19. 生まれ出てくる赤ちゃんへ
(生まれ出てくる赤ちゃんへ)
月見はあれから、忙しそうに赤ちゃんの産着やら着物を縫っている。
「下の婆さんたちの畑で野菜と瓜をもらってくるよ」
「……、私、もう少し縫い物しているわ」
「縫っておいでよ。僕一人で行ってくるから……」
僕は、月見が来ないことを予想して訊いてみた。
野菜も必要だが、本当は昼顔さんに、赤ちゃんの事を聞いてみたかった。
空の背負い籠をしょって、村に下った。
昼顔さんは、縁側に座っていた。
「何か、浮かない顔だねー、彼女はどうした……?」
「月見に赤ちゃんができたみたいなんです……」
「それは、おめでとう……、この村で最後の赤子が産まれたのはいつだったか?もう、検討もつかないよ」
「でも、困ったことに、この村には産婆さんがいないので、どうしたらいいか悩んでいます。いざとなったら、僕が取り上げなければ駄目ですよね……」
「……、そうだねー、もう産屋も朽ち果ててしまっているしねー、それで赤子を取り上げたことがあるのかい?」
「ないですよ!でも、テレビなんかで、そう言う場面が出てきますから、何となく分かっているだけです」
「テレビ?? それで赤子が取り上げられるのかい?」
「いえ、ただ見ているだけです……」
「危なっかしいねー、それなら、私が取り上げてあげるよ!」
「本当ですか?取り上げたことがあるんですか?」
「ないよ……、でも、女だからねー、女同士分かるんだよー」
「そう言うものでは、ないと思いますが……」
「大丈夫さー、昔から赤子は自然に生まれ出てくるもので、女たちが集まって、皆で赤子を取り上げたものさー」
「……、そうなんですね、昔むかしは、産婆さんのいない時代もあったでしょうから、それでも子供は産まれてきますから……、自然の摂理なんですよね」
そこに、畑から婆さんたちが瓜や茄子、大根を籠にいっぱい詰めて帰ってきた。
「聴いたぞー、あの娘に赤子だと……」
「誰の赤子だ……?」
「あの男さー、……」
「あの男が、はらませた……」
「酷い男だ……」
「あの娘には、赤子など育てられんよ!」
「育てられんよ!今のうちに、殺してしまえ!」
「殺せ、殺せ!」
昼顔さんは、縁側の上に仁王立ちして叫んだ。
「うるさい、うるさい!今度、朱夏に手を出したら許さないからねー! さっさと、もう一回、取っておいで、今度は山芋と牛蒡だよ!」
婆さんたちは、庭に野菜をぶちまけると、慌てて逃げる様に畑に入って行った。
「でも、昼顔さん、もし、夜に出産だったらどうするんですか?」
「……、それは、それ、夕顔様が助けてくれるよ」
「夕顔様……、僕はまだ、お会いしたことがないですが……」
「大丈夫だよ!夕顔様は全て、お見通しさ……、それに美しい人さー。肌は、透き通る様に白く、髪は長く銀色に光っているよ。それに、いつも裸だ……」
「……、裸なんですか!初めて見た時の月見と同じなんですね」
「そうなんだねー、同じ楢木から生まれた因縁かね……」
「そうなんです!もう一つ心配事があります。和尚は、月見を怪異、もののけと言っていました。僕には、人にしか見えませんが……、もし、もののけなら、産まれてくる赤子は、何なのかと思います?もしかすると、赤子ではないのかも知れません」
「魔物が産まれてくるとでも言いたいのかい!」
「……、分からないんです。でも、ただ、お腹が大きくなるのが早いんです。人間の子なら280日、約9か月くらいとされています。僕が気付くのが遅かったとしても、まだ2か月くらいしか経っていないのに、もう産まれそうなくらいお腹が大きくなっています」
「そうかもしれないねー、あの子は楢木から産まれた。産まれた時から、今の姿だったよ……」
「じゃー、産まれてくる子供は、……」
「心配は要らないよ!半分はお前さんの血が入っているからさー、楽しみじゃーないかい。男かねー、女かねー!」
「僕は、どちらでも……、どんな子が出てきても僕の子ですから、立派に育てますよ!」
「そうかい!犬の子でもかい?」
「それなら、それで可愛いじゃないですか!」
「まーあ、私が付いているからさー、安心しておくれ!」
「心強いです……」
「その籠、野菜をとりに来たんだろう。持っておいきよー!」
「いただいて行きます。ありがとうございます」
ここに来て良かったと、心の重荷が取れた様な爽やかな気持ちになった。
本当にこの村は、この世界は、どうなっているんだ。作物の成長が早いと思えば、赤ちゃんの成熟も早い。早いことはいいことかも知れないが、まるで夢の様にここで生活する者に都合が良くできている。
雨も降らなければ、雲すら見たことがない。
太陽はいつも明るく照らしている。
でも、夜は満天の星、それに月の満ち欠けはある。
それで何となく月日が流れていくのを感じる
子供が産まれるのか。
「実感がないな……、名前、考えなきゃ……」




