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23. 月見のいない平安の異世界

(月見のいない平安の異世界)


「ずいぶん長いかわや、トイレね……」

 夕顔さんは、床に座り白小袖をはだけさせ、夏子にお乳をあげていた。

「ちょっと考え事をしていました……、トイレは考え事をするのにいい場所なんです」

「それで、考えはまとまったの?」

「いえ、まだ、まとまりません……」

「残念ね……、……」

「そう言えば、まだ晩ご飯を食べていないことに気が付きました。少し夏子を見てもらっていて、いいですか?」

「……、もちろん、こうしてみているわ……」

「夕顔さんは、ご飯、食べないのですか?」

「……、お花はご飯を食べないのよ」

「そうでした……、じゃちょっと食べて来ます。でも、一人で食べるのも寂しいので、たまには一緒に食べて欲しいです」

「分かったは、寂しいのね。それなら私も食べてあげるわ。でも、今は夏子にお乳をあげているので、先に食べていて……」

「いえ、たまにはで、いいですから……」

 僕は、台所に急いだ。急ぐ必要もないけれど、自然と早歩きで台所に向かった。

 囲炉裏の火は消えていたが、火種は残っていた。

 燃えやすい枯れ草を置いて、竹筒で火を起こした。

 吊るされた鍋には、たくさんのお粥が入っていた。

 本当は、とても食べる気にはなれなかったが、あのまま夕顔さんといる方が辛かった。

 辛いというのは、あの色気に誘われて、襲いかかってしまいそうな自分を押さえ込むことが……

 月見がいなくなったばかりだと言うのに……

「大根の葉っぱのお粥……」

 それと、囲炉裏の淵には梅干しが置かれていた。

「夕顔さんが支度してくれたのかな?」

 僕は、それをお椀によそって口に入れた。

「美味しい……」

 少しの塩味が大根の葉っぱの香りと共に口の中に広がった。

「……、悲しい中でも、お腹だ空いて、満たされると嬉しくなる……、自然の摂理……かな……」

 涙が一雫、頬を伝わって落ちた。

「これからどうしよう……」

 トイレでも考えていたことが、涙と共に甦って来た。

「……、もう、和尚は居ないし相談もできない。この広い異世界に夏子と二人だ……、いや、夕顔さんと昼顔さん……」

 たった四人で生きていけるのか?

 その答えは、何度も考え直した挙句に心の隅に押し殺している。

 夕顔さんへの思いも押し殺し……、押し殺すことばかりだ……

「これでは、ストレスが溜まるな……、……」

「……、何をぶつぶつ一人で言っているの?」

 夕顔さんが白小袖をはだけさせ、僕の横に座った。

「夏子は……、……?」

「……、もう寝たわ」

「お世話をかけます……、それにこのお粥まで作ってくれたんでしょう……?」

「気に入ってくれたかしら……?」

「はい、とても美味しいです。泣けちゃうくらい美味しいです……」

「……、よかったわ」

「でも、どうして僕がお腹を空かしているってわかったんですか?」

「……、それは簡単なことよ。私は貴方の心が分かるの……、今、私を抱きたいと思っていることも……」

「そんな、思っていませんよ……」

「いいのよ……、私を抱いても……」

 夕顔さんは、はだけた白小袖を座ったまま肩から滑り落とす様に脱いで、僕の方に寄りかかって来た。

 僕は思わず、裸の夕顔さんを抱きかかえてしまった。

 それは柔らかな透き通るような肌で……、抱きかかえた弾みで、その胸元に唇が当たってしまった。

 唇で、その柔らかな肌を感じると、その下の肌、その下の肌と舐める様に降りてゆき、いつの間にか大きな乳房の頂点に達し、その乳首を口に入れた。

 思わず乳首を吸ってみたが、お乳は出なかった。

 夕顔さんは、わずかな喘ぎ声をあげて、僕をしっかり抱き寄せ、抱きしめてくれた。

 暖かい夕顔さんの肌の温もりが僕の頬から、抱かれた僕の体から、溶けるように伝わってくる。それはまるで温かなお風呂の中に浸かっている様な気持ちよさで、疲れた心を、体を癒しながらお湯の中に溶けていく……、……

 まどろむ記憶の中で、母の乳房を吸っている小さな僕がいる。赤ちゃんが泣いている。どこかで赤ちゃんが泣いている。ここは、何処……

「……、赤ちゃん……、赤ちゃんが泣いている……」

 僕は目を覚ますと、いつの間にか囲炉裏の側でうずくまって寝ていた。

「夕顔さんがいない……、夏子が泣いている……」

 寝ぼけた体を起こして、台所から居間に行くと泣き声は止んだ。

 そこには背中を向けた裸の夕顔さんが座って夏子にお乳を飲ませている様に見えた。

「夕顔さん、僕もお乳を飲ませて……」

 背中を向けている夕顔さんの後ろで跪き、背中を包み込む様に優しく抱き締めた。

「あんた、また叩かれたいのかい!」

 その声で、驚いて後ろに飛び退いた。

「昼顔さん! 何で昼顔さんが居るんですか!?」

「……、悪かったね!私を抱くなんて千年早いんだよ!」

 あたりは、まだ薄暗く、それでも夜明けを迎えていた。


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