事情聴取
次に笹岡は小林を訪ねた。小林は、他の捜査員から結構、きつく質問責めを受けたらしく不機嫌そうな顔で応対していた。
「さっきの刑事さんに言いましたよ。何回同じ質問するんですか?」
笹岡は頭を掻きつつ、申し訳なさそうに先ほど、コーヒーと一緒にコンビニで買った肉まんの入った袋を渡しながら(もっとも肉まんはすでに冷めていたが)
「まあ小林さん、これでも食って落ち着いてください。私らの仕事はみなさんにご協力頂きませんと成り立ちませんもんで。」
冷めた肉まんの袋を受け取りながら小林は、ムッとした表情を変えずに
「結構です!しかも冷めてるし!いいですか?刑事さん、人と会う約束してたんですけど、来なかったんでそのまま、駅に引き返して帰ったんです。」冷めた肉まんを笹岡に返しながら小林は言った。
「どなたと会う約束を?」
「別に誰だっていいじゃないですか?関係ありませんよ。」
返された肉まんを袋から出し、冷めて少し硬くなった肉まんをほうばりながら
「いや小林さん、お相手の方からもお話しを伺わないといけませんので、ご協力ください。」
「今は…今は言いたくありません。」
「では、具体的な行動を教えてください。普段、通勤では綾瀬、日暮里間を利用しているあなたが、なぜあの日に限って、南千住で途中下車されたのかと降りた後の行動を教えてください。」
笹岡は問い詰める
「人と会う約束があったので、南千住で下りて喫茶店で時間調整してました。多分、7時20分ぐらいだったと思います。それから約束の場所に向いましたが時間になっても来ないので帰りました。ただそれだけですよ。」
「約束してた場所は?」
「・・・汐入公園です。」
「なんでまた、そんな場所で?」
「知りませんよ。向こうの指定だったんです。」
食ってかかりそうな勢いで小林が叫ぶと
「そうなると、やはりどなたとお約束されていたのかを教えて頂かないとなりませんね?」
肉まんの包み紙をきれいに折りたたみポケットにしまいながら冷静な口調で笹岡が言う。
「そ、それは・・・」
「岩田さんじゃなかったの?」
「あなたが岩田さんから、かなり強く叱責を受けていたのはみんな知ってます。たくさんの証言もありますしね。」
「岩田さんがなぜ、あなたを呼び出したのかは分かりませんが想像はつきますよ。でもね、あなたの行動の裏付けが取れないんです。目撃証言や防犯カメラの映像も見つからないので・・・」
小林はうつむいたまま何も言わず、唇をかみしめていた。
「では、最後にこれだけは教えてください。小林さん、あなたは岩田さんが、荒川河川敷のゴルフ練習場に通っていたのを知っていましたか?」
その質問に小林は小さくうなづいた。