18. 変わらない季節と月見のお腹
(変わらない季節と月見のお腹)
あれから、どれだけ日にちを積み重ねてきたのか、もう考えも及ばない。
ただ、充実した、幸せと言っていい日々を過ごしている。
もう、寒くなってもいい季節だと思うが、ここに来た時のまま季節が変わらない。
庭に小さな畑を作って野菜の種を昼顔さんからもらって蒔いた。
「そんな、畑なんか作ってどうするんだい。畑は婆さんたちが作っているからいら要らないじゃないか」
「でも、少しは自分でも作ってみたいと思うんです」
「変わっているねー。他にやる事ないのかねー」
「それもありますが……」
「まー、好きにおやりよ」
そう言って、大根と茄子と大豆の種をもらってきた。
庭は森の中、余り日のあたりが良く無いが、野菜はよく育つ。それでも季節は変わらない。
月見と一緒に畑を作るのは楽しい。今日は枝豆を収穫して、茹でて食べようと思っている。
そういえば、和尚さんが豆腐を作って持ってきてくれた。ニガリが手に入らないと言って葛で固めたと言う。ニガリの豆腐より美味しいくらいだ。
大豆をたくさん作って、毎日豆腐が食べられないかと思っている。
以前、月見が僕の畑を耕す姿を見て、大笑いして言った。
「可笑しな格好ね!面白いわ……」
僕は、月見が仕立ててくれた着物を汚したくないので、裾を捲り上げて帯で挟んで、耕していた。
「……、袴が必要ね。それも馬乗り袴がいいわね」
「袴が縫えるの……?」
「縫えるわよー!でも、貴方が履いていた。ズボンの方が簡単でいいわね。ひだを何本も付けなくていいから、すぐにできるわ」
「ほんと、作ってくれるかい?でも、無理しないで、いいからね」
そう言って、一晩で袴の様な、もんぺの様な、ズボンを二着作ってくれた。
ちょっと、だぼだぼズボンだけど動きやすく風通しがいい。
気のせいかも知れないが、ここでは、種を蒔いてから、収穫まで一か月もかからない気がする。
早く収穫できるのは嬉しいが、ちょっと気味が悪い。確かに、月見を見ていても、尋常ではない世界だと思うが、後で何かしっぺ返しが来るのではないかと恐れている。
今日もいい天気で、少し暑い……
畑の雑草取りと枝豆の収穫で、ちょっとだけ袴も顔も泥だらけだ。
畑仕事が増えてから、よくお風呂に入るようになった。お湯を沸かして風呂桶に入れるのは大変な仕事だけれど、月見も手伝ってくれるし、残りのお湯で洗濯もできるので一石二鳥だ。
そのために、風呂桶の前に簀の子に似た濡れ縁の洗い場を作った。これで、小柄な月見でも一人で、桶を跨いで入れるようになった。
畑仕事を終え、昼下がり、もう一苦労と頑張って、お風呂を沸かした。
月見は、喜んで裸になってお湯に飛び込んだ。僕も裸になって洗い場で洗濯だ。
「……、ちょっと出してー!出れなくなっちゃったー!」
僕は、濡れ縁の洗い場で袴を洗っていると桶の中から月見が叫ぶ。
「えー、いつものように飛び上がって跨いで出て来ればいいじゃないか?」
「それが、上手く足が上がらないのよー、桶が跨げないわ」
一生懸命に飛び上がって足を上げて出ようとする月見が可愛い。
そんな月見を見ながら、お湯の中に入り月見の腰を持ち上げて支えて桶の縁に座らせた。
「……、月見……、お腹が大きくならないかい……?」
「そうね、ご飯を食べるようになったから、肥っちゃったかしら……、美味しいってわかるようになったから……、今日の晩ご飯は何……?」
僕は、桶の縁に座っている月見の少し張り出したお腹を撫でるように触ってみた。
「……、赤ちゃんができたんじゃない……?」
月見は、洗い場に降りて、立って自分のお腹を触って確かめていた。
僕も、お湯から出て、立っている裸の月見をよくよく見回した。乳首とその周りが少し黒ずんでいた。
よくよく思えば、出会った日から、月見は裸で、それを見て、僕は欲望のまま思いを遂げている。それから何度でも……、今も、気の向くまま、欲望のまま、毎日でも……、赤ちゃんができなお方がおかしいのかもしれない。
でも、月見は楢木から生まれた、言わば朱夏の怪異、もののけのはず、人との間で赤ちゃんができるものだろうか?
でも、赤ちゃんができれば嬉しい。
「名前、何にしようか……?」




