15. 昼顔とお風呂と
(昼顔とお風呂と)
翌朝……、……
月見が、夜なべして縫ってくれた浴衣の様な、一重の着物を着て、朝食の支度をしていると、昼顔さんが台所に入って来た。
「美味しそうだねー、いい匂いだ……」
「……、昼顔さん、また、どうしたんですか?」
「和尚の所にこんにゃく芋を持って来たのさー、あんたたちが、どうやって生活しているのか、ちょっと見ようと思ってね、素通りするのも変じゃないか、そう思ってね」
「ありがとうございます、一緒に朝ご飯を食べていきますか?」
「花は、食事をしないんだよ!」
「……、そうでした。月見も最初はそう言ってました。でも、食べてみるといい感じみたいですよ」
「月見は、特別なのさー、元は人だからねー」
「でも、昼顔さんも人に見えますよ」
「そうかい……、……、でも、人を真似ただけの昼顔だからね……、その月見はどうしたんだい?」
「まだ、寝ています。今朝までかかって、この着物を縫ってくれたんです。いつでも良いと言ったんですが、やりだすと止まらないみたいで……」
僕は立って、着物を広げて見せた。
「……、そうかい。似合っているよー」
「でも、どうして人の真似をしたんですか?」
「夕顔様に言われたんだ。村で、死ねない婆さんたちだけになってしまった時に、婆さんたちの面倒を見るようにと……」
「夕顔様って、何者なんです……? 和尚は、寺の観音像が姿を変えて、現れたと言っていましたが?」
「もともとこの村には信仰なんてなかった。ある日、村に、かなり力のある高僧が来て、仏を説いて回ったのさ。しかし、村人は誰も耳をかさなかった。高僧は、本尊が必要と感じて、村に屋代を立て住みつき、あの立ち枯れた楢木から、何年も掛けて、それは美しい女の観音菩薩を彫ったのさー」
「あの御神木の楢木ですか……? 枯れた様には見えませんが……」
僕は立ち話の中、昼顔さんに、高床の敷居の上に座ってもらった。
「高僧が来た時には、かなりの大木で、雷が落ちたのか、二つに割れて枯れていたのさ……、しかし、高僧が、観音像を彫りあげると、不思議と枯れた楢木が芽吹き始めたのさー、それから何百年、青々と茂り御神木として祀られているよ」
「そうなんですねー、それで村人は信仰に目覚めたんですか?」
「村の男たちは、観音像に魅かれて、少しは高層の慈悲の心が分かったのかもしれないが、夜ごと屋代に集まる男たちをいぶかしく思い、女たちは屋代に火をつけて、焼いてしまった。男たちは、慌てて本尊だけを担ぎ出して、この山に運んだのさー。そして、ここに女たちの罪を許してもらおうと、男たちは立派な寺院を建てた……、もう、何百年も前の話さー」
「……、その高僧はどうしたんですか?」
「この寺院ができてまもなく、女たちは高僧を崖の近くに呼び出し、突き落として殺したのさー」
「……、凄い話ですねー、本当ですか?」
「女たちは、畑の仕事もしないで、寺院を建てるのに一生懸命の男たちをやっかんだのさー、この先高層のために何をしでかすか分からねいと言ってね、亡き者にしたのさー」
「あの婆さんたちですか?」
「いや、もっともっと古い話さ……、高僧がいなくなって、寺は荒れ果て、それから百年くらい経った頃、今の和尚と国司の役人がここに住む様になった……、その娘が朱夏さー」
「こんな山の中の小さな村に国司ですか?」
「……、この山の反対側で硫黄が取れるのさー、それと木を勝手に切って持って行く者がいるからねー、後は、あんたの知っている事さー」
「そうすると、夕顔様と月見は、同じ楢木から生まれたって事ですか?」
「……、そうだねー、何か気づかないかい?」
「共に土の中から生まれるもの……、地涌うの菩薩ですか? そうすると昼顔さんも同じ菩薩様……」
「そんな偉いものじゃーないけどねー、地から湧き出たと言う菩薩は例え話さー、何処にでもいると言う例えさー、人の助けになるもの、人の力になるもの、人の喜びになるもの、みんな菩薩様さー」
「そうなんですね、菩薩とはこの地にあるもの全てなんですね。米も水も、瓜や茄子も……」
「ただ、忘れちゃーいけないよ!良い事ばかりではないよ。菩薩に仇なせば、己に災いは返ってくる」
「……、罰が当たると言う、道理ですね。僕のいた時代では、自然を壊し、空を汚し、温暖化で苦しみ、幸せそうに暮らしていても、心は荒んでいます」
昼顔さんは笑って立ち上がり、台所を出て行った。
少し経って庭から昼顔さんの声がする。
「なんだい?これは、丸棺じゃないか!」
僕は急いで外に出た。
昼顔さんは桶の中を覗いていた。
「人を埋葬するためではないですよ……、お風呂なんです。その中にお湯を入れて、裸になって入るんです。川で水浴びをするでしょう。川まで行かなくても、桶の中で水浴びができるんですよ。僕の場合は、お湯ですけどね。でも、もう冷めてしまって水ですけどね」
「へー、面白そうでねー、お湯じゃー入れないけど、水なら入れるよ」
昼顔さんは、その場で着物を脱ぐと、水のお風呂の中にザブンと入った。
「……、これはいいねー、生き返るよ!元気が出てくるよ……」
僕は、風呂桶まで行って、裸の昼顔さんを見た。
「昔から温泉は、病気治療のためと言っていましたから、でもこれは井戸水ですけどね」
「水でいいさー、お湯じゃー枯れちゃうだろう ……」
昼顔さんの子供の様に、無邪気に水と戯れているのを見て、好きになってしまった。
彼女が裸でいたせいかも知れないが……




