11. 炎に包まれた村
(炎に包まれた村)
村の女たちが、村に帰ると大きな声で叫んだ。
「松明を作っておくれ! たくさん作っておくれ!」
「……、松明なんかどうするんだ!」
村の男が言った。
「あの寺院を焼き払うんだ! あれは、化け物屋敷だ!」
「他の女たちはどうした?」
「やられた、昨日の男たちと同じだ! みんな奴に殺された!」
「松明だ! 赤い寺院を焼き払うんだ!」
男たちも賛同して、村中で一人一人、松明を持って赤い寺院に火を掛けた。
寺院は瞬く間に、炎に包まれた、燃え上がった。
しかし、燃え上がったのは、寺院だけではなかった。有り余った炎は、周りの森にも火が移った。
一度ついた火は、森を舐める様に広がって行った。
「……、大変な事になった!これじゃーもう止められん。逃げるんじゃー!」
「何処へ逃げるのさー!」
「和尚の山だ! あそこは、山が違う。谷と沢で火は追ってこんかもしれん!」
「家財道具、持てれるものだけ持って逃げろ!この村はもうお終いだー!」
村中の男も女も、愚僧の寺にやって来た。
「馬鹿者!大馬鹿者!森の中で火を付けるとは何事だ!山火事になるのは当たり前だ!」
「化け物退治をしたんだよ。火を掛けて退治するしかないだろうー!」
「化け物は、お主たちだ! 火を使って森を焼き村を焼き、これからどうやって暮らしていく……」
村の誰もが、返答に困っていた。
翌朝、丸焼けになった山とその麓の丸焼けになった村が見えた。
しかし、丸焼けになった山の崖に面した中腹に、あの赤い寺院が焼ける前の姿で立っていた。
「もういい……、わしはこの村を出ていく……」
「わしも出ていく……」
愚僧は、村の女たちと男たちに言った。
「出て行ってどうする? 他の村に行っても、お前たちが耕す畑など無いぞ! ここで、またアワやヒエから育てて始めるんじゃ!」
しかし、焼け落ちる前に家財を持ち出せた村人は、村から出て行った。全てを失った村人は村に残るしかなかった。
翌日、村を出て行ったはずの村人が、数人戻ってきた。
「どうした……?」、愚僧は訊いた。
「村から出られん、また戻って来た」
その者たちの顔をよく見ると、朱夏を襲った男たちと、朱夏を殴り殺した女たちだった。
「仕方ない……、この村を建て直そうー!」
この時、もっと早く気付けばよかった。
いや、気付いても、どうすることもできなかった。
しかし、不思議な事で、水だけをすすって生きながらえていた者たちが、息絶え絶えになると一夜にして、村の至る所から、ヒエやアワが生えて、稲も実っていた。
皆、寺の御神木のお陰だと喜んだ。
それから、一年二年三年がたち、村も山も山火事前の姿に見える様になっても、あの赤い寺院に近付くものはいなかった。
その頃、御神木の楢木の実が大きく大きく枝を弓形に曲げて育っていた事に気付いた者は愚僧しかいなかっただろう。
やがて実は落ち、月見草の咲き乱れる原っぱに転がって行った。
楢木の実は、月見草の中で割れて、生まれたのが、お前が月見と呼んでいる娘じゃ……
夜になると、何処からともなく現れ、村に月見草の花を配り、あの赤い寺院の中に消えていく……
あれから、永遠の時が流れ、あの五人の婆さんたちを残して、村人は死に絶えた。
それで、やっと分かったんじゃよ。これはすべて、朱夏の呪いなんだということが……
朱夏を殴り殺した女たちは、醜い老婆になっても死ねず、動かぬ体を引きずって永遠に生きている。
そして、愚僧も許してはもらえず、あの婆さんたちと共に永遠に生きている……




