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27. 浦島太郎と異世界

(浦島太郎と異世界)


 夏子は、よく御神木の楢の木に登っている。

 太い枝から太い枝に渡り、ずいぶん高い所まで登っていた。

「夏子……!何が見えるんだ……」

「村が、見えるわ……」

 今日も、雲一つない天気で、青空が眩しく見えた。

 月見が生まれたと言う楢の木、青々と茂り何を考えているのか?楢木は落葉樹、どんぐりくらい落とせよと言いたくなる。この世界では、秋が無いのか?

「夏子、降りておいで……、ご飯にしよう!」

 和尚がいなくなってから、時よりお寺に来て、百観音を見ている。

  薄暗い寺の中は、少し寒く感じる。

 ロウソクくらい灯してやりたいが、灯したところで、読経などできない。

 ただ、こうして元気かどうか、様子を見に来るのが、少しの信心かも知れない。

 それに、採れたばかりの野菜や豆などを供えて、豊作に感謝している。

 この観音様ともお別れだ。後、何千年たって、誰かに発見されるのだろうか……

 それとも、ここでひっそりと埋もれていくのか……

 寺の周りに群生している月見草は、相変わらず夜に花を咲かせている。

 夏子がいつの間にか、寺に来ていた。

「ととさん、わたしも旅に出るわ……、もっと違う世界も見てみたい。谷間の村の、もっと先にもたくさんの人が住む村があるんでしょう?」

「それが、問題なんだ。たくさんの人が入り乱れて過ごしている。多くの人は、背を向け、自分の事しか見ていない。それなのに幸せを求めて生きている。おかしな世界だ……」

「でも、ととさんは帰りたいんでしょう?」

「……、そうだな……、どうかな……、分からなくなってきた……、ここで、夕顔さんの言う様に赤子を作って、作って暮らす方がいいのかもしれない……、もともと、ここも、おかしな世界だから、それも有りなのかなって思うよ」

「はっきりしないのね……」

「本当だ……、夏子にまで言われてしまった。でも、もし、旅に出るのなら早い方がいい……、明日の朝、出発だ!」


 そう言ったものの、本当は元いた世界に帰るのが怖いのかも知れない。

 あの浦島太郎の様に、ここで楽しく暮らしているうちに、元の世界はどうなっているのか?

 ここでの一日の生活が、元の世界の十年かも知れない。両親は、まだ生きているだろうか?

 核戦争が起きて何もない砂漠の世界かも知れない。

 考えれば不安な事ばかりだ。果たして、あの世界で夏子と一緒に暮らしていけるのだろうか?暮らせなかった場合、またこの世界に帰って来られるのだろうか?

 乙姫様は玉手箱をくれるのだろうか?

 やっぱり、考えれば、考えるほど、怖い……


 夜……、囲炉裏の鍋の中には、大根と里芋、牛蒡とこんにゃくと(ひしお)で炊いた煮しめが湯気を上げている

 囲炉裏の周りには、昼顔さん、夕顔さん、夏子と僕と、こんな美しい人たちと食事ができるなんて、幸せとしか言いようがない。

 それなのに、何故、ここから出て行くのか……

「……、明日、帰るんだって……、夏子から聞いたよ」

 昼顔さんが、お椀を持ちながら、目を合わさずに訊いた。

「……、……、そうなんですけどね……、でも、夕顔さんや昼顔さんと別れるのが、寂しくて、辛いです……」

 僕も、顔を見ずに答えた。

「離れられないのは、夕顔のお乳だろう!」

「……、あら、私ならいいのよ、お乳でも、赤子でも……」

 夕顔さんは、優しい眼差しで僕を見る。

「……、そうですよね。もともと、普通ではない世界なので、夕顔さんの言う通りに、赤子をぼろぼろ作って賑やかな村にした方がいいのかなって思ったりもしています」

「そんなこと、あたしが許さないよ!」

「でも、昼顔さんも男に抱かれれば、赤子が欲しくなりますよ」

「男って、お前のことか?」

「はい、この世界では、僕しかいないので……、男と女、なるようになるものです」

 僕は、お椀を置いて、僕の横に座っていた昼顔さんに近づいて、背中からそっと優しく抱きしめた。

 昼顔さんは逃げなかった。

 逃げない……、昼顔さんが逃げない……

 それならと思い、そのまま頬に唇を当ててみた。

 柔らかな頬が唇に伝わってくる。

「それからどうするんだい……?」

 昼顔さんの恨めし声……

「気持ちよくないですか?男の人に抱かれるって……、僕はとても気持ちがいいです……」

 昼顔さんの艶やかな黒髪が僕の頬を撫でる。

「そうかい……、じゃーあ、あたしのお乳も飲んでみるかい?」

「……、飲みたい……、……」

「優しくしておくれよ……」

 昼顔さんは、お椀と箸を囲炉裏の縁に置くと、僕を胸元に抱きかかえてくれた。僕も昼顔さんを抱きながら、はだけた襟元から乳首を探して、口に入れた。

 柔らかな乳房と温かく甘いお乳……

「夕顔さんと同じだ……」

 何故か、夢中で吸ってしまう。お乳を夢中で吸うと、吸えば吸うほど気持ちよく、何もかも忘れてしまう……、きっと夢を見ているのだろう。夏子の声が聞こえる。

「ととさん、寝てしまったの……?」

「そうだね……、明日は夜明けには、出かけて行かなければならないからね……」

「……、夏子も、おいで……、お乳をあげるよ……」

 夕顔さんが、襟元をはだけさせ、お乳を出した。

「私もお乳、飲む……、……」

 夏子は、夕顔さんに抱かれてお乳を飲んでいる。

 昼顔さんの声がする……

「夏子は偉いね……、(とと)さんの気持ちが分かるんだね……」

「それも、あるけど、私も見てみたいわ。こことは違う世界、たくさんの人が住む世の中を……」

「でも、酷い世界だと言っていただろう……」

「でも、ととさんの元いた世界だから、ととさんの様な良い人もいると思うわ……」

「こんな、大人になってもお乳を欲しがる男でもかい!」

「あら、昼顔は知らないの?大人の男は、みんなお乳を欲しがるものよ」

「はーん、知らなくてよかったよ。世も末だね……」

 夏子の笑い声が聞こえる。

「まーあ、いいさ……、夏子は、私たちのみこだ。(とと)さんを守っておやり……」

「分かっているわ……」

「……、夏子は偉いわ……、……」

 夕顔さんの優しい声がする……、……


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