13. 人として花として
(人として、花として)
「夕顔様、甘い西瓜を持って来ました」
赤い寺院の庇の下で夕顔様は、いつもの様に裸で銀色に透き通る様な胸まで伸びた髪を揺らして、昇り始めた半月の月を見ていた。
「……、お花は西瓜を食べないのよ」
「でも、夕顔様は人の姿に見えますから、きっと美味しく食べられると思います……」
「そうね、ありがとう……」
夕顔様は、床に置かれた西瓜を手に取って一口食べた。
「……、甘いわね……」
「そうでしょう、食べるって楽しい……」
「……、こちらにおいで……、抱いてあげるわ」
私は夕顔様の腕の中に抱かれて、半月の月を見た。
「今日は、月見草の花は持って来なかったのね……」
「わたし、もう月見草の花をお婆さんたちの所へ持って行きたくないの……」
「……、どうして?」
「とっても嫌な気持ちになるの……」
「……、どんな気持ちなの?」
「嫌な気持ち、あのお婆さんたちが、苦しんで苦しんで、死んでしまえって思ってしまうの……」
「……、あなたの、その思いがこの村を作っているのよ。 月見草の花と、あの楢木の思いと共に……」
「もし、わたしが月見草の花を届けなかったらどうなるの……?」
「……、さー、どうなるのでしょうね……?」
「わたし、夕顔様も好きだけど、蒼様も好きなの……」
「あの男が好きなのね……、でも、男たちはあなたに酷いことをしたのよ……」
「でも、酷いことをした男たちは、月見草の花を喉に詰まらせて死んだわ……」
「あの男は、酷いことをしなかったの?」
「蒼様も、私を裸にして抱きしめたわ……」
「それなら、酷いことをした男たちと同じよ」
「……、でも、わたし、酷いことをされたとは思わなかったの……」
「あの男が、好きだからでしょう……」
「……、好きだから?」
「そうよ、私とあなたのように……、こうして裸で抱き合えるように……」
夕顔様は、わたしを横に寝かし、足を絡ませて抱き寄せてくれた。
「こんな風に抱いてくれたの?」
「……、そうだけど、もっと激しく体を揺すって抱きしめてくれるの……」
夕顔様は体を揺すって抱きしめてくれた。
「……、そう、そう、気持ちいいわ!」
「気持ちがいいの……?」
「……、そうなの、体が浮くような気持ちよさなの……」
「それなら、もう、あなたは月見草ではないわ……、お花は気持ちがいいとは言わないもの……、あなたは月見草から生まれ変わった、人としての朱夏なのよ……」
「わたしは、朱夏……?」
「そうよ……、もう、月見草の花を届ける必要はないわ……、あなたは、これから人として生きなさい」
「……、人として……」
「そうよ……、あなたが、あの男を好いているのなら、あの男と一緒に暮らしてもいいわ……、それが、あなたの望みなら……、あの女たちによって、断ち切られた、夢を、今、人として叶える時が来たのよ」
「わたしの、夢……、蒼様に愛されたい……」
「それなら、もう愛されているわ……」
「……、いえ、もっともっと、一時も離れずに愛されたい……」
「あなたが、そう思うのなら、思う通りなことをしなさい……、それがきっと、憎しみに縛られた、あなたの心を癒してくれるわ」
「わたしは、もうここに来てはいけないの?」
「そんなことは、ないわ……、また甘い西瓜を持って来ておくれ……」
「……、これから、わたし、どうしたらいいの?」
「あの男の所に行きなさい。それで、あなたの思いを叶えなさい。生まれ変わった朱夏なら、太陽の前でも萎むことはないわ……」
「わたしは、彼を好きになってもいいのね……」
「もちろんよ……、人としての幸せを掴みなさい! 私は、いつまででも、ここからあなたたちを見ているわ……」




