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出演者とスタッフが乗ったバスの真ん前で、トラックの連続追突事故という余りと言えば余りの状況の中……。
同じバスに乗ってたプロデューサー補の女が、携帯でどこかに電話……してる最中に、別のスタッフから携帯電話を渡され……2つか3つの電話に同時並行で対応しなきゃいけないという、聖徳太子じゃなけりゃ無理な真似をやらされ……おい、大丈夫か、これ?
「出して下さいッ‼」
「えっ?」
バスの運転手は、呆然とした声で……。
「あ……あの……私達、事故の目撃者なんで、警察とかに……」
「上の方からの指示です。撮影スケジュールが押してるんで……このまんま突っ切ります」
「あ……あの……本当にやって、何か有った場合の責任は誰が……?」
運転手さんの当然極まりない指摘。
「後で考えましょう」
おい、多分、詰め腹斬切らされんの、あんただよ。
そして……バスは発進。
「すいません、工場での戦闘シーンは夕方ぐらいって設定に変ります。それに伴なって、今回の脚本の他のシーンも変更になります。今、脚本家さんに手直ししてもらってます」
……はぁっ⁉
大丈夫なのか、この現場?
バスは、あるモノは横転し、あるモノは大破した事故車の間を縫って……うわっ?
揺れる。
無茶な進路を無茶なスピードで走ってるんで、揺れる揺れる揺れる揺れ揺れ揺揺揺ッ‼
吐きそう……たすけて……。
……って、チュ〜の野郎、こんな状況で、何、呑気にスマホいじって……ん?
スマホをいじってるチュ〜の表情は何故か、呑気とは程遠く……。
「おい、今の状況について、SNSとかに書き込みしてねえよな?」
「い……いや、大丈夫に決ってるじゃないですか。第一、SNSの俺のアカウントで書き込みしてんのは、俺じゃなくて、事務所の広報っすよ」
「そう言や、そうだったな……」
「俺は、そもそも、自分のSNSアカウントのパスワードすら知らないんすよ」
「あ……あの……後ろ……」
その時、イエロー役の赤城が慌てたよ〜な口調で……。
「パトカーが来てますッ‼」