと思って母親の代わりに団扇で仰に来ただけだ……」

「いいんだよ、いいんだよ、和尚も男だから、誰にも言わないから……」

 男は、わしを押し除けて、さっさと着物を脱いで、疲れた顔で、裸で寝ている朱夏の両方の腿を持ち上げてそれを開いた。

 わしは、それを止められなかった。

 止めたところで、どうにもできないことは分かっていた。

 それよりも、わしのしたことを村中に言いふらされることを心配したんじゃ。

 わしの背中から朱夏の喘ぎ声が聞こえた。

 わしはそのまま寺に帰った。

 それから、何か月かたった頃、朱夏のお腹が目立つ様になった。

 それにいち早く気付いた村の女たちだった。

「誰だい、あの娘をはらませた男は……?」

「そんな奴は、村の男全部だよ……、夜な夜な、朱夏の所に忍んで行っていた様だから……」

「生まれてみれば分かるさ、旦那の顔によく似ているさ……」

「生まれたって、あの小娘には育てられんじゃろう」

「そりゃーあ、はらませた男の家で面倒を見てもらおうよ」

「わしは嫌だよー、そんな赤子の面倒など、それに誰の子だかわからないさー」

「だから、赤子の顔を見ればわかるさー」

「よく言うねー、分かるもんか!」

「それなら、生まれる前に始末してしまおうよ。どうせ、朱夏には育てられんよ……」

 女たちは、真昼間に朱夏の家に行き、何人もで寄ってたかって無理矢理着物を剥ぎ取り、朱夏を裸にして荒縄で縛り付けた。

「悪く思わんでおくれ、どこの男か分からん子を産ませるわけにはいかないのさ!」

 それで、そのまま外に引きずり出して、寺のあの御神木の楢木に吊し上げ、女たちは、かわるがわる棒木で朱夏の腹を殴ったんじゃ。何回も何回もかわるがわる殴ってな……

 朱夏の悲鳴が寺まで聞こえてきたよ。それでもわしは朱夏を助けてやれなんだ。

 もしも、生まれてくる子がわしに似ていたら困ると言う思いがあったのかも知れん。

 しかし朱夏は、そのうち折檻の挙句、吊るされたまま死んでしまった。

「ちょっと、おとなしくなったと思ったら、死んでるよ!」

 女の一人が、朱夏の乱れた髪を引っ張り上げて顔を見た。

「……、しょうがない。これで赤子は産まれないさ。両親のところに行ったんじゃよ」

「これでいいさ、男たちは朱夏を抱けないからね。こんな騒ぎは一度でたくさんだ」

 女たちは、朱夏を木から下ろし、その骸を、そのまま楢木の下に穴を掘って埋めてしまった。

 朱夏が死んで、しばらくは、男たちは何もなかった様におとなしく家で過ごしていた。

 でも、いつの間にか村の外れの小高い斜面に面した崖の端に赤い寺院の様な建物が立っていた。

 いつからあったのか覚えが無いが、確かに遠くからでも赤い建物が見えていた。

 村の週は、わしのところに集まって来た。

 わしは初めから分かっていた。こんな小さな村に寺が何軒もあるはずがない。

「もののけの仕業じゃ! 決して近づくんじゃない。そのうちまた消えてなくなるから……」

 わしは、よくよく言い聞かせた。しかし、行くなと言われれば、行きたくなるのが、何の楽しみのない男たちだった。

 男たちは、どんなもののけか見たいと思ったんじゃろう……

「もしかすると、御殿の赤の様な美しい天女様かもしれんぞ!」

「バカコクでねえ! 鬼婆だったらどうするんじゃ」

「大丈夫だ! 鬼婆ならうちにもいるからなー」

「……、ちげえねえー」

 それでも一人では心細いのか、男四人で覗きに行くことにした。

 月明かりの綺麗な夜だったと言う。

 赤い寺院には灯りがなく、月明かりだけに照らされていたと言う。

 その月明かりに照らされていたのは寺院だけではなく、その中にいた裸の天女様も怪しく照らしていたと言う。

 この時、男たちは女の人が住んでいることを確かめただけで、そのまま帰って来たと言う。

 悲劇はそこから始まったんじゃ……

 

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