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犯人

 定例捜査会議での所轄報告の際、笹岡は珍しく発言を求めた。  


 笹岡は発言の冒頭でこれまでの証拠を整理し、次のように報告を行った。

「犯人は南千住で下車し、河川敷で被害者を殺害した後、なぜか被害者のスマホを画面を下にして置いて現場を去り、再び切符を購入して南千住から北千住に移動しました。そして、駅で被害者のスマホを操作して生存を装うSNSの投稿を行い、さらには第三者にその姿を目撃させることでアリバイを構築した可能性が高いと思われます。」

会議室がざわめく中、笹岡は続ける。



「恐らく犯人は…吉岡真一です。そして重要なのはなぜ吉岡は切符を買ったのか。普段はICカードを利用しているのに。そしてもう一つ。被害者のスマホを操作できた理由です。この2点を解決できれば逮捕できる。」

 その場にいる捜査員たちも吉岡に対する疑念を深めつつあったが、まだ決定的な証拠には至っていない。



 笹岡は吉岡を署に呼び出し、事件当日の行動を再度確認するための尋問を行った。


「吉岡さん、事件当日の午後7時40分、北千住駅の快速ホームで目撃されていますね。スマートフォンでしょうか?何かを持っていじっているようですが? 防犯カメラには明らかに何かを操作する姿が映っています」

吉岡は動揺した様子を隠そうとしながら答えた。

「ええ、その……乗り換え電車の時刻を調べていただけです。」

「何のためにです? 普段から乗り慣れている路線のいつもの列車ですよね? 今更、調べなくても。どこか別の場所に行こうとされてたんですか?」

笹岡が意地悪く問い詰める

「いいえ。でも待ち時間もひまなので。」

「そうですか。では、もうひとつ。あなたが北千住の快速列車ホームで19時40分頃にスマホを操作している姿は防犯カメラ映像でも確認できました。でもちょっとおかしいんです。あなたは定時で退社したと仰った。そうならば、遅くとも18時台の列車に乗って、乗り換えがあっても19:30にはお帰りになっているはずでは?」

吉岡は一瞬言葉に詰まったが、すぐに笑みを浮かべてごまかした。

「え? ああ、日暮里駅のエキナカで買い物しようとしてぶらついてたんです。で、帰りが遅くなっちゃいました。」

笹岡はさらに追及した。

「そうですか? では、これも説明していただけますかな。南千住駅の改札であなたの指紋が付いた日暮里駅発券の切符がみつかりました。あなたは南千住駅は利用していないといいました。普段ICカードを使うあなたにとって、これは不自然ではありませんか?」

吉岡は返答に詰まり、笹岡の鋭い視線を避けるように目を逸らした。

 笹岡は吉岡を問い詰める

「吉岡さん、私はね、あなたが岩田慎一さんを殺害した犯人だと思っています。今ならまだ自首扱いにもできますよ。どうですか?」

吉岡は動揺を隠しながらも言い返した。

「私が犯人?とんでもない!」

「そうですか。でも、南千住駅の防犯カメラに映っていますよ。しかも、切符で改札を通り、その後すぐに外に出ていますね」

吉岡の顔が青ざめた。笹岡はさらに畳みかけるように言った。

「これが普通の行動だとは思えません。しかも、その時間帯に岩田さんのスマホが河川敷近くで使われていたことも分かっています」


笹岡は、事情聴取の取調室で、これまでの証拠を一つずつ整理し始めた。

「被害者・岩田慎一さんが殺害されたその日の夜、岩田さんのスマホが操作された痕跡があります。その操作が行われた時間、岩田さんはすでに死亡していたと見られます。」

記録を取る他の刑事が息をのむ中、笹岡は続けた。

「さらに、岩田さんのスマホを操作していた人物は北千住駅にもいました。そして、この人物は南千住駅で切符を使い途中下車していたことも分かっています」


笹岡の視線が吉岡に向けられる。

「吉岡さん、あなたは犯行当日、岩田さんのスマホを操作していましたね?」

吉岡は口を開こうとしたが、声が出なかった。

 笹岡はゆっくりと状況を説明した。

「吉岡さん、あなたは、あの日、日暮里駅で一度切符を買い、南千住駅でそれを使って途中下車しました。その後、岩田さんを殺害し、彼のスマホにリモート操作用のアプリをインストール。そして、河川敷を離れた後、再び南千住駅から切符を使って電車に乗り、北千住駅で降車して通常の帰宅ルート、つまりいつもの快速列車の乗り換え待ちに戻りました。」


さらに笹岡はスマホの操作記録を指摘した。

「岩田さんのSNSに投稿された内容は、あなたが乗り換えで待っている間に操作したものです。これによって、岩田さんが生きていると見せかけましたね」


「現場で岩田さんは仰向けに倒れていましたが、そばにあったスマホはなぜか、画面が地面を向いて落ちていたんです。私はこれが引っ掛かりました。だって、直前までスマホを操作していて、突然、襲われて倒れたなら、スマホを握ったままか、落としても画面は上を向いているのが自然だと思うんです。しかもスマホは草に隠れるように落ちていた。これはもう、誰かが何かの目的のために、そこに置いた。としか思えなかったんですよ。」

笹岡が続ける。

「吉岡さん、あなたは岩田さんのスマホの暗証番号を事前に知っていたんじゃないですか? そして岩田さんのスマホにリモート操作用アプリをインストールするのと同時に、設定変更を行いスマホの電源を切れないように設定変更した。現場を離れて北千住駅でアリバイ工作するのにスマホの電源が切れてたら困りますものね?」

そして笹岡は白髪の坊主頭を掻きながら、現場検証時の写真を指差し

「そしてこれだ。スマホの落ちていた状況。と、いうよりもあなたが置いたんじゃないですか?現場は街灯はあるが暗い。スマホの画面の明かりが漏れては見つかる危険性がある。だから画面を下にして光が漏れないように置いたんでしょ。さらに・・・」

 笹岡が机の上にコーヒーの空き缶を置き、続けようとした時、吉岡はついに崩れ落ちた。


「……違うんだ、俺は……岩田が俺を追い詰めたんだ! あいつがいなければ、俺の人生はもっと……」

「自供するんだな。そうか、まだ粘るつもりなら、この証拠を出そうと思っていたんだが…」

 それは以前、笹岡が吉岡に勧めた缶コーヒーの空き缶だった。ここには吉岡の指紋がある。これと南千住駅で回収された日暮里駅発券の24枚の切符の指紋を突き合せれば。これが笹岡の奥の手だった。


 泣き崩れるように吉岡は自供を始めた。被害者の岩田慎一は、やり手の営業マンだったが同僚や部下には厳しく、各方面で恨みや妬みを買っていたという。吉岡もその被害者のうちの一人で、最近も大口の取引先の契約を岩田に取り上げられたばかりであった。また、吉岡が思いを寄せていた女性が荒川河川敷のゴルフ練習場によく行くという情報を知った岩田が、その女性を乱暴したことが分かり殺害を計画したのだという。


 自供の通り凶器となった石は河川敷の川原に投げ捨てられていた。




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