24. お乳と昼顔と夕顔
(お乳と昼顔と夕顔)
朝露の湿った風が母屋に這うように入ってくる。
それと合わせて、僕の冷や汗が背中を這う。鳥肌で皮膚がピリピリ痛い。
「あんた、昨日、夕顔と寝たんだね!」
「……、寝てなんていませんよ!」
昼顔さんは、さっきの僕の口真似をして、甘い声で当てつけるように……
「そうかい? じゃー、僕にもお乳飲ませてって、なんだい? 昨日の夜、夕顔のお乳を飲んでいたんだろう?」
「いえ、お乳は出ませんでしたよ……」
「なんで、お乳が出ないって知っているのよ!昨日、夕顔のおっぱいをしゃぶっていたんでしょうー」
「いえ、夕顔さんが裸でいるから、ちょっと触れただけですよー!」
「それだけで、お乳が出ないなんて分かるものか!」
「それは、それは、夕顔さんが抱いてもいいって言ったから……」
「やっぱり、白状したね。夕顔と寝ていたんだね!」
「いえ、それがよく覚えてないんです。目が覚めたら、昼顔さんに変わっていたんですー」
「いいかい、一つ言っておくよ! 夕顔の誘いに乗っちゃいけないよ。あの女はこの村の男たちを皆殺しにしたんだからね」
昼顔さんの顔付きが変わって真剣な表情で僕に訴える。
「でも、それは当然の報いで、男たちは朱夏さんに酷いことをしたからでしょう」
「それなら、あんたも同じだ……」
「いえ、僕は月見を愛しています!」
「愛、はーん、愛、笑わせないでよ!十五歳のおぼこ娘に赤子を産ませて、愛だってかー!」
昼顔さんは、その場で立って、僕からそっぽを向いて、天を仰いで笑った。
「……、十五歳、月見は、まだ15歳だったんですか?」
「朱夏は、十五歳で死んだんだよ!」
「じゃーあ月見も十五歳、十五歳だったんですね……、だから何も知らなかったんですね……」
「……、でも、男は知っていたさー、それが、そんなに大変なことか?」
僕のいた前の世界で言うなら、高校生、中学生の少女を抱いてしまったのか、小柄で可愛い少女だったのか……
「僕も、夕顔さんに殺されても仕方のないことをしたんですねー」
「そんなつもりで言ったわけではないけど、夕顔には気を付けなー、もう一人赤子ができたらどうするんだい……、もう婆さんたちはいないんだから……」
「……、そんな、赤子だなんて……、……」
夏子を見ると、いつの間にか寝てしまっていた。
「……、寝てしまったようだね」
「それより、なんで昼顔さんが裸でいるんですか?」
「……、夏子が寝ているから、その間にお風呂に入ろうと思って、着物を脱いだところで、夏子が泣いたから、そのままお乳をあげていたのさー」
「そうだったんですね……」
「まさか、お前に抱かれるとはおもっていなかったさー」
「……、抱いたなんて、抱いたうちに入りませんよ」
「いやー、しっかり抱きしめられたよ。胸が苦しくなるまでだ……」
そこまで言われては、昼顔さんの肌の柔らかさを思い出しながら、言い返せなくなった。
昼顔さんは、僕のところまで来て、夏子を渡そうとする。僕は座ったままそっと夏子を受け取り抱きかかえた。
「お風呂、入れさせてもらうよ!」
夕顔さんは、そのまま、裸のまま庭に出て、お風呂に飛び込んだ。
朝日に照らされた、昼顔さんは美しく、無邪気で可愛い、好きになってしまいそうだ。
「気持ちいいねー、生き返るよ!」
昼顔さんの喜びの声が聴こえる。
その日の僕は、一日中罪悪感で、憂鬱に過ごした。
でも、気持ちが憂鬱でも、玄米を臼と杵で突いて、白米を作らなければならないし、薪も作らなければご飯も炊けない。
昼顔さんは、いつもの着物姿で、夏子に付きっきりで、お乳をあげたり、おむつを変えたりと世話をしてくれていた。
僕は、それを見ながら一日中働いた。
働いて日が落ちて、昨日の大根の葉っぱ粥に里芋を入れて、醤で味を付けて食べた。
やっぱり一人の食事は寂しい。
台所から母屋に向かうと、薄暗い渡り殿の先に灯りが漏れていた。
母屋には、いつの間にか白小袖を着た夕顔さんが、夏子にお乳をあげていた。
「……、夕顔さん、僕は大変な事をしてしまったんですね……」
まだ薄暗い母屋にいる夕顔さんの背中に、庇から声をかけた。
「……、何の事なの……?」
夕顔さんは、振り返らず夏子にお乳をあげていた。
「僕は、月見に酷いことをしてしまいました……」
「……、そうなの……? でも、もう月見はいないわ。私には、どうすることもできないわ……」
「でも、夕顔さんは、月見に酷いことをした男たちを罰してきたと昼顔さんが言っていました」
「……、私が罰を与えるの? そんな事はしないわ」
「でも、男たちを殺してきたんでしょう?」
「……、そんな怖いことをするわけがないわ……」
「そうなんですか……?」
「……、お花は、そんな人を殺さないわ……」
「じゃー、僕のしたことを許してくれますか?」
「……、貴方は月見に何をしたの……?」
「月見に赤子を産ませてしまいました……、まだ15歳のおぼこ娘に……」
「……、それは、当たり前の事ではないの……、一緒に暮らしていれば、赤子は産まれるものよ……」
「……、きっと私と貴方でも、こうして一緒に暮らしていれば……、さー、こちらにいらっしゃい……、今度は、貴方の番よ……」
夕顔さんは、寝ついた夏子をそっと布団の上に寝かして、僕の方に振り返った。
「……、いらっしゃい……、いいのよ、お乳をあげるわ……」
僕は、夕顔さん言われるまま、その横で跪き、夕顔さんの背中を抱いて、白小袖からはだけた乳首を口に入れた。甘いお乳が口の中に広がった。
夕顔さんは僕を抱き寄せ、優しく背中を撫でてくれた。
お乳が甘い……、どうして夕顔さんからお乳が出るのか? でも、美味しい……、夢中で飲んでいると、何もかも忘れさせてくれそうだ。
僕はいったい誰なのか? 何故、ここにいるのか?
夕顔さんの体は暖かだった。人の温もりは、癒される。
「何やっているんだ!」
突然、目の前に昼顔さんが現れた。
いつの間にか、辺りは鈍い薄明かりに淀んでいた。
夜明けが近い……
昨日の夜、あのまま夕顔さんに抱いてもらって、寝てしまったんだと記憶が蘇ってきた。
夏子を見ると、まだ寝ていた。
「……、また、お風呂借りるよ!」
昼顔さんは、その場で着物を脱いで、裸で庭を駆け、お風呂にざぶんと飛び込んだ。
「……、あー、気持ちがいいねー、……」




