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6. 今は昔と言うけれど

(今は昔と言うけれど)


 お寺から帰り、庇の下の床の上で、寝転んで疲れを癒した……

 相変わらず、音が無く昼間というのに不気味だ……

 でも、天を仰ぐと太陽が真上で照らしている。

 夏の太陽だ……、でも、それほど暑くない……、湿度が低いせいなのか……、心地良い……

 ひんやりとした床の上で寝返りを打って、昼顔さんの言った事を思い出していた……

「帰りたいと思えば……、帰れる……」

 一昨日、元いた街に帰ろうとした時、本当に僕は、帰りたかったのか……?

 帰ったところで、何もする事がない……

 と言っても、する事がないわけでもないが、何から始めていいのか分からない……

 ひとまず、実家に帰って、親に報告しなければならない……、やっぱり気が重い……

 それなら、新しい就職先を決めてから、実家に帰ろうか……、それも気が重い事……

 もう一度、寝返りを打って、床の上を転がった……、

 

 今は、昔と言うけれど……

 今は、あの街の雑踏が気にかかる……

 1か月前の事だった……

「蒼……、あんた仕事辞めたんだって……、どうするのよ……」

 そう言ってきたのは、桃香……、大学の同期で、今は、立派な公務員だ……

 大学時代、公務員試験を一緒に受験して、彼女は合格して、僕は落ちた……

 それでも、彼女は僕と付き合ってくれている。

 でも、僕も今はファストフードチェーンの店長さんだ……

 彼女を僻んでいるわけでもないが……、羨ましい……、安定した将来が約束されている……

 そして僕は、その店長の座も退いた……

「……、どうもしないさ……、あそこの会社の店長は長続きしないんだよ……、僕だって、前の店長が急に辞めたから、無理矢理、店長にさせられたんだ……、三年も頑張ったんだから偉い方だよ……」

「それで、どうするのよ……?」

「……、探しますよ……、就職口……、今度は、大手の電気屋さんにしようかな……、家電製品好きだから……、車も好きだから……、自動車販売もいいな……」

「今時、中途採用なんか無いわよ……」

「……、大手で無くても、小さな会社でもいいよ……」

 いつものカフェテラス……、夏の日差しが眩しく暑い昼下がり、桃香はタンクトップにシャツを着ていた……、胸の膨らみが気にかかる……

「……、でも、せっかくの長いお休みだから、山にも行ってこようかと思っているんだ……、店長になって三年……、二日の連休も取れなかったから……」

「あんた……、山に行けないから、辞めたんでしょう……?」

「……、それも理由の一つだけれど、エリアマネージャーのクソ野郎にも我慢できなかったんだよ……、それなら、お前やってみろって……、言いたかったよ……、働き方改革って言って、結局、店長にしわ寄せが来るんだ……、でも、店長だから、働き方改革しているように見せないといけないから、自分の休みを使って、できなかった仕事をしたり、片付けをしたり……、休んだバイトの代わりに出たり……、本当に馬鹿馬鹿しくて、やってられないよ……」

「そんな事は、どこでも、そんなものよ……、愚痴っていても始まらないわ……」

「……、それは、違うだろう……、桃香の所は、公務員だから、きっちり、仕事は、仕事で終わるだろう……、休みまで仕事しないだろう……?」

「それは、そうだけど……、みんな一生懸命やっているわよ……」

「……、いいな……、そんなふうに片手間でできる仕事を一生懸命でやってみたいよ……、……」

「蒼……、僻んでいる様に聞こえるわよ……、あんた一人が大変な仕事をしているわけじゃ無いわよ……」

「……、そうかも知れないけど……、でも、僕は、もういいよ……、一生懸命にすることに疲れたんだ……、……、世の中には、一生懸命に仕事をして、疲れない仕事と、一生懸命に仕事をして疲れて逃げ出したくなる仕事があるって事だよ……」

「蒼……、意味わからない……」

「……、分からないから……、桃香は、今も一生懸命に仕事ができていると言うことだ……」

「蒼……、かなりストレスが溜まっている様ね……、山に行ってきなさい……、好きなだけ……、……」

「……、あー、……、そうするよ……、でも、その前に……、今日は、食事して、ゆっくりできるんだろう……」

「今日は……、ダメ……、夜から……、約束が、あるから……、ごめんね……」

「……、いいよ……、僕は、毎日が日曜日だから、山でも行ってくるよ……、……」

「気を付けてね……、……」

 最近……、桃香は、僕を避けている様にも見える。

 他に男でも……、できたのかも知れない。

 どんな男でも、無職の僕よりも、きっとマシな男に違いない。

 山に行こう……、山はいいな……、僕を拒んだりはしない……、努力して登れば、その努力の結果だけ、頂に近づける……、山は裏切らない……、最高の友だ……

 決して、世間から逃げるんじゃない……

 いや、やっぱり逃げているかな……

 それなら、それでいいさ……

 友よ……、待ってておくれ……、今から逢いに行くからね……


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